都住研ニュース

第51号 ●「貸しルーム」と、シェアハウスは別物です。

 昨今、「脱法シェアハウス」という通称で居住環境的に問題がある物件がメディアを賑わせていますが、これに対して居住性能や火災等安全性を鑑み、2013年9月13日、国土交通省から「違法貸しルーム対策に関する通知について」が出されました。
 これによると、違法貸しルームとは「多人数の居住実態がありながら防火関係規定等の建築基準法違反の疑いのある建築物」であるとし、全国の特定行政庁宛に立ち入り調査や是正指導を推進し、マンション関連団体には管理組合に対応にかかる周知する旨を通知しています。
 なお、これら「貸しルーム」を「寄宿舎」と見なすことについては、「従来からの建築基準法の考え方を改めて示したものであり、解釈に新たに変更を加えるものではない」としています。貸しルームとして提供されている居室が、居室の採光(建築基準法第28条第1項)、建築物の間仕切壁(建築基準法施行令第114条第2項)等の規定を満たすことが必要であるとしています。これらはマンションだけでなく、事務所、倉庫等の居住以外の用途と称して間仕切り等で区画された空間を利用しているものも含むとしています。

(参考URL:http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_fr_000052.html

 事実、首都圏のメディアで報じられた「脱法シェアハウス」と呼ばれる物件には、安全性、居住性ともに問題とみられるものが散見されるようです。これらの居住性を確保していくことは重要なことと思われます。
 都住研ニュースでもこれまでシェアハウスを紹介してきていますが、京都市内では大規模町家を活用した、まさにストック活用の事業性の可能性を示すものや入居者相互の交流や地域との交流を通じた新しい人間関係、新しい家族像を示す「新しい居住文化発信」の拠点となっている所も少なくありません。
 クリエイターの移住先として選択されているケースもあり、新たな文化創造の可能性を含む「多様な住文化の芽」でもあり、芽生えているのです。

 それでは、今回の通達を受けてどういった影響があるのでしょうか。
 防火関連規定を適えるためにシェアハウスを供給するコストが向上し、多様な担い手によって供されていた市場が縮小する可能性があります。
 本来マネジメントにコストをかけることで差別化・快適性を確保していたシェアハウスが、ハード面にコストがかかることで、そのマネジメントの質の低下ばかりか事業化を断念されることが懸念されます。多様な住文化の芽に水を差す恐れもあります。

 今回の通達は、全国一律に、そしてハードを対象に出されたものです。さらに共同住宅では緩和される消防設備の緩和が適用されないなど、疑問も残ります。
 一方京都では、京町家の保全・再生を目的に、安全性を担保するマネジメントや地域まちづくりとの関係性を要件に、既存不適格建築物から地域の資産として活用されるような法規制の運用も始まっています。
 このように、地域ごとの特性に応じた運用の必要性が生じてきている中、シェアハウスについても地域性に応じて規制・誘導する必要があるのではないでしょうか。

 加えて、「貸しルーム」と多様な住文化が育ちつつある「シェアハウス」では、事業の目的や事業者のあり方が根本的に異なっています。
 前者はより安価に多数の入居者を確保することを目的とし、後者は共同性を重視し、リビングやキッチンなどをシェアすることで日常生活を豊かに送ることを目的に供されています。
 この違いを踏まえ、事業者や事業の仕組みに応じた規制を導入し、さらにその運用にあたっては、地方公共団体とその事業者の「信頼性」「住民の便益性」に担保された展開をすることで、ストックを活用したより豊かな居住性を有する建築が供給されることが期待されるのではないでしょうか。

事務局長 高木伸人
事務局長 高木伸人
会長代行 西村孝平
会長代行 西村孝平
■お知らせ
第20期を迎え、都住研の新会長代行・新事務局長と新体制で進めて参ります。
引き続き、よろしくお願い申し上げます。
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