都住研ニュース

第22号 ●「歩きたくなる京都(みやこ)」

「京都市都心部のまちなみ保全・再生審議会提言」(概要)

[1]提言の背景 都住研まちづくり委員会提言 背景


「白熱する都市間競争」

 第二次大戦後約40年間、日本の経済が活性化し規模を拡大する中で、都市は農村から流入する労働人口を吸収し続けた。しかし、近年の少子高齢化や人口の空洞化が都市の活力を奪いつつある。近い将来、都市が市民を選択するのではなく、市民が都市を選択する時代が来る。これからの都市は人に居住してもらうために、他都市より魅力があると思える環境を造る必要がある。

◎新たな人材の流入や居住を促す京都の魅力とは
 ・知的遊民としての大学生による独特の遊空間
 ・豊かな自然景観や多彩な産業
 ・歴史的遺産である神社仏閣や個性的なまちなみ

◎「京都らしさ」
 京都が都市間競争を勝ち抜くために、最も効果的で賢明な施策を検討するときに除くことのできない概念
 ・「京都商法」といわれる独特の土壌から育まれた活力ある大企業を輩出
 ・お茶、お花に代表される高い生活文化に根差したものづくりの文化の独自性
 ・多様な価値観を持つ人が密度高く住む都市の中でお互いが調和しながら暮らす知恵が凝縮された都市居住文化。こうした文化を共有
  する自営業、職人、自由業、経済人、学識経験者といった多様な人材

○人を失い、固有の文化を感じることができない、空間だけが整備された都市には魅力を感じない
 →京都は地域に固有の資源や個性を魅力と感じ、誇りに思う市民が、
  特に都心部では都市居住文化を継承する京町家居住者がより豊かに暮らせるまちづくりが必要
 →新たに流入する人に暮らしやすいまちづくりでもあり、京都が活力ある都市であり続けることを可能にするものでもある

○人と人の優しく曖昧な関係の上に積み上げてきた多様性にこそ、「京都らしさ」の本質がある
 →空間構成の原点としての「京町家」

○アジア的カオスが漂う都市である京都。暮らしやすいこと従前の建築を阻害することなく新しい建築を積み重ねて
 まちなみを形成することで「多様性」を活かす
 →歩いて楽しい、歩きたくなるまちづくりこそ「京都らしい」まちづくりの基本理念となる

◎「京都らしい」まちづくりを検討していくのにふさわしい地域
 御池通、河原町通、四条通、烏丸通に囲まれた地域は、未だに低層の京町家や旅館、木造系の商業店舗の残るまちなみを形成し、老舗も多く京都で最も魅力的な商業地の1つであり、歩くことの楽しい地域である。その一方で、近年猛烈な勢いで高層マンションが建ち続けており、景観だけ見れば既に京都らしいとは言い難いまちなみになっているかもしれないが、地域住民は悲観することなく、この町の暮らしと交流が可能な新しい人材や資本を受け入れようとしている。こうした地域住民の取り組みにこの地域の可能性を感じさせる
 →新しいまちづくりの理念に基づく施策を導入することにより京都を代表する商業地として変貌する可能性を持つ地域

[2]提言街区の現状と課題

  −都心部で職住共存地域と位置づけられている地域のうち、河原町通、四条通、烏丸通、御池通に囲まれた街区−
○高齢化の進行や伝統産業の低迷に伴う企業の転・廃業によるコミュニティの衰退と同時に中高層マンションへ土地利用の転換が進行。
○京扇子、京友禅、西陣織、京菓子、表具、古美術などの「京の老舗」が数多く、内外からの高い評価を得ている
○三条通の界隈景観整備地区の近代建築や、まちなかの文化財等に指定された歴史的建造物も多く、歴史的遺産に恵まれた京都ならではの地域を形成

→個性と魅力ある職住共存のまちづくりを進めていくために、これらの地域資源をネットワークした回遊空間の整備を図り、京都市民を始め、内外の観光客が豊かに交流することができる京都を象徴するまちとして再生していくことが望まれる。併せて、こうした地域資源と調和する質の高い新しい建築物を誘導するとともに、多様な都市機能や居住環境の整備を図り、誰もが歩きたくなる京都(みやこ)とすることが望まれる

[3]提言

(1)街区内道路における歩行者天国の実施
 平安京創建当時の都市の骨格が色濃く残るこの街区の道路の多くは、幅員6m前後の狭隘な道路であり、こうした道路に面して多くの市民が生活しているが、本来、歩行者を前提としていた道路を車が占有している。今後、人が主役の歩きたくなるまちづくりを実現していくため、公共交通体系の充実整備を図りながら道路構造を改善し、安全に安心して楽しく歩けるまちづくりが望まれる。このため、緊急対策として、以下の内容が望まれる。

 1)街区内道路の歩行者天国の実施(当面、土・日曜日に限定)
 2)道路のバリアフリー化

(2)安全快適な都市環境の整備
 この街区の道路上にも、電線、電話線などが張り巡らされて雑多なまちなみの印象を与えると共に、電柱は通行の障害となっている。今後、人が主役のまちづくりの観点からも、以下の内容を行うことが望まれる。

 1)電線類の地中化の促進
 2)道路舗装を歴史的なまちなみにふさわしい石畳とすること
 3)新たな町名表示板の設置
 4)休憩スポットの整備

(3)産業と文化の連携した回遊空間の形成
 かつて、この街区は、伝統産業を中心とした職と住の一致する暮らしと賑わいがあったが、近年伝統産業の衰退と共に専用住宅比率が高まりつつあるが、今なお、各種の「京の老舗」が点在しており訪れる人に京都らしさを感じさせる。今後は、伝統産業の振興によって職住が共存するまちとしての賑わいを取り戻すことが望まれる。また、三条通を中心として、明治・大正期の洋館建築が数多く存在する一方で、近世の暮らしを感じさせる京町家も多く点在しており、近世、近代の歴史の積み重ねを感じさせる場所として市民に親しまれている。さらに近年、若い人を中心に、こうした歴史的な建築物を店舗、ギャラリーなどとして再生・活用する動きが活発になっていることから、歴史的な建築物の保全・再生・活用や都市居住文化の回遊ネットワークの形成を促進し、こうした施設を回遊しながら京都らしさを堪能できるように、多くの関係者の連携で回遊マップを作成したり、京都市民と観光客等が交流する中で奥深い京都の都市居住文化を体感できる小規模なイベントを連続して開催することが望まれる。

 1)伝統産業の振興
 2)歴史的な建築物の積極的な保全・再生・活用
 3)都市居住文化の回遊ネットワークの形成
 4)町家街区の整備・誘導

 近年、この街区において京町家などから中高層の建築物への建替更新が進み、既存のまちなみとの不調和が顕著になってきている。この大きな要因は、都市計画において商業地域に指定され、容積率400%、高さ制限が31mとなっていることにある。またこうした中高層化の大半が共同住宅であり、店舗や事務所の減少によりまちの賑わいが失われつつある。
 このため、既存のまちなみとの調和を図るために、建築物の壁面線の指定と建築物1階への店舗などの設置誘導、さらに、既存の道路基盤を前提とするならば、誘導容積制の導入、道路幅員にあった高さ制限、高度地区制限を31mから20mに引き下げる等の施策を市民の合意形成を図りながら行うダウンゾーニングの実施が、喫緊の課題として望まれる。
 また、こうした形態のコントロールと合わせて、地域のまちづくりの活動との連動を図りながら、町家型共同住宅の積極的な普及や袋路再生の支援を促進していくことが望まれる。

 1)建築物の壁面線の指定と建築物一階への店舗などの設置誘導
 2)市民合意によるダウンゾーニングの実施
 3)町家型共同住宅の積極的な普及
 4)袋路再生の支援

 本提言は、平成13年6月に京都市に提出され、「職住共存地区」の新しい建築ルール(平成14年4月1日から適用)に大きく反映されました!

「21世紀・京都の街づくり提言」(仮称)作成に向けて ●「京都市都心部のまちなみ保全・再生審議会提言」を読んで ●まちかどエッセイ(金沢の甍)

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