都住研ニュース

第35号 ●定例会ダイジェスト

定例会では様々な講師を毎回お迎えして、各テーマの専門的なお話をお伺いしています。そしてグループごとにディスカッション・発表を行い、様々な専門性をコラボレーションする場にもなっています。
ここでは、これまでに開催した定例会のダイジェストをお伝えします。

■第40回(平成19年11月16日)

 京都のまちの継承と更新、創生を考える 〜景観政策をターニングポイントとして
  講師:福島 貞道 氏(京都市都市計画局景観創生監)

「京都市の新景観政策」説明

福島貞道氏 ・京都市は、147万市民がイキイキと暮らす大都市である一方、市街地を一歩出ると四季折々の風景が楽しめる場所があり、市街地には日本の建築文化を代表する建築が立ち並んでいる。
・京都は、「博物館都市」ではない。また「単なる古都」でもない。世界に冠たる歴史都市である。近代建築も多数あり、新しい物も積極的に取り入れたそれぞれの時代のまちなみが継承されている。
・市内の美観地区の指定区域は、全国の8割を占める。資料のとおり、京都市は昭和5年の風致地区の指定をはじめ、歴史的風土保存地区、全国に先駆けた市街地景観条例の制定、職住共存地区の斜線制限、特別用途地区、美観地区の拡大などを積極的に進めてきた。
・しかしながら、まちなみの乱れが生じてきた。生活様式や価値観は時代により変化してくるが、自我に基づく経済性の追求が、まちなみ景観にも現れるようになってきた。
・このような中、日本建築学会や京都経済同友会の提言を受けて、「国家戦略としての京都創生」の提言が出された。同時期に景観法も全面施行され、京都市では「時を超え光り輝く京都の景観づくり審議会」を創設した。
・「景観」というのは、外部に発信されるものであり、「公共の財産」と言える。
・京都の景観は、映画村のようなものを目指すのではなく、伝統と文化を継承した、生きた都市としての景観を形成していくことが重要である。それにより京都の魅力を高め、都市の活力を得るような施策を打ち出していく。そのためには、行政だけではなく市民と事業者等とのパートナーシップによる景観形成が必要。
・以上を受けて、5つの柱と1つの支援策を打ち出した。これらは、建物のデザイン、高さ、屋外広告物等の物理的基準と予算を伴う助成制度を含めたトータルなものである。
・さらに画一的な基準を硬直的に運営するのではなく、「良い物は、良い」とする仕組みも導入している。

京都市新景観政策の概要説明

施行から運用2ヶ月の状況
 新聞等では景観政策に関するニュースがしばしば取り上げられています。建築行為の停滞などは、景観政策にも責任があるかのような書き方をしていますが、6月20日に建築基準法が改正された影響が大きいと考えられます。構造の安全性などを国も急いだことがあり、市場を少し混乱させたことはあります。これらにより確認申請を少し停滞させましたが、8月には駆け込み申請もあったかと思いますが、申請数は平年並みに回復しました。現在窓口できちんと丁寧に説明するようにしていますので、少々お待たせしている面もありますが、9月に入り、一般的な相談から実務的な相談に変わってきております。10月中頃までは基準の相談も多かったようですが、11月に入ってだいぶん相談件数も落ち着いて、具体的な内容の申請が始まっています。

ケーススタディ(事務局)

ケーススタディの一例 1)都心部(職住共存地区)内にあるマンションを良質なストックとして継承する方法
2)都心部(職住共存地区)における低層住宅建設のシミュレーション
3)周辺市街地(美観地区・美観形成地区)における低層住宅建設のシミュレーション
4)周辺市街地(建造物修景地区)における低層住宅建設のシミュレーション

回答

○マンションの維持管理や自治活動等について
 マンションの課題については、様々な声を聞いています。ハード、つまり高さの関係については、地震等災害による緊急的なものについては、基準の仕組みの中で例外的なものを認めるシステムを組み込んでいます。災害時には、マンションについてはおそらく仮にどこかに移って恒久的なものとして建て替えることになるかと思われます。デザインに関する設計の配慮についてはまちなみ景観に添うようなものになるよう指導することになると思いますが、高さについては、従来のボリュームを確保することを踏まえて、例外の中で認めていくことになるかと思います。
 マンションを長持ちさせる仕組みについては、建替えと改修の相談に対して派遣するアドバイザー制度を7月から施行しておりますが、これを活用することが考えられます。アドバイザーは建替えの合意形成を図る仕組みに関してもサポートしていくことになりますが、良好なメンテナンスのためにも、建築士、弁護士、マンション管理士の方々を、それぞれの課題に応じて派遣することになっています。なお、これまで建替えに関する相談はゼロですが、改修に関する相談が数件ありました。
 ソフト面の対策についても必要だと考えます。マンションも「立体町内会」として、コミュニケーションが大事だと考えます。
 このような取組については、マンション管理士やコンサルタントなどサポートしている人がいますが、京都市にも派遣制度がありますので、こういった制度を活用することも考えられます。
 マンションが、その立地する地域と共存していくためには、私は「建てる前」が大事だと考えています。デベロッパーについては、今後の地域活動も含めて、地域と共存するような建て方を進めてもらうような必要がありますし、私はそれはプロの責務であると考えています。

講義の様子 ○各地域での低層戸建て住宅の建設について
 なお、今示されている基準は12の類型の各地区についての骨格として示したものであり、9月に立ち上がったデザイン協議会では、さらにきめ細かく地域を設定し、住民の意見を反映しながらその地域に相応しいデザインを充実させるための活動を進めていく予定です。そして、窓口の審査事務においてもデザイン提案を受け付けるような仕組みもあり、デザイン基準については、ファジーな面もありますが、基本としては一緒に京都にふさわしいデザインを作っていきましょう、という性質を盛り込んでいるものです。いい雰囲気を出す建築であれば、認めていきます。
 「けらば」については、この度一躍有名になったものでもありますが、けらばや軒の出、あるいは庇といったものはその地域の気候風土の中で日ざしや雨仕舞といった機能面でも重要なものであったものです。都心部の町家などはお隣との関係で棟に段差を付ける中でお互い様の関係でそれぞれの敷地を越境しながらも、けらばが設けられてきました。しかし近年では越境ということは考えられませんので、狭小な敷地における建替えについては、けらばを出すことで壁面後退をしなければならず、家の面積が十分に確保できない可能性もありますので、その様な場合にはけらばを出す必要がないとする救済措置も設けています。
 町並のデザインについては、それぞれのこだわりを実現するようなことは可能です。ただ、地域コミュニティを考える社会として、地域の特性に叶うようなものにしていくことが必要だと考えます。冒頭にも申しましたように「自我」にならない範囲でのデザインであれば、十分個性を発揮してもらえると思います。

○「和風」を前提とすることと、現状の消費者のニーズとのミスマッチ、消費者教育について。
 今回「和風」を基調としていることについてですが、歴史都市京都として相応しいものとして、勾配屋根を基調としています。建築が立ち並んだときに町並み、屋並みがどのように形成されるかを考慮すると、盆地という特性からも、棟を作るということは重要であると考えます。そして壁面の分節についても、「のっぺり」とした印象を受ける建物は考え直して欲しい、という意図からです。光沢を避けるというのは、私も建築の仕事が長いので、何度も体験していますが、建物が安っぽくなるのを避けるためにも必要な配慮であると考えています。
 もちろん、新しい景観を形成していく地区については、新しいデザインが混在し、上手く引き立て合うような景観形成も考えられますので、必ずしも和風にこだわっているわけではありません。
 いずれも「原則」という言葉を使っていますが、基本基準というものは、森羅万象を踏まえて作ることはできません。建物の規模によっても異なってくるでしょう。全てのものを一般基準で仕切ってしまうには無理があります。このため、具体的な事例に対してのデザイン提案も受ける必要があると考えています。京都には、美観風致審議会もございますし、意見を聞く仕組みも整えています。また設計の人も交えた、円卓会議を行うことも考えています。私自身もそこに参加する予定ですので、その場で結論を出すような、時間短縮そして判断のばらつきを避けるような仕組みも動きつつあります。

講義の様子2 ○住民主体の取組のためのサポートや情報の窓口は?
 窓口としては、都市づくり推進課やこの京都市景観・まちづくりセンターが該当しますが、場合によっては建築協定は建築指導部、地区計画は都市計画課が担当となります。
 また、京都はまちづくり系のNPOも充実していますし、市民の意識も高いです。おそらく、最初のアプローチはどこであれ、適切な窓口が見え、繋がっていくと思います。

○公共財としての「景観」と私財としての「住宅」の折り合いをどう考えればいいか?
 「公共財」としての景観についてですが、最近外部を町家のまま保全し、内部を飲食や物販などの店舗として活用されている例が多くあります。町並みとして地域に馴染んだものでありながら、内部を合理的で雰囲気の良い利便を享受できるように改変することは、個人的はあっても良いと感じています。内部はプライベートな生活を満足できるように変え、外観は公共空間に発信するものとして、地域に馴染んだものとして継承することが必要だと思います。

○「建築確認申請」から「許可制」「個別判断」の大きな流れの中、集団規定の「まちのビジョン」をどう考えればいいか?
 許認可等の手続きについてですが、建築基準法が全国的な共通の基準として最低の基準を定めたものであり、これを守らないと建造物としての安全性等が守れない、というものです。これは建築物を建てるための法律であり、「確認申請」することで事前に法律に適合しているかどうかをチェックし確認をするのです。そしてこの確認は、覊束行為というものです。
 しかし、自治体毎に特性がありますので、建築基準法の中には各自治体の条例によって、規制を強化したり緩和したりする仕組みが設けられています。
 法律の中には、例外的な許可制度もありますが、京都市の今回の政策が「確認」から「許可」に移行したというものではなく、それぞれの規定の性格に基づいた処分名ですので、許可制に移行したと誤解のないようにしてください。
 敷地の中だけではなく、周辺への影響も考えるのが、「集団規定」です。つまり建物は公共的な性格を持つと言うことの表れであり、今後は行政とプロの方々が一緒になって京都らしい集団規定を一層充実させていくことが必要であると考えています。ぜひ、皆さんのセンスと技量をどんどん提案して欲しいと思います。

新会長に卯田隆一が就任! ●都市住宅学会賞(業績賞)を受賞! ●京都の住まい・まちづくり拝見!

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