都住研ニュース

第44号 ●定例会ダイジェスト

 2006年に「住生活基本法」が制定され、良質なストックを供給し、住宅市場が活性化するための方針が出されました。そして現在では一層、ストック活用政策が進みつつあります。
 長期間住宅を利用し、住み継ぐためには、良質な住宅を供給するだけでなく、既存住宅を現代のニーズに見合うように性能を向上させ、既存住宅市場で適正に流通させる必要があります。このためには既存住宅の性能を可視化するとともに、住宅の履歴情報を蓄積し、これを閲覧できる仕組みが不可欠といえます。2009年から年間新設戸数が100万戸を切り、新規住宅供給が頭打ちになった今、住宅のストックの質を向上させ、流通させる仕組みが求められています。
 これらのストック政策の推進には、民間事業者やNPOの取組が重要です。今回は、阪神間を中心に、住宅履歴や住宅性能評価の取組をNPOとして取り組まれている鈴森さんを講師にお招きし、京都で住まい・まちづくりに取り組む事業者として、今後の事業の方向性や可能性をお話しいただきました。

■第49回(平成23年3月19日)

 ストック時代を生き残るために!〜既存住宅にもっと価値を
  講師:鈴森 素子 氏(NPO法人住宅長期保証支援センター 専務理事)

■はじめに

鈴森素子氏  私ども、NPO法人住宅長期保証支援センターは、2001年に発足しました(理事長:東樋口護氏)。
 法人の設立は2002年4月30日で、活動としては住宅の長寿命化のサポート活動、履歴整備、アフターメンテナンスのサポートをしています。会員及びサポート対象者は、消費者、中小建築の工務店、そしてリフォーム会社となっています。
 活動の背景としては、2001年9月に国土交通省住宅市場整備行動計画アクションプログラムが発表され、耐久性の高い住宅の建築(住宅性能表示制度の普及)、適切な維持管理(リフォーム市場の活性化)、既存住宅市場での循環が謳われていました。つまり、ここには国交省がめざす、品確法の向こうにあるものが示されています。私たちは当時から勉強会を重ねていましたが、勉強会だけではなく、経営に直接貢献できるようにと30社程度で集まり、組織を作る話になり、NPO法人化しました。

■人口の動向、世帯の変化、空家の増加

 これからは、統計が示す通りに、どんどんと人口が減っていきます。グラフが示す通り、人口の減少と共に高齢化率も上がっていきます。世帯数も、いわゆる親と子ども世帯という標準世帯といわれる世帯が減少し、単独世帯などが増加していきます。相対的に新設住宅着工戸数も減少し、空家が増えていくことも推測されています。

■住宅の長寿命化への取組

 これまで日本は新築偏重の施策が展開されていました。国際的な比較を見ても、住宅流通における既存住宅の割合は、先進国の中でも日本はかなり低くなっています。アメリカでは全流通量に占める割合は80%を超えていますが、日本では13.5%となっています。住宅投資に占めるリフォームの割合の国際比較を見ると、イギリスで54.5%、フランスで50.4%、ドイツで62%であるのに対し、日本は27.3%となっています。この10年ほど、国交省はこれらを増加させるべく動きをしていますが、この2,3年で一気に加速した動きとなっています。
 1966年から約40年間の住宅建設五ヵ年計画が終了し、2006年に住生活基本法が定められ、住宅はストック時代へと転換を遂げました。さらに、2011年〜2020年の10年間の住生活基本計画(全国計画)が発表されており、内容は、(1)住宅の広さなどのハード面に加えて、ソフト面の充実による住生活の向上、(2)老朽マンション対策など住宅ストックの管理・再生対策の推進、(3)新築住宅市場に加えて、既存住宅流通・リフォーム市場の整備、が謳われています。
 福田総理の時代に「200年住宅」が謳われ、その後「長期優良住宅整備促進法」が出され、一定の性能を確保された住宅を「長期優良住宅」認定し、住宅の質の向上、住宅ストック、既存住宅の流通促進を目指すこととなりました。先導的な住宅については200万円、普及促進型については100万円、さらに国産材を使用すれば20万円のボーナスなどの補助金が出されることとなりました。そしてこれらの住宅については、住宅の30年以上の維持管理保全計画と履歴情報の保存が必須化されています。しかしながら、履歴については「自分で持っていればいいですよ」というレベルです。出前講座で国交省の方に尋ねましたが、その際に「財務省からは、本当に維持管理が実行されるという担保が取れるのか」という声があるようですし、絵に描いた餅にならないような運営が必要です。「きっちりと維持管理をするために、第三者に履歴情報を預けることを勧めたいと思う」と話しておられました。

■良質な住宅ストックの形成と継承

 昨年の4月から、既存住宅流通活性化事業が始まっています。既にこの中でも利用されている方が居られるかもしれません。これは、安心して住み継ぐ住宅への政策として、インスペクション(調査)、瑕疵保険、住宅履歴保存を行うものです。しかし、この利用はあまり進んでいないようです。理由としては、(1)申請書類などの手間が多く煩雑、(2)瑕疵保険の手続きと流通のスピードが異なる、(3)契約の不成立になる不安、C営業とリフォーム担当の連携が困難、等があげられます。来年度には是非緩和して欲しいと思っています。
 リフォームは、これまでリフォームショップの独壇場で、市場規模も小さいものでした。しかし、近年は国交省がホームセンターなどで出前講座を始めだし、潜在的な要求が顕在化するようになっていく可能性があります。

■住宅履歴情報の蓄積、活用の指針

 住宅の履歴は、今できたものではなく、昔からありました。古くは棟木に竣工の月を記載していましたし、紙で作成しファイルでの蓄積なども以前からされていました。住まいを住み継いで行くには、所有者が変わることもあります。このために工務店1社だけでなく、いろいろな人が関わっていくのが住宅です。状況に見合った形で情報を蓄積していくことが必要です。
 私たちは以前、これまでCD-ROMを使って、お客様、工務店、そしてNPO法人の三者で保持していました。2008年には先導的モデル事業を活動に応募する際、これを改善することとしました。というのは、お客様が履歴を書き込んでも、私たちが保持する履歴に反映されないことがあるからです。応募が通り、webを活用したシステムを構築しました。

■住宅履歴情報整備検討委員会

講義風景  住宅履歴情報整備検討委員会が発足し、2007年から2009年度末まで設置されていました。これは東京大学の野城智也教授を中心に産官学の関係者による委員会で、共通の仕組部会など3部会を開催し、共通ルール、共通言語化、蓄積する情報項目の基本型、普及啓発活動などを検討してこられました。そして最終に「住宅履歴情報蓄積・活用の指針」を発表しています。さらに「住宅履歴情報」の愛称「いえかるて」とロゴマークを発表しました。
 ここで出された「住宅履歴情報蓄積・活用の指針」には「住宅は個人の資産であると同時に、世代を超えて継承されるべき社会的資産でもある。住宅の質を維持し、豊かな生活を実現していくためには、良好に維持管理された住宅とその住宅履歴情報をしっかりと次の所有者に引き継ぎ、住み継がれるようにすることが重要である」とあります。
 帰属の原則として、(1)「情報の第一義的な所有者は住宅所有者であり、住宅履歴情報の蓄積は住宅所有者の責任のもとで行われる」、(2)「建築等により住宅履歴情報が生成された場合、情報生成者は住宅所有者へその情報を必ず提供する」、(3)「リフォーム事業者等の情報活用者が住宅履歴情報を利用する場合、住宅所有者がその情報を提供する」としています。
 現状では、既存住宅を買われた人から問い合わせがあった際、「家の図面はありますか」と尋ねたら「図面はない。間取り図ならある」という人もおられます。寸法が入っていないのです。購入者には「必ず図面をもらってください」と伝えていますし、工務店には「図面作成の対価は求めても良いので、図面を渡してください」と伝えています。

■住宅履歴情報に関係する主体と役割

 住宅履歴情報に関係する主体としては、(1)住宅所有者、(2)情報生成者(事業者)、(3)情報活用者(事業者が中心)、(4)情報サービス機関であり、情報サービス機関は住宅を社会的な資産として認識し、情報を適切に保管し、将来に引き継ぎ、住宅の長期使用にあたって住宅履歴情報を活用するために必要な仕組みを持つとともに、住宅履歴情報に関する住宅所有者の啓発や情報の充実に努める、とされています。
 住宅履歴情報の項目としては、戸建て住宅の新築段階の情報項目としては「建築確認」「住宅性能評価」「長期優良住宅認定」「新築工事関係」それぞれに定められており、さらに維持管理段階の情報項目も定められています。さらに、マンションの共用部分に関する内容もあります。

■共通IDとは

 昨年の5月10日に「一般社団法人住宅履歴情報蓄積・活用推進協議会」が発足しました。4社で始まりましたが、現在では45社ほどが参画しています。私たちNPOはここに、理事会社、そして企画運営会社として参加しています。第三者として住宅履歴情報の蓄積活用を行なうとともに、サービス機関による情報の普及促進を目的に設立されました。さらに住宅一戸、一戸に配布する個体識別番号、共通ID(32ケタ)を付与、管理しており、履歴情報の普及と事業の推進することを目的としています。
 例えば、ID番号を使って、優遇政策も期待できます。5年、もしくは10年後になるかもしれませんが、既存住宅市場でIDが必要になってくると思われます。住宅の背番号制ができることが今進められています。ダブル登録がないように協議会で半年に一回名寄せをしています。
 長期間に行う住宅の維持管理や履歴整備(生成、蓄積、更新等)を住宅所有者が単独ですべて行うことはとても難しいと思います。住宅事業者や情報サービス機関等のサポートが必須です。一方、事業者も直接的な設計や工事の業務が重要で、これらの事業が安定した収益を出すことこそ、会社経営の第一だと考えます。国土交通省は住宅の履歴情報の管理を最低30年以上と提示しています。住宅履歴情報の蓄積と活用を主業務としている情報サービス機関に任せることが、時間も費用もお得です。住宅所有者にとって、第三者性は信頼の大きなポイントだと思います。

■メリット

 住宅履歴情報の経営的なメリットとしては、まず「安心」。計画的な維持管理を継続的サポートします。さらに「合理的」です。履歴情報活用のリフォームを合理的に実施することができます。さらに「信頼」。履歴情報のある住宅は次の所有者も信頼できます。そして「安全」。災害時やリコールに迅速に対応できます。つまり、経営の強い財産として、履歴整備の安心と信頼で顧客を開拓し、維持管理で継続的な受注が約束出来ることが期待されます。
 2009年には、住宅の資産評価に向けて「価格査定マニュアル」が財団法人不動産流通近代化センターから出されました。状態に応じて査定をアップさせるガイドラインです。これらにより、維持管理された住宅は評価が高まり、市場で差別化される可能性があります。住宅は、個人の買い物としては非常に高額なものです。しかしローンが払い終わらないうちに「価値がない」というのであれば、何のために買ったのでしょう。そこで是非、履歴を活用して価値をアップさせるような査定を期待したいと思います。

■さいごに

 住み続けるための課題として、維持管理は大きな課題です。昭和30年代までは、町内一斉の大掃除もありましたが、今ではありません。いくら維持管理しても積極的に評価されないことも課題です。これを積極評価していくためにも、住み継いでいく際には履歴情報が必要だと思いますし、ここに工務店や中小事業者のビジネスチャンスもでてくると思います。

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