都住研ニュース

第63号 ●定例会ダイジェスト

 定例会では様々な講師を毎回お迎えして、各テーマの専門的なお話をお伺いしています。そしてグループごとにディスカッション・発表を行い、様々な専門性をコラボレーションする場にもなっています。
 ここでは、これまでに開催した定例会のダイジェストをお伝えします。

■第68回(2019年11月22日(金)19:00〜)

 「エリアマネジメント」が10年ほど前から国により推奨されている。
 「特定のエリアを対象に、民間が主体となり、まちづくりや地域経営を積極的に行うという取組」と定義されており、「まちを育てる」多様な展開を通して地域の価値を向上させることを目指している。
 一方、市内都心部を中心に、様々な弊害が指摘されつつも、京町家をはじめとしたストックの利活用により、資産価値の上昇に加えて地価の上昇も見られるようになってきているが、今後は暮らしの観点から、地域の価値を向上させることが求められる。つまり、ビジョンが一層必要になっているといえる。
 今回話題提起いただく山下氏は、会社が立地する五条エリアを中心に、個人的交流、顔の見える関係の中で複数のストック活用を展開されており、点から線に、線から面へと拡がりをみせつつある。
 「関係者が主体となってまちを育てる」という行為は、京都では古くから行われてきたことであるが、多様な資本がまちにプレイヤーになっている現代、どのようなマネジメントが必要なのだろうか。
 山下氏に事業の趣旨や内容をお話しいただき、地域の文化資源を継承・活用する、いわば地域密着型のストック活用がまちの価値を向上させる「エリアマネジメント」の可能性について意見交換を行った。

これからは「まちを育てる」不動産業!

〜エリアマネジメントで儲ける!
話題提供:山下善彦氏(IzutsuRealty株式会社 代表取締役)

山下善彦氏  今日はこれまで取り組んできた事業を紹介させていただくが、最初に結論を言うと、重要なことは「収益性」「事業スキーム」であり、これを通じてまちづくりができたかどうかが重要。
 補助金に頼ったり、有力者中心でやってきた時期もあったが、今はそんな時代ではない。収益を上げてこそ、文化として京町家も継承されていく。
 私はこれまで色々な仕事をしてきたが、不動産の売買や仲介だけではなく、不動産鑑定士の仕事もしている。
 2008年にリーマンショックの後、兄が外資系ファンドの日本法人の責任者をやっていることもあり、兄と一緒に東京のファンド会社や投資会社、金融機関を2年間回った。当時のコネクションにより。京町家再生の資金調達に繋がった。

■対象としているエリアについて

 私が主に対象としているエリアは、会社がある五条大宮を中心に東西300m、南北1kmのエリア。
 戦前はこのあたりは数名の地主が仕切っていた地域。ところが戦後に大地主が土地を手放さなければならなくなり、手元の土地は繊維工場や借家を建てたり、駐車場として使っていた。しかし繊維不況の折には工場を中心に空き家が一気に増加した。
 元々私の会社は江戸時代に畳屋で創業し、私は9代目。会社の横の路を北に行くと宝宣寺があり、その参道になる。染め物産業が盛んなところで、端切れをたくさん扱っていた。
 昭和26年の地図をみると、赤い色が染め物に携わっているところ、黄色がお寺を示しており、たくさんのお寺があったことが解る。
 地主にとっての最大の有効活用は、ガレージ。家の家賃は月額3〜4万円程度だが、駐車場は1区画で2万円の収入になり、コインパークだと1区画で3〜4万円の収入になる。

■宿への改修と運営

 い町家や長屋を改修して宿にすることが多いが、私又は運営会社が所有者から賃貸で借りて展開している。中国の方が運営している場合もあるが、中国の方が大家から賃貸するのはハードルが高いので、私がマスターリースで借りて間に入ることが多い。
 このエリアで集中しているので「駆けつけ要件(800m)を適えるために複数の宿の受付が可能である。
 改修にあたっては、1,500万円以上の費用が必要。これくらいかけて良いものをつくろうとしている。投資をして、定期借家として借りて、期限が来れば返却する。借りている間の家賃は安いが、家主にとってはきれいになって返ってくる。
 最初は恐る恐るはじめたが、うまく行って現在に至っており、宿泊施設だけで25軒をやった。現在はカフェなど飲食店に注力しており、運営会社とタイアップして展開している。
 会社の裏には1階に朝食中心のイタリアンをオープンさせた。周辺はホテルが多数あるが朝食を提供できるお店が少なく、朝食を1食1,500円程度で提供し、最低一日50食限定を売上できる見込みで出店した。宿泊施設へのデリバリーも想定している。
 この建物2階には京都造形芸術大学が借りてアトリエとした。

■投資のマインド

 一般的な投資家の想定は、利回り8〜10%、投資期間は1〜5年が理想。
 現在は低金利時代でお金が余り、更に地方創生がいわれ、地域貢献、面白い体験が求められている時代でもある。そのような中で8%の利回りを確保するのは難しい。しかし4%でも同額金融機関から融資できれば、レバレッジ効果で8%になる。
 金融機関に対し融資可能な物件を作りたいと考えている。そのためには「出口戦略」が重要。毎年の収益だけでは低いので、物件を最後は売却して、投資資本を回収することは重要であるが、通常賃貸物件の場合は困難ではある。
 投資家向けに夢のある事業内容、例えばユニークな体験ができたり、インスタ映えすることなど提供することも重要。加えて信頼できるオペレーションを作ることも重要。
 宿泊客は1泊5,000円ではなく1泊数万円にブランディングできる設計・デザイン、運営者も求められる。そのためには流動性、実現性がある事業スキームを提案することが必要。
 これらの事業スキームについて、投資家や地主、地元に説明して、事業を行い、結果としてまちづくりに繋げるのが私の仕事。五条大宮というエリアを絞り、集約することで、運営も効率的に可能となる。
 事業スキームとしてSPCを立ちあげて最後に売却し、流動性を高める。SPCに資金を集め、投資期間が終われば投下資金を回収する。資金の集め方については、株式発行、社債の発行、金融機関からの貸付、ファンド等多様である。
 利回りについては、ザックリ言うと、一般的な居住用賃貸で5〜6%、宿泊施設は15〜20%、飲食店で20%。利益の割合は宿泊施設が40%、飲食店は20%が手元に残る。
 モデル的に示すと、出口戦略としては例えば1,500万円かけて改修し、売値が1,800万円だと売却も含めた利回りは24〜25%になる。

■地域貢献

 まだ胸を張れるような地域貢献はできていないが、町内会との協議はもちろんし、町内会費も住宅よりたくさん払い、地域の地蔵盆の際には無料で利用してもらい、飲食の割引などもしている。
 店舗が活況となると地元にも賑わい活気づく。しかしこれらはいずれも結果論。活用したところはいろんな拠点にもなっている。

■坊門町京町家プロジェクト

講演の様子  現在進行中のものだが、400坪に24軒の町家があるところで取り組んでいる。MBSにもお金を出して参加してもらっている。
 日本と海外の投資家がファンド出資し、七十七(なずな)が宿、レストランを運営、デザインは乃村工藝社が手がける。そして物件仲介、近隣・行政対策等を私がしている。また兄の会社で働いていたアメリカ人とジョイントして、まちごと再生として取り組んでいる。

■中堂寺前田町プロジェクト

 これは都住研の皆さんといっしょに取り組んでいるが、20年ほど前に火災で燃え落ちて空き地となったままの路地の再生。この中の1つの区画の人が会社に来て、現在はその区画を引き継がせてもらった。
 ここは子育て支援をする住環境の整備として、住宅の建設を目指しており、京都市と一緒に仕組みづくりから取り組んでいる。

■投資のスキーム

 まちづくりの最終出口も考えた究極の理想型のスキームは、物件を信託して小口受益権化してし、最終出口では、受益権を小口投資家が持ち合い、自由に売買できるマーケットではないかと思う。最終出口として地元の人が1口5〜10万円程度の小口受益権を持ち合い、売買できるものができれば、永続的な維持管理が可能になると思う。
 日本の投資に対する法律の建前は、投資家保護という考え方である。確実性、実現性あるものを作らないと、事業投資スキームとして実現しない。
 日本は土地の固執意識が強すぎるので、私はむしろ土地は所有権ではなく使用権として捉えるのが良いと考えている。一人の人が不動産を持ち続けては個人的な事情に左右されてしまう。究極土地は国有化したら良いと思うし、使用権を流通させれば良いと思う。
 京町家についても個人の所有とするのではなく、公共性のある物だと考えれば良いのではないか。それを皆で共有し、利用し、維持管理するというのが私の思いである。
 投資について、本町5丁目で開発したこの物件は、クラウドファンドを組成し、9時間で5,000万円をクラウド投資家から集めた。投資家の内訳は約100人で、一人当たり50〜60万円。年代は30〜40歳代が多かった。
 これはIRR5〜7%の利回りだが、小口のため、手にするキャッシュはしれている。しかしなぜ投資したのか?、彼らはお金目的ではなく、町家のオーナーになって、創り上げるプロセスを体験したいから。そしてたまに泊まりに来る楽しみもある。
 単にお金を貯めるという結果でなく、町家保存という社会貢献や体験を求めて投資したいという人が増えている。

■エリアマネジメント

 エリアそのものはずっと存続し続ける。エリアに対する理念や理想、補助金、有力者の個人的行動だけでは継続しない。
 歴史の継承や社会貢献、面白さを動機にし、それを永続的に維持管理できるために、収益をベースに投資する仕組みづくりが必要だと考える。そして地元だけでなくグローバルな視線で、更に維持管理できる運営者を、個人ではなく組織として、回していくことが大事。
 京都は「イケズだ」「入りにくい」と言われるが、しかし一歩中に入るとウェルカムだし、新しい物好きな気質もある。結果としてまちを育てる方に流れてきていると思う。

第25期総会を開催しました ●トークセッション
PDF版

トップ > 都住研ニュース > 63号