都住研ニュース

第62号 ●都心部の路地における子育て支援空間としての検証とテーマ型再生事業手法の構築

 都住研では、1994年の発足時から「路地」を研究テーマとしてきました。
 当時は、路地は接道の関係から再建不可であり老朽化が進み、災害時の延焼や倒壊の危険性とともに緊急車両が近づけないなど安心・安全の面で課題と考え、袋小路・二項道路に関する提言を京都市に提出しました(1996年)。
 その後も第4次提言まで京都市内の建設や土地利用に関する提言を京都市や建設省(当時)に提出し、京都市内の住まい・まちづくりに関する研究やモデル事業を実施してきました。
 その後、京町家の流通などストックが積極的に評価され、京都らしい町並みが人気を博すなど状況が変わってきました。そして、路地に対する見方も変わってきました。
 そこで、都住研では発足20周年の節目に再度路地に関する研究会を立ちあげました。そして改めて路地の歴史的な景観の継承や密集地に暮らす知恵の継承について気付き、これを後世の市民に継承する必要性を感じました。
 さらに、近年の市の課題である「若年層の市外流出」や「アフォーダブル住宅の不足」の緩和策を路地は提供してくれるのではないかと考えました。そこで、平成30年度は国土交通省の「地域の空き家・空き地等の利活用等に関するモデル事業」に応募し、採択されました。
 今回は、その内容のダイジェストをお知らせします。


 標記のテーマについて考察するために、下京区にある2つの特徴的な路地を対象に、具体的に検討しました。
 歴史的景観を現代に継承しているとともに住宅として住み継がれているNH路地(写真左)では、維持修繕費を捻出する子育て家族向けの事業を検討し、子育て家族の参加を得てワークショップを実施してこれを検証しました。
 20年前の火災により空き地のままの区画を有し空き家化が進んでいるCM町路地(写真右)では、建築基準法43条ただし書許可の適用を前提として子育て家族向けの賃貸住宅を計画、その事業性の検討を行いました。
 また、路地の中では空き家・空き地の所有者へのアプローチが困難なことが少なくなく、事業計画を実際に進めることが困難となり、机上の計画で終わる可能性があります。そこで、路地の土地建物を集約していくための手段についての検討も行っています(左図)。これらの取組は、継続して検討していきます。

優位な点 課題である点
  • 安全な屋外遊び空間
  • 子どもの飛び出しに対する緩衝空間
  • 玄関前の物置空間
  • 顔見知り以外を判別できる防犯空間
  • 他居住者による子どもの見守り効果
  • 立地のよい場所でのアフォーダブル住宅
  • 上下階に住戸のない住宅
  • EVや階段を使わずに玄関に入れる接地性
(以下は付加的な要素として)
  • 新しいものにない雰囲気のある空間
  • 歴史や文化に触れることのできる空間
  • 他居住者との良好な関係性が得られるかどうか
  • 近隣の住宅へ音が伝わりやすい
  • 子どもの数や年齢によっては住宅の広さや室の数が不足する
  • 通風や日当たりが悪い場合がある
  • 耐震性、防火性、断熱性といった住宅性能が低い古い住宅が多い
  • 袋路の場合の避難経路の確保が必要

定例会ダイジェスト ●都市の大規模良質ストックを継承する
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