都住研ニュース

第25号 ●都住研10周年記念フォーラム/基調講演

都住研10周年記念フォーラム

  ■平成16年10月2日
  ■場所:ひと・まち交流館 京都 3階第5会議室

基調講演

「これからの住まい・まちづくり政策」 国土交通省住宅局市街地建築課長 井上 俊之 氏

 基調講演として、国土交通省の井上さんをお招きし「これからの住まい・まちづくり政策」として、最近の住まい・まちづくり政策の概観の紹介いただきました。豊富な資料を用いながら、データーに基づく現状の分析、そして施策の内容についてお話しいただきました。以下に、お話の概要を紹介します。

1 住まい・まちづくりをめぐる状況

【最近の住宅事情と課題】
 人口は2006年にピークを迎え、その後は急激に減少していくと予想されている。今後の住宅政策は、これらの傾向を踏まえながら考えていく必要がある。住宅の規模と世帯人員のミスマッチの解消は住宅政策の課題となっている。新耐震基準の施行以前の建物が、全ストックの1/3を占めており、耐震性の不安がある。ストック活用に向けて中古住宅市場やリフォーム市場の活性化が課題であるが、中古住宅市場は、全国の全住宅取引量に占める割合は12%にすぎず、欧米諸国と比べても極めて低水準であり、新築だけでなくリフォームを推進して中古市場を活性化させていく必要がある。

【分譲マンションの供給状況】
 分譲マンションの戸数は着実に増加しており、毎年20万戸ベースで増加している。もう少しすると、新耐震以前の住宅も100万戸になることから、切実な問題となってくると思われる。

【長期的な地価推移の状況】
 全国の地価は、昭和49年を基準とすると、三大都市圏では4倍に上昇した時期があった。しかし商業地については、昭和49年の地価水準を下回っている。地方圏ではグラフの山が2倍近くに上がっているが、この傾向は同じと言えるが、商業地も住宅地も下がっている可能性がある。

【地球環境問題】
 環境問題は、何らかの行動をしていく際には大事な要素になっている。エネルギー消費量の全体の半分は産業分野で、その半分が輸送、その半分が民生、そして12〜3%が住宅に関する。今年には環境大綱が作られたが、環境については国をあげて取り組んでいく必要が生じている。

【「三位一体改革」の概要】
 住まい・まちづくりを取り巻く大きな背景の中に、行財政改革も大事な要素となっている。「地方にできることは地方に」という取組が進められている。これとともに、都道府県のあり方、国の役割、分権のあり方も変わってくると思う。

2 これからの住まい・まちづくりの方向性

【新たな住宅政策のあり方について】
 社会資本整備審議会住宅宅地分科会で出された概要では、新たな住宅政策の基本理念として「公的直接供給重視・フロー重視から市場重視・ストック重視へ」「市場重視の制作の不可欠な消費者政策の確立と住宅セーフティネットの再構築」「少子高齢化、環境問題に応える居住環境の形成」「街なか居住、マルチハビテーションなど都市・地域政策と一体となった政策へ」の4つをあげている。これらをベースに、具体的指針を出している。

【住宅産業に置けるニュービジネス報告書】
 住宅局で研究会を発足し、今年の6月に報告書を出した。従来の設計、不動産事業者、地域ビルダー、ハウスメーカーが今後住宅を供給していく際に、どんなニュービジネスの可能性があるかを検討した。情報化や自己実現、民主導のリスクを回避するものなど様々なビジネスの可能性があると考えられる。

3 最近の住まい・まちづくり政策の動き

【住宅性能表示制度】
 総着工数の1割強が交付対象と、まだまだ少ない。ぜひ、今日を契機に京都でも積極的な導入を進めて欲しい。

【CASBEE(建築物総合環境 性能評価システム)】
 これは建築の環境に関わる総合評価の指標。ISOでも取り組みが始まっているが、それぞれで国際標準を目指して進めている。国が指標として共通の物差しを作り、運用はそれぞれの公共団体で定めていけばいいと思う。また、環境の負荷の面だけでなく、プラスの面についても評価しようという取り組みも出てきている。大阪でも「キャスビー大阪」の運用をされると聞いている。

【公共賃貸住宅政策の見直し】
 住宅金融公庫の改組により、直接融資は大幅な縮小になると思われるが、銀行ローンが機能し、貸し渋りされることが無くなることを確認した上で、証券化に軸足を動かすことになる。

【都市計画の提案制度】
 0.5ha以上で、都市計画マスタープランなど都市計画に関する法令上の基準に適合し、土地所有者の2/3以上の同意があれば、今ある都市計画に対して提案ができるようになった。条例により任意団体でもできるようになる。

4 都市居住推進研究会と住まい・まちづくり政策

 都住研は一種のNPOと思っている。まちづくり系のNPOはとても沢山出てきて活躍しているが、福祉などの施設系のNPOのようにお金がまわる仕組みが充分でないためにお金、ひいては継続が課題となっているところが多い。しかし都住研は10年間継続して、成果を出している。私は都住研こそがまちづくりNPOの1つの典型であると思う。
 これからの主役は、地域ビルダーや設計者、不動産事業者などが大きな役割を果たしてくると思う。地域に軸足を移すようになったとき、地域のビルダーがしっかりしているのが大事。都住研は事業者に加え、学識経験者や個人としての行政職員も入っているところがユニーク。これから実践を中心とした展開をするということだが、京都らしいビジネスモデルをつくって欲しいし、私たちにもどんどん刺激を与えて欲しい。

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