都住研ニュース

第27号 ●定例会ダイジェスト

定例会では様々な講師を毎回お迎えして、各テーマの専門的なお話をお伺いしています。そしてグループごとにディスカッション・発表を行い、様々な専門性をコラボレーションする場にもなっています。
ここでは、これまでに開催した定例会のダイジェストをお伝えします。

■第34回(平成17年6月28日)

 京の山 そまびと杣人工房の試み 〜京都市域産材普及推進委員会の取り組み
  野間 光輪子 氏 (京都市域産材普及推進委員会 委員長)

野間光輪子氏  第34回定例会では、京都市域産材普及推進委員会委員長の野間光輪子さんをお招きし、杣人工房に関する取組の紹介、そして京都の山の現状、なかでも北山杉に関する現状と課題、展望に関するお話をいただきました。現在都住研では「京都こだわり住宅プロジェクト」(平成17年度全国都市再生モデル調査に採択)を実施していますが、このプロジェクトに関する情報収集、学習、ネットワーク構築の一環と位置づけて実施しました。杣人とは、「杣の木を切る人」という意味。木を切る山を杣というそうであり、つまり木こり、という意味を持つそうです。
 野間さんは和歌山県生まれで、日本大学建築工学科を卒業、建築設計事務所勤務の後、1979年に野間建築設計事務所を設立。設計活動に加え京町家再生研究会の幹事も務める。一級建築士。また、祇園新橋の「望月」の女将でもある様々な顔を持つ女性。

【京都市の森林面積】

 今年4月に京北町が京都市に合併されて、市域がさらに広がった。合併前の京都市域の面積は61,022haで、うち森林面積は66.8%の40,794haであった。そして京北町を合併することで、市域は82,790haで、森林面積は73.7%の82,790haとなった。
 京都市域面積に占める森林面積等の変遷は、京北町を合併したことで、市域に占める割合が66.8%から73.7%に増加した。 そのうち、北山杉生産森林区域は、旧京都市では24.5%から合併後26.2%へと増加した。 民有林の面積は、京北町はほとんどが民有林であり、うち人工林面積は旧京都市は民有林の36.5%、京北町は47.1%となっている。
 これまで、京都市の農林振興課は林業に対して補助を出していたが、合併により京北町の山と木がドッと入ってくることとなった。そのため、「林業振興さらに進める必要がある」として、これらの山の木々をいかにさばくかを検討するために、本委員会が立ち上がった。

【杣人の工房事業の概要】

 杣人工房事業の趣旨は、環境都市京都市に相応しい、この緑豊かな森林環境を有効活用し、森林と人の共生・木の香るぬくもりのある暮らしの創造を提案、推進することにより、市内産木材の需要を拡大して地域林業や木材関連業界の活性化を図ると共に、健全な森林の保全を進めていくことを目的としている。
 委員構成は、インテリアデザイナーや大文字保勝会など公募委員を含む様々な人で構成されている。事業概要は大きく以下の3つである。

(1)全体計画推進事業

 工房事業を効果的かつ円滑に推進するためのソフト事業として、「京都市域産材普及推進委員会」を諮問委員会として設置・運営。杣人の工房の宣伝活動や全体フォーラムを開催する。

(2)リフォームモデル設置事業

 これが杣人工房であり、モデルルームを拠点に、工房運営団体がワークショップ活動やリフォームを推進する事業を展開する。モデルルームは今年度で3箇所の設置を目指す。これは施設を活用して市内産材を使用したモデルルームを設置し、この事業主体は杣人の工房運営団体で考えている。

(3)ワンルームリフォーム普及事業

 これは市内産材でのリフォーム希望者に対して、木材加工製品を支給する事業。一箇所あたり支給補助費用として25万円を上限として支給し、今年は3〜4件に補助していく予定である。
 これを10年かけて、リフォーム想定箇所として500箇所を補助していく予定である。この取り組みは、新築ではなくまずリフォームから取り組んでいくこととしている。

【杣人工房の仕組み】

レクチャーの様子  京都市内の杣山からの木材を供給し、林業の活性化、健全な森林保全を進める。そして杣人工房が窓口となり、リフォームの展示・相談や森林学習会の開催、会員交流会を開催する。そして会員宅について、地域材を活用したリフォームを推進する。つまり、山と市民をつなぐ活動をして、より多くの人に山と親しんでもらう活動を展開していく。

【北山杉の抱える課題】

 委員会で課題になっているのは、北山杉の生産状況。北山林業の生産状況は、平成13年から15年にかけて、かなり急激に落ち込みを見せている。今年はさらに落ち込みを見せていると考えられる。
 先日、北山杉の若手の人たちと話す機会を得たが、彼らは「何とかがんばろうと思っているが、もう食べていけない」と言っている。北山杉には生産、加工、問屋の3つの業者があるが、生産が落ち込めば、売ることもできない、と連鎖的に厳しい状況になっている。
 最近は床の間のない家も多くなっており、また床の間を知らない世代も出てきている。北山杉は床の間の「しぼ丸太」が有名だが、磨き丸太すら使われない。使い方を知らない建築士、工務店もいる。
 北山丸太の良さは、その曲線。工事が難しいと言われているが、最近はプレカットもできる。そのあたりをなかなかわかってもらえない。北山杉が無くなると、数寄屋建築、そして最近注目されている町家も材が無くなってしまう。

【北山杉を使った住宅の設計】

 住宅メーカーは消費者のニーズの方向を向いているし、コストダウンもしなければいけない。また、木を知らない、あるいは木に愛着のない建築家に設計してもらうのもどうかと思う。それならこだわり住宅をやっている人にやって欲しいし、話を持って行って、一緒に考える方がいい。その方が意味があると思う。
 私は和歌山県出身で、父の里は山林を持っている。私が子どもの頃は山番さんもいて、夏休みになる度に遊びに行っていた。「これは光輪子が結婚するときの木だ」などと言われて育った。しかし、山を売ることを覚える人達が出てきた。新しく買った人は山の手入れができないことも多く、木を売るにも経験がない。経験がない人にはわかりにくい。そのようなことで山から収益を得ることは難しい。

【京町家とそれを支える木の文化】

レクチャーの様子  平成7年に、町家再生研究会を立ち上げるのをご一緒した。最近は町家は注目されているが、町家という形態だけを見て販売されている。千年間、町家は形態を変え、段々と洗練されてきた。都市に住む住宅として優れた形態となっている。それを現在の住まいとして活かす必要を感じている。町家は、木を使った住まいであり、木の文化を表している。
 現在では町家は国をも動かす文化になりつつあるが、一方それを支える山は大きな問題を抱えている。昔美しかった山も現在では荒れている。そして山の機能も衰えている。山をいかに保全していくかについては、大きな問題となっている。

【建築の京都らしさの創出】

 私は建築士会の女性部会で様々な調査をしてきたが、日本中が10年ほど前から高気密、高断熱の家に変わってきている。海辺などの住宅でも同じようになってきている。
 現在は衣食住の分野において「和風」が注目されつつあり、家庭画報でも京都の特集が続いた。しかし、段々と「江戸の文化」を注目するように変わってきている。
 京都を「木の文化都市」というのであれば、木を使って、山を元気にしていくことも大事だと思う。住宅だけでなく、公共建築もそう。ロビーなどに京都の木材を使い、そこに補助を出す。京都全体を木のまちにしていく必要があるだろう。

全国都市再生モデル調査に採択 ●京都の住まい・まちづくり拝見! ●運営委員のリレーエッセイ

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