都住研ニュース

第39号 ●定例会ダイジェスト

 今年の6月4日に、「長期優良住宅普及促進法」が施行されました。今後は従来のフロー型社会によるスクラップ・アンド・ビルドを見直し、良いものを作り、手入れを重ねながら長期間使用するストック型の社会に転換することが求められています。
 国の事業として住宅を長く使うための技術、システム、管理などが積極的な評価をされ、これをモデルとして全国に発信する事業も展開されています。またこの様な流れを受けて、デベロッパーも積極的にこれらの技術の導入を図るようになっています。
 ストック型社会に向けて良いものを作り、そしてそれを長く使用するシステムを整えることは、環境的な視点からだけではなく、住文化を継承する上でも重要なことと考えます。今回の定例会では、ゼロ・コーポレーションで取り組む「100年住宅」の紹介を通じて、長寿命住宅のあり方と実現方法について考えます。

■第44回(平成21年5月15日)

 100年住宅はホンモノか、ニセモノか?
  講師:金城 一守 氏((株)ゼロ・コーポレーション 代表取締役)

 今まで、木造住宅は30年位の寿命だと思われていました。ところが、適正な工法、品質施工、長期管理が行われることにより、木造住宅は100年は持つ建築工法であることが証明されています。今日は、そのことについてお話ししたいと思います。
 6年前のある大雨の翌日、工務部に行ったところ、朝からずっと電話が鳴り続けているのです。様子を見ていると、どうも雨漏りに関する電話のようでした。工務部の人間が言うには「まちなかの家では雨漏りは当たり前にありますよ」ということに驚きました。それを契機に会社に寄せられたクレームを見ると、実に様々な問題があることが分かりました。これを放置すると、5年から10年後には「ゼロの住宅はとんでも無いものだ」といわれてしまうのでは、と感じました。そこで私は、しっかりと家づくりの勉強をしなければいけないと取り組み出しました

■木造住宅の長寿命は可能

金城一守氏  我々は従来、木造住宅というのは30年くらいが寿命だと考えてきました。しかし、法隆寺は8世紀初頭に再建されており、1300年の歴史があります。つまり、木造建築もきちんと管理すれば、何百年も保つのは当たり前といえます。

■木は生き物である

 木が生き物であるというのは当たり前のことですが、建材として使っていると忘れがちになります。有機物ですので、腐りますし、微生物などの食べ物にもなります。白アリについては、防蟻処理の効果が切れる5年に一度は必ず点検の必要があります。そうしないと、長寿命の住宅にはなりません。そして木は割れ、ねじれ、曲がり、縮みます。性能が不安定といえます。
 本来、木は生えている場所や地域により性能が異なります。これをふまえないと、建材として使用するのは上手くいきません。現在の消費者は住宅を工業製品のように思われている方も多いので、木が曲がると欠陥だと思われます。そのこともあり、私たちは無垢材はほとんど使っていませんが、今後は無垢材を使っていかないといけない状況が来るかもしれません。
 この写真は、実際の雨漏りの様子を撮影したものです。他社が施工した私の知人の医院ですが、薬局を併設するとして改修を頼まれました。築5年の建物ですが、ベランダからの雨漏りにより、既にこのような状態でした。土台が蜂の巣状であり、サッシの下もボロボロになっていました。5年も経てば、このようなことはあります。ですので、発見の意味も込めて5年に一度の点検は必要だと考えています。

■在来工法の施工の進化

 現在の木造住宅は、ほとんどがプレカット加工となっており、上棟も1日で終わって当たり前の状態です。昔は現場で加工していましたので何日もかかりましたが、今は同じ木造でも作り方が異なっています。つまり、現在の大工にはノコギリやカンナ、ノミは不要なのです。私の年代の人はおそらく「良い大工に家を建てて欲しい」と考えるかもしれませんが、あまり極端な大工ではない限り、ほとんど差はありません。
 木造建築は建築関連工事の集大成といえます。つまり、地盤改良工事・基礎工事・通気シート貼り・防水工事・外壁工事・左官工事・屋根工事・シロアリ散布・鋼製サッシ工事・金属サイディング・上下水配管工事・電気工事・ガス工事・クロス工事・トユ工事・洗い等の全ての工事の集大成です。これらの品質を確保して施工されてはじめて、お客様は納得されます。大工の質が問題でトラブルになることは、ほとんどありません。

■在来工法はまちなかの建築に有利

 私どもは、在来工法はまちなかの建築に向いていると考えています。「木造は台風や地震が来ると怖い。だから鉄骨造にして欲しい」と考えられるかもしれません。しかし鉄骨造をまちなかで施工しようとすると、基礎を最低でも1m掘らなければいけませんし、そうだと隣の建物が傾くかもしれません。現在の木造住宅は金具で縛っていますので、台風や地震でも大丈夫です。また軽く、建材が大きくありませんし、狭い場所でも家が建てられます。そして組み直しが簡単で、やり直しがききます。普遍的な技術を使用しますので、建築技術者が多いこともあります。

■施工の統一化

 在来工法のディテール(納まり)には標準がありません。技術の伝承は親方から子方、孫方へつながっており、横の連携が少ないことがありました。大工により千差万別の作り方をしているのです。私はそれを放置すると品質の一定の住宅が造れないと考えました。ゼロのディテールは統一され、そのことにより納まりの正否が判定できるようになっています。ディテール集は100頁以上に及び、そしてこれはお客様に差し上げています。そして建築途上でも、それを見れば現場がきちんと施工されているかどうかを分かるようにしています。

■木造住宅の性能比較はできなかった

 以前は、有名な会社や建築家、規模の大きな会社の建物性能が良いと思われていました。しかし、2000年に施行された住宅性能表示制度でその常識が大きく変わりました。もちろん今も大手の方が性能がよいと思われている面もありと思いますが、しかし値段が高いだけで、性能はあまり変わらないと思います。郊外に100坪の家を建てるとなるとデザイン性などは建築家には叶わない面もありますが、35坪程度のまちなかの住宅となると、絶対にうちの方が良いものができると思います。
 性能には施工基準があり、その通りつくると性能は確保されます。品質は性能評価の施工基準で確保できないものであり、防蟻や防水工事であれば、まちの工務店でもできます。つまり、構造フォームや商品性能と施工技術は違うのです。そして商品性能、例えば等級3程度であればうちでもできます。温熱等級4にすることも、外見上は簡単です。しかし問題は品質です。大手の会社は「中身の品質が違う」といいますが、では何で中身の品質を示せばいいのでしょうか。そこでゼロでは公開をすることにしました。施工途中、お客様からのアンケート、工法を全て公開し、大手が言う品質に対抗しようとしました。

■100年住宅の品質をつくる

講演の様子  今日の私のお話しを聞いて「それならうちでもできる」と思われたかもしれません。確かに、できると思います。しかし、100年住宅とするにはその後が大事なのです。
 まず、(1)劣化等級に等級3(最高等級、75年〜90年の寿命)があります。これは壁通気構造、基礎高、べタ基礎、小屋裏換気、防蟻、防水(浴室等)、そして公開でユーザーが品質検証しています。そして、(2)5年に1度の検査体制があります。これは「50年保証」をしており、併せて管理システムの整備と人材の育成をしています。住宅の全ての部位が100年保つかというと、そうではありません。屋根は30年から40年程度ですし、サッシも100年は保ちません。それぞれの部位をどのようにメンテナンスし、交換するかを考えないと100年使えません。さらに(3)維持管理が等級3であり、これは露出配管、点検口の設置、掃除口、人通口を設けています。(4)30年〜50年のサイクルで、屋根、壁、サッシ、配管の取替えが出来る構造、躯体を傷めない取替えができるようにしています。まちなかで建っている家は隣の家との隙間がほとんどないために外側からの取り替えができません。そこで、内側から取り替えができるようにします。ゼロでは耐力壁として筋交いを使っていますが、その空間を使って壁をとることができます。石膏ボードビス止めで外せるようにしていますし、基礎と軸組を残して取り替えることができるようにしています。

■明確なメンテナンス費用

 取り替えるやり方も明確にし、30坪程度でしたら全て取り替えても580万円程度でできるとお見せしています。点検費用についても、50年保証を出していています。民法の取り決めでは20年となっていますが、それ以降は民民で協議しろとしていますので、そのようにしています。そして点検しないと保証期間は延びないようになっています。例えば10年点検をすると保証が5年間延び、その点検費用は5万円程度です。5年で5万円ですから、1ヶ月800円程度です。
 中には「100年も保たなくても良い」という方もおられると思います。そのような方は、点検をしなければいいのです。

■住宅履歴書を持つ意味

 住宅履歴書は、住宅の品質の証明になります。10年ほど前から、クレームのあったお客様に対して、改修を行った内容などを克明に記録することをはじめています。住宅についてブラックボックスを抱えたままお客様に引き渡すのではなく、履歴書を添付して渡します。 その住宅が将来売買される際には、中古住宅市場の促進になるのではないかと考え、全て履歴書を作成してお渡しできるようにしました。

■16項目を考慮して家づくりをする

 ゼロの家づくりは、16項目を重視して家づくりをしています。つまり耐震、冷暖房、長寿、メンテナンス、防火、雨漏り対策、老齢化対策、採光、機能性、デザイン、未来性、防犯、価格、アフターサービス、エコ対策、シックハウス対策です。100年保つ住宅を作るにはこれらのバランス力が必要であり、それぞれの性能のギリギリまで大事にすることが重要です。
 100年住宅という考え方は時代にあっていると思いますし、多くの会社で採用されたらいいと思います。中部地方や九州などの会社もされたらいいと思います。その際、品質同様価格も大事ですし、信用も大事です。信用については、大手ではない限り公開しかないと考えます。このような取り組みが全国に拡がると、大企業は一層大変になると思います。全国に展開する大手企業は間接費が膨大になりますし、低価格の住宅は難しい。そうなったとき、私たちのような中小企業は大手に勝てるのです。

■品質と価格

 従来、低価格の住宅は低品質だと思われていました。今はこれではダメです。お客様に離反されてしまいます。地域限定、高品質、低価格、性能バランス力、アフターの万全な会社が市場に残る会社だと思います。ですからゼロは外に出ず、関西だけでやろうと思っています。全国展開をすると間接費が高くなり、低価格の住宅づくりはできません。

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