都住研ニュース

第66号 ●定例会ダイジェスト

 定例会では様々な講師を毎回お迎えして、各テーマの専門的なお話をお伺いしています。そしてグループごとにディスカッション・発表を行い、様々な専門性をコラボレーションする場にもなっています。
 ここでは、これまでに開催した定例会のダイジェストをお伝えします。

■第71回

日 時:2022年1月21日(金)18:00
場 所:京都市景観・まちづくりセンター
参加者:対面参加10名(YouTube live併用)

都住研では継続して路地再生の取組を継続しています。今回の定例会では、「2021年度住宅市場を活用した空き家対策モデル事業」で採択された、「袋路内子育て支援住環境の展開と仕組み・体制の構築」で実施した、共同調査の内容を速報でお届けしました。

子育て世代の流出の救世主は路地だ! 〜今年度調査報告速報から読み解く

報告@ 西陣地域の路地空間活用事例
特定非営利活動法人ANEWAL Gallery(アニュアルギャラリー):飯高克昌さん

 現在、京都市内では路地空間を活用した多様な利用が広がりつつある。手仕事をしている人が住まいや仕事場を構えたり、若いアーティストや作家が研鑽し合う一体的な空間となったり、事業者のコーディネートで宿泊施設や店舗が複数入る空間となったりしている。路地の使われ方の実態を知るため、西陣地域を対象に実施されたサンプリング調査内容を共有し、可能性と課題を意見交換した。

■大徳寺周辺の路地

・このあたりは明治25年の地図を見ると住宅は少なかったが、大正元年になると随分と住宅が増えている。 ・幅員が一定でぐるりとまわることができる路地が多い。既に子どもが鬼ごっこなどして遊べそうなポテンシャルのある路地。中には車が通れる幅員の路地もある。 ・カフェに改修されていたり、ゲストハウスになっているもの、ジビエ料理として営業しているところも見られ住宅用途以外の活用が進んでいる。

■北大路通り界隈の路地

・新大宮通り一本西。始端部はたばこ屋の跡地。空き店舗となっている。この路地を生かすのにこういった店舗建築は活用できそう。 ・このあたりは高低差があり、以前は周辺に田畑が広がっていたが、高台であるから集落ができたと思われる。 ・紫野学区は路地の交差点に一時停止の足跡がたくさんプリントされており子どもの多さを示す。

■妙顕寺前の小川通りの路地

・ANEWAL Galleryが運営する現代美術製作所が入る袋路。高齢の女性が所有者。始端部ではケーキ屋が秋に開業した。奥にはNPOの事務所があり表含めて4軒全て埋まっている。 ・この路地は入居者の交流を促進し、大家さんを見守ってくれそうな人を積極的に借していった経緯がある。現在はコロナ禍で集まって何かをするのはできないが、以前は集まったり地蔵盆をしたりしていた。

■見守る意識の高い路地

・花壇が形成されると、緩やかな意識共通が図られていると推測される。 ・寺ノ内千本界隈の路地。始端部の家屋だけでなく路地もたくさんの鉢植えが並ぶ。入りやすい印象。

意見交換

Q 袋路はそこを目的に訪れるが、通り抜けの路地は通り道であることが多い。人の気配がある通り抜けが面白い。そのような印象を持ったところはあるか。
A 路地始端部の影響があると思う。どうデザインするかは大事なポイントかと思った。ランドマーク的な入り口のデザインにより入りやすい気持ちにもなれる。要素はいくつもあると思うが、植栽はその一つ。人に見せるような植栽だと入りやすいだろう。
Q ブロック塀の通り抜け路地は、地震時に倒壊の恐れもあり危ないしダメよと排除する路地になるだろうが、それ以外は子どもが遊べるのだろうか。
A 中で分岐している路地は子どもにとっては魅力的な空間になるのではないか。遊びへの発展性も期待できる。遊びを通じて子どもが地域デビュー、つまり顔を知ってもらい地域にコミットしていく場にもなり得る。
 ブロック塀は熊本地震以降改修に補助が出るようになった。所有者が危険と責任を感じていたら改修をするだろう。今でもブロック塀が残っているのはそういうバロメーターにもなるのではないか。土地所有者の姿勢も路地のあり方に表れる。

報告A 聚楽学区の路地の3D点群スキャンとその活用の可能性
京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab 上京・下京スキャニングPr

 最近、立体的に空間を採取する3D点群スキャンが注目を集めている。点群(ポイント)で三次元測定をし、その点を結びつけて線、面を再現することが可能となる。着色も可能であり新しいデータ採取、表現の方法として多くの可能性をもっている。

■調査の趣旨と概要

 京都市上京区の路地を対象に、3Dスキャニングを用いて課題を読み取り、その成果と表現方法を探求することを目的としている。調査は学生それぞれの興味に応じて行った。
 調査地域は上京区聚楽学区の鏡石町、東堀町、神明町、和水町を対象に実施した。鏡石町では4つの路地に入りデータを取った。東堀町は5つの路地。なかなかこのようなデータを取ることはないので面白い結果になったと思う

■路地の歴史・溢れだし班

・歴史調査として旧土地台帳と登記簿から土地所有の変遷を分析し、さらに住宅地図で居住者の変遷を分析した。溢れ出し調査では3Dスキャンデータと写真から、路地にみられる溢れ出し物品、自転車や鉢植えなどを洗い出し、分類して傾向を見いだそうと試みた。 ・約400ほどの溢れ出しを拾い、分析してその傾向を見いだそうとした。土地所有履歴と溢れ出しの関係、路地の所有形態による溢れ出しの変化、溢れ出しが多い箇所との要因について考察した。 ・溢れ出しと土地所有の履歴は特に関係は見られなかった。路地の所有形態との関係は、個人所有の溢れ出しがほとんどで、路地の個人使用がされていた。溢れ出しが多いのは幅が広いところ、曲がり角やクランクの箇所に多かった。

■防災班

・調査した路地を対象に、新たな二方向避難経路の設置を提案したいと考えた。さらに現状と比較した上で火災シミュレーション動画を作成した。 ・外壁面、軒先の可燃性、幅員、この三本柱で分析した。外壁面の面積と可燃性の面積の比率を計算した。軒先も可燃性と面積を算出し、幅員も独自の判断基準を定め、路地それぞれに対して判定した内容をレーダーチャートで示して評価した。二方向避難の評価基準について、改善レベル、プライバシー、時間、避難可能範囲について評価基準を設定し、評価した。それを基に好ましい避難経路を提案した。 ・この路地では、路地と反対方向に避難をするとして、隣接するマンション側に開口部を設けて避難する動画を点群データを用いて作成した。別の路地では隣接する民家の裏庭を通って抜けるように設定した。

■歴史・ビジュアル班(聚楽第復元)

・自分たちで復元した聚楽第のデータと点群データを重ね合わせ、歴史的な地域であることを可視化しようとした。既にある発掘調査データを参考にし、絵図から立面、デザインを参考にした。 ・歴史上のものを現在の空間に視覚的に再現させることを示せた。実際に歩いて見える風景を動画で再現した。現代の景色の中で歴史的な空間を再現できる。データの互換性は取 れるようになっている(苦労した)。立体的な動きも再現できるし、目線を鳥瞰に移動することもできる。

意見交換

Q データを採取するだけで満足するのではなく、非常に発展性のある展開をされていて興味深かった。調査において、従来の方法と点群データで収集する方法で何が異なるのか。
A 点群でスキャンの革命的な点は、編集できること。さらにそれを動画として活用できるのも特徴。平面だけでなく立面や断面の立体的な分析が可能になる。軒の裏側まで採取で  き、アーカイブそのものも有意である。
 防災については、点群データならではの利点も生かし方を悩んだ。研究することについて数値化することの意味は感じている。立面を出して面積に対して可燃性が占める割合を正確に算出できることは意味があると思う。今後AIと連携させることで素材を学習させることもできるだろう。調査や分析の手法としての可能性を示すことができた。

2021年度も「住宅市場を活用した空き家対策モデル事業」に採択されました! ●京都の住まい・まちづくり拝見!
PDF版

トップ > 都住研ニュース > 66号