都住研ニュース

第56号 ●定例会ダイジェスト

 定例会では様々な講師を毎回お迎えして、各テーマの専門的なお話をお伺いしています。そしてグループごとにディスカッション・発表を行い、様々な専門性をコラボレーションする場にもなっています。
ここでは、これまでに開催した定例会のダイジェストをお伝えします。

■第61回(平成24年11月6日)

 京都市内に多数存在する路地は、火災時の延焼や地震時の倒壊など防災上の課題などが指摘されてきた。しかし昔ながらのコミュニティが色濃く残る多くの路地では、活発な防災活動が見られるなど都市居住の知恵が凝縮されている。さらに町家や長屋のリノベーションへの関心の高まりから、移住や事業物件の進出も見られ、京都市による空き家の利活用活動や細街路(路地)対策も進められており、まちづくりにおいて重要なファクターとして存在感を増している。
 都住研では、設立20周年記念事業として小委員会を発足し、京都市内の路地について、「景観」「防災」「コミュニティ」「歴史・文化」の視点から路地の「見える化」を行うシートを開発した。また、京都のまちづくりを考える上で学ぶべきエッセンスを備える路地を独自の視点で評価した「路地21選」の選定を行った。
 定例会ではこれらの成果を報告し、京都市内の路地の特徴を改めて見つめ、未来のまちづくりを見据えるパネルディスカッションを行った。

【講演】

多様な京都の路地、未来に向けて更新された路地
講師:魚谷繁礼氏(魚谷繁礼建築研究所代表)

■京都の街区・街路

魚谷繁礼氏  京都は794年にまちが造られ、格子状の街路で構成する都市として生まれた。街区は120m×120mの大きさで、そこがさらに4×8に分割されて使用されていた。しかし時代が下がり、通りに面して町家が建てられ、両側町が構成された。そして街区の中央部分は空地としてあり、街区にある居住者の共同の洗濯場や井戸など生活の場として使われ、のちに「市中の山居」としても使われた。江戸期、明治期には、これらの奥の空間をつぶして路地を敷き、長屋を作って賃借料が入るようなものをつくったが、これが京都の旧市街の路地の起源となっている。
 路地については、上京のものと田の字地区のものとでは性質が異なっている。後者は市街地が郊外に拡大していく中で形成された。

■表屋が面する街路と路地

 町家などが面する街路と路地の特徴を比較してみたい。表の街路は幅員が広く、明るく直線で構成されていて、またアスファルト舗装されている。一方路地は狭く暗いものが多い。形状も行き止まっていたり折れ曲がったりしており、そして地面のままであったり石畳が敷かれているものもある。洗濯物が干されているなど生活に触れることができる場所でもあり、対照的である。加えて路地は迷宮性を感じることもできる場所である。

■伝統的軸組構法建物の改修

 路地の奥に敷地があり、再建不可物件。相当傷んでいた。大規模修繕に至らないように配慮しながら改修を行った。木造の建物の特徴としては、改修がしやすいこと。柱と梁で構成されているので、壁や床が変更できる。また柱を抜いて梁を太くして空間を広くすることができる。そして傷んでいる柱を取り替えることができる。

■路地奥長屋の改修

 ここでの敷地は間口が狭く奥行きが長くなる「ウナギの寝床」と呼ばれる敷地割りとなる。その中の1つがビル化されると、写真のような「煎餅ビル」となってしまう。また、このように路地奥の長屋と路地、隣の敷地を一緒にしてマンション化しているものもある。隣の敷地と一体化することで、敷地を大きくしてマンション化している。しかしこのような行為は、以前より継承されている地割りを不可逆的にしてしまっている現象であり、良くないのではと感じている。
 木造家屋の保全だけでなく、路地を含む地割りの保全が重要であると考えるし、それがマンション建設の抑制にもつながる。そして路地奥では安価で暮らせることもあり、京都は町の真ん中に安心して暮らせるモデルがあるともいえる。
 現在空き家対策が言われているが、例えば路地奥の1軒を1軒に再生しても、たとえ人が越してきてもその人が従前に住んでいたところが空き家になるので、空き家の数は変わらない。しかし3軒を1軒にし、そこに人が越してくると、引き算をすると2軒の空き家を減らすことができる。空き家対策にもつなげることができる。加えて、京都は町家が残っている数は多いが、並んでまとまって残っているエリアは多くない。しかし、路地奥にはまとまって残っているところが多い。

■市内での長屋の改修と活用

 路市内のそれぞれの場所で、路地の発生経緯やニーズも異なる。活用については、これらエリアの特性に応じて考えてはどうかと思っている。袋路などの非道路は建築上色々な制限がある。細街路も同様だが、この路を拡幅して、建物が建て替えられるようにしてしまうと、エリアの魅力が下がってしまう恐れがある。

【パネルディスカッション】

パネリスト
 高田光雄氏(京都大学大学院工学研究科 教授
 西村孝平氏(株式会社八清 代表取締役)
 文山達昭氏(京都市まち再生・創造推進室密集市街地・細街路対策課長)
 魚谷繁礼氏(魚谷繁礼建築研究所代表)
コーディネーター
 高木伸人氏(都住研 事務局長)

高田光雄氏
高田光雄氏
 都住研が発足した1994年は阪神・淡路大震災の前年だが、当時は再建不可物件の問題が居住問題として話題になっていた。京都では町家再生の動きが生まれていたころでもある。一方、震災による違反建築の被害が明らかとなり、社会全体も違反建築に厳しい目を向けるようになっていた。
 その後、京都市では路地対策が進展した。たとえば、建築基準法86条の改正による「連担建築物設計制度」による袋路再生。これは、都住研の活動の成果という側面もある。そして祇園町南側地区での試み。2002年に準防火地域を外し、ソフトな防災活動と連携して、多様な手段で安全性を担保しながら木の意匠を活かした建替が可能になった。また、3項道路を活用した「歴史的細街路」の指定などを通じて、文化と安全は対立して考えるのではなく、相乗として考えるようになった。
 「路地診断シート」は、いろんな立場から診断することが大事。異なる価値観の人々同士のコミュニケーションにつながる。路地は公的、共同的、私的な側面がった空間、配分は場所によって異なるが、この重なりを活かす管理システムの構築が必要。路地のコミュニティ管理もその一つ。さらに歴史的に蓄積された減災の知恵である「減災文化」を掘り起こし、路地の生活文化を継承・発展させることが大事。

文山達昭氏
文山達昭氏
 京都市は他都市と違い、建築基準法施行時から袋路を2項道路に指定していないのが特徴。この理由については、好意的に解釈すると、袋路で自由に建築活動をすると都市構造や町並みが変わってしまうと考えたのでは。通りに面した始端部にも後退義務が発生する上に隅切りなども必要なので、理解が得られにくいというのもあるかもしれない。
 平成23年(2011年)に建築審査会から「体系的に細街路対策を進めるべき」という提言をいただいた。当時は巽和夫先生が会長だった。その直後に東日本大震災が起こり、一気に検討が始まった。細街路条例を作り、これまで踏み込んでいなかった世界へ踏み出した。今までは再建築や増築が難しい細街路でも、各種制度の組み合わせで可能となった。これにより路地ごとに様々な特性がある中、多様なメニューを揃え、特性に応じた再生や保全を進めていこうということを意図している。
 文化と安全は対立するのではなく、文化を残すために安全を見なければいけない、ということがある。制度はあくまでもツールに過ぎない。「どんなまち・路地を創っていきたいか」ということが大事。制度だけを発信するのでなく、「この制度を使えば、こんなまち・路地になる」ということがわかるようなガイドブックをつくって、地域の方、事業者の方と一緒に取り組みたい。

西村孝平氏
西村孝平氏
 私どもでは、京町家の再生をやり始めてから、路地奥も取り扱うようになってきている。以前の私は再建不可物件は興味がなかった。融資も下りないし、キャッシュの人しか対象とならないのでは仕事にならないと思っていた。しかし、とある人が背中を押したことで、東山区の路地奥物件を再生した際、オープンハウスをしたらたくさんの人が来て、すぐ売れた。売れるとやる気が出るのが事業者なので、それをきっかけに路地奥物件も手がけるようになった。
 ネックは、ローン。物件を担保にしたローンは使えない。原則、キャッシュか購入者の親御さんの物件を担保にして融資、という2通りになる。加えて、住宅ローンだけをやっているノンバンクもある。しかし、京都信用金庫が「残そう京町家」という商品を出したことで、動きやすくなった面はある。
 路地は、丁寧に管理されてきたところもあれば、そうではないものもある。下京区で売りに出ていた路地奥の長屋の6軒の内、4軒をうちで手がけることになった。改修するごとにそのまちが綺麗になってくるのは嬉しい。さらに総額が高くないので、若い人も住むことができる。表通りの京町家は信じられないくらい値が上がってしまっているが、路地奥の効用として、このようなものがあると思う。
 長屋の良い面もある。例えば、京都市から解体執行命令を受けた長屋の改修をお手伝いしたのだが、「過半に渡る改修」について、3軒長屋なのでその物件全てを改修しても全体の1/3にしかならない。さらに1軒では構造的にも弱いかも知れないが、連棟になると間口方向に壁がたくさんついていることになるので、地震にも弱くないのではないか。

魚谷繁礼氏
魚谷繁礼氏
 私は路地奥で暮らす立場でもあるが、路地での生活は人が入ってこないことを前提としており、路地の中で洗濯物を干したりもするので、知らない人が入ってくるのに抵抗があるのも解る。楽しむきっかけが欲しい一方、住んでいる立場としてはイヤ、という両面がある。

第21期総会を開催しました+路地診断ツールと「路地21選」を発表しました ●研修レポート
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