都住研ニュース

第50号 ●定例会ダイジェスト

 定例会では様々な講師を毎回お迎えして、各テーマの専門的なお話をお伺いしています。そしてグループごとにディスカッション・発表を行い、様々な専門性をコラボレーションする場にもなっています。
ここでは、これまでに開催した定例会のダイジェストをお伝えします。

■第55回(平成25年5月24日)

 先日の参議院選挙で衆参の「ねじれ」が解消し、アベノミクス効果が今後、建築・不動産事業にどのような影響を及ぼすかが注目されている。
 国は中古住宅の流通に力を入れ、2020年を目標に一層その流通量を増やそうとしている。今回は、今注目を集める「スマートハウス」についいてお話しいただいた。エス・バイ・エル(6月1日より (株)ヤマダ・エスバイエルホーム)がヤマダ電機の傘下に入り、スマートハウスの供給を一層進めることとしている。家電メーカーとハウスメーカーの会社としてどのような戦略があるのかをお話しいただいた。

環境配慮型住宅はどこまで進化する?
       スマートハウス、そしてゼロ・エネルギー住宅へ

講 師:藤本 和典 氏((株)ヤマダ・エスバイエルホーム 技術部部長)

1.京宿家「淳風しらふじ庵」

藤本和典氏  私の京都の実家は町家で、間口が4.5m、奥行きが25mの鰻の寝床といわれる形状です。小さい頃は、友達の多くは自分の勉強部屋を持っていましたが、うちの家はありませんでした。引き戸で仕切られただけの続き間の和室でした。だから、子どもの頃は「何てしょうもない家や!」と思っていました。
 その後、エス・バイ・エルの前身である小堀住研に入社し建築の仕事に携わり、自宅をリフォームする機会があり、その際改めて実家を見て「なんてすごい梁だ」「立派な柱が使ってある」と再発見しました。
 実家にはまだ両親が住んでいますが、その隣に祖父が経営していた借家があり、細々と家賃をただいていたのですが、その物件をどうするかという話になりました。考えられる方法の一つには賃貸住宅がありました。さらに店舗も考えられました。そのようなことを考えていく中で八清さんと出会い、話が進んでいく中で、賃貸住宅でも店舗でもなく、宿屋という提案いただきました。その方が安定した収入になるといわれ、町家を残すことにもつながります。そこで、やってみたいと考えました。
 八清さんの16か所ある宿屋では他にないと思いますが、お願いして、工事はエス・バイ・エルでさせてもらう事としました。京宿家の名称は学区名の「淳風」と、藤本の「ふじ」を取って「しらふじ」を組み合わせました。

■京町家の住文化の継承

 改修にあたり、解体した際出てきたものを可能な限り再利用することとしました。火鉢や古い瓦も出てきました。鬼瓦には「天保10年」という文字が記されており、調べてみると1839年のもので、今NHKで「八重の桜」がやっていますが、そこに出てくる徳川慶喜が2歳、近藤勇が3歳、勝海舟が16歳の頃のものです。

■伝統的な形と現代風な形

通り庭部分に設置された浴槽  課題は、風呂をどうするか、でした。ここにはお風呂はなく、住んでおられた方は銭湯に行き、夏は家の中で行水で済ましておられました。近年は庭にユニットバスをおいて使っておられたそうですが、宿屋として風呂を設置しないわけにはいきません。そこで、通り庭にあった竈をイメージさせるような五右衛門風呂を設置することとして、通り庭のイメージをそのまま残すこととしました。

■その土地の持つ潜在力を活かす

 住宅部分は通りに面した小さいもので、中央部分には染め抜き用の小屋が設置されていました。その部分を撤去すると、相当大きな庭となりました。そこを造園の野村勘治先生にお願いし、庭のデザインは、鯉が川を遡るようなイメージのデザインを取り入れ、土地の持つ潜在力を活かす配慮をしていただきました。

2.京宿家「淳風しらふじ庵」の意義

 今回の取り組みを実施して改めて教えられたことは、人から人へ語り継ぐ、受け継ぐ心が町家にはあるということです。そして形として残すべき伝統や手法が今でもあるということです。さらに活かすべき潜在的な京都力を秘めていることも感じました。そして、今日お話しさせていただく「スマートハウス」とも関連する、将来・未来に向けてのヒントがあるということです。

3.京都議定書とスマートハウス

「スマートハウス」という言葉と概念は、最近出てきたものではなく、以前からありました。COP3のときの京都議定書の当時から出てきているのですが、2011年の東日本大震災以降に急浮上してきました。一般の人が耳にするようになったのは、この2年ほどだと思います。
 京都議定書は、2012年までに二酸化炭素排出量を1990年レベルから10%削減するという目標でしたが、実際には総排出量は増加しています。排出権取引を使用することで何とか目標を達成するレベルだそうですが、中でも家庭部門の排出量が48.8%も増加しています。住宅メーカーでは省エネ対応など色々な商品を開発し、新築の際には省エネ性を高めてきていますが、しかしながら現実にはまだギャップがあります。世帯数が増加してきたので全体としてエネルギー消費量が増加してきたのです。1軒1軒は努力をしているのですが、社会現象としては全体的に増加しています。
 これには、我が国の主要耐久消費財等の普及率が増加していることも関連しています。テレビや冷蔵庫の普及率は早い段階から100%となっていますが、エアコンは以前は各世帯に1台程度でしたが、現在では複数箇所設置していますし、各部屋に設置するようになっています。新築時には、5〜6台出荷される傾向があります。これら耐久消費財の量が増えていることももう一つの課題となっています。つまり、我々の普通の暮らしが消費エネルギー増加の原因となっているのです。それぞれの性能は良くなってきているのですが、台数が増えてきています。原発事故を通じて電気の必要性と課題も実感されるようになっており、そのような背景から、政府もスマートハウスを推進するようになってきています。

4.(株)ヤマダ・エスバイエルホーム

スマートハウス  エス・バイ・エルは、ヤマダ電機の傘下に入り、2013年6月からは社名も変わります。では、家電量販店の巨人のヤマダ電機と、住宅業界の老舗(1951年創業)の弊社がひっつくことで、どのような展開が可能となるでしょうか。ヤマダ電機は、家電量販店の中では群を抜いて大きな企業です。市場の3割のシェアを持っています。
 電化製品が既に多くの国民に行き渡っている中で、どのような展開をするのかが重要でが、住宅を作っていく中で家電をセットで販売していくことをやっていこう、という方針を出しています。ヤマダ電機は毎週広告チラシを約3,000万部発行しており、ブランド発信量を持っています。また、スマートハウス販売拠点数としては、エス・バイ・エル展示場とトータルスマニティライフコーナー合わせて全国で179箇所もあります。また、ヤマダ電機グループの従業員数は約25,000人で、エス・バイ・エルは単体で1,100人ほどでしたが、一気に従業員やその親戚、知人などの住まいをも可能性に含むこととなります。
 家電量販店に来る客層と、モデルハウスに来る客層は全然違います。温度差はありますが、しかしどのお客さまも何らかの住宅にお住まいなので、そこで少しでも住宅をイメージしていただけるきっかけになるのではないか、という期待もあります。さらに、家電量販店には、お客さまの家の中にまで入れる配送員がおり、そこに協力してもらうことで住まいに関するアンケートを実施することも可能になりますので、そこからの情報も重要だと考えています。また、新築だけでなくリフォームも含めて、家電の販売も併せて発展させていこうとしています。
 新築は、高級注文住宅から企画型住宅までを手掛けています。スマートハウスというと「機械などの設備だらけでは」と思われるかもしれませんが、そうではなく、スマートハウスという言葉に囚われるのではなく、エネルギーを可能な限り使わず快適に暮らせるものであることだと考えています。
 「快適な生活を我慢しよう」といっても、難しいと思います。またエネルギーの消費を減らすために世帯数を減らしていくことも困難です。スマートハウスのポイントは、エネルギーを「つくる」「ためる」「つかう」「みえる」の4つのポイントです。しかしながら現状では太陽光発電パネルを付けるだけでスマートハウスと呼んでいる面もあります。
 「ためる」では蓄電池を用いて電機をためるのですが、これはもっと時間をかけて開発を進めるべき所です。まだ性能と価格が不十分なまま早く出てしまっている感があります。「つかう」はLED照明やIHヒーター、エコキュートなどでできるだけ省エネ性能を高いものを使います。「みえる」ですが、これもまだ機能の2割程度しか叶えられていないと思います。現状では見えるだけ、という状態です。HEMS等をご存じかと思いますが、しかし見えるだけでは人は飽きてきます。本来的にはもう少し全体をコントロールできるようにして行くことが大事ですし、外の気候等に併せてコントロールしていくことも考えていかなければいけません。

5.スマートタウン京都

 果たして、町家はスマートハウスなのでしょうか。これを皆さんと一緒に考えたいと思っています。京都の歴史などを勉強するにつれ、京都という町はすごいと改めて感じています。この写真は四条堀川を走るチンチン電車です。市内の営業運転の市街地電車は、京都が全国初です。しかも発電は蹴上げの水力発電を使っており、まさにスマートタウンそのものでした。この写真はトロリーバスです。トロリーバスというと立山黒部を思い出されるかもしれませんが、市内でも四条大宮から梅津方面にはトロリーバスが走っていました。この営業運転も、京都は早かったそうです。何十年も前に、京都は二酸化炭素を出さないクリーンな電車を走らせていたのです。近年は路面電車(LRT)が見直されてきていますが、京都でも復活してもいいのでは無いでしょうか。
講義の様子  これら歴史を振り返ると、自家発電で電気をまかなってきた経緯があり、美観論争があり、都市を護るために地下の利用を進め、伝統的なものと最新鋭のものが混在し、そして古都と先進都市が同居しているのが京都です。このことから、京都は「スマートタウン」と呼べるのではないでしょうか。都が東京に移った頃から様々な取組が展開されていますが、そういった活力を持っている都市であると思います。
 また、発電については太陽光だけでなく、籐形発電や振動発電、温度差発電など様々な開発も進んでいます。これらを組み合わせることで、普及させていくことが大事ではないでしょうか。京都らしい発電システムが生まれてきたら、楽しくありませんか。

■スマート京町家

 そこで、スマート京町家を考えてみたいと思います。京町家のコンセプトを継承しつつ、既に取り組まれているように建材などを再利用します。現代の住宅は冬を快適に暮らすために作られていますが、しかし冬は厚着をしたり、掘りごたつなどを使ってしのぐことができます。しかし夏の暑さは耐えがたいものがあります。町家は、夏を旨として建築されています。また冬は太陽熱を利用することもできるでしょう。
 岩倉具視はじめ、京都は新しいことに取り組んだ人が多いです。これも京都の強みだと思います。

「京都市空き家の活用、適正管理等に関する条例(仮称)」 ●京都の住まい・まちづくり拝見!
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