都住研ニュース

第53号 ●定例会ダイジェスト

■第58回(平成26年7月18日)※京安心すまいセンタータイアップ事業(後援:(公財)京都市景観・まちづくりセンター)

 少子高齢化や人口構成の変化とともに、新しい住まい、そして新しい家族像が生まれつつあります。その中で、最近注目されているのが、シェアハウス。シェアハウスとは、一つ屋根の下に複数の入居者が水回りやリビング、キッチンなどを共用しながら暮らす住居形式で、木造家屋やRC造など多様な建築形態で展開されています。新築で供給されるものもありますが、多くがストックを活用し、程度の差こそあれリノベーションを施して供給されています。
 第58回定例会(7月18日開催)では、京都市内で特徴的なシェアハウス事業を展開されているお三方を迎えて、シェアハウスの現状、可能性についてお話しいただき、そして「京都らしいシェアハウスとは何か」について、意見交換を行いました。今号は、前回の盛りだくさんの定例会を受けて、シェアハウス特集号です!

京都ならではのシェアハウス、あります
講師:扇沢 友樹 氏((株)めい 代表取締役/トキワ荘事業者)

■「コンセプト型シェアハウスの今と未来」

扇沢友樹氏他  シェハウスとは、一軒家やマンションなどを用いて、複数人が一つ屋根の下に暮らす住居形態です。シェアハウスの元祖は長屋がありますが、日本での元祖は下宿や寮だと思います。僕たちの親世代より少し上の方には馴染みの住居形態と思います。1980年頃を境に個室が強調されたワンルームマンションが供給され、その後、たくさん供給された賃貸の住宅やマンションのうち、借り手がつかずに、ゲストハウスとして使用されるものも出てきました。

■普及の背景

 これらの普及の背景には、価値観の変化があります。バックパッカーとして海外に出た若者が、海外のゲストハウスを体験して、抵抗感がなくなって「日本でこんな暮らしも良い」と感じたり、さらに、年収と家賃のバランスの要因もあります。例えば20万円の月収に8万円の家賃ではバランスが悪い。可処分所得が減ります。そのためにシェアハウスを選択する人もいます。
 さらにSNSの普及も大きいと感じています。僕もSNSを使ってコミュニケーションをしていますが、直接会わなくてもある程度どんな人かということがわかるので、他人と暮らすハードルが下がってきていると思います。

■シェアハウスの分類

 シェアハウスは、大きく分けると「DIY型」と「事業者介在型」の2つがあります。DIY型は「ルームシェア」と呼ばれることもあり、知人同士で貸家やマンションを借り受け、入居者が運営するシェアハウスです。メリットとして家賃が安いこと、入居者を自分たちで決められること、ルールは住人自治で比較的自由なことが上げられます。一方、デメリットとして住人の増減で家賃が変動すること、責任管理が難しいこと、そして金銭トラブルもあり得ることがあげられます。また大家さんが貸した人以外の人が住んでいたなどもあります。
 事業者介在型は、大家・管理事業者が入居募集・管理しています。メリットとして家賃変動がないこと、間に立ってくれる人がトラブルに対処してくれること、共有スペースが比較的奇麗に保たれるなどがあります。デメリットとして一緒に住む人を自分で決められないこと、そしてDIY型ほど家賃は安くならないことがあげられます。
 今日お話しする3つの事例について、僕なりに整理してみました。「住民自治−事業者が管理」を横軸、「付加価値(交流・設備)−経済性」を縦軸に分類すると、図のようになります。DIY型は左下に位置しますし、首都圏で話題になった「脱法シェアハウス」は右下に入るのかな、と思います。

■シェアハウス事業を始めた経緯とめいちゃんち

 めいのテーマは、「仕事と家族(仲間)を充実させる」です。物件を契約して借り上げ、株式会社めいとNPO法人ニューベリーが預かり、運営します。
 シェアハウス内は鍵がない部屋も多いのですが、盗難はありません。これまで住人が先生になる「寺子屋付きシェアハウス」や、イベントをやって集客をはかったり、期間限定のホームステイやカフェ付きシェアハウスなども実験的にやりました。現在は5件の運営をしていますが、常に住民ニーズに応えることを大事にしていますし、月に1回全員が集まるパーティなどもしています。
 入居者は、18歳から35歳までです。35歳以下の草食系の人、といってもいいでしょうか。「好きなことを仕事にする」を合い言葉に、プログラマーの人やデザイナー、映画制作配給、フォトグラファー、学者の卵など多様な人が住んでいます。

■京都版トキワ荘事業〜京都と漫画家

それぞれの価値観とコミュニティ  「なぜ、京都のシェアハウスで漫画?」と思われるかもしれませんが、実は漫画というのは合理的なプロジェクトになり得るのです。京都には漫画学部・学科の大学が4校あり、合計約1200人の学生が学んでいます。漫画は紙とペンだけで数十億円の市場の可能性もあるのです。京都市もこのあたりに力を入れています。このような都市は他になく、「あなたの才能に必要なのは締切です」というキーワードで運営しています。これまでに約40人がデビューしました。京都ではこれまでに2人がプロになっています。
 提供するサービスは主に教育事業で、年5回のイベントや講座をしています。プロの漫画家による作画講座や「京都マンガ国際アニメフェア」において、44の編集部が参加する「出張編集部」に出向いたりしています。これまでは東京の各社に持ち込まなければならなかったのですが、300人もの漫画家の卵が出張編集部に持ち込みに来ます。

■3年続けてみて、見えてきたこと

 3年間やってきて見えてきたことは、「それぞれの価値観とコミュニティ」ということです。国や大企業のサービスは基本的にマスマーケティングとしてサービスを提供しています。しかしマスではないところはカバーされず、小さなところがサービスを提供したり、コミュニティが創ってきました。
 シェアハウスで成功している所は、コミュニティを育てています。トキワ荘は入居者は9名ですが、イベントなどを支えてくれている人は入居者の周りにフォロワーとして300人から400人ほどいます。そしてこうしたフォロアーが潜在的な次の入居者になることにも繋がっていきます。
 次に「客層の変化」があります。以前は、内見をしても情報に敏感な層しか集まりませんでしたが、最近は人数も増え、多様な人が来られます。シェアハウスも随分と一般的になってきたように感じます。
 京都ならではのシェアハウスについて、特記すべき内容は4つで、まず@クリエイターの多さについて。芸大の密度の高さは日本一。そのような人がシェアハウスというものを選択しうるか。次にA移住の増加。知らない土地で暮らすにあたり、シェアハウスなら安心だ、という選択肢が根付くか。そしてB町家。ハードだけでなく、文化としての動きも重要になってくると思います。そしてC大学生の多さ。進化する学生寮という概念で、管理者や寮母さんのような人が食事や時間を管理してくれる、たとえばチェルシーハウスのように社会人と出会える学生寮、というような付加価値を出していくことも可能だと思います。

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