都住研ニュース

第67号 ●定例会ダイジェスト

 定例会では様々な講師を毎回お迎えして、各テーマの専門的なお話をお伺いしています。そしてグループごとにディスカッション・発表を行い、様々な専門性をコラボレーションする場にもなっています。
 ここでは、これまでに開催した定例会のダイジェストをお伝えします。

■第72回

日 時:2023年11月17日(金)18:00
場 所:京都市景観・まちづくりセンター
参加者:31名

最近、京都市内では空き家・別荘税(非居住住宅利活用促進税)の動きや所有者不明地、密集市街地対策などが大きく動きつつあります。不動産を扱う事業者として、そして市民として知るべき内容をしっかり学ぶとともに、魅力ある京都の不動産市場形成に向けて、今後の展開や戦略について、具体的に意見交換しました。

30周年企画 定例会スペシャルversion

密集市街地・空き家施策の実学講座
〜路地再生と継承 最新情報と不動産事業の可能性を探る
話題提供

神谷 宗宏 氏(京都市都市計画局 住宅室住宅政策課 企画担当課長) 田村 郁夫 氏( 同       空き家対策担当課長) 川口  浩 氏( 同       まち再生・創造推進室 密集市街地・細街路対策課長) 川戸 哲郎 氏(京都市行財政局税務部税制課 担当課長)

■神谷 宗宏 氏

 京都市の人口動態では、大学生の転入が多く、首都圏への転出が課題とされている就職期も、実は転入の方が多いが、25歳から39歳の転出超過が顕著で、0歳から4歳の子どもも転出が見られる傾向がある。
 若い世代が結婚・子の誕生というライフステージの変化の時に、手頃な住宅を求めて周辺市町へ転出しているとみられ、このニーズを受け止めるために「若い世代をひきつける居住環境や働く場の創出を目指した都市計画の見直し」、「既存住宅の流通促進」、「空き家の活用推進」、「ニュータウンなどでの地域の特性や実情等に合わせた活性化」などを総力挙げて推進している。
 京都市では、早くからストックの「活用」の視点を持って住宅政策を展開してきたが、今後さらに、若者・子育て世帯に手が届きやすい住宅を供給するという経済的な視点からも、市営住宅の空き住戸や路地奥住宅、空き家の活用など既存住宅ストックの活用に力を入れていく。
 市営住宅については、整備困難住戸を中心に民間の事業者の目的外使用を可能とし、民間の費用負担とアイデアで整備していただき貸し出していただく全国初の取り組みを開始した。
 路地奥住宅については、再建築不可については接道許可の関係から改修等困難というイメージを払拭し、許可の可能性について事前に明示をする「路地カルテ」を作成する。
 空き家の活用については、郊外エリアを中心として手頃な中古住宅をしっかり流通に乗せようと考えている。

■川口 浩 氏

 本市の密集市街地は現在21地区730ha。平成24年は70地区2090haだったので、約1/3に解消した、と数字的にはそうだが、現場ではそうとは感じ取れない部分もある。
 市内には多数の細街路があり、建替えができないのは幅員1.8m未満の通り抜けの道と袋路。この中で最もハードルが高いのが幅員1.8m未満の袋路であり、約1,680本、延長約62kmある。
 上京区出水学区で、特に狭い路地や袋路が多く、再建築ができない敷地が多数あるエリアを対象に「街区計画」を策定。路地や京町家からなる京都らしい町並みを残しつつ、防災性を高める方策の検討を進めている。
 これまで当エリアを対象にアンケートや相談会を重ね、「建替えたい」「売りたい」「活用したい」「どうしたらよいか分からない」、という市民の皆さんの相談が15件あり、ひとつひとつ丁寧に話を伺い対応してきた。この15件の中から、路地再生の可能性が高い所を抽出、再建築が可能となる「路地整備計画」を策定することを目指し、職員が積極的に働きかけることをこの数年間実施している。
 路地整備計画の一例を挙げると、緊急の避難経路を別で設けたり、建築物に防火上の要件を付加するなどの代替措置を設けることで、袋路始端部の幅員が1.8m未満の場合でも許可することとしている。
 この一連の取組の中で痛切に感じたのが、路地再生のためには、事業用地を確保することの重要性だ。そこで、今後の展開としては、空き家、空き地の所有者、袋路始端部の土地や、袋路の2方向避難の経路となる土地の所有者を対象に意向調査を行うとともに、空き家対策との連携により、路地再生を進めたい。
 また、従前居住者の居住の安定の確保が重要なので、住み替えの支援策も必要だ。「当分は現状のままで住み続けたい」「お金がない」「売るつもりはない」といった今の暮らしに変化を求めない高齢者、低所得者、従前居住者や所有者の意向を汲んで、路地再生を進める、関係権利者の合意形成を進める、その起爆剤となるような支援策や、路地再生を官民連携で推進する方策、事業スキーム、役割分担を都市居住推進協議会の皆様と一緒に考えていきたい。
 最後に、路地全体の合意形成により建替えが可能となる最終目標に加えて、当面は単独の敷地でも大規模な修繕・模様替えの接道許可や、用途変更によって、路地奥の建物に投資が行われ、再建築不可物件が収益を生む不動産として再生される。これが連鎖的に広がるとこも路地再生の道筋のひとつかなと思う。

■田村 郁夫 氏

 改正空家特措法を12月13日から施行することが本日閣議決定された。居住目的のない空き家がこの20年で約2倍に増加していることを受けて、空き家の適正な管理について早い段階から指導をしていくことと、活用をさらに進めることが主な改正内容である。京都市では既に取り組んでいる内容でもあり、それが後押しされたと感じている。

〇管理不全空家の創設
 倒壊の恐れがある空き家を「特定空き家」と認定するが、京都市では平成26年に空き家関連の取り組みを開始してから4,600件ほどの通報があり、現在でも1,800件ほどが指導中。改正により倒壊の恐れが発生する状態に至る前にも指導できるようになった。
 京都市は条例を制定し、空き家化の予防の観点から既に指導や助言を行っている。今回創設された管理不全空家に認定され京都市から勧告を受けると固定資産税の住宅用地特例が解除になるので、より強固な指導ができる。

〇空家等管理活用支援法人制度の創設
 空き家活用を支援する団体を指定できる制度。当該法人は空き家の所有者等への普及啓発、相談対応を実施する。
 京都市は既に宅建士や建築士、司法書士、行政書士など個人の専門家や所属される団体と連携し、支援法人の法定業務に対応できる体制を構築済み。これを強化できる制度活用を検討中である。

〇空家等活用促進区域制度の創設
 重点的に空き家活用を図る区域を指定し、建基法の接道許可や用途許可の手続きを合理化できる制度。
 京都市では全域で空き家対策を実施しており、法手続きの合理化も接道では包括同意基準等を整備、条例に基づいて柔軟な運用をしており、用途も地区計画で土地利用を誘導している。
 長屋の空き住戸は法の対象外であることから、現時点で区域指定の大きなメリットは見いだせない。この制度の導入は見送ろうと考えている。

 続いて、空き家活用の機運醸成、特に若者、子育て世帯に向けた情報発信について。京都市内では結婚や出産を機に市外へ転出する傾向があることから、多様な選択肢を示していきたい。新築戸建てやマンションだけではなく、既存住宅の活用が住まいの選択肢として考えてもらえるようになるための機運醸成を進めている。
 1つめが、11月に開催した「京都空家会議」と名付けた取り組み。京都や全国で空き家再生や移住促進をされている方を14名招いて、4つのトークセッションを行った。
 2つめは、若者・子育て世帯に訴求した情報発信のためのホームページを作成する。空き家に目を向けていただく、そして興味を持っていただくことを京都市として多くの方と協力しながら進める。

■川戸 哲郎 氏

 今年3月に法定外税として総務大臣同意を得て「非居住住宅利活用促進税」の導入が決まった。お伝えしたいことは大きく3つあり、
 1つめは、チラシの裏面にある導入の背景について。
 これを検討しているときは京都市の財政が非常に厳しいタイミングであった。「財政が厳しいから新税を導入するのか」という声も受けたが、そうではなく、空き家等を所有される方が活用する契機になり、利活用が進めば多くの方の住まいの選択肢を提供でき、京都市の活力も上がることを目的に導入する。
 2つめは、どういった方が課税の対象になるのかについて。
 課税対象は市街化区域内にある非居住住宅、つまり誰も住んでいない家を所有する人が対象になるが、いくつかの課税免除の条件を設けている。利活用が目的なので既に活用されているところについては免除。事務所として使用したり賃貸として使用する予定がある場合は免除となる。徴収猶予というものも設けており、相続してから3年間は活用を検討する期間とみなし、その間に活用すれば課税しないこととしている。
 また免税点として、家屋の固定資産税評価額が20万円(制度導入から5年間は100万円)未満の家屋には課税しないこととしている。活用が困難な住宅も一定存在すると考え、戦前からあるような路地奥の住宅や周辺区にある築50年程度の狭小住宅は市場性が低いと考えられることから、こういった住宅を課税対象外とするために免税点を設けている。
 3つめは、税額について。
 固定資産税の概ね半分程度になる制度設計をしている。例えば洛西ニュータウンの100平方メートル程度の住宅であれば、固定資産税は約7万円であるが、これに対して3万円程度追加で負担していただくイメージ。
 面積や築年数、立地によっても異なってくる。立地の良いところは高くなる。田の字地区の築浅マンションであれば、固定資産税の3倍、100万円程度となる。
 課税の開始は令和8年以降を予定している。それまでの間は税の周知をしっかりして、空き家の活用や住みたい人を呼び込めるような環境整備をしたいと考えている。

■webサイト「Kyoto Dig Home Project

京都で住まいをお探しの方に向けた、空き家をイメージアップさせるDIYやリノベーション情報満載
https://akiya.city.kyoto.lg.jp/dighome

中堂寺前田町路地再生長屋プロジェクト まもなく完成! ●意見交換の概要
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