都住研ニュース

第42号 ●定例会ダイジェスト

 四条河原町の阪急百貨店の撤退、小売業の売り上げ低迷などテナント市場を取り巻く状況はかなり厳しいものがありますが、商業空間は都心部のまちづくりを考える際にとても重要な要素です。今後都市間競争が一層強まる中、京都の都心部の商業空間の有り様は、私たち都住研が主たる対象とする住まい・まちづくりの領域と無関係ではありません。
 今回は地域密着型の事業を展開される小島さん、グローバルな視点で京都の市場を捉えておられる上田さんをお迎えして、都住研としては初めての鼎談形式で開催しました。

■第46回(平成22年6月4日)

 テナントリーシングの世界から見る、都市間競争の展望 〜京都の商業空間に未来はあるか?

 パネリスト:
  上田 泰稔 氏 (シービー・リチャードエリス(株) 京都支店支店長)
  小島 敬史 氏 ((有)Rebirth 代表取締役)
  西村 孝平 氏 (都住研事務局長/(株)八清 代表取締役)

■賃京都の商業空間の現状

講義風景 上田 京都のオフィスマーケットは京都駅前、四条烏丸を中心とした都心部の2ゾーンです。大阪も名古屋もターミナル駅前が人気ですが、京都は四条烏丸を中心とした御池までの間が人気エリアです。
 京都のオフィスマーケット需給バランスの推移は、京都は23万坪の市場ですが、2010年3月現在で空室率は11%。ただしこの空室率はあくまでも顕在化しているものであり、すぐに貸せる状態のものに限ります。私は20年近くこの仕事をしていますが、空室率の平均が二桁というのは、かなり厳しい状況だと感じています。なお、大阪は10.5%、神戸は14%です。
 京都のオフィスマーケットの平均募集賃料は、共益費を含まない額で平均9,960円です。大阪の平均は8,620円、神戸は9,370円です。マーケット的には大阪の方が大きいのですが、京都は値崩れを起こしていません。オーナーが値段を闇雲に下げて入居者を確保するのではなく、紳士協定レベルでがんばっておられるのが要因かと思います。大阪ではファンドの物件などは入居者確保のためにすごい値下げをしています。

西村 私はテナントのことは専門ではないのですが、河原町通の五条から御池まで歩いて状況を見てきました。五条から四条の間はオフィスビルが少ないために募集看板が出ているものは少なかったですが、目視で7件の募集看板を確認できました。四条から御池の間は、21件が確認できました。河原町通の五条から御池の間に、看板を確認できるだけでも28件の空き室がありました。歩いてみて改めて感じたのですが、アーケードのために気づかなかったのか、河原町通りには2階建ての建物がかなり多い、ということです。これらの中には木造も多くありました。
 「京町家証券化事業」を実施しており、5年間の償還を今年度に迎えます。対象物件の3軒はすべて、売却できそうです。元本割れもなく、ホッとしています。
 証券化の事例を紹介します。これは東山区の東山安井の近所にある大正時代の町家です。雑貨、服飾のセレクトショップです。賃貸されていた方は事情により今年3月に退去されました。2件目は中京区にある人気フランス料理店の2号店です。町家として使い続けることを条件に約4,000万台後半の価格で東京築地の方に売却しました。六角通新町と場所の条件も良いところです。3件目は東山区宮川町通に面するバーです。ここも「京都らしい収益物を持ちたい」という東京の方が買われました。3件中2件を東京の方が買われました。
 京町家を活用する事業として、私どもでやっている「京宿家」を紹介します。これは京町家1棟まるごと旅館という収益物件として販売する事業です。第1号は、「城巽あかね庵」で、姉小路通堀川を西に入った2項道路に面した物件です。二人で泊まって22,000円、三人で泊まると25,000円と大人数で宿泊すると一人あたりの料金が割安になっていく仕組みです。当初「60%稼働したらいい」と想定して事業を企画していましたが、実際の稼働率は70%前後です。この物件は3月に売却しました。約7ヶ月間私どもで運営しましたが、その間の宿泊率などのデータを取り、その情報も提供して売却しています。この物件は大阪の方が買われました。第2号は「朱雀ききょう庵」、第3号は「豊園くれない庵」です。これら京宿家でグループを作り、売却後もグループとしてお互いに稼働率を上げるような取組を考えています。現在、5件目の工事が終わったところです。

小島 私は元々リーシング会社に勤めていましたが、現在は繁華街のテナントリーシングに特化しており、新京極に事務所を構えています。
 四条通は「華やぎと風格のある街」を謳っており、四条繁栄会が通りとしての主張をされています。京都を代表するメインストリートで、賑わいを更に創出する計画が進められています。高級ブランド・アパレルを中心に幅広い出店希望があります。
 三条通の「寺町〜烏丸ゾーン」は明治の香りが漂う色気のある街で、スタイルから入る東京系にも受けが良く、アパレル系を軸に個性的なショップが並んでいます。東京系アパレルはアーケードを格好悪いと見ますので、アーケードがあるだけでも出店を断るケースもあります。但し、若年齢化が進み、売上げが採れない矛盾も抱えています。「三条大橋〜寺町ゾーン」は、東海道の発着点の歴史もあり、通勤・通学動線でもあり、人通りは大変多いです。商材を如何にこの人通りに合わせることができるか、というのが課題です。大きな特徴としては高瀬川の存在です。この誇るべき高瀬川の景観と界隈一体の打ち出し方も必要な要素です。東海道という歴史的背景を生かした施設を構築できることが重要な鍵になっていると思います。
講義風景  河原町通は、残念ながら繁華街から歓楽街へ変貌しつつあります。アミューズメント、カラオケ、パーラーの増加により、質感を追求するテナント群は四条通をリクエストするところが増えています。
 寺町通は、ここ10数年で大変貌を遂げた商店街です。商店街の方はアーケードをキレイにしたこと、そして地下鉄東西線開通により、通行量が増加したことをその要因と話されています。さらに集客力のある衣料品店の出店により、ファッションビル化した「藤井大丸」と寺町・三条通・新風館を結びつける「街ぶら」ができるようになったことがその要因でもあると思われます。そして全天候型であり、売上げが安定しています。
 新京極通は土産街から若者、特にティーンズレディスのファッション関連のウェイトが高まっており原宿化していましたが、近年では高い賃料に耐え切れず、退店が相次ぎ、値崩れが始まっています。ここは小型物件が多いので、坪単価ではなく総額で賃料設定される傾向があります。
 烏丸通は四条烏丸周辺から、ココン烏丸やNTTのビルなどビジネスエリアから商業地へ変貌中です。ここは街に色がついていない為、大きな変化を仕掛けやすい場所でもあります。商業地として確立するには、大丸が東洞院を中心に展開しつつある路面店戦略とも連動し、各大型店が連携していくことが必要です。
 近年出店が盛んな業種は専門店化した軽飲食(ドーナツ・唐揚げ・タピオカ・スイーツ系)、ラーメン店が増加しています。一方撤退が見られる業種としては、衣料品関連大失速しています。モノが売れにくい時代に入っていることとインターネットショッピングの普及が理由としてあります。

上田 京都の特徴として、町家のニーズはあります。ただ、企業の場合は耐震性などを気にするところが多く、イニシャルとしてどれくらいかけられるかと考えるとなかなか手が出せないようです。

小島 飲食や食品物販は、京都に一号店を構えて、京都ブランドとして全国に展開したいという要求はあります。また、景観を重視した施設構築があるのが、京都の強みです。

西村 京都は観光都市ですし、既に5,000万人を達成しました。これをどう商業に結びつけるかが課題です。

小島 観光客の動向やニーズを見ても、これを取り込めていないように思います。ヨーロッパとアジアの観光客のニーズは異なります。マーケティング戦略が必要です。例えば飲食や物販が商品を提供して、京都サロンのようなものを設置してそこでアンケートを実施するなどのマーケティングをすればいいと思うのです。

■京都らしい商業空間とテナント経営

西村 四条河原町の阪急が撤退しますが、このあとに何が出店するかについては百貨店や電気屋さんなど様々な話が聞こえてきますが、まだ決定はしていないようです。

小島 電気屋が来ると河原町がアキバ系の町になる恐れもあり、まちにとっては大きな打撃になる可能性もあります。河原町については投機の対象になりやすい性格があり、所有者の点からもビジョンがなかなか共有できないという課題もあります。
 商店街が面白くなくなってきているのは、同質化が進んでいるからだと思います。河原町通で近年オープンした店を見ると、auショップ、サイゼリア、吉野家、ファミリーマートなど全国展開している店が多く、他との差別化ができていません。四条通が「華やぎと風格のあるまち」と強く個性を打ち出しておられますが、この主張の下にドラッグストアなどの出店希望に対してはやんわりと「やめて欲しい」ということを発信しています。主張をするまちとそうでないまちは差が開いて行くでしょう。

西村 八条口にイオンモールができましたが、これはどうですか。

小島 「駅すぐ」といっていますが、地下鉄から歩くと結構歩きます。全国の郊外はイオンが覇権を握っています。総合力でそれなりのテナントを集めてきていますので注目です。ちなみに京都駅ではポルタの衣料品の売り上げは好調です。レディースは同店舗でも新京極よりポルタの方が売れています。
 商業は、まちを面としてとらえ、つながり、潤いを加えていくことでもっと活性化すると思いますが、現在はつながりあっていません。

西村 マンガミュージアムのような集客力ある施設とつながればいいのではないでしょうか。ここは外国人もたくさん来ています。

小島 「クール・ジャパン」には、熱い視線が注がれています。それを生かして集客するのもあると思います。京都の移動手段として自転車やパリのレンタル自転車Velib等とカフェが融合すれば、魅力的な場所が提供できると思います。

西村 現状では商店相互のまとまりがとれず、ビジョンも共有しにくいということが課題として整理されました。まとめるのは誰なのか、そしてそのための仕組みは何か等課題ですが、面として商業空間をつなげていくことが、京都の商業空間として魅力を高めていくということですね。

■意見交換から

Q.大阪駅の北ヤードで巨大な開発が進んでいるが、京都への影響は?

上田 影響は間違いなくありますが、具体的にどのような影響があるのかは未知数です。この開発に関連して一部銘柄が挙がっている企業もありますが、まだどのようなまちとして仕上がっていくかがわからないこともあります。

Q.空室率11%というのは、そんなに多くない印象。空室のビルは一旦テナントが出るとそこになかなか入らないことか。

上田 オフィスビルは3〜6ヶ月前にテナントから解約予告を出して、その時点からオーナーが次の入居者を捜すのですが、タイムラグなく入る所は少ないです。
 新築ビルができると、古いビルの客がスポイルされていきます。その中でビルのオーナーはいかにバリューアップしていくかということが課題です。古くても管理をよくされていて、なかなかテナントが出ないところもあります。私は決して「京都は駄目」だとは思いませんし、京都であるが故の一定の需要は見込めると思います。

Q.京都のオフィスのテナントは京都の会社が多いと言うことだが、大きな床を借りてくれるのはどのようなところか。

上田 事務所については、一番需要が多い面積は20〜30坪です。京都は50坪以上を借りたいという需要は多くないです。100坪を超えるのは年に数本程度しかありません。

西村 私は、古いものがどんどんと壊されるような京都にはなって欲しくないと思います。町家を含めて古いものを生かすノウハウがもっと必要です。古いものに住むだけではなく、DIYなど自ら手入れをすることも大事です。新しいビルよりも古いビルの方が良い、というような価値観も必要です。四条河原町下がったところにある「寿ビルヂング」もとても素敵なビルです。

小島 商店街の振興は難しい課題ではありますが、観光客は増えています。スペインにはバルがありますが、日本でもバル街と称して、まちを回遊するイベントが展開されています。函館が発祥で、伊丹でも展開されています。観光客のみならず地元の人も「行ったことはないが、お試しで行ってみよう」というような気軽に行ける取組をまちづくりとして面で取り組んでいくこと、そしてそこから面として繋がっていくことが大事だと思います。

上田 京都のオフィス事情は正直楽観できない状況ですが、オムロンや京セラなどの大企業等京都への思い入れが強い会社の本社移転はされていません。これらは京都を盛り上げる力になると思います。

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