都住研ニュース

第45号 ●定例会ダイジェスト

 今回の定例会では、「東日本大震災を通じて見えてきた、京都の遠隔地支援のあり方」をテーマに取り上げ、パネルディスカッション形式で開催しました。この度の東日本大震災では、地震や津波による被害だけではなく、原発による避難が重なっており、被災地から遠く離れた京都にまで、避難されてきています。その際、京都府下では震災直後から、京都府や京都市の行政による取組だけではなく、京都府不動産コンサルティング協会や、日本賃貸住宅管理協会京都府支部、京都府宅地建物取引業協会、全日本不動産協会京都府本部において、志ある個人の呼びかけから組織をあげての取組へと支援の輪が広がりました行政と不動産事業者団体の緊密な連携とともに、他の自治体には見られない支援が行われています。一方で、速やかな取組が評価されつつも、相互の善意を十分に生かしきれるかという様々な問題についても指摘もされています。
 パネルディスカッションでは、遠隔地避難者支援の前線で活躍されている方をお迎えし、京都だからできたこと、今後に繋げる取組などについて意見交換を行いました。

■第50回(平成23年6月10日)

 東日本大震災を通じて見えてきた、京都の遠隔地避難者支援のあり方
         〜京都の不動産事業者だからできたこと・できること

■コーディネーター:高田 光雄 氏(京都大学大学院工学研究科 教授)
■現地報告:
    魚谷 繁礼 氏(現代京都都市型住居研究会/都市居住推進研究会)
    関川 華 氏/前田 昌弘 氏/菅井 牧子 氏(京都大学大学院?田研究室)
■パネリスト:
    井上 誠二 氏(一般社団法人京都府不動産コンサルティング協会 専務理事)
    吉田 光一 氏(財団法人日本賃貸住宅管理協会京都府支部 支部長)
    寺澤 昌人 氏(京都市都市計画局住宅室住宅政策課担当課長)

■京都市内の不動産関連団体について

高田 光雄 氏と井上 誠二 氏 井上 不動産関連団体というと、通常「不動産5団体」として、社団法人不動産協会、社団法人全国宅地建物取引業協会連合会、社団法人全日本不動産協会、社団法人日本住宅建設産業協会、社団法人不動産流通経営協会、があります。京都では主として全日本不動産協会、宅地建物取引業協会の2つがあり、業として不動産業を営む場合、1,000万円の保証金を用意するか、いずれかの団体に加入して保証金を払う必要があります。ですので、大手企業を除いてほとんどの事業者は、いずれかの団体に加入しています。
 最近は、不動産業界の各団体は、公益法人を目指した取組を積極的にしており、不動産事業の近代化を目指し、不動産・住宅は公共性、社会性が高いとして積極的な取組を展開しています。

吉田 賃貸業に関連する団体は3つあり、財団法人日本賃貸住宅管理協会、オーナーさんの団体である社団法人全国賃貸住宅経営協会、そして全国賃貸管理ビジネス協会、です。全国的には、後者の2団体が先にあり、日本賃貸住宅管理協会が各支部に作られていきましたが、京都は特殊な事情があり、後者2団体がなく京都支部が作られました。
 3月11日の震災のあと、12日の段階で何かできないかと考えました。そこで、「仲介報酬料を無料」「家主様へご理解・ご協力を呼びかけ賃料減額等のお願いをする」「礼金・敷金のない物件を積極的・優先してご紹介」「経済的負担軽減のため家具・家電設置物件をご案内」を協力しようと考えました。これには家主様の理解が欠かせませんが、多くの家主様からも協力が得られました。13日に日管協のメンバーにも声をかけたところ、翌日には30社が「協力する」といただきました。
 賃貸住宅2団体では、審査委支援緊急対策本部を立ち上げ、仙台市、郡山市、いわき市に現地対策本部を設け、自治体を通して被災者の支援を行っています。ボランティア人員は、5月末現在でのべ2,500人を派遣し、泥の除去作業などを行いました。救援物資の提供については約100品目に及び、そして義援金は総額約6,700万円を被災地にお届けしています。
 福島県では、3団体で1,825戸の住宅を行政に提出し、県が1,560戸を借り上げ、入居決定率は85%になりました。福島県は入居者のマッチングが完了していない場合でも優先的に県が借り上げているために、比較的スムーズに進みました。一方宮城県では、3団体で2,320戸を提出しましたが、県の借り上げが決定した戸数は229戸で、決定率は10%でした。
 宮城県の場合は高齢者や障害者世帯を優先してマッチングを進めたために、その他の入居希望者とのマッチングが遅れました。この両県の違いは、マッチングまでのスキームの違いにありました。宮城県の場合は、宅建業者への負担が大きく、入居までの時間がかかるというスキームになっていました。
 これらの活動を通して見えてきた課題は4つです。まず、(1) 空室物件情報収集の壁。常に最新の空室情報をデータベース化して「災害時住宅支援検索サイト」に掲載する必要があります。
 次に、(2) 物件と被災者マッチングの壁です。マッチングが進まない理由の一つに、被災者の属性(ファミリー層、高齢者層など)と民間賃貸住宅物件(1R、1K多数)のミスマッチがあります。多様な世帯がいる中で、行政の借り上げ条件の緩和が必要です。
 次に、(3) 県(市町村)の借り上げ決定までのスピードがあります。今回の東日本大震災では、福島県・宮城県が民間賃貸住宅の借上げを発表したのは、震災発生から10日以上経過した3月23、24日でした。借上げ発表より以前に自力で賃貸住宅に入居した被災者への特例措置が後手となったことで、現地での事務負担が大きく増えました。これについては、国交省・厚労省等が各県統一したスキームと業務手順などを整備して地方自治体に発信するべきだと感じました。
 最後に、(4) 行政との壁があります。業界団体の主張や施策に対して理解はしても、何事も決定までに時間を要しています。一方で、借上げ措置が決定してもスキームや契約書面が確定しておらず、家主も宅建業者も被災者も戸惑う場面が多くありました。これについては、国(政府)がリーダーシップを発揮し、全国統一した仕組みを早期に構築する必要性を感じています。

吉田 光一 氏と寺澤 昌人 氏 井上 京都の取組は、日管協の賃貸住宅の提供はじめ、京都府不動産コンサルティング協会も動きました。民間から提供された空家等の調査について、不動産事業者個人がボランティアで参加しました。100名近くが登録しています。私も物件の調査に参加しましたが、オーナーも積極的に提供してくださっていました。

高田 京都の不動産関連団体は、3.11以前から行政との関係も、このような経緯から構築途上にあったということですね。

寺澤 京都市では被災者の方への住宅提供をワンストップサービスで行うため、被災者向け住宅情報センターを京都市住宅供給公社に設置・運営し、市営住宅及び民間から無償で借り上げた住宅を被災者に提供する事業を実施しています。
 市営住宅については、被災者に対する市営住宅の空き家の提供(目的外使用許可)を実施中です。3月14日から20戸の提供を開始しました。入居条件としては、対象者は「東北地方太平洋沖地震等の被害により災害救助法が適用された地域(東京都を除く)において、罹災又は被災された方」としており、期間は入居日から6箇月以内としています。ただし、1年以内での更新が可能としています。家賃は免除し、敷金、保証金も不要です。市営住宅ですので、原則世帯向けであり、ペット不可となっています。提供戸数及び入居戸数は、6月8日現在で100戸(最大200戸まで提供可能)用意しており、67戸が入居されています。住宅は向島、洛西、山科等の市営住宅となっています。
 民間住宅の提供については、市民、自治組織、事業者、寺社、企業等から提供の申出があった住宅について、京都市住宅供給公社が無償で借り上げ、同公社が被災者に貸し出す事業を実施中です。つまり、公社が民間から無償で借り上げ、被災者に転貸します。事業の流れは、(1) 市民等からの住宅提供の申出をうけ、(2) 不動産事業者ボランティア(94名登録)による現地調査を行い、(3) 住宅供給公社が市民等から住宅を無償で借上げ、そして、(4) 住宅供給公社が被災者に対して住宅を無償で貸付け、という流れになります。
 入居条件は、対象者は市営住宅の提供と同じで、期間は入居日から6ヶ月以内、家賃、敷金、礼金、保証金及び保証人は不要です。また民間賃貸住宅ですので、単身者向けの住宅やペットの飼育が可能な住宅もあります。
 提供戸数、貸出し戸数は6月8日現在で、市民からの住宅提供申出戸数は225件(444戸)で、被災者への提供戸数は153戸となっています。現段階での入居戸数は24戸です。

高田 民間の住宅所有者から空家の無償提供の申し入れを受け、市が公社に業務委託をして、被災者とのマッチングを行います。公社は別途人を雇ったりしていますが、この取組みのポイントは、マッチングのための基礎情報の調査のために不動産事業者の専門的なスキルを無償で提供していただくという仕組みが組み込まれていることです。フロアーには今回の京都市の取組みに不動産ボランティアとして参加された方も多数おられると思いますが、このような仕組みをつくったのは京都だけです。

■今生じている課題は何か

会場風景 井上 不動産事業者として、今回の取組は、これまでのまとまりが活かされていると感じています。「あの人が言ったら、動かなければ」という結束力がありました。しかし、善意でたくさんの物件が集まったにもかかわらず、入居者とのマッチングが少ないのが残念です。

吉田 3月12日から3月末まで、うちにも非常にたくさんの問い合わせをいただきました。しかし、4月以降はキャンセルが相次ぎました。これらの返金で500万円くらいでした。原発関連で動いた人も多いようです。津波の被災者の方は、地元で住宅を探すことが多いようです。
 市役所との連携については、これまでにも日管協での連携はありました。私たちの会合に来ていただいてお話をいただくなどの連携はこれまでもしていました。これまでの連携があったからこそ、今回の支援もできたのではないかと思います。

高田 全体としてみると、不動産事業者の動きは、京都ではかなり早い段階で起こり、それが社会的な動きとなっていきました。一方で、ビジネスにおいてもプラス面の影響もあったと思います。業界全体としての社会的な役割の向上を図ろうという動きも加わっていました。
 善意の大家だけでは、被災者に対して住宅を提供することは困難で、なかなか届きません。そこに行政と事業者の連携がないと、無償住宅の提供はできません。

寺澤 物件を提供していただいたとき、これを調査する体制や能力が京都市にはありません。安心して提供できるものを用意できたのは、皆さんのスキルがあったからです。個人的には、今後どれだけ需要があるかどうかはわかりませんが、家主との関係、そして協会の皆さんとの関係を継続していくことが課題だと思っています。

高田 住宅政策上は、2つの意義があります。1つは今回の取組を通じて、行政と不動産事業者の連携が実現したことです。今後も多様な連携が必要です。また、被災者支援を超えて今後の住宅政策を考えると、不動産ボランティアさんのリストは、行政にとっては極めて貴重なものです。市場重視という市場の中身が具体的にこのリストの奥に見えるからです。
 2つめは、今回の仕組みが、住まい手支援のための住情報システムのモデルとなったことです。大阪市では「大阪市立住まい情報センター」が10年前から市民に多様な住情報提供を行っていますが、今回の震災ではそこが窓口になって大家さんと被災者のマッチングをしました。センターにはそれができるスキルを持つ相談員が育っていたのです。平時のシステムで被災者支援をしたわけです。京都にはこのようなシステムがありませんでしたので、市民の税金を使って新たな仕組みを立ち上げなければいけませんでした。しかし、せっかく今回の仕組みが立ち上がったわけですから、これを平時の情報システムとして作りかえていくことが大事だと思います。
 今回の一連の取組は、広い観点から見て、公共と民間との新たな連携の試みでした。本来、公共住宅と民間住宅はもっと連続的でなければなりません。非常時でも平時でもそれが求められている。市場メカニズムを活用した住宅政策の展開のために双方の連携がとても重要であることを学ぶことができました。

東日本大震災・被災地の今 ●京都の住まい・まちづくり拝見!
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