都住研ニュース

第52号 ●定例会ダイジェスト

 定例会では様々な講師を毎回お迎えして、各テーマの専門的なお話をお伺いしています。そしてグループごとにディスカッション・発表を行い、様々な専門性をコラボレーションする場にもなっています。
ここでは、これまでに開催した定例会のダイジェストをお伝えします。

■第57回(平成26年4月18日)※京安心すまいセンタータイアップ事業(後援:(公財)京都市景観・まちづくりセンター)

 我が国でも屈指の別荘地の軽井沢。避暑、ウィンタースポーツなどの季節利用だけでなく、週末居住など二地域居住としても人気が高い場所です。この軽井沢において、別荘管理を超えた、日本初の「別荘サービス」を展開しているのが、ワタベ&カンパニー社。
 オーナー不在時の別荘の点検や清掃、往復の新幹線の手配や買い物代行、粗大ごみや不用品の回収、リネンクリーニングまで「管理」を超えた別荘での暮らしをサポート。24時間体制の緊急対応やリフォームの相談など、あらゆるニーズにワンストップで応えています。「いつ帰ってきても我が家感覚」と、きめ細やかなサービスを提供されています。
 加えて、一時滞在の「交流人口」から、より質の高い「定住人口」の増加に向けた取り組みを行政とタッグを組みながら展開されるなど、軽井沢の地域振興にも寄与されています。
 一方、軽井沢と同様に多くの観光客が訪れ、別荘として使用される住宅が年々増加している京都。「別荘は人が常時居ないので防犯上不安」「どうせ定住しない」とネガティブに捉えられがちですが、軽井沢で展開されているように、ポジティブな展開の可能性も考えられます。
 定例会では、同社の渡部社長をお招きし、別荘地としての新しい不動産管理サービスの内容をお聞かせいただくと共に、積極的に地域振興に結びつけられている取り組みをお話しいただきました。

別荘を「我が家」に変えた男
       〜故郷以上の存在のセカンドハウスを創り、まちを変えていく〜

講 師:渡部 幸治 氏((株)ワタベ&カンパニー 代表取締役)

渡部幸治氏  私は軽井沢で育ち、帝京高校でサッカーに打ち込んできましたが、地元の軽井沢に戻って不動産の仕事に就きました。軽井沢は、不動産事業が活発です。人口21,000人の中に不動産会社は210社あり、別荘の販売や開発など住宅を中心に事業を展開しています。最初は大きめのデベロッパーに14年勤めましたが、別荘開発を行っている会社が軽井沢の自然をどんどん壊している状況に心を痛めていました。開発後にその自然をメンテナンスしたり、別荘に対してきめ細やかなサービスを提供している会社は当時はまだありませんでした。
 転機は2008年のリーマンショックでした。会社に残るか、あるいは自分で会社を立ちあげるか考え、4人の仲間と「ワタベ&カンパニー」を2008年に立ちあげました。現在54名の社員がおり、軽井沢に特化した仕事をしています。なぜ軽井沢にこだわるかと言うと、私がここで育ったからです。軽井沢には2つの養護施設がありますが、私はそこの1つで育ちました。現在、その施設の子はうちの会社にアルバイトにも来ています。加えて、軽井沢は別荘地としては日本でナンバーワンです。軽井沢には政治家のコミュニティや「赤門会」などの多様なコミュニティが伝統的にあり、普段出会えない人にもこでは出会えるということがありますので、軽井沢でやっていこうと考えました。

■軽井沢の歴史

 軽井沢は、江戸時代から明治時代にかけては、中山道の宿場町として栄え、明治時代から昭和にかけて保養地としての地位を確立しました。別荘地としての発展は、昭和20年ごろからカナダ人の宣教師アレキサンダー・クラフト・ショー氏が軽井沢を国内外へ別荘地として紹介したことに始まります。さらに軽井沢は中軽井沢などの4つのエリアに区分されますが、雨宮敬次郎や堤康次郎、野沢源次郎らによって分け合いながら別荘地の開墾が進められました。
 平成には長野オリンピックのカーリング競技会場になり、さらに高速道路や新幹線の開通によりの出入りが活発化、たくさんの人が軽井沢に訪れるようになりました。これまで年間500万人程度であったのが、アクセスの向上により一気に800万人から900万人が訪れるようになりました。反面、日帰りの人が増加してペンションが激減しました。現在では、平成16年に大賀ホールが完成(元ソニー大賀典雄名誉会長寄贈)し、現在では、行政による環境との共生や文化・芸術活動の拠点としてのまちづくりも進んでいます。

■軽井沢の住みやすい理由と課題

 住みやすい理由について、軽井沢町民1,400名と別荘所有者400名に実施したアンケートによると、一番は「まちの雰囲気が良い」で43%となっています。次に「日常生活に必要な施設が充実している」が23%。京都も同じだと思うのですが、有名人を見ても騒がないなど「プライバシーが守られている」が7%となっています。
 継承すべき軽井沢としては「緑豊かな森のイメージ」が78%と高く、その他「多様な植物や野鳥が棲息できる生態系」が55%と続きます。ただ、軽井沢には都市計画の無指定の場所もあり、浅間山の麓や高速のインターチェンジの麓などにどんどん建物が建ちつつあり、そのような景観が無くなりつつあり、継承すべき景観が無くなりつつあります。
 改善すべき課題としては「観光シーズン中の混雑」が70%と高くなっています。軽井沢内には18号線とバイパスしかなく、ここが渋滞してしまうと逃げ道がありません。普段なら15分程度で行ける所が、5月から8月のハイシーズンには7,8時間かかってしまいます。シャトルバスなどを走らせていますが、解決には至っていません。
 次に「満足できる医療機関がない(48%)」です。特に病院のハードは良いのですが、設備のクオリティがよくありません。特に小児科と産科が一つもありません。このため、子どもを持つ人は隣町の小諸等の病院まで連れて行っています。移住すると決めても、その点が課題となっています。「ごみの分別が大変(18%)」は、軽井沢は18種類に分別回収することとなっています。その煩わしさが別荘所有の足かせとなっています。

■別荘管理のサービス

講義の様子  私たちは、「万屋(よろずや)」です。軽井沢におけるありとあらゆるご要望を達成する「NOの無いサービス」を展開しています。
 事業内容は、別荘管理サービスを軸に貸別荘、ホテル運営、企画運営、そして不動産事業をしています。私たちの顧客は「別荘族」だけではなく、観光客も含んでいます。観光客の方の中も別荘に住みたいという潜在的な顧客はたくさんおられます。そうした方に貸別荘を体験していただいています。
 従来の別荘管理サービスは、ハードを中心に展開されていました。しかし私たちはソフトのサービスも展開し、その潤滑油としてホスピタリティを考えています。
 ハウスクリーニングについても、キッチンクリーニングだけでなく、冷蔵庫内のクリーニング、水回り特殊掃除など30項目以上のサービスを展開しています。さらに建物内だけでなく、別荘の定期点検や水道の開閉栓、通風作業、下草刈り、屋根掃除や伐採・造園、雨どい清掃、デッキ清掃、植栽、イルミネーション、除雪、落葉清掃に加えて20項目ほどの屋外についてのサービスがあります。これらのサービスを若いメンバーでフットワーク軽く、24時間体制でこなしています。
 別荘の多くが365日のうち20日程度しか使われていません。まれに50日、60日使用する方もおられますが、それでも多くの期間は使われていません。その使われていない間については、非常に心配なものです。お客さまによっては、髪の毛一本落ちていることを嫌がられます。私たちはディテールにこだわったサービスを行っています。
 これらのサービスて、管理している300件の別荘ごとに指示書を作成しており、例えばR邸では清掃指示書は3枚になっています。項目はそれぞれきめ細かく設定されており、「油がつかないようにスポンジを変えて洗う」など、それぞれ決められています。椅子を等間隔に並べる、アメニティのセットする角度などきめ細かく設定しています。そしてそれぞれの項目は「責任者」「手直し」「納品前」とトリプルチェックしています。
 以前は、オーナーが直接水道料金を支払ったり、税金を払ったりという手続きをしなければいけなかったのですが、現在は我々が代行できるようになりましたので、水道の開栓のためにわざわざ軽井沢に来ていただかなくても良くなりました。さらに、宅配便の受け取りも代行しているのですが、この人気は高いです。購入した家具を送っていただき、組み立てて別荘への搬入もしています。1日200個くらい受け取る日もあります。
 ソフトのサービスとしては、コンシェルジュ、チェックイン・チェックアウトサービス、ベッドメイクや買い物代行、車のメンテ、布団洗濯・乾燥やごみ回収、パーティ設営、寝具レンタルなどニーズに応じて行っています。
 我々が展開している不動産は100%紹介です。webサイトにも何も掲載していません。「一気通貫のサービス」と呼んでいますが、別荘管理サービスを通じて知人の紹介があったり、買い換え相談や相続の相談も受けます。不動産の紹介だけでなく建築士を紹介したり、建築会社の紹介、造園業者の紹介も行い、そしてそれを通じて新たな別荘の管理サービスを行っています。管理を徹底的にすることで、新たな方を紹介していただけます。このようなサービスの展開が、競争力を持つようになっていると思います。

■ホテルの運営管理

 現在、我々は4軒のホテルの運営管理をしています。軽井沢には不良債権化したホテルが少なからずあります。オーナーが立ち行かなくなると閉めてしまうのですが、放置されると景観的にもよくありません。そのようなところに対して金融機関と相談して、投資家に買っていただくように勧めています。買っていただいたホテルの運営と管理を私たちが行うのです。このホテルの運営は、別荘管理サービスとシナジー効果があります。ホテルは24時間稼働していますので、別荘管理の24時間体制が補完されますし、スタッフの清掃業務や接客の研修の場としてもホテルは機能します。また、ケータリングの拠点としても活用できます。

■貸別荘

 新聞でも報じられましたがyahooが貸別荘サービスを開始しました。これはyahoo会員様から私たちの所に送客してもらうことになっています。別荘を所有すると固定資産税などがかかりますが、一年のうち使っていない期間を貸別荘とすることで、富裕層に対して変な言い方ですが「別荘を持ちながら小金を稼いでもらう」サービスが可能となっています。このような活用を通じて、空いている別荘の回転率を上げ、治安の悪化を防止する効果も期待しています。

企画運営

 ISAK(アイザック)が誘致して、全寮制のインターナショナルスクールである International School of Asia Karuizawa を開校することとなっています。さらにG1という、アンダー40の日本版ダボス会議を昨年軽井沢でスタートしました。経営者やスポーツ選手、政治家などの若い世代の新しいコミュニティづくりの活動しております。このような世代が別荘を所有する意欲を派生させていくことも期待して、会社としてこの運営事務局をつとめ、開催をサポートしています。

別荘を我が家に

徹底したサービスの一本化」  別荘を所有するには、様々なサービスや手配をしなければいけません。これは時によっては非常に煩わしいものです。私たちが考える別荘管理サービスの定義は、「徹底したサービスの一本化」です。様々なサービスの手配や手続きを私たちとコンタクトをとっていただくことで、煩わしさを解消することができます。これにより別荘利用時の快適さ、安心感を提供すること、そして別荘を我が家以上の空間にデザインすることが可能になると考えています。
 私たちのサービス理念は、「思い出づくり」「次世代へ」です。例えば、夏祭り。お子さんが親の所有する別荘に遊びに来て、そこで楽しい思い出を作ることで、相続してその別荘を所有し続けることを期待しています。実は、別荘は相続されずに途切れることが多いのです。また、軽井沢の冬は長いのですが、その冬を思い出にするために、例えばツリーのイルミネーションを消しておいて、到着されたときに点灯して驚かせたり、雪かき後に玄関の横に大きな雪だるまを作って、大変喜んでいただいたこともあります。
 私たちは、別荘管理サービスを通じて、お客様に快適さと安心感、そして思いで作りを提供しています。そしてそれは、親から子へ、子から孫へ引き継がれることを期待しています。

「京都市空き家の活用、適正管理等に関する条例」が施行 ●京都の住まい・まちづくり拝見!
PDF版

トップ > 都住研ニュース > 52号