都住研ニュース

第62号 ●都市の大規模良質ストックを継承する

料亭「美濃幸」から旅館そわか(SOWAKA)へ

 京都市内には、京町家はじめ歴史的建造物が多数継承されています。しかし、これらを維持するのには費用と手間が掛かります。
 とりわけ規模の大きなものについてはそれが重荷となり、所有者が変わることにより解体されることが少なくありません。
 また、大規模なものは用途変更の際に建築基準法が遡及適用(※)されるため、改修費用や技術的な面から建物の継承を断念されることが少なくありません。その結果、景観だけでなくその地域に育まれた文化や技術が途切れてしまいます。
(※)内装の不燃化が必要となり従前の天井や壁の意匠が継承できない。さらに排煙設備の設置により既存の木製建具が使えず、耐火被覆のために伝統的木造建築物の軸組が活かせない。

 今年3月25日にグランドオープンした旅館そわか(SOWAKA)は、八坂神社南楼門前で長く営業されていた料亭「美濃幸」の建物をリノベーションし、その建物を継承された事例です。
 「京都市歴史的建築物の保全及び活用に関する条例」が適用され、安全に関する措置を行った上で、建築基準法の遡及適用が免除され建物の継承が可能となりました。
 この周辺には八坂神社や円山公園、高台寺など多くの人が訪れるエリアであり、古くから旅館や料亭が多く並ぶ場所でした。
 建物内については、座敷は室ごとに床まわり等の意匠を変えているなど数寄に富み技巧を凝らした多彩な座敷が存在していました。
 改修後は本館11室に加え、敷地南側に新築された新館12室とともに、レストランを併設する旅館として運営されます。本館も新館も全て異なる部屋となっており、新館は路地を思わせる空間が各部屋をつないでいます。

 リノベーションの設計を担当された魚谷繁礼建築研究所の魚谷氏が語るには、
「大正年間に贅沢な材料を用いて職人が技術をふるい建築された料亭建築が大事に使用されて現代にまで残されてきました。この文化的価値の高い数寄屋建築を取り壊してマンションに建て替える計画があったところを、京都市がストップをかけ、現所有者が新たに購入し、このたび改修を施して宿泊施設としました。このような建築を取り壊さずに残せたことは嬉しく思いますし、また20年後、50年後と改修されつつも次代へと継承されていけばいいなと思います」。

 さらに、今回のプロジェクトは事業資金に特定目的会社によるファンドが組成されています。
 出資者は海外機関投資家や国内の金融機関ですが、リスクが高いと思われる大型物件において、収益第一では無く京町家を時代に継承するという社会貢献意識も大きく作用したと考えられます。
 地価の上昇や建設コストの高騰が顕著な京都において、とりわけ規模の大きい敷地の事業ではその影響が大きくなります。投資を回収するために、土地の高度利用を余儀なくされるからです。
 今回は条例の適用やファンドの導入、そして関係者の熱意により成立しました。京都の良質ストックとなるかどうかは、こういった建物の背景にある物語が一層重要になってくると考えられます。
 こうした貴重な経験を事業者側の経験と重ね合わせて、地域のマネジメントを考える機会をもっと作っていかなければならないです。

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