都住研ニュース

第62号 ●定例会ダイジェスト

 京都市内には数多くの路地があり、接道の課題等から建物の更新が進まず老朽化が進み、災害への脆弱性が指摘されている。
 一方、路地には伝統的な建築による歴史的な景観や密集地に暮らす生活の知恵、防火・防災の知恵等を伴うコミュニティが継承されており、現代そして未来のまちづくりを考える際の様々なヒントが「再発見」されている。
 今回の定例会では、都住研が昨年取り組んだ、昨年度の事業の報告とともに、路地奥再建不可物件の事業化方策、更には事業化を検討する上で大きなハードルとして立ちふさがる“所有者不明地”の対処策について可能性を意見交換した。

■第67回(平成29年5月24日 参加者:40名)

“ROJI LIFE” を楽しむ 〜眠れる路地奥に事業の目覚めを

ディスカッション
パネリスト
 高田光雄氏(都住研会長/京都美術工芸大学教授/京都大学名誉教授)
 山下善彦氏(IzutsuRealty(株) 代表取締役)
 魚谷繁礼氏(魚谷繁礼建築研究所 建築士)
 燒リ勝英氏(京都市都市計画局建築指導部 部長)
コーディネーター
 高木伸人氏(都住研 事務局長)

燗c 私は、まちの中に人が住める環境を維持することが重要だと考えているが、現在、それが脅かされている。つまり、まちの中に人が住めなくなってきている。一方、世界を見渡せば、細街路文化の見直しが20数年前から始まっており、近年さらにそれが加速されている。
 細街路については、歴史的な景観も重要であるが、生活空間としての路地の役割が大変重要。人が住むことを前提とするならばスケール感、建物の内と外との関係、セキュリティ、モータリゼーションとの関係、コミュニティを含めた細街路文化の継承が重要。
 近代化の中で、都市整備や都市活動の結果、子どものための環境が奪われてきた。子どもが育つということは、子どもたちに様々な経験ができる環境を提供すること。親にとっては便利になってきたかもしれないが子どもが育つ環境は必ずしも整備されていない。

山下 私はCM町路地の1区画の所有者でもある。ここは20数年前に火災になって焼け残った。私の会社はここから徒歩数分の所にあり、ここの元の所有者から縁あって2,3年前に譲り受けた。
 当初、家屋が崩れかけているので解体しようと思い、100万円くらいでできるかと思っていたが、実際は300万円ほどかかるという。というのは、現在は火事の燃え残った建材は引き受けてもらえない。罹災証明を出してもらったが、年数が経っているので使えず、資金面で課題があった。
 この地域のまちづくりのお手伝いのようなことができればと思っていたが、所有者不明地が1つでもあればその建物や土地は売れない。また1人でも反対すれば進められない。

魚谷 私は路地の奥に住んでいるが、実感しているのは、街中にも関わらず、土地が安かったこと、住環境が良いこと。通りから1本入るだけでとても静か。
 京都市内は路地と表の街路の違いは対照的となっており、形状、車通り、道の仕上げ、幅員など全てが対照的。路地があることで、京都の空間を魅力的にしている。路地は、曖昧なところが多い。通路なのか敷地なのか曖昧であることもあり、また道と土地、建物の所有者が曖昧だったりすることもある。路地のこのような多様で多義的な空間が魅力になる。
 今回CM町で計画したのは、大きな開口部が通路に面しており、リビング、ダイニングから直接路地に繋がることを意識した。通常縁側は裏に設けるが、ここでは敢えて表に持ってきた。住戸は最低限の暮らしができる単位で計画した。

高木(勝) 行政の事業は、一定の条件が揃えば多くのことができる。43条の接道に関する許可で建物の建替では通路幅員が1.8m必要となるが、今回のCM町は1.5m。そこで2方向に避難経路を確保して、これを積極評価することで個別での建替えも可能となるだろう。しかしこの方法は、既得権益の継承の意味合いが強いので、これだけだと将来的にも限定的になるだろう。
 街区全体で考えた際、通路を広げずに大規模修繕を可能にすることも必要だと考えている。というのは、歴史的な意匠を備える町家を継承する際、道路拡幅を前提とするとそれを守れなくなる。景観を守ろうとすると通路は広げられない。
 修復型の整備で防災性を高めていくことを考え、幅員をそのままにしておくことも求められる。その際には全体的な計画、連担建築物設計制度を活用するような仕組みが必要。個別の住宅の建て替えではなく、例えば町家は3条その他条例により建築基準法の適用除外にすることも視野に入れて考えることも必要だろう。

山下 所有者不明土地については、弁護士に依頼したり裁判所経由で管財人立てて処分となるが、費用が必要。この調査費用に助成金などあれば、解決できる可能性が高まる。

魚谷 市内にはあちこちに所有者不明地があり、路地の形状も様々。だからこそ開発されずに残ってきたという側面もある。これらについては、固定資産税の調査などで調べられるのではないか。税金を払っていないのであれば、義務を果たしておらず土地への権利が弱まるなどの判断はしないのか。

高木(勝) 課税のための情報であるので、それを所有者追跡のために使えるようには京都市ではなっていない。固定資産税の未収地は少なくない。

燒リ(伸) このランドバンク的な組織は、土地を一定抱えることになるのか。

大島 イメージとしては、土地を抱えてまとまったら事業に着手する、というものはなく、逆。今回のCM町路地のように可能性の高いところから事業を考え、可能性が生じたら寄附や収用などの土地集約に動くというイメージ。

フロア 私がまだ現役の頃、袋路の再生を数件手がけた。そこでは連担建築物設計制度を活用した。相続でもめているような所では、誰が介入してもなかなか進まない。まず進みそうな所で計画を進め、事業化に踏み込む、という方が良いだろう。
 借家問題など複雑な状態のものは民間だけでは扱いにくく、受けるのは行政しかないだろう。民間が10年も20年も土地を持ち続けるのは現実的ではない。役割分担で、見せ金含めて行政が手を打ち、民間が進める。住まいの補償が必要な場合は、例えば工事が終わるまで公営住宅に移ってもらうなどの手当をすることも必要。

高木(勝) 相続や借家借地の話は公的信用力のある主体が請け負うことになるだろう。連担については、境界確定をせずに制度活用が可能であることもメリットと言える。基本的に、土地収用等をして所有者不明空き家・空地を活用する話と、路地を魅力的に再生していくという話は分けて考える方が良いと思う。中には前向きな地権者もいると思う。
 一方、京町家の行きすぎた市場化も問題となってきている。路地についても位置づけをしっかりとして、できるところからはじめるのが良いと思う。

山下 私は不動産開発のプロデュースをしているが、ここでどのくらいの収益を上げるか、と後ろから検討し、利益が上がるようであれば動く。しかし今路地については厳しい用途制限がある。住宅用途ではなく収益を上げるような開発しか困難な場合については、何らかの代替案を示せば可能になるなどの運用を期待したい。

高木(勝) 私たちも正さなければいけないところは、施策がパッケージ化されていないので、とてもわかりにくい。補助金も乱立している状態で使うにもテクニックが必要。
 私たちとしては、住宅で考えて欲しいな、というのはある。簡易宿所だけではなく、路地は1軒ずつみるのではなく、面で、いわばマンションのように多くの人がともに住まうというものとして見て欲しいというのはある。

燗c 路地についても3条その他条例などを使う提案には基本的に賛成。しかし1区画だけを除外して面的整備をするのはまちづくりとしてはまずい。もっと公共の役割が発揮されるべきだと思う。収用の可能性についても積極的に考える必要があると思う。
 まちづくりの視点から土地の将来について考え、制度を運用してはどうか。総合的に安全性を確保した上で、立地に応じた柔軟な対応が大事。当該区画だけでなく、地域全体を見据え応援していく枠組みを考えてはどうか。短期的には、今使えるものを最大限に使っていくべき。

フロア 不動産は国民の公益あってこそだと考えている。だから、所有者不明土地については公益としての収用を認められるべきだと思う。所有権も絶対ではないというように取り扱う必要がある。ぜひ、簡易宿所に対して毅然と振る舞われている京都市として、路地の公益に繋がるのであれば収用も毅然としてほしい。
 CM町の路地は、流通価格で言うと100万円も行かないと思う。それを収用して開発できるようにしたら利益が上がるし、価値も上がる。

高木(勝) 安全でなく、またそれを改善しようともしない土地を残すのは後世のためにも良くない。例えば民法の事務管理により、10年間公的利用に利用したら占有(所有権)が認められるとか、新たな法制度に基づき、手続きを経れば長期的に利用できる、等現状の制度を利用して展開することも考えられる。

燒リ(伸) 土地所有に対して権利は当然あるが、同様に義務もある。しかしその義務を果たしていないのだから、召し上げても良いのでは、という考え方。行政のコントロール下で、例えば10年経てばコモン化させていくというのは考えられるのではないか。

都心部の路地における子育て支援空間としての検証とテーマ型再生事業手法の構築 ●都市の大規模良質ストックを継承する
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