都住研ニュース

第60号 ●定例会ダイジェスト

 定例会では様々な講師を毎回お迎えして、各テーマの専門的なお話をお伺いしています。そしてグループごとにディスカッション・発表を行い、様々な専門性をコラボレーションする場にもなっています。
 ここでは、これまでに開催した定例会のダイジェストをお伝えします。

■第65回(平成30年4月19日)

 今年6月の住宅宿泊事業法施行に向けて京都市も2月に条例を成立させるなど、いわゆる民泊への関心が高まっています。旅行者から人気を集める京都の住文化を体験できる京町家を活用した宿泊施設は年々増加しており、投資物件として京町家を活用した宿泊施設に熱い視線が注がれています。
 今回の定例会では、実際にこれを手がけるプレイヤーとして、どのような思いで展開しているのか、どのような人が投資しているのかなどをお話しいただきます。
 個人・法人の投資対象として京都の不動産が注目を集める中、地価の上昇から都心部の土地利用や暮らしの場所の選択の幅が少なくなっているという現実があります。遊休不動産の利活用、建物の健全化を図る上では歓迎すべき所も少なくありません。しかし京都の持続可能なまちづくりという観点からどう捉えれば良いのでしょうか。塗矢さんの話題提起を受けて、皆さんと意見交換しました。

【講演】

新しい街づくりのかたち
 ─不動産特化型クラウドファンディングの活用のご紹介─

講師:塗矢眞介氏(株式会社クラウドリアルティ 取締役CFO 不動産投資銀行部長)

■目指す世界観

塗矢眞介氏  来はBtoCで展開されていたビジネスにおいて、近年はピアtoピア、つまりプレイヤー相互の取引が発生してきている。メルカリなど個人間で売り買いが展開できるプラットフォームがあるが、弊社の展開している「クラウドリアルティ」を含め、マッチングのプラットフォームと位置づけられている。
 今後は非中央集権型、若しくは分散型、つまりプレイヤー間で取引されるものを目指している。誰でも資金調達ができて、プレイヤーになれる。
 「資金需要者」は、多様な価値観をもつ人が、自由に全世界から資金調達を実行できるようになり、「出資者」は同じ価値観をもつ人々の経済活動に対して、自由に出資・参加できる機会が提供される。そして金融機関が事業の審査をするのではなく、個々が判断する。そういった市場づくりを目指している。

■事業概要

 不動産特化型のエクイティクラウドファンディング事業を展開している。不動産の証券を小口化していく仕組みで、クラウドファンディングを合わせて導入しており、リターンとしてお金と共に体験価値を提供している。これまで資本市場へのアクセスがないロングテールを初期のターゲットとしている。
 J-REITや私募ファンド等、従来のファンドで証券化された不動産は約32兆円だが、弊社が対象としているのはこれまでに証券化の対象にならなかった不動産を対象としており、約2,400兆円の市場と推計している。ここにクラウドファンディングのサービスを導入、国内最初の事業としては京都で町家再生事業を展開している。
 京都で第一号として展開している京町家再生プロジェクト(宿ルKYOTO鏡ノ宿)は、運営主体であるトマルバの事業支援としても位置づけている。3週間で再生と運営にかかる資金7,200万円の資金調達を実現。これに支援された方は110名で、一人当たり65万円程度。3〜40代、50代の方が中心で、多くの方は不動産投資がはじめてという方であった。
 証券化の規模としては小さい(クラウドファンディングとしては大きい)が、投資家に対してかなりの訴求力を持っている。利回りは当初と比較して町家を取り巻く環境が厳しくなっていることもあり、直近で6%程度となっている。
 そもそも、証券化はコストがかかる事業なので、規模が大きくないとなかなかできないが、私どもは低コストの証券化スキームを開発し、オンラインでの公募を行うことでコスト削減をしている。調達の時間軸も短い。複雑に絡み合う法規制をひもとき、ユーザー経験を最大化する最適解を考案した。
 従来はこのスキームで電子募集は不可であったが、弊社が開発した新スキームは電子募集が可能。さらにJ-REITと比較して資金調達コストを大幅削減(1/100以下)、煩雑さを省いて、調達の時間も短縮させた。
 そして弊社にはこれらを実現する上で必要な資本市場や証券化に実績や知見のある人材と、金商法上のオペレーションやクラウドファンディングのシステム開発を行う人材を集めた。代表の鬼頭と私は金融業界出身で、取締役の苅谷はホテル運営や清掃・管理を専門としている。

■京町家再生プロジェクト

京町家再生  東山区門脇町にあり、清水寺からも近い。この宿を3月27日にオープンした。1階正面奥に見える庭が印象的で、実相院の床緑を意識した。運営会社はトマルバだが、現在は30件を運営するまでに成長しており、独自ブランドも形成している。
 募集画面をご覧いただくと、情報開示を積極的にしている。投資家を保護する上で必要なタスクでもある。クラウドファンディングを信じていない人も少なくないし、集めたお金を持ち逃げしたという不祥事もある。このため、集めたお金をどう使うかということは明確にする必要がある。貸付型の投資は説明性が求められるし、貸付先が見えないといけない。投資をしたあとも投資家を招いて伝えることに注力している。
 先日、この宿の内覧会をした際には、投資家を招待した。リターンももちろん大事なのだが、淹れているお金が役になっている、ということに同調される方が少なくなかった。利回りを少しずつ下げたのだが、下げても集まるという調査結果も出た。
 出資は、個人も法人もTK(匿名組合)契約となっている。そしてそれを子会社に貸し付ける親子間貸付形態を採用している。SPC(子会社)が事業主体になって物件の取得や改修工事をしている。そして運営会社に委託、若しくはマスターリースしている。子会社には社員がいないので、業務委託を受ける形をとっている。税務上も二重課税になっておらず、元本通算で説明できるようになっている。
 私どもはコミュニティづくりに重きを置いている。門脇町では運営に当たっての協定を締結した。ゴミや騒音などについて運営者を含めた三者協議の場も設置した。

■渋谷区上原シェア保育園プロジェクト

 これは1億7千万円が10日で集まったプロジェクト。対象物件はシェアハウスと保育園を融合させたもの。
 土地を取得して学校法人に貸し付け、地代収入を得る仕組みと、上物が建設されれば保育園には補助金が出るので、それを土地代充当分としてバックしていただくスキーム。
 このプロジェクトの投資家の概要は、133人・団体が投資くださり、30代、40代が多く、女性が増えた。そしてこれまで投資の経験が無い方が過半数を占める。このプロジェクトは、待機児童問題の解決を目指すという地域課題解決型のプロジェクトで、出口は土地の売却を含めたリファイナンスである。

■地域金融機関との連携

 小規模不特事業者の投句要件は宅建業の免許や財産的基礎(純資産の部が資本金の90/100以上)、等あるのだが、さらに業務管理者が案件ごとに配置される必要があり、それはビル経営管理士、不動産コンサルティングマスター、不動産証券化協会認定マスターが該当する。
 さらにこれまではファンド組成コストが大きかったのだが、これからは小規模のファンド組成を不動産事業者ができるようになり、もっと小口で参加しやすくなる。

■地域金融機関との連携

 地域の金融機関の融資には限界がある。住宅ローンの融資等、比較的に難易度が低く、手堅く報酬を得られる案件を優先する印象を受ける。銀行の営業担当者も顧客対応や融資案件の検討に時間をかけていないし、個人保証を入れるケースが多いのも課題。
 そこで、私どもは課題解決を目的とした戦略立案や収支計画の策定から支援するところからはじめている。入口の事業立ち上げから業務支援、出資検討、事業性について金融機関が評価をし、リファイナンスを行うところまでやっていきたい。

【ディスカッション】

コメンテーター
 高田光雄氏(都住研会長/京都美術工芸大学 教授/京都大学名誉教授)
コーディネーター
 高木伸人氏(都住研 事務局長)

燗c 様々な社会的影響がある新たな手法による不動産投資が、不動産の「文化的な価値」を保全・継承できるように働くのか、もしくは破壊するように働くのかということに関心がある。
 京町家はハードだけでなく、生活文化に大きな価値がある。京町家を育んできた地域が大事で、まちづくりの視点から文化と経済の関係を考える必要がある。塗谷さんはコミュニティやまちづくりに強い関心を持たれ、活動されているのがとても興味深い。
 単純化すれば、短期的な視点から行われる経済活動は文化を破壊し、長期的視点から行われる経済活動は文化を保全してきた。この仕組みは、経済活動のスパンで見るとどのように評価できるのか興味深い。
 次に投資の仕組みだが、投資家が「誰か」ということが大事なのだろう。投資家は個人の利益を求めるが、社会的な価値とどう関係するのか。投資家の行動が不動産の文化的価値の継承を求めるニーズと合致する可能性は論理的にはある。ただ、投資家を選ぶプロセスの中で、会社の利益と一致するのか。

扇沢 投資も経済活動ではあるが、弊社の提供する投資商品については大きく「利益追求型」「社会課題解決型」の2つに分けられる。
 クラウドファンディングは「寄附型」「購入型」のものが多く規模が小さい。多様なコミュニティの支援者を巻き込むことが必要だし、これができると調達力が上がる。
 プラットフォームのあり方も大事だが、個別案件のストーリー性が何よりも重要。課題意識を持つ人が集まって、課題解決に向けていくというストーリーが重要。

Q.マネジメントする側のクオリティはどのように維持しているのか。
扇沢 運営会社の選定は慎重に行なっている。簡易宿所の運営においては合法的な運営を行なっているか否かを重要視している。稼働率の低下等、運営会社のパフォーマンスが落ちた場合は投資家保護の観点から最悪な事態を避ける為、例えば3ヶ月改善の余地がなければ次の事業者を選定する等契約に基づく。

Q.3〜5年後の見込みは?
扇沢 今開発しようとしているのは、クラウドファンディングで投資したものを取引できる取引所。そうすることで、物件を継続して持ち続けることができるようになる。そうすることで、出口を考慮してしか評価されない物件が、評価されるようになる。さらに信託受益権や大口投資家が入れるような仕組みも考えており、国や政府系の投資家が安心して運用できるような金融商品を提供できれば、と考えている。

まちと共生できる“民泊”に向けて、不動産・建築事業者ができることは? ●長野市の空き家を活用した“古き良き未来”づくり
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