都住研ニュース

第64号 ●定例会ダイジェスト

 直近の調査では、京都市内では空き家の件数は減少していると報じられたが、これはインバウンドブームに乗った飲食店や宿泊施設への活用が相次いだことによると考えられる。
 しかしながら、今年から猛威を振るった新型コロナ感染拡大を受けて、これらの事業者は苦境に立たされ地域内での経済活動の重要性が認識されている。その反省から、インバウンド頼りにせずいかに地域に根ざした事業を展開するかが、重要なテーマとなっている。
 空き家の利活用は「単に改修して使う」だけではなく、第三者がオーナーと入居者をつなぎ、まちとつなぎながらコーディネートすることが重要である。
 今回紹介いただく取り組みは、事業者や研究者など多様な第三者が様々な仕掛けで両者をつなぎ、地域密着型で展開されている。
 今回の事例の紹介を受けて、ポスト・コロナ感染型社会における地域課題解決型空き家の利活用、第三者の役割、不動産事業者や建築関係者などの役割を考えた。

■第69回(2020年7月10日(金)19:00〜 参加者:24名)

ポスト・コロナ感染型社会を見据えた まちと人をつなぐ空き家活用 〜大阪 大正・港エリアのノウハウから学ぶ〜

講師:川幡 祐子 氏(一般社団法人大正・港エリア空き家活用協議会 代表理事)

 協議会が関わり、空き家が活用に至った件数は3年間で8件とまだ少ない。空き家相談は200件を超えているが、相談のみであったり、売買や賃貸に回す、除却等はあるが活用に至ったのは8件。
 これだけではいけないと、並行して空き家に関する調査や普及活動を行っている。大学と連携したり、家族信託のセミナーをしたり、先進的な家主さんを呼んで話してもらう場を設けたりした。さらに空き家を使って片付け作業をして、その様子を撮影して「空き家片付け読本」も作った。
 しかしそのようなことをしていても、「屁の突っ張り」にもなっていない。住宅・土地統計調査を見ても「その他空き家」は増加していて、市場に流通しない物件が増えている。そして、所有者が売る、貸す、潰す、活用するなどの何らかの行動を起こすためには、地域の価値を上げる必要があるのではないか、と感じるようになった。

■市場に空き家が流通しない理由

 大阪の不動産コンサルティング協会が行ったアンケート(2018)によると、空き家の利活用や処分ができない理由として「共有で合意形成ができない」「認知症等で法律行為ができない」「売買・賃貸ともに市場性がない」「改修費用や解体費用を負担できない/したくない」「自分の代で手放せない、親戚の目がある」「将来利用するつもり」「どうして良いかわからない」という回答があった。
 「売買・賃貸ともに市場性がない」以外は個人の問題で、相談を受けて解決していくことが可能だが、「市場性がない」ということは地域の価値を上げないとどうしようもない。大阪は経済的合理性の価値が発達しているので、「売れるなら」頑張って共有を調整し、親戚の目も気にならないので、これを大正エリアで何とかしたいと考えた。
 市場性を作ることと、商店街でのマルシェがなぜつながるのか。その理由は、商店街の中でマルシェを開始し、そこには地域のお店が出店する。マルシェで賑わいが生まれ、出店者は売り上げを上げることができる。
 そして賑わいがさらに大きくなれば、商店街の空き店舗を借りたい、買いたいという人が出てくる。店舗側も貸したいという人が出てくるかもしれない。そうするとシャッター通りが改善され、地域の核として賑わいが生まれて、商店街と周りのお店や住む人が増える、という循環を生み出したいと考えている。

■「のきさきあるこ」を実施するまでの流れ

 簡単なポンチ絵で描いているが、通りを挟んで両側に店舗があり、空き店舗の前に屋台を置く。1階空き店舗では、マルシェの期間だけ貸してくれるところではテーブルや椅子を置いている。すでに建物が解体されている空地では、テーブルやベンチだけでなくキッチンカーを置くことも考えられる。
 このようなマルシェを昨年の11月30日、12月1日に開催した。名前は「のきさきあるこ」と京大の学生が命名した。来場者は2日間で千名を超え、閉店を待たずに売り切れする店が続出した。
 大正区はものづくりのまちで、工場地域も多く、商店街は工場があるところに1つ必ずある、というくらいたくさんある。ところが中小の工場で廃業するところが増えて、どんどん商店街が廃れていっている。
 「のきさきあるこ」を開催した三泉商店街は、大正区の中では駅から一番近いにもかかわらず、シャッター通りと化してきている。昔は近いところに売春宿があったので、ここでご飯を食べて、お風呂入ってから遊びに行く、という古くからある商店街であった。
 大正区には、「タグボート大正」ができた。京セラドームの近くで、大阪府が管理する水辺で、本来は民間が使えない土地だが、当時の大正区長が国に掛け合い、準則特区の申請をして1年間の社会実験を経て、現在は民間が事業主となって、建物を建てて飲食店などを営んでいる官民連携の取組である。
 京セラドームはコンサートや野球があるので数十万人が訪れるが、終わったらすぐに難波など行くのではなくここ大正で楽しんで欲しい。このあたりは賑わいが出てきているので、これを商店街にも広げていきたいと考えている。

■三泉商店街の様子

 駅に近いのに空き店舗増えている。お店は閉まっていても上に住んでいる人が多そう。そこで、京都大学の三浦先生と相談して、まずアンケートとヒアリング調査をした。少しでも賑わいを取り戻すために、上に住んでいても良いので1階を貸すことは可能かなどもアンケートに含めた。
 営業していないところは54.3%で、うち8割が「このままで良い」「ほっといて」と回答された。営業しているのは3割程度で、それ以外で上に住んでいたりするところもあるが、中には建て替えて住宅にして店舗ですらないのが10%もあった。
 商店街の中で空き店舗募集の看板は出ているがいつまでも入居者が決まらない状況で、商店街の人たちには不動産屋に出してもやっても無駄、と言い切る。「自分の代で気ぃよく住んでいる(からこのままにしておいて)」「面倒くさい」「以前に一部を貸して退去に苦労した例を見ている」という反応だった。

■「のきさきあるこ」の開催

ヒアリングとアンケートに加え商店街の中をうろうろしてわかったのは、高齢者が好むような小分けの惣菜は好評で、買い物ついでにコミュニケーションの場になっていることもわかった。一方、空き店舗の前で軒先営業をしている店が2つあり、大賑わいで、固定客をつかんでいるようだった。つまり購買需要がないわけではなく、買いたいものを売れば、工夫次第で賑わいを取り戻す可能性があると感じた。
 高度成長期には商店街の通りは芋洗いのような状態で、年末の大売り出しの時にはお店が忙しくて寝られなかった、ミゼットを共同で購入して宅配するサービスもしていて、皆さん顔なじみで同士あることが、調査を通じてもわかった。
 「貸しても良い」「売っても良い」という人が増えるには、シャッター商店街でも工夫をすることで購買需要があるということを示す必要がある。そこで、空き店舗の軒先を借りてマルシェをやってみようということになった。
 「むりむり!人なんて集まらない!」と鶏肉屋のおじさんに言われたり、店番するだけで精一杯やけど椅子やテーブルを貸すのは良いよ、といってくれたり、カレー屋さんは「妨害になるからカレーは出すな」と言われたりしてモヤモヤした中での開催となった。
 出店者集めは、私自身大正区はよく食事したり回ってきていたので「何かするときは一緒にね」と話してきていたので見つけやすかった。若手店主を中心に、12の出店者が集まった。これらの8割は大正区内の店舗や個人。
 学生さんたちはかっこよくて持ち運びできる屋台を作ってくれた。地元木材事業者が屋台づくりに全面協力してくれ、加工場の提供や施工アドバイスをしてくれた。
 当日は自転車も引いて歩かないと行けないくらいたくさんの人が来た。ヨリドコ大正メイキンはオーナーさんも応援に来てくれた。商店の人も、地域の人にも「最近見たこともない商店街の姿を見せてくれた」と最大限の褒め言葉をいただいて、ウルッときた。
 来場者層は若い世帯、子育て世帯が多かった。その理由は2つあり、1つはデザインが凝っていたので、日頃の取組と違うと興味を持ってくれ、もう一つは出店者が口コミで呼んでくれた。来場者アンケートでは、またやって欲しいという意見が多数寄せられた。
 さらにイートインで使用した空き家には、問い合わせが数件入った。次やるときには参加したいという人もいた。これを続ければ賑わいが広がり、エリアでの店舗出店や居住を誘引できると確信した。

■商店街の変化

 鶏屋のお兄さんは「またやってや」に変わった。ビールが売れたついでに鶏肉もよく売れたのが大きな理由のようだ。高齢の店主が多いので「何もできないが」には変わらないが、電気やトイレを貸してあげるよ、に変わった。
 今年も「のきさきあるこ」をやるが、変更点もいくつか考えている。まずプロジェクトメンバーには地元の有志を追加していくこと。長く続けていくためにも、地元主体にシフトチェンジをしていくことを目指す。自走できるようにクラウドファンディングを導入したり、前回では出店料は2日で500円しかいただかなかったが、もう少し値上げをして利益を出し、開催費がストックできるようにしていきたい。
 さらに、地元有志のアイデアだが、子どもたちが地元に愛着を持ってくれるように、子どもも参加するイベントにしていこうと話をしている。子ども駅弁屋台をワークショップで作って、首からぶら下げて、品物を代行販売したりなど(衛生面を考慮して)、子どもコンシェルジュが立ったりするなどの導入を考えている。
 新しい生活様式が求められるようになっているが、商店街はとても良い場所だと思っている。真ん中に通路があり三密が回避しやすく、シャッターの前に店を増殖して屋外でも展開できる。さらにリモートワーク導入で地元で過ごす時間が増えていく中、地元の商店街が全国的に見直されている。
 皆さんのまちでも、商店街だけでなくて公園でも、路面歩道でも(現在道路行政が緩和している)、新型コロナで新しい生活を考えるためにそれぞれが知恵を出さなければいけない。その際には是非、自治体と話をして、一緒に取り組むと楽しいまちになるし、将来的には空き家活用の促進になってくると思う。

2020年度も「地域の空き家等の利活用等に関するモデル事業」に採択されました! ●トークセッション
PDF版

トップ > 都住研ニュース > 64号