都住研ニュース

第55号 ●定例会ダイジェスト

 定例会では様々な講師を毎回お迎えして、各テーマの専門的なお話をお伺いしています。そしてグループごとにディスカッション・発表を行い、様々な専門性をコラボレーションする場にもなっています。
ここでは、これまでに開催した定例会のダイジェストをお伝えします。

■第60回(平成25年5月8日)

 京都市内の都心4区には袋路が約3,500カ所存在するといわれており、再建築不可の敷地が数多く存在している。これら細街路は火災時の延焼や地震時の倒壊など防災上の課題など居住上の不安に関する問題が指摘されてきた。
 近年はこれら細街路への評価が変化してきている。流動の少ない細街路では高齢化が進むものの昔ながらのコミュニティが残り、防犯・防災の面で一定の役割を果たしている。近年は町家・長屋のリノベーションへの関心の高まりから、若者層の移住も進む。さらに景観・文化的価値への評価も高まり、空き家利用の様々なアイデアやビジネスが生まれるなか、資産価値の観点から低廉な路地奥物件を活用した投資の話も進みつつある。
 第60回定例会では、行政書士と司法書士という専門家の視点から細街路で生じている動き、課題、そして継承に向けた取組の最前線の話題を提供いただき、意見交換を目的に開催した。

京都の細街路は負の財産か、あるいは宝の山か。

佐伯由香里氏 (1)「まちや仕事、思いを継承するには?遺言とまちづくり」
  佐伯 由香里 氏(さいき司法書士事務所 所長)

■背景 様々な変化

 町家が解体されたり、空き家のまま放置されたりするには、近年の様々な変化も要因となっています。
(1)家族構成の変化
 子ども世帯が結婚する際は、独立して別の住居を持つことが多い。家族が健康な状態であれば問題ありませんが、例えば親世代が病気や怪我などをした場合、親側が家を離れる確率が高くなっています。これは施設への入居や子ども夫婦との同居を含んでいます。
(2)法整備の変化
 平成12年に民法の一部が改正され、成年後見制度が始まりました。それまで「禁治産」「準禁治産」など契約ごとができない人も家庭裁判所において後見人が認められるようになり、さらに契約行為のみならず、医療・介護の現場にも浸透し介護のプロが後見人となって契約ごとに携わるようになってきています。
 平成17年には不動産登記法が大改正され、高齢者の売買契約や不動産登記の手続きに際し、当事者の意思確認をより慎重に行うことになりました。密集した路地で「隣の人に買って欲しい」と思っても、意思確認が取れずそのまま放置されているなども生じています。
(3)相続環境の変化
 相続は権利意識が強くなって、揉めやすいです。それぞれの思惑が乱れ、損はしたくないと思いがちになります。その一方、全く無関心という人もいます。私がこの業界に入った17年ほど前は、ごく普通の家庭で発生した相続手続きで激しく揉める案件は少なく、資産のある家庭は弁護士を入れて、家族で直接話し合うのではなく、弁護士同士で話し合っていました。しかし現在では、資産に関係なく、専門家を入れずに調停に持ち込むケースが増え、長期化して不成立となっている案件もあります。
 その結果、空家や管理放置物件が増加して景観や衛生、安全性に悪影響を与えたり、立派な町家が解体されることになってしまいます。

■対策

 こうならないためにはどの段階で、どんな対策が必要でしょうか。
(1)遺言
 遺言とは、所有者が生前にでき、そして死後に効力が発生します。遺言は以前よりはハードルが下がっていますが外国と比べると作成の割合は少ない。アメリカでは50〜80%の割合で作っており、オランダでは人口1,500万人に対して毎年20万件以上の手続があります。イギリスでは60才以上の10人に6人は遺言状を作成しています。日本では、公正証書遺言で約8万件です。
 遺言書で絶対安心とは言えませんが、少なくとも生前の思いを死後に伝えられます。ただし、字が不明瞭、不動産の範囲が一致していない、遺言書の所在不明など、遺言の失敗事例もありますので、専門家のアドバイスは必要です。
(2)民事信託
 所有者が生前にでき、すぐに効力が発生するものです。不動産の所有者が、例えば自分の子どもとの間で信託契約をすることで、意思能力が喪失した後も子どもが目的に沿った管理を継続できます。これにより、「揉めている間に空家として放置される」を防げます。登録免許税も比較的安価です。この手法は、信託会社が中心になって普及を進めていますが、コンサル料、手数料等必要経費がかさみます。もっと利用率が上がれば、必要経費も下がるでしょう。
(3)所有者以外(事業者、行政、専門家)ができることは?
 関連する情報を発信し事業者相互がタイアップすることが重要です。私自身、不動産の専門家の視点から気づくこともあります。さらに空家条例に、ぜひ空家の近隣住民からの「相続人調査申立権」を盛り込んで欲しいと思います。
 加えて袋路のコミュニティを組合化できれば、面的に一体的な改善が可能になります。そのためには各種専門家が連携しながら支援することも必要です。私たち専門家から近づき、空家を減らしていくことも可能だと思います。

 

岡川芙巳氏 (2)「京都ファンが行う投資は細街路を救うか?細街路のニーズ・可能性・事業性」
  岡川 芙巳 氏(行政書士法人SKY 岡川海事法務事務所 所長)

■経営管理ビザ活用による土地取得

 最近は外国の方からビザ、中でも在留資格の申請取次業務が増えています。経営管理ビザは、資本金500万円以上の事務所を有し、実現可能性の高い事業計画に交付されるものです。1年から最長5年の取得が可能です。

■背景について

 このビザの件数が増えているのは、日本で不動産を持ち収益を上げたい人が増加しているからです。国によっては自国で不動産を所有できないところもあり、本国のキャッシュを日本の不動産に変えて保持したいという人もいます。
 日本のビザは、他国と比べても小さい規模で取得できるので、少ない投資で買える物件を探し、ゲストハウス等にしています。従来も日本で利得を得る外国人はいましたが、その際は必ず就労資格があるビザが必要でした。経営管理ビザの新ガイドラインに基づくと、「500万円以上の投資」「事務所がある(住居と同一でも可)」「実現可能性の高い事業プラン」の3つがあれば、経営管理ビザの取得が可能ということになります。
 日本のこの条件は、かなりハードルが低いです。例えばカナダでは、「1億2千万円以上必要」です。オーストラリアは1億8千万円、シンガポールは投資移民は12億2千万円の個人資産を必要とし1億2千万円の投資資格を付与しています。マレーシアは個人資産900〜1,300万円、月額26万円以上の収入が必要です。日本は500万円。少ない投資で入れるのが特徴です。さらに外国資本による土地取得が簡単です。「外国人土地法」は平等主義で、どこの国の人も日本の土地取得が可能です。「日本戦略特区構想」によると、外国人向けの宿泊所は旅館業法などの許可不要などかなりハードルが低い。現場レベルでは自治体の采配となっていますが、大阪では否決され、京都ではまな板にものっていません。東京オリンピックを見据えてのことですが、日本の不動産の所有のバリアも非常に低くなっています。

■Airbnb(エアー・ビー・アンド・ビー)

 日本にもAirbnbが広がっています。これは、貸家型の宿泊サービスを提供するもので、日本では現状はかなりグレーです。これと同様な民泊は他にもあり、エイブルが「とまれる」と業務提携をして賃貸住宅の空室を旅行者向け宿泊マッチングサービスの提供を開始しました。そこの試算によると、賃貸住宅の場合は月額8万円5千円、宿泊利用をした場合(部屋代7千円を100%)月額21万円。オーナーにとっては魅力的に見えるかもしれません。

■日本に住みたい外国人

定例会の様子  日本で暮らしていると、「なぜ外国に住みたいのか」と不思議に思われるかもしれませんが、日本は安全で、清潔で、外国の方にとっては魅力的でしょう。自分が持っている資産を有効に活用したいという目的もあるでしょうが、やはり日本は住みやすいし、住みたい。そしてその中でも京都は特に人気です。
 ハイパー富裕層が3億のキャッシュで旅館を買った、というニュースもありました。熱海の旅館では外国人が外国人向けのホテルを買って経営している所もあります。「オリンピックで儲かるはず」と大規模な買い占めも進んでいるようです。ハイパー富裕層ではなくても、500万円から1千万円の物件を見つけてきて相談に来られる外国人もいます。儲からなくても、楽しんで自らDIYしたりしているのですが、そういう人にとっては、細街路奥の物件が手頃で魅力的なのです。
 懸念材料もあります。所有者となった外国人が自国に帰ってしまった場合、固定資産税が払われなかったり、所有者に支払いの督促も伝えられない恐れがあります。
 細街路奥物件の維持・管理にフォーカスを当てるのであれば、小規模な投資ではありますが、こうしたビジネスマインドをうまく活用することも可能ではと思います。ただし、権利関係などについては丁寧な制度設計が必要でしょう。例えば行政と信託関係を結び、その運営の範囲で、外国人の資本投入を受けるという方法もあると思います。

空家等対策の推進に関する特別措置法が全面施行 ●おしらせ
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