都住研ニュース

第41号 ●定例会ダイジェスト

 不動産・建設業界を取り巻く状況として、住宅着工件数が80万戸を割り、フローが減少している中、ストックが重要になってきています。民間賃貸住宅は全国で1,350万戸のストックがあり、全住宅の40%も占めます。
 これまでの日本の住宅政策は公営賃貸住宅の供給から始まり、その後戸建ての持ち家政策にシフトしました。しかし近年更新料や管理の問題が指摘されるようになる中、民間賃貸住宅の問題が注目を集めるようになっています。
 第46回定例会では、国土交通省が設置する社会資本整備審議会の民間賃貸住宅部会の専門委員として活躍されている川島健太郎さんをお招きし、民間賃貸住宅の法制化の動きを中心にお話しいただきました。

■第46回(平成22年2月5日)

 賃貸管理・法制化への道、ビジネスチャンスにせよ!
  講師:川島 健太郎 氏((社)京都府宅地建物取引業協会 会長)

■賃貸管理の法制化

川島健太郎氏  賃貸管理の法制化については、昨年の12月に踏み出すこととなりました。私は国土交通省の社会資本整備審議会の中の「民間賃貸住宅部会」に所属しておりますが、そこでその方向性を出しました。これが私たちが求めているようなものとなれば、これまで生じていたような賃貸住宅に関するトラブルが減少し、そしてあらたなビジネスチャンスが拡がっていくことが期待されます。しかし実際はこれにはほど遠いような内容にとどまっており、いわば「ホップ」の状態であり、「ステップ」「ジャンプ」に至るために前段階といえます。

■建物賃貸借契約に係る媒介等の業務の適正化

 今から8年ほど前になりますが、300人近い賃借人から保証金を預かり、それを返さないという問題が発生して、それを契機に懇談会を発足させ、それに対処させるための合意形式を「京都方式」として確立させました。
 これは京都府宅地建物取引業協会、全日本不動産協会京都府本部、日本賃貸住宅管理協会京都支部が一体になって取り組んだものです。これは、業界団体が賃貸の合意事項をまとめた画期的な取組です。
 賃貸住宅の法制化は、トラブル回避だけではなく、多くのこの仕事に従事している若い人たちに夢を与える仕事にしていくためにも、重要と考えています。しかし、そのためには「ステップ」「ジャンプ」の長い道のりを歩むことになりますが、まずは何をしていくべきかを考えなければなりません。

■民間賃貸住宅部会

 この部会に所属している方は、学識研究者や各種団体の代表の方となっています。私は、社団法人全国宅地建物取引業協会連合会常務理事として、専門委員の立場から参加しました。
 部会の場は、難しい言葉や英語などがどんどん飛び出しました。会議では借主だけを消費者とするような内容に偏っているようにも感じましたので、借手市場の今日は家主さんも消費者だという異論を出しました。これは認められました。委員の中には「家主は経営としてやっているのだからリスクを負うべき」と主張する人もいましたが、これが法制化へのハードルとなっています。

■賃貸住宅市場の整備

 ファミリー向けの広い賃貸住宅は依然と不足していることから、一方で高齢化社会が進む中で高齢者の住み替えに伴う持家の賃貸化が進むと思われます。そして定期借家制度の活用について触れられていますが、ここには新しいビジネスチャンスが含まれているものと考えられます。

■民間賃貸住宅をめぐる現状

講義風景1  住宅ストックは、持家が3,037万戸、借家が1,744万戸で、持家と借家の割合はこれまでずっと6:4の割合で推移しています。つまり、借家は相当量が多く存在しています。
 経営形態は個人所有が1,062万戸で全体の85%を占め、法人所有は195万戸と全体の15%です。また個人経営者で年齢が60歳以上が全体の60%で、法人経営で資本金1,000万円以下のところが全体の65%となっており、小規模なところが経営しているケースが多いのが特徴です。賃貸住宅所有数が50戸以下が全体の86%で、管理を委託している家主は全体の73%を占めており、27%は家主が直接経営しているということがわかります。ここにも、新しいビジネスチャンスが潜んでいることがわかります。

■民間賃貸住宅をめぐる紛争について

 賃貸住宅に関するトラブルは年間3万件を超えており、家賃の問題、滞納の問題に関するトラブルも多くなっています。平成19年度で32,372件の相談件数があり、うち敷金・保証金に関するものが13,770件となっています。これについては、政策的な対応が必要であると考えています。アンケート調査によると、賃貸住宅を選択する際に管理や契約面は「多少重視する」が高く、一定以上重視されることがわかります。そして管理や契約面で最も重要なものとしては「日常管理のサービスの充実」「防犯」「敷金礼金など一時金の有無」が高くなっています。
 一方、管理や契約面を重視しない人は、その理由としては「家賃や立地の方が重要」と、従来的な考え方をしている方も少なからずおられます。

■原状回復等に係る規定

 原状回復に関する規定については、「賃貸住宅標準契約書」(国土交通省)にも記載されていますが、「居住用建物賃貸借契約書」(日本賃貸住宅管理協会)では、入退居時のチェックについても記載しています。紛争は、未然に防ぐにつきます。

■一時金の市場慣行

 資料に、各都道府県ごとに敷金、礼金、敷引金、更新料に関する一覧を掲載しています。敷金については関東が高い傾向がありますが、兵庫県は100%徴収しています。京都府は58.5%が徴収しています。礼金については、関西よりも関東が徴収の割合が高い傾向があります。大阪は関東並みに徴収しています。敷引金については、兵庫県で96%が採用、京都は51%となっています。更新料については、関東の徴収の割合が高く、兵庫県は0%です。京都府は55%が徴収しています。

■原状回復・敷金返還のトラブルについて

 国交省のガイドライン認知状況(平成20年度)については、不動産業者の88.6%が認知していますが、家主の半分以上が「知らない」と応えている状況です。敷金返還のアンケートについて、入居者の回答は20.4%が「返還なし」と応え、返還額の説明に納得いかなかった入居者が23%となっています。また借り主は入居時、退去時とも立ち会いも書面もチェックしない人が20%を超えて存在しています。
 最近の更新料訴訟の流れについては、地方裁判所で更新料有効と判断されたものが大阪高等裁判所判決で無効とされたもの、有効とされたものがあり、訴訟内容については、資料に詳しく掲載していますが、事案に応じて判断が分かれています。
 これをうけて全宅連ではQ&A集を作り、わかりやすくお知らせするようにしています。

■ADRについて

講義風景2  ADRとは、裁判外紛争解決制度のことで、判決などの裁判によらない紛争解決方法を指し、民事調停や家事調停、訴訟上の和解、仲裁および行政機関や民間機関による和解、斡旋などを意味します。
 その他、民間賃貸住宅に関するトラブル、紛争が発生した場合の相談窓口や解決手段はたくさんあります。京都では「適格消費者団体」がありますが、宅建協会では週2回、無料相談所を開設し、自主解決の努力をしています。

■滞納・明け渡しをめぐる紛争について

 賃借人が滞納した場合、執拗な督促、鍵の交換などをすることがありますが、これらについては違法なこともあります。このような件について、年間495件もの相談が寄せられている状況です。
 このようなことを踏まえて、家賃の滞納が発生した場合、家主が法的な処置に基づいて処分しなければいけません。しかし、このような処分をするには時間がかかり、また費用負担が発生し、家賃滞納分も含めて100万円以上かかることもあり、すべて家主が負担しています。これらについては方策を考えることが必要です。これらの問題は、賃借人の生活の保護を優先すべきということですが、しかし家賃を払わない人を果たして保護する必要があるのか、と思われる方もおられるでしょう。たとえば住宅ローンを払えなくなった場合は住宅は競売にかけられます。おなかが空いたとして食い逃げをしたら罪になります。しかし、家賃の滞納は一定までは保護されているのです。アメリカでは、45日経過したら保安官が立ち会うもとで執行されます。そこで日本ではせめて「3ヶ月」くらいで明け渡しができるような制度にして欲しいと提案しています。
 そこで、昨年の6月8日に部会において、私は専門委員個人として、「意見書」を提出いたしました(資料BのP2)。ここでは、不良賃借人を排除するためにブラックリストをデータベース化して慎重な取り扱いのもとで業者間公開することを提案しました。外国では、この効果が実証されています。しかし、弁護士グループは消費者保護を最優先して、定期借家制度までも反対しています。
 この2月から、チラシをお配りしているとおり、入居者のデータベース登録を開始します。この普及促進に関しては確認されました。
 家賃滞納については、不況で仕事が無くなったなどの理由があるのはわかります。しかしまじめな借り主もおられますし、そのような方は事情をきちんと家主に説明しますし、また他の生活を削ってでも家賃を払おうとされます。しかし法律家グループは弱者保護を謳いながら、零細経営者が多い家主には負担させて良いと考えているのでしょうか。これらについては政策による公的なセーフティネットが必要であると考えます。
 先日、前原大臣とお会いした際にあれ程法制化について説明したにもかかわらず、「ステップ、ジャンプとはどういうことですか」と聞かれてがっかりしましたが、何とか業界として粘り強く法制化を進めて参りたいと考えております。これは賃貸管理業を何とかしたいというのが一番ですが、この業界で働く若い人たちに夢を与えるとともに、多くのビジネスチャンスを生み出したいと考えているからです。中央から、京都からこの声を大きくしていきたく思います。

【追記】
その後の「賃貸管理業」に関連する動向
1.賃貸住宅管理業の任意登録制度の創設
 (国土交通省に備える登録簿に登録できること。平成23年度から施行予定)
 ※将来は国民の意見、事業者団体の取組み状況などを踏まえ、法制度導入に向けて検討の継続をする。
2.家賃債務保証業者や家賃弁済情報データーベース作成事業者の登録義務付並びに家賃等の悪質な取立て行為を規制する事を主な内容とする新法の創設

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