都住研ニュース

第70号 ●定例会ダイジェスト

 定例会では様々な講師を毎回お迎えして、各テーマの専門的なお話をお伺いしています。そしてグループごとにディスカッション・発表を行い、様々な専門性をコラボレーションする場にもなっています。
 ここでは、これまでに開催した定例会のダイジェストをお伝えします。

■第74回

日 時:2025年10月25日(金)18:30〜
場 所:京都市景観・まちづくりセンターWSR
参加者:41名

徹底解剖!中堂寺前田町路地再生長屋プロジェクト!━「ああ、あれは個別解だよ」と言われないために━

燗c光雄会長挨拶
 都住研は30年以上にわたり路地の再生に注目してきた。中堂寺前田町プロジェクトは子育て支援をテーマに、「路地つなぎ」という手法で安全性確保を図りつつ実施。6年にわたるプロジェクトでは、安全性だけでなく良好なコミュニティ形成の重要性など多くの学びがあった。このプロジェクトを客観的に評価するため、本日の「反省会」を開催する運びとなった。

「京都の路地入門編」森重幸子(都住研 運営委員)
 京都市内には1万3000カ所、総延長940kmの細街路(幅員4m未満の道)があり、特に中心部の「田の字地区」に袋路(行き止まり路地)が集中している。建築基準法上、袋路は「非道路」として扱われ、原則として建築行為ができない。しかし近年は特例許可などの制度により再生可能になってきている。 今回の中堂寺あさひ長屋は、所有権が多くの方に分かれており、特に難しい事例だった。

「中堂寺前田町路地再生長屋PJの概要」(都住研 事務局)
 このプロジェクトは日本不動産学会業績賞・国土交通大臣賞と国土交通省の不動産アワード優秀賞を受賞。都住研は2024年で30周年を迎え、現在の10年は「路地の再生と未来への選択肢継承」をテーマとしている。
 本プロジェクトでは、再建築不可の土地を再建築可能にし、20年以上前に火事があった街区の2本の袋路を「路地つなぎ」して通り抜けを確保。6区画を4区画に再編し敷地面積を拡大した。テーマは「子育て支援住環境」とし、リーズナブルな地代で便利な場所に子育て世帯向け住宅を供給。
 課題は、接道条件による再建築不可、所有者不明・相続人不在の土地、国有地(水路跡)処理、近隣の反対など。建築基準法43条2項2号の特例許可を取得し、2方向避難確保、準耐火構造採用などの安全対策を実施。現在は4世帯12名が入居し、子育て世代向け家賃減免制度も導入している。

パネルディスカッション

コーディネーター:大庭哲治さん(京都大学大学院工学研究科 都市社会工学専攻 都市基盤システム工学講座 教授)
パネリスト:扇沢友樹さん((株)めい 代表取締役)
田中和彦さん((一社)京都府不動産コンサルティング協会理事長/潟Rミュニティ・ラボ)
相馬美津子さん((一社)尼崎家守舎代表理事/尼崎市役所)
前席スタンバイ:西村孝平さん(事業主)、魚谷繁礼さん(設計者)、上原智子さん(許可者:京都市建築指導部長)

■導入
大庭哲治氏
 受賞理由は主に3点、@官民学連携で再建築不可の袋路の防災安全性向上、A子育て支援住環境による入居者・投資家誘致、B全国の木造密集市街地の居住再生モデル化、である。

■子育て環境としての路地の価値
扇沢友樹氏
 路地は低年齢の子どもがいる親に非常に快適。子どもを見守りながら仕事でき、高齢者との交流で「仮想じいちゃんばあちゃん」的コミュニティが形成される。2方向避難可能性が安心感につながる。

■路地保全と京町家保全のバランス
田中和彦氏
 路地再生と京町家保全のバランスが課題。経済合理性だけでなく、文化的・歴史的価値や所有者の思いも考慮する必要がある。
魚谷氏(設計者)
 再建築不可の土地が開発でマンション吸収されるより、路地が残る方が都市空間として望ましいと指摘。京都人が京都に住める比較的安価な場所として路地の価値を強調。伝統木造は耐震化可能で、集団的な安全対策で路地を後世に残せる。

■行政のサポート
相馬美津子氏
 「6区画を一括りにまとめた」「特例許可を得た」と簡潔に書かれているが、実際には多くのステップがあったはず。行政のバックアップについて共有して欲しい。
上原氏(京都市)
 特に路地問題については事例を積み重ねたい思いから、一緒に解決策を考える姿勢を行政が持っている。
大島氏(都住研)
 所有者不明地探索への協力や、検察官申立てによる供託金なしでの財産管理人選任など、市役所の具体的支援を紹介。

■プロジェクト評価と課題
大庭氏
 関係者間で「路地の保全」と「安全性向上」という共通ビジョンが共有されていたことを、成功要因として評価したい。日本不動産学会での評価においては懸念点の指摘もあったものの、最終的には都住研の6年間にわたる継続的な取り組みと、30年に及ぶ実績が高く評価されたといえる。
魚谷氏
 路地の安全性向上には単体・集団両面からの検討が必要で、地震・火災対策、防火・避難・消火対策、ハード・ソフト対策の組み合わせが重要。
高田会長
 都住研が任意団体であることが多様な業種の参加につながり、様々な課題に対応できる強みになっている。このプロジェクトは「道しるべ」として次のプロジェクトにつながっていく可能性がある。

■子育て住環境と持続可能性
大島氏
 「通路環境を維持するための協定」により路地内の住宅用途限定を担保。近隣は当初反対していたが、完成後の建物と空間を見て評価が変わった。
魚谷氏
 畳の部屋設置や庇の工夫、路地と室内空間が一体化できる扉の設計など、限られた予算内での建築的工夫を紹介。京都では道幅1.8m未満の路地でのゲストハウス転用は規制されており、住居用途が維持されやすい仕組みとなっている。
扇沢氏
 路地の利点として比較的安価で購入でき、子どもの成長に合わせて隣家購入による拡張も可能。30代家族の都市居住戦略として合理的。
大庭氏
 このプロジェクトのノウハウ共有により「個別解」から「一般解」へのきっかけになると評価したい。持続可能性の観点から5年後、10年後も評価されるプロジェクトであることを期待する。

■まとめ■
 中堂寺前田町路地再生長屋プロジェクトは、再建築不可の難題を官民学連携で克服し、安全性向上と文化継承、子育て支援を両立した画期的な事例となった。特殊事例と思われがちだが、そのプロセスと知見は今後の路地再生に大きな示唆を与えるものである。路地という京都の文化的資源を活かし、安全で豊かな居住環境として次世代につなげていく取り組みの「道しるべ」として位置づけられる。

中堂寺前田町路地再生長屋プロジェクトは個別解か? ●住まい・まちづくり拝見!
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