都住研ニュース

第22号 ●「21世紀・京都の街づくり提言」(仮称)作成に向けて

人口減少(安定)時代の京都の都市計画とまちづくりを考える
          〜21世紀・京都のまちづくり提言に向けて〜

第1のキーワード、人口減少時代をどう読むか

  〜20世紀は都市成長と規模拡大の時代、21世紀は都市成熟と持続的維持の時代

■1.日本人口の推移

 20世紀は右肩上がりの時代で、都市は一貫して拡大してきました。しかし、21世紀は都市の成熟の時代、そして持続的維持の時代になっていくと思います。まず最初に日本の人口について見てみますが、これについては、様々な研究がなされています。

(1) 近代以前の日本人口の歴史推計
 近代以前の人口は、不確かな推定になりますが、添付資料のような推計がされています。弥生時代には60万人、奈良時代は560万人、平安時代は690万人、安土桃山時代は1,230万人、江戸時代は3,000万人前後、そして明治5年には3,481万人と増加してきました。

(2) 第1回国勢調査(1920年)以降
 第1回国勢調査がされたのは大正9年になりますが、このときは5,596万人です。明治5年の人口を100とすると、大正9年には161となります。
 その後20年ごとに概ね30%前後で増加し続けています。しかし、2000年に実施された国勢調査では、1980年と比較して8.4%の増加でしかありません。そして人口はあと2、3年で1億2,800万人となり、ピークを迎えると言われています。

(3) 少子化と高齢化
 高齢化には、2つの側面があります。長命化による高齢者人口の絶対的な増加と、少子化による高齢者人口の相対的な増加です。これら高齢化の2つの側面が、同時並行で進んでいることが、大きな特徴です。
 一方、少子化は生物学的に見てもおかしなことなのです。1人の女性が生涯に2.07人の赤ちゃんを出産しないと、人口が維持できません。
 ちなみに、日本の高齢化のスピードは、特に急テンポです。大正9年には、全国民の年齢を足して人口で割った平均年齢が26.7歳、1人の女性の子ども数は5.1人、高齢化率は5.3%でした。
 昭和35年の平均年齢は29.1歳、高齢化率は5.7%です。しかし平成12年は、平均年齢は41.4歳、高齢化率は17.3%で、この40年の平均年齢の上昇のスピードはすさまじいものがあります。また平均寿命は、80年間で約2倍になっています。1人の女性の子ども数は、5.1人から1.3人へと微減しています。

■2.将来人口推計(2002年推計)

 将来人口は、出生率、平均寿命、男女出生比、国際人口移動の4つの要素で決まります。男女出生比は安定しているし、国際人口移動は移民政策に変更がない限り影響は少ないです。なので、将来人口は、基本的には今後の出生率と平均寿命(死亡率)の動向で決まっていくと考えられます。

(1) 将来推計における合計特殊出生率の仮定
 将来推計における合計特殊出生率についてですが、1950年生まれの女性の実績値は、平均初婚年齢は24.4歳、出生児数は2.14人、生涯未婚率(50歳時点での未婚率)は4.9%、合計特殊出生率は1.98です。しかし、現在の東京では20歳代後半の女性の8割は未婚だと言われています。そして、生涯未婚率は22.6%とも出ています。

(2) 平均寿命の仮定
 2000年の平均寿命は、男性が77.6歳、女性は84.6歳でした。2050年には男性81.0歳、女性が89.2歳に伸びると仮定されています。

(3) 将来人口
 将来人口については、中位推計では後100年で人口が半分になると推計しています。低位推計では100年後は人口が65%減少するとしており、まさに亡国の勢いです。

(4) 年齢4区分別将来人口(2002年中位推計)
 年齢階層別の推移は、従来の年齢3区分ではなく、4区分しています。つまり、最近はほとんどの人が大学に行くので、年少人口として0〜19歳、労働人口として20〜64歳、高齢者は2つに分けてヤングオールドとして65〜74歳、ベリーオールドとして75歳以上としています。
 総人口が減少する中で、子どもは20年で約4割減少すると推計されています。100年では6割減少です。最も注目されるのは、団塊世代の影響で75歳以上が2025年までで一挙に1,125万人増加することです。このような高齢化時代を迎える中で、どのように都市をデザインするかが、21世紀最大の課題となります。

■3.三大都市圏集中から東京一極集中へ

 日本では、三大都市圏つまり東京圏、中京圏、大阪圏が存在し、人口集中が続いているというような言い方がされてきました。しかし現在ではそのような実態はなく、東京への一極集中だけが続いていると考えて良いと思います。

(1) 三大都市圏転入超過数
 高度成長期は、総数ではこの三大都市圏全体で879万人の転入超過です。この内訳は、東京 6:中京 1:大阪 3でした。石油ショック以降、1974年から2000年までの27年間では、東京圏は142万人の転入超過、中京圏は15万人の増加ですが、大阪圏は45万人減少しています。大阪圏は、石油ショック後は、バブル期、バブル崩壊後の全ての時期において転出人口が転入人口を上まっています。この傾向は、今後とも変わらないと思われます。

(2) 「三大都市圏」、大阪圏の人口推計

 東京圏は、30年間は減少しません。中京圏は、6%の減少となります。大阪圏は、157万人の減少、つまり9%の減少となります。概ね、吹田市と堺市の人口が無くなるボリュームです。
 京都市は、130万人になりますので、12%の減少となります。これは、上京区と中京区の人口が無くなるボリュームです。

■4.京都府人口に占める京都市の比重

 京都市の人口は、京都府の中にしめる京都市の人口が占める割合が非常に高いのです。これは、京都市が近世まで首都であったことが、大きな要因であったと考えられます。全国の県庁所在都市の県人口に占める割合は、47ある都道府県の平均は30.3%です。これが政令市と重なる場合は、12市の平均は36.1%です。東京都特別区は67.4%と高くなっていますが、次いで京都が55.5%と全国で2番目に高くなっています。
 これから人口は確実に減少していくことが予想されます。これは、かつてない事態です。人口が増加していく中での都市計画の考え方は、「宅地をどれだけ確保して、インフラをどれだけ整備するか」ということでしたが、人口が減少していく中での都市計画は、これまでに経験がありません。

第2のキーワード、都市計画のパラダイム転換

  〜ハコモノづくりから「まち」づくりへ〜

■変遷する都市計画

 20世紀に成立した近代都市計画は、経済と人口の急成長に対応するための市街化を円滑に進めるためのものでした。都市計画は、土地利用規制とインフラ整備のための「建設技術システム」として形成され、土木・建築・造園というハードな分野が担ってきたシステムであるといえます。しかし21世紀は、20世紀に成長した都市を成熟都市として持続させるための「社会・空間管理システム」として、上手にマネージメントしていくことが求められます。
 近代に成立した都市計画がこのように変貌しつつある背景には、産業構造の大転換があります。20世紀のリーディングインダストリーは、重厚長大型の工業・製造業でした。しかし21世紀は、情報産業や生活文化産業、健康医療福祉産業など人間の生活に関わる新しいものづくり・サービス産業が台頭してきています。
 これらの次世代産業は人間の肉体と行動を直接の資源とし、私たちのニーズやライフスタイルを経済活動の主対象にしているところが、大きな特徴です。
 このため、21世紀の都市は、次世代産業を生み出すことができるような人間の生活空間であり、またそこでの生活を市場として成熟させる場、空間である必要があります。つまり、20世紀は産業が都市を造る時代でしたが、21世紀は都市が産業を育てる時代になったのです。

■経済活動の人間化と人間活動の市場化

 現在の経済活動の発展は「グローバル化」の方向です。つまり生産単位の大規模化と国際分業化がものすごい勢いで進んでいて、このままでは「都市は見捨てられる」といった不安さえ感じさせます。これは否定することはできませんが、その一方で「経済活動の人間化」つまりマンパワーの質や量が経済活動のより大きな支配的要素になること、及び「人間活動の市場化」つまり生活の質の向上が高度に洗練された持続的な市場を生み出すことを通じて、経済活動の地域化、ローカル化が進展することも見逃してはいけないと思います。

■ローカルな経済活動の芽生え

 新しい経済活動が、地域と結びついて生まれてきています。ローカルな経済も、グローバルな経済と同時進行して発展していくものと思われます。地域・ローカル産業は地域限定的な活動が主体となるのですが、そこで形成された生活文化や知識・情報が高度で魅力的な質を持っていれば、例えば観光行動を通じて世界を対象とするような国際性を獲得することもできます。
 ローカル産業の重要なところは、「地域限定型」「地域密着型」だと言うことです。京都の「美」や「自然」「文化」は、京都に来なければ得ることができません。つまり、グローバル産業とローカル産業との違いは、地域を離れて経済活動が成り立つかどうか、というところに質的な違いがあります。そこで、地域の経済活動をきっちりと根づかせていくことも重要です。都市のデザインにおいては、このような視点が必要となってきます。

■サスティナブル・シティへ

 世界の先進国では、人口減少あるいは人口安定時代の都市政策、都市戦略として、90年代から「サスティナブル・シティ戦略」を展開しています。これは、生活の質の向上、自然環境補保全、歴史や文化の継承、コミュニティをベースとした経済活動等を育てていくことを目標に、都市をトータルにマネージメントする戦略を指しています。インフラ整備を主とした従来の都市計画からサスティナブル戦略に基づき、都市の魅力をいかに作っていくか、ということへ重点が移っているのです。都市の魅力をアップする、つまり都市のグレードをあげるには、都市計画の視点をハコモノから中身へ、そしてまちづくりへとシフトさせ、都市の社会・空間の質の向上を図っていくという大きなパラダイム転換が必要となっています。

第3のキーワード、京都ブランドにこだわる

  〜20世紀は都市均質化の時代、しかし21世紀には個性のない都市は生き残れない

■ナンバーワンからオンリーワンへ

 20世紀は、都市は均質に画一的に発展してきました。都市の成長拡大にあわせて、市民生活に必要な最低限の機能を備えるために、都市計画が行われてきました。しかし現在は、企業も「ナンバーワン」よりも「オンリーワン」を目指すような時代に変わってきており、都市にも当てはまります。都市の評価ランキングが、量的基準から質的基準に変化してきています。つまり、規模や形だけでなく、都市の魅力という中身が、都市のグレード・品格を決める時代がやってこようとしています。
 では、都市の品格は何によって決まるのでしょうか。私の仮説としては、環境資源の多様さと豊かさ、そして地域社会と市民社会の内容の水準だと考えています。つまり、「まちの質」です。
 「まち」とは、地域社会(コミュニティ)と目的に添って作られる市民社会(アソシエーション)の有機的なネットワークで構成されています。この2つが、どれだけ豊かであるかということが、都市の魅力を決めるのです。そのためには都市における人材の集積とそのネットワークこそが究極の地域資源であり、最高の都市のインフラであると考えます。

■京都ブランドの土壌

 京都は、第一に歴史遺産ストックや記号的価値による歴史性、第二に盆地景観や鴨川に象徴され、山紫水明とうたわれる自然環境、第三に高度に洗練され、古くて新しいという両義的な性格を持つ「京風」の生活文化が三位一体の構造として捉えられています。
 住民や市民がまちなかに住み続けることで、地域社会と市民社会が遊離せず、社会と空間の連続性とネットワークを維持して、都市活動や持続的発展の基礎となっているのです。つまり、これらの京都ブランドは、「まち」の持続的発展の中でこそ、その花を咲かすことができるのです。

■新しい産業構造の構築

 これからの京都経済は、グローバル産業の発展、つまりタテ型構造の発展と、地域のローカル産業が元気で活動できるような経済のヨコ型構造の新しい展開が立体的に織りなして、京都の経済を活性化していく必要があります。そしてこの両者にとって「まち」の存在は必須条件であり、不可欠の前提であると考えます。それは、「まち」の中で根づいている地下水脈のような人的ネットワークが、経済活動の人間化や人間生活の市場化の鍵を握っているからです。そして、そこでストックされている重層的な知的情報資源が、グローバル産業にとっても、ローカル産業にとっても、これから大きな役割を果たすことが期待されるのです。

■形式知と暗黙知

 知的情報資源には、質的に異なる2つの「知」があります。1つは、表出され論理的に言語化された伝達可能な知識である「形式知」です。これは本質的にユニバーサルであり、グローバルです。もう1つは、個人や組織、地域に埋め込まれた表出しない知識の「暗黙知」です。これは地域性や場所性等の固有性を持っています。京都の研究風土や伝統技術などはこれに当てはまります。暗黙知は、本質的に個性的でローカルです。京都は、「まち」の中に人を育てる隠れたカリキュラムがあるからです。京都には分厚い暗黙知のストックがあり、それが様々な知的情報を産み出す土壌としてまちに内蔵されているのです。これらの知識は、ある日突然生まれるのではなく、京都のまちに埋め込まれているものが、長い間で醗酵して花開くのです。このような暗黙知を産み出すには、土壌が必要です。京都の先端産業は伝統産業と関連性が深いと言われますが、これは形式知と暗黙知による関係性が高いという不可分の関係を物語っていると思います。

■京都の重要な産業「観光」

 京都のローカル産業の新たな展開にとって注目すべきものとして、私は観光があると思います。観光行動は時代によって多様な形態を取って発展してきました。特に近年の現象として、東京ディズニーランド(TDL)や大阪のユニバーサルスタジオ・ジャパン(USJ)のような大型テーマパークがショービジネスで巨大な集客力を発揮するようになってきています。しかし今後は、少し手を伸ばせば届くもので、日常生活をより豊かにするような形が、今後の観光の主流になると思われます。事実、歴史を学んで、自分を再発見するような人が増えてきています。京都の観光コンセプトは、これらのテーマパーク型の観光とは正反対の方向に向かうことが必要と思います。それは、京都は職住遊学の場、空間である「まち」を活かした持続的な観光を展開することが、京都の基本方針であると考えられます。
 一方、それを迎える側の市民のホスピタリティも重要な要素です。人間は極めて重要な資源です。人間を対象とする経済活動では、京都は日本でも最高レベルのおもてなしをしていると思います。そして京都の文化を知らないとおもてなしができません。そのためには、市民はまちづくりに参加してもらわなければいけませんし、また京都ブランドについて知って頂き、体現する人材になって欲しいと思います。

「歩きたくなる京都(みやこ)」 ●「京都市都心部のまちなみ保全・再生審議会提言」を読んで ●まちかどエッセイ(金沢の甍)

トップ > 都住研ニュース > 22号