都住研ニュース

第51号 ●定例会ダイジェスト

 定例会では様々な講師を毎回お迎えして、各テーマの専門的なお話をお伺いしています。そしてグループごとにディスカッション・発表を行い、様々な専門性をコラボレーションする場にもなっています。
ここでは、これまでに開催した定例会のダイジェストをお伝えします。

■第56回(平成25年9月13日)※京安心すまいセンタータイアップ事業

 「フローからストックへ」といわれて久しく、良質なストック整備を進める「長期優良住宅」の普及も進みつつあります。そして、京町家をはじめとした木造家屋やオフィスビル、マンションのリノベーションも進められており、ストックを現代的生活に見合う快適性を備え、かつ文化・歴史的な文脈をもたせた利用が各所で見られるようになっています。
 一方、京都の路地奥の長屋に象徴されるように、豊かなコミュニティが今なお受け継がれている建築ストック群も存在しますが、しかしながら防災等既存不適格建築物の問題が存在しています。これらは細分化された土地所有者により資産として保持されており、「連担建築物設計制度」(第86条第2項)などが手法として構築されていますが、実施例は多くはありません。
 コミュニティや歴史・文化などの良質なストックを生かしつつ、耐震性や避難経路など安心・安全上で課題のある環境を改善していくことが、京都の市街地では重要な課題となっています。これを解決していく手法はあるのでしょうか。全国で取り組まれた同様な開発の事例を学びつつ、都心部、そして郊外部の土地更新のあり方を考えることを目的に開催しました。

存不適格、違反建築に生き残る道はあるのか?
       ゲーテッド・コミュニティによるタウンマネジメントの提案〜

講 師:竹井 隆人 氏((株)都市ガバナンス研究所 代表)

■〈まちづくり〉と政治

竹井隆人氏  政治の基礎にあるのは「社会をつくる」ということであり、それは集団的意思決定にも置き換えられます。近年、この「まちづくり=政治」の最良のツールとして〈コミュニティ〉がもてはやされてきましたが、私はその指し示す「仲良し」を基調とする社会関係の組成手法よりも政治的にそれを組成していくことがより重要だと主張してきました。
 〈まちづくり〉と政治の接点ですが、政治とは、「社会をつくる」ことです。そして「社会をつくる」こととは、共同性、つまり集団的合意をなすことです。人間は一人では生きていけず、社会を組成しますが、そのためには集団的合意が必須となります。政治というと永田町の政争劇を思い浮かべる方が多いでしょうが、あらゆる人が人として生まれ落ちたときから社会の中に生きていくため、集団的合意、つまり政治とは切っても切れないのです。
 家族のような親密な関係を除けば、他人と合意を形成しなければいけない最小の政治の舞台は〈まち〉であり、だからこそ私は〈まち〉の政治、すなわち〈まちづくり〉に関心を抱いてきたのです。

■既存不適格・違反建築

 今回はこの既存不適格・違反建築についての救済策の提起を依頼されましたが、なかなか難しい命題です。まず、「既存不適格」については、当時の法規に合致した建築物でしたが、その後の改正による新法規に対応できていないものです。京都では京町家などが代表的ですが、近年はその救済も成され、改修の認可なども進んでいます。一方、「違反建築」は当時の法規に違反した建築物であり、これについて救済はありません。まずは接道不良から「合法化」していく道を探ってみたいと思います。

■接道不良の合法化

 現在の合法化の策は大きくは次の2つでしょう。まず「二項道路」で、「みなし道路」。幅員4m未満のため道路法等上の道路ではありませんが、建築基準法施行前(昭和25年)から使用され、行政が指定したものを道路とみなしますが、建替え時には、道路中心線から2mセットバックが要件となります。
 もう1つが「位置指定道路」です。これは幅員4m以上あっても道路法等上の道路でないものを、行政が建築基準法上の道路として認定する私道のことです。これらの接道不良対策については、とくに袋路の場合、近年、細街路対策が進み、4m以上については位置指定道路として対応することが可能となり、4m未満についても戦前から立ち並んでいるものについては二項道路として対応されます。しかし、位置指定道路については、4m未満にものについては対応できていませんし、戦後に開発された4m未満の袋路については対応できる制度が今のところありませんので、京都に多く残る細街路の抜本的解決には至らないでしょう。

■ゲーテッド・コミュニティ

講義の様子  私はこの打開策としてゲーテッド・コミュニティを提起したいと思います。
 この写真はアメリカのある高級住宅地のゲートです。踏切のような遮断機があり、道路からの通行がここで止められます。入居者や関係者等の証明があれば通れます。ここをゲートとして、ほかはフェンスや壁などで封鎖された〈まち〉です。全米ではとても流行っています。
 日本では「城郭都市」等といわれて紹介されますが、たとえば写真の全米随一とされるゲーテッド・コミュニティは住宅が2万戸以上もあり、それぞれが100万ドル以上する邸宅が並ぶ高級住宅地です。この住宅地の中心部には写真のようにゴルフコースがあります。ただ、日本でも有名なハーバード大学のサンデル氏はこの事象について、「富裕層の住宅地であり、格差社会を助長する」と非難しています。そして日本でも同様な主張する学者や風潮があると思います。
 日本でも同様なものを作りたいという機運をもってきましたが、現状では分譲マンションでしかできていません。戸建て住宅群や既成市街地では、接道要件がクリアできないのです。ゲートを作ることで一般の人が入れなくなるので、公道と見なせなくなり、接道要件に合致しなくなると判定されるのです。
 日本で唯一、戸建住宅群で作られたゲーテッド・コミュニティが関西にあります。芦屋浜にある「ペルポート芦屋」で、私が企画に関与した住宅地です。なぜこれができたかというと、海に面していて、ヨットの係留付きの住宅であり、海側については壁で囲う必要がないことと、決定的な理由は、開発が行政主導であったために、ゲートの内側の道路も公道として認めたからです。よって、およそ普遍化できる事例ではありませんが、日本では唯一の事例だと思います。
 アメリカの事例を見ると、ゲーテッド・コミュニティについては、住民の関わりが強くないとできません。なぜかというと、ゲートには警備員が常駐し、管理やメンテナンスにも費用がかかり、その費用を住民が負担する必要があるからです。よって、すべての居住者から管理費を徴収するのです。
 日本の戸建て住宅地において、管理費をすべての住民から徴収するのは難しいでしょう。現状ではしっかりとした住民組織があるところは少なく、せいぜい町内会か自治会のところがほとんどでしょう。それでは住民に「加入しない」という人が居ても、加入を強制できません。すべての住民を包摂し、資金を徴収し、ゲートをつくり、セキュリティを維持するサスティナビリティが確保できないのです。

■一団地認定

 日本の居住区ですべての住民を巻き込んで、セキュリティを確保し、共同意識を確保する一つの方策として、「一団地認定」があります。この法制度が適用される典型例としては、複数の住棟で構成される団地などがあります。これによれば、全ての住民を強制的に巻き込むことができますし、「接道不良」に関しては、一団地認定することで、団地全体が接道すれば良いので、違法状態を合法化することができます。

■歩く<まち>

京都市では「歩くまち」が標榜されていますが、私がかねてから考えているのは、「歩くまち」によって、多くの観光客をはじめとする人びとに歩いてもらい、ゆっくりとウィンドウショッピングなどをしていただくことで〈まち〉の商業的活性化を求めることを図るため、一時的な歩行者天国などとするだけではなく、もっと本格的に取り組んでいくための提案をしたいのです。
 私の提案は、京都都心部の烏丸、四条といった大通りから、交差していく細街路入口部分にゲートを設けることです。江戸時代には、町々には木戸門がありました。夜の10時には木戸門が閉められ、住民は潜り戸から出入りしていました。私の提案は、徒歩はいつでもフリーで通れるようにし、車両は住民用か緊急車両ならば何らかのパスシステムにより通過できるようにするのです。木戸の管理は現状の町内会、つまり木戸の内側の両側町で管理をするのです。
 木戸門を付けて問題となるのは、接道要件です。木戸門を作ると、その内側の方の住戸は公道に接していないと見なされる可能性があります。それを両側町全体で一団地認定とすると、接道不良が法律的に解消され、違反建築の合法化もともに図ることができます。

一団地認定の適用

 この構想を進めるには、インセンティブが必要です。商業地域では、容積が700〜400%で建坪率が80%、高さ15m(大通り沿いは31m)のところが多くなっています。それを団体的拘束力の強化、速やかに耐火および耐震の基準を満たすことを条件として、一団地認定をおこない、つまり合法化させることで改善促進に繋がることが期待できます。さらにボーナスとして、建替え、改修時に建ぺい率を緩和すれば、高さ制限の導入によって既存不適格となった違法状態を解消することができます。

コミュニティからガバナンスへ

会場の様子  日本ではゲーテッド・コミュニティが難しいのは先ほどお話しした通りですが、それは日本の戸建住宅群で用いられる社会構築制度では全員合意を原則としており、歯抜けが生じてしまう可能性が高く、またルール違反に対して強制力を持って是正することが困難なのです。ただ、分譲マンションならば区分所有法によって、住民はすべて管理組合という組織に強制的に加入させられ、そのルールは管理組合全員に及ぶことになるのです。よって、この区分所有法にそる団体的拘束力を応用し、先ほど提案した「京都ゲーテッド・コミュニティ構想」の居住区を管理すれば実現に近づきます。このためには居住区全体を町内で管理していくのです。
 マンションには専有部分と共有部分があります。戸建住宅群についても、木戸門や道路を共有部分として、マンションの住民統治の仕組みを既成市街地に適用するのです。そうであれば、ルールを守らない人を厳しく規制することもできます。
 私が示すガバナンスとは、政治的社会性の尊重です。町内会などをガバナンスを基調とする主体、つまり費用を拠出し合い、維持管理をし、すべてにおいて「合意形成=政治」をしていくことです。そして木戸の管理のみならず、道路を行政から移管し、税源も移譲すれば、公的政府に替わる「私的政府」にもなり得るのです。人びと皆が一人の政治家として参加するのが本当のデモクラシーなのです。

公共性から共同性へ

 政治的観点から考えていく上で、昔は住宅に風呂がある住宅は少数で、便所や台所など全て共同でした。しかし現代では、そういった共同施設が個別の住宅に取り込まれて自己充足的になりました。その結果、他者との関係は、どうでもよい目的の交流(親睦)しか残らず、そして、そのような中で「政治」は失われていったのです。「デモクラシー」というならば、新たなタウンマネジメント構想により、再び共同する舞台を生み出すことが必要ではないでしょうか。私が「政治」の理想を考えるとき、そこから違反建築や既存不適格の解消も視野に入れられると思い、このような話をさせていただきました。

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