都住研ニュース

第61号 ●定例会ダイジェスト

 定例会では様々な講師を毎回お迎えして、各テーマの専門的なお話をお伺いしています。そしてグループごとにディスカッション・発表を行い、様々な専門性をコラボレーションする場にもなっています。
 ここでは、これまでに開催した定例会のダイジェストをお伝えします。

■第66回(平成29年11月28日)

 京都市内では近年、遊休不動産をリノベーションして民泊・簡易宿所として営業するものが急増した。
 今年の6月15日に民泊新法が施行され、これを受け、京都市においても住宅宿泊事業施設の適正な運営等にかかる独自の条例及びルールが策定された。ホスト不在の民泊に適用されている「駆けつけ要件」が2020年4月から簡易宿所にも適用されるなど簡易宿所を取り巻く環境の変化も予測される。
 これまでメディア等では地域コミュニティと民泊・簡易宿所との軋轢が度々報じられるなど不安要素として捉えられる一方、空き家等活用する手段であるとともに老朽建築物の耐久性を向上させる機会にもなっている。
 また、地域と事業者の風通しを良くし、地域の商業とも連携することで民泊・簡易宿所と積極的に共存することを模索する地域も出てきている。
 中・長期的に眺めた際、住宅が事業用途となることで人口減少に拍車をかける要因になってしまったり、所有者と利用者ともに顔の見えない関係が広がること、地域の事業者の活躍の場が減少することは、交流機会の増加や経済効果が見込めつつも京都のまちづくりを考える上で課題でもある。
 今回の定例会では、遊休不動産をリノベーションして宿泊施設を経営・運営するお二方に京都の宿泊事情について話題提起いただき、現状を共有しながら、京都のまちづくりと不動産事業、都市計画について意見交換を行った。

民泊・簡易宿所は京都の毒か薬か?

【講演1】
講師:張一凡氏(蛮子投資集団株式会社 代表取締役)
 京都の魅力継承を願う投資家の立場から

張一凡氏  私どもは100件近く町家を再生する事業を京都で事業をしているが、私たちがしている事業は「薬」であると考えている。しかし、薬も飲み過ぎるといけないので、心したい。
 私は20年近く京都に住んでいて、京都の大学を卒業した。私なりには京都の人の気持ちもある程度理解できると思う。
 一方で、投資家の気持ちもわかる。現在、京都市内の地価上昇とともに物件価格も上がっているが、不動産の価値が上がると、町家を残して事業をするのではあわなくなり、解体してホテルを建てる方が利回りが良い、となってしまっている。
 こうならないために、お互いの想いや良い点を生かしながら、京都の文化でもある町家を残せるようにする必要がある。
 これからますます新しい旅行者が増加するだろう。さらに東京オリンピックや万博、カジノといった話題もあるので、日本への外国人旅行者は6000万人を超える見込み。
 今年は3000万人を超えたが、現在の段階で京都は既に人が多すぎるような印象。私たちは長い目で見たプランが必要だと思っているし、作りたいと思っている。問題が起きてからの対処ではなく、それでは遅い。
 京町家は文化。ただ単に人が住んでいるだけではない。
 私は5年前にはじめて町家のリノベーションをし、旅行者がそこで宿泊して、よい体験ができたととても喜んでくれた。そうした体験をすると、京都で生活がしたい、と感じるようになる。そこでさらに投資が進み、町家が改修される。
 現在日本では町家の融資は難しい対応かもしれないが、税金の優遇などもして欲しい。そして何より京都の人に町家を守るようにして欲しい。
 私たちの物件は「京恋」という名前を付けて運営している。
 ゲストハウスの事業をする際に説明会をするが、ゲストハウスというと反対する人が多い。「海外の人がやってくるのが不安」というのが大きな原因。旅行者は愉しく滞在でき、滞在したまちで友人ができることを喜ぶことが多い。
 しかしマスコミは悪いことしかいわない。私の所に滞在した旅行者が、地域の運動会などに参加して喜ばれたりもしている。町内会費も払っている。これからは地蔵盆にも入りたいし、町内の人には半額で泊まって欲しいと考えている。
 経験上、地域の方に話をするのは、改修前、物件を購入した時点で話をする方がスムーズなことが多い。さらに説明会は売買前にすることもある。さらに運営に入る前にも、と何度も地域の方と話をすることが大事。その中で地域への貢献を考えることもできる。
 私どもが事業をする際は、4〜12%の利回りで考えている。しかし売りにくくなってくると、解体して利回りが良いようにホテルに建て替えるところも周辺には出てきている。そうなると、ゲストハウスの時以上にガラガラとスーツケースを引いた人がやってくることになる。
 町家を守ることで、それを少なく抑えることに繋がる。例えば「4部屋以上はダメ」「宿泊施設の高さ規制」などが必要になってきているのではないか。

【講演2】
講師:山田真広氏(株式会社トマルバ 取締役)
 簡易宿所の管理運営の立場から

山田真広氏

■事業の紹介

 昨年3月から京町家や古民家のゲストハウスに特化したプロデュース・運営事業を展開している。KRPの裏に本社があり、フロントは京都駅近くにある。宿は「宿ル京都」というブランドで展開している。
 現在は分散型のホテルでの運営を進めており、フロントや宿泊室の運営だけでなく、まちの中に客室、レストラン、銭湯などが分散しているイメージで捉えており、レストランやお土産、レンタサイクルやレンタル着物などを紹介して、地域の魅力を知ってもらえるようにしている。
 「宿ルKYOTO」は、現在創業2年弱で4棟OPENしており、19室建築を進めている。運営代行では現在48棟運営している。多くが一棟貸しである。人が居るホステルタイプ、ホテルタイプの運営もしている。
 現在稼働率は宿ルでは83%で、平均単価は32,000円、宿泊単価は2万〜10万円程度になっている。最近は、お金をしっかりかけたり、特徴を出したりしているものが人気を集め、そうではないものは落ちている傾向がある。

■京都の市場について

 平成28年度から、京都市内の簡易宿所は平均で毎年153%の伸びで成長している一方、旅館は年々減少している。京町家を利用した簡易宿所は平成29年度には500軒を超え、現在は600軒くらいになっている。
 民泊は、当初は5000程度あると言われていたが、民泊新法の導入で激減した。宿泊業施設の開業推移を見ると、平成28年度から一気に増加している。平成29年度は1年間で700棟も開業しており、このスピードは異常。
 京町家の簡易宿所は玄関横の帳場など除外されており、室内での面接方法でチェックインする。京町家以外の一棟貸しは玄関帳場もしくは800m以内にある施設外帳場でチェックインする必要がある。一棟貸しのチェックインについては、現在行政とでカメラ越しで可能とならないかと調整している。
 2020年4月から規制が強化され、駆けつけ要件が全ての簡易宿所にも課される。施設から800m以内に24時間駆けつけることができる人材が求められ一人当たり5施設までとされている。
 これについては、京都簡易宿所・民泊協会、京都の大手不動産会社、ホテル会社と横の連携を進め、人員がシェアできるよう検討している。

■YADORU GIFT

 ゲストに対して、素泊まりではあるものの、ギフトカードと交換で近隣のお店で朝食を食べたりできるサービスを提供している。
 これを通じて近隣お店を知ったり、まちの経済活動に貢献することを期待している。これによりゲストも近隣から快く受け入れられて欲しいと思っている。そしてゲストに「またこの地域に戻ってきたい」と感じて欲しい。
 さらに、現在はガイドマップも作っていて、ゲストハウス界わいだけではなく、京都の魅力的な個人商店などを紹介したい。個人商店は想いを持ってお商売をしているところが多いので、ゲストにそれを知って欲しい。このギフトカードは、38店舗と提携して現段階で25%の利用がある。

■これからの京都

 現在、うちの管理施設だけで1か月で1000人以上の人が宿泊されており、それだけ地域経済への影響は大きいと考える。
 しかし宿泊施設は、閑散期では余りつつあり、価格競争も起きてきている。安くても宿泊されないこともある。これからは一層、コンセプトや宿への想いが大事になってくると思う。
 飲食店も、中心部にあっても人気がない店もあるし、周辺部にあっても人気の店もある。つまり、立地だけではない。それに対応できないところは、既に撤退している。
 では、何が必要か。まず面白いコンセプトやホスピタリティが大事。宿泊特化型の安いものもあるが、安い以外の魅力がないと、APAとの価格競争が出てくる。付加価値を付けることも努力知る必要があるし、地域との連携も必要だと考える。

■民泊・簡易宿所は京都の毒か薬か?

 民泊・簡易宿所は、良く思われていないところもあるが、しっかりと良い面もあるということを知っていただいて、地域に応援していただくこともますます重要になっていくと考える。
 ブランドづくりは、ファンが付く。そうなると施設としても強くなる。マーケティングとPRが重要。
 楽天などのサイトに載せるだけで客が入る時代は終わった。今後は独自でマーケティングツールを使うこと、サイトに頼らない集客が必要。代理店からに客派遣なども考えられる。
 宿泊施設は毒にも薬にもなる。今後は条例の強化などもあるが、何よりも地域にしっかり根付いた運営をして「またここに来たいね」と思ってもらうことが大事。
 宿泊施設は、地域のまちづくりの薬になるように連携して、相互理解にもとにともに京都の魅力を伝えていくことが大事だと考える。

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