都住研ニュース

第27号 ●運営委員のリレーエッセイ

井上 誠二(建都住宅販売株式会社 代表取締役)


■住まいの需要

井上誠二氏  京都市の住宅着工数は、96年33,500戸が、02年には21,800戸と市場は大きく縮小傾向にある。
 街中には、色とりどりの住宅や、調和のない住宅が見受けられ、全国どこへ行っても同じような家が建ち並び、それぞれの地域の特徴のない住宅が多くなった。
 最近、当社へは、お客様から和風住宅や町家の問い合わせが多く寄せられるようになった。都心回帰の傾向も強まり、歴史を楽しむなど、古い家の価値が見直されつつある。

■事業者意識の変化

 バブル崩壊後、乱開発や儲かれば良しの感覚から、法の遵守の意識が徹底してきた。但し商品開発やデザインは、流行や効率のみを追っているだけに見える。
 また、町家、古家のリフォームは現在の建築基準法に照らすと、既存不適格住宅となり、現場の苦労は多い。古い町家を改修して売り出しても、融資時の評価は低く、住宅ローンが新築に比べつきにくい。行政や銀行も、全国一律の基準でなく、京都にあった対応を積極的に進めて欲しい。

■観光施策

 京都市は、多くの観光客を迎えようと努力しているが、景気回復の兆しが見える中、中小企業の景況感は依然厳しい。特にサービス小売業、伝統産業は厳しい。
 観光客自身も、寺や文化施設だけを見に来るのではなく、京都で暮らす人々やまちなみも見に来ている。この町家やまちなみが大きく変わっていくことは、長期的に京都の財産、観光資源を失っていくことになる。町家が減らないような政策や所有者や住み手の意識改革が望まれる。

■地域の活性化

 日本の事業者の中で、99%が中小零細企業。特に京都は中小企業のまち。その扱い高は、生産で60%、流通の70%、雇用の80%を占めている。中小企業の経営基盤は、地域社会の中にあり、経営を守り、発展させることは地域社会の発展に直結する。地域経済の担い手である地域内事業者は、人の採用、生産販売、納税と地域内再投資が全てである。地域内産業連関をもっと強くし、循環させることで、地域の活性化や発展につながるのは明白である。

■今後の方向性

 産・学・公連携が注目されているが、大手企業の取り組みでなく、我々中小企業こそ、地域事業者間ネットワークを深める必要がある。地域発展、地域活性化のためにも必要であり、我々中小企業が元気になることは、京都での暮らしや生活を守ることにつながり、観光や文化を守ることにもつながっていく。
 京都には優れた地場産材(北山杉、京瓦、京畳など)、伝統的な工法技術、伝統産業(西陣織、清水焼など)があり、様々な技術を組みあせ、職人が集結していくことで地域特性を活かした住宅開発ができる。地産地消の住宅版で、スローライフの家づくりに取り組むことで、多くの人々が参加できる。そうすることで、京都らしいオリジナリティの高い持続可能な住宅供給や住宅リフォームの提案、京都らしい住まい方、生き方を提案できる。
 京都は大量画一、マニュアル通りではなく、個々のニーズや人間関係を重視し、きめ細かい手作りのこだわった「モノ」がよく似合う。

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