都住研ニュース

第26号 ●定例会ダイジェスト

定例会では様々な講師を毎回お迎えして、各テーマの専門的なお話をお伺いしています。そしてグループごとにディスカッション・発表を行い、様々な専門性をコラボレーションする場にもなっています。
ここでは、これまでに開催した定例会のダイジェストをお伝えします。

■第33回(平成17年2月4日)

 「鹿児島建築市場の試み 〜事業者ネットワークと住宅生産システムの合理化」
  高橋 寿美夫 氏 (鹿児島建築市場 代表)

高橋寿美夫氏  高橋寿美夫さんをお招きし、住まいに関する様々な事業者のネットワーク組織である「鹿児島建築市場」の取り組みについて紹介いただきました。鹿児島建築市場は、平成12(2000)年11月に建設省「住宅ストック形成・有効活用システム」優秀提案賞受賞、平成16(2004)年1月にはNPO法人建築市場研究会設立認可。平成16(2004)年11月には「日経地域情報化大賞」に鹿児島建築市場が受賞されました。
 ※鹿児島建築市場 http://www.ben.co.jp/ichiba/

【建築市場とは】

 建築市場は、ITを使った中小工務店の地縁ネットワークシステム。供給連鎖の仕組みを全ての関連企業で作っており、地域の企業の連携を図っている。資材を直接供給してもらい、物流、金融なども巻き込んで、住宅品質確保法に基づき、全て性能表示をしながら作っている。

【労務の重構造の打開】

 市場競争の中で、「自社だけが儲かればいい」という考えでは、ネットワークは出来ない。そのために、従来の建築ロジスティック、生産の仕組みを一から見直していくことから始めた。建材では、既存の物流の中では重構造が存在している。建築についても元請け、下請け、孫請け、サブコンなど請負の重構造がある。また年間100棟や500棟を作っているような工務店や住宅会社は、重構造を無くすために独自の取り組みが可能かもしれないが、年間5棟といったレベルの工務店は、重構造の中でコストを改善できず、市場競争に飲まれてしまう。

【京都のまちづくり】

 今後の京都のまちづくりは、全国のモデルになると思う。しかし、京都と同じものを創るのではなく、京都の考え方を参考にしてもらい、その土地土地でのまちづくりをして欲しいと思う。
 京都は、日本の文化、価値観の原点を持っているまちである。そのエキスをまちづくりにわかりやすく導入しないと、京都の存在価値はないと思う。

 私が京都のまちづくりとしてぜひやりたいのは、京都の特徴である「職住の一体化」あるいは「職住の近接」である。これが実現できれば、自転車や徒歩で移動が済む。そうなれば都市交通も大きく変わる。更に、京都は製鉄所などはなく、ほとんどが職住一体で済む仕事が多い。上の階で部品をつくり、下の階で部品を組み立てる。荷重も少ないので、家の書庫よりも軽い。特にコンピューター関連の仕事であれば、まちの中に工場を設けることもできる。今後は、定型的にまちをつくるのではなく、自由に動ける中で、まちを総体として考えていけばいいのではないか。

【ロジスティックス】

 このような状況の中で、建設の生産システムのあり方をもう一度見直してみたものが「ロジスティックス」である。このロジスティックスのサプライチェーンマネージメントによる供給システムは、生産者と消費者を結ぶ仕組みが最も有効な活動として表現したもの。国内で商品を買うと、買った商品の情報が瞬時にネットワークを通じて本部のサーバーで分析される。このような効率の高い仕組みが出来る中で、顧客に1円でも安い住宅をお届けできる仕組みが出来ていく

【性能表示の担保】

 供給する住宅については、前提条件として「性能表示をしよう」ということ。まず建築士が図面をきっちりとしっかりと書いて、生産者はその書かれた図書に基づき、設計品質を担保できるような技能、技術を習得して施工の品質を担保していく。設計の品質を担保するには、設計図書が出来た段階で精度の高い積算書が出来ていなければいけない。施工後の積算の誤差は、たいてい3%未満で収まっている。
 積算書の積算根拠は、地域の職人の技能、技術をCADの中に盛り込んでいる。積算の根拠を技能者、技術者が話し合い、職人が技術を生かせるようにしてきっちりと収めている。

【材と工の分離】

 品質とコストの関係で言うと、同じ品質だと同じコストになる。このため、Aのコストと同じ品質だと、コストBにまで押し下げることが可能になる。これが、全体最適の供給連鎖の仕組みであり、顧客の立場に立った全体サイクルを仕組みとして整えている。これまで住宅のコストダウンは、建材屋に「少し安くして欲しい」といったり、職人に「安く出仕上げて欲しい」というように進められてきたが、このロジスティックの改革によって、コストダウンを実現させている。
 基本的な考え方は、坪単価で考えるのでは無く、積算をベースに住宅づくりを考え、性能品質が見える住宅を造り、そして住宅の生産工程が全て透明でオープンになるようにしている。住宅履歴についても全て電子化して、カルテとして残している。例えば将来的にリフォームをする際に役に立つし、今後高齢化社会を迎えるにあたってリバースモーゲージについても当然考えられてくると思う。

【品質担保のための仕組み】

 ネットワークで結ばれた職人が、訓練されたグループとして職人組合を作っている。職人は基礎工事をする、上棟する、サッシュを収める、防水する、などという行程を自らが記録し、住宅カルテとして残している。こうして職人が自ら検査し、納品して検査をした上で、その場で出来高で支払いをしていく。さらに施工者が自ら施工をチェックしているのに加えて、建築士も監理建築士として入ってもらっている。
 品質確保法の第三者性能評価機関とは別に、自ら管理する項目として、建築市場では項目を269項目設けている。住宅品確法のチェック項目は234項目だが、これよりも少し項目を足して、検査してもらっている。こうしたチェック体制を「自主性能評価」と我々では呼んでいるが、これによる評価を経て始めて、第三者性能評価機関に申請を出している。こうすることで、鹿児島でも建築市場で造る住宅は信頼性が生まれ、検査機関による検査においても、スムーズに行われるようになっている。

【CADセンターへのアウトソーシング】

 例えば住宅会社の大半が、営業部門などのプロポーザル、設計、資材調達、生産管理の機能で成り立っている。これらのうち営業やマーケティングの機能を外に出すことは不可能だが、これらを除いた設計や積算、管理機能は各会社全てで持っている機能でもある。どうしても社外に出せない部分を除き、設計、積算、監理、調達の機能を建築市場で担っている。これを我々は「アウトパートナリング」という名前を付けている。

【サプライチェーンマネージメント】

 CADセンターの自動積算で全てのデーターは人の手を借りずに精算にまで持っていくことができる。お客と打ち合わせをしたときに、そのデータが自動的に生産を統括するCADセンターに流れ、それが電子上取引市場のe-MP(マーケットプレイス)で自動的に発注情報として流れる。

【工程管理による配送の効率化】

 設計情報の自動積算ができる中で、すぐに物流に乗せることができる。鹿児島では、木造住宅を造るのに約35回程度配送をする必要があったが、効率化させることで10回程度で済むようになった。このため物流コストが下がり、廃棄物の減少が図れ、建築現場のゼロ・エミッションを進めている。当初廃棄物のためのコストは30万円程度かかったが、6万円程度にまで押さえられている。

【地場産業の振興】

レクチャーの様子  鹿児島では大隅半島の南に森林組合があるが、そこから資材を調達している。かつて生産者は立木管理など1本につき40年手入れして、5千円でしか売れなかった。そこで鹿児島建築市場では、大隅半島の森林組合と取引し、着工2ヶ月前に材木の発注を出し、組合は発注書を見て必要な材木を山に入って切ってくる。このような場所を県内に30カ所確保し、30年で一回り、もう一回回ってくる頃には木も育っている、というようにしている。この取引は昨年からスタートしているが、昨年では1本あたり12,000円を組合に返すことができた。また工務店も立方メートルあたり5万円で取引ができ、2万円のコストダウンができた。この取り組みにより、山の生産者は高齢化が著しかったが、若者が戻ってくるようになった。つまり、建築市場とのつながりで、飯が食えるようになり、仕事に夢がもてるようになった。

【工程管理の改善】

 私たちの取り組みで定時運行管理ができるようになり、工程表もきっちりと作成できるようになった。これにより、職人はこれまでの3倍仕事をとることができ、収入も1.5倍程度増加することができた。
 以上のような取り組みで効率を上げ、コストを約15%落とすことができた。そして材をメーカー等から直接仕入れることで、さらに約30%コストダウンができる。これを地域の伝統技術や文化、特に木質系の技術を活かしながら、ネットワークを作り、地域の素材を使って商品をマーケティングしている。その中でそれぞれが商品開発を行い、競争力をグループ内でも作っている。

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