都住研ニュース

第38号 ●定例会ダイジェスト

定例会では様々な講師を毎回お迎えして、各テーマの専門的なお話をお伺いしています。そしてグループごとにディスカッション・発表を行い、様々な専門性をコラボレーションする場にもなっています。
ここでは、これまでに開催した定例会のダイジェストをお伝えします。

■第43回(平成21年1月30日)

 不動産の価値は『感性』で決まる! 〜不動産は見た目で何割が決まるか?
  講師:加藤 直樹 氏(京都大学大学院工学研究科 教授)

 スクラップ&ビルド体質の見直しから、フローからストック社会へ移行して久しいですが、既存住宅の流通を考えた際、その不動産の評価はまだ多くの課題が残されています。不動産のマネージメントの重要性がクローズアップされていますが、その評価については、まだ一般の事業者が採用するには至っていないのが現状です。
 不動産の「感性評価」とは、不動産を見た際に感じる「感性」で賃料を推計するというモデルです。新しいものを供給するだけではなく、今あるストックをいかに効率的に事業にのせるかを考える際の大きなヒントになるということから、感性評価を研究されている京都大学の加藤直樹教授を講師としてお迎えし、講演いただきました。

■不動産の価値

加藤直樹氏  今日お話しする「感性評価」は、今から2年半ほど前に取組み始めました。今日はできるだけわかりやすい内容で話して欲しいというリクエストをいただいていますので、数式はあまり使用せずお話しします。
 オフィスビルの価値を計るのには、どのような要因があるでしょうか。大きく、「ビルの諸性能」「地域要因」「経済状況」があると考えられますが、諸性能としては、賃料単価、築年数、貸室面積、基準階面積、階数などが上げられます。そして地域要因としては立地エリア、交通の利便性、エリアの平均賃料、エリアの平均空室率があります。そして経済状況としては好況・不況があります。さらに設備や水回り等も要因に含まれ、ビルを維持するだけではダメな状況と言えます。
 不動産の価値については、収益の面から見ると、大きく商品力と環境の要因があります。商品力としては立地ポテンシャルと建物ポテンシャルに分類でき、立地ポテンシャルはエリアランクというマクロなものに加えて、ミクロな要因として路線価、容積率、用途地域、事業所や企業統計、商業統計、駅の乗降客数、犯罪マップなどがあげられます。
 建物ポテンシャルとしては、延べ床面積や築工年などの要因があり、イメージの印象も大きく関係しています。内容としては外観やエントランス部、エレベーター、基準階廊下、トイレなどの多くの要因があります。これらの多くの要因を統計的に分析したものが「感性評価」です。
 ビルの収益性は、賃料と入居率が大きく関係します。これらは景気や市況、競争相手との力関係に左右されます。つまり、不動産の価値は価格に加えて商品としての立地や建物、環境としての需要と供給が重要であり、また10年、20年のスパンを考えるなど長期的に見ることが必要です。 また、周辺の開発にも左右されますが、これは捉えきれないケースもあります。
 理想的なビル事業としては、「収益性」「安定性」「継続性」の側面から見ると、まずリーシングについてはいかに高い条件で決めるか、いかに早く決めるか、テナントの顔ぶれ(業種など)、いかに長期の契約を締結するかが重要で、要素としては「近、新、大」、エリア力、立地力、建物規模、築年が重要な要素要因となってきます。テナント管理については、いかに高い賃料で継続できるか、いかに入居率を維持できるか(市況下落時)、テナント満足度が重要で、重要な要素としては立地、エリア、建物特性があげられます。建物管理についてはいかに安いコストでおこなうか(仕様と単価)、コスト変動が少なく済むか、いかに設備需要を延ばす管理をおこなうかがそれぞれ重要で、建物特性立地とテナント種別が重要な要素となります。
 資産維持については、いかに安いコストで資産維持をするか、追加投資でどれだけ賃料がUPするか、年毎の支出バランスが取れているか、資産価値を長く維持する方策を取っているか、社会的劣化に対応できるかがあげられ、そして重要な要素としては立地、エリア、建物特性、マーケットとなってきます。
 不動産は様々な外的要因によって左右されます。基本となる鑑定・評価の手法だけでは捉えきれません。つまりその周辺には個別要因があり、そして経済・市況環境や流行・トレンド、不動産マーケットにより左右される不動産経営分析が必要となってきます。そしてこれらには安定性、継続性、成長性の観点も重要であり、その指標は「ダウンタイム」と「テナント平均寿命」があります。

■オフィスビルの賃料の推定モデル

講演の様子1  駅から近いビルと遠いビルではどちらが賃料が高いでしょうか。同じ立地で大きいビルと小さいビルではどちらが賃料が高いでしょうか。大きい方が様々な需要に応えうるので賃料は高くなります。では、同じ条件で新しいビルと古いビルではどうでしょうか。これも、新しい方が賃料が高くなります。ほぼ同じ条件のビルはどうでしょうか。
 ビルのエントランスをみるとしましょう。例えば案内板に直接張り紙がしてあったり、資材やのぼりが放置してあったり。ビルの中に入ってみて、張り紙があったり、照明の中に虫の影があったり、私物が氾濫していたり。このような状況だと、イメージがよくありません。これが賃料にどのように影響しているのかを考察してみました。
 調査した項目は、まず建物要素、立地として「賃料」、「ビルスペック」として延べ床面積、基準階面積、地下階数、総階数、天井高、竣工後の年月、個別空調の有無、セントラル空調の有無、空調併用の有無を調べ、そして「立地環境」として、路線価格、最寄り駅分数、近隣路線数、周辺のゲームセンターやパチンコ等の遊興施設等を調べました。
 感性評価の調査項目については、総合評価、周辺環境イメージ、外観イメージ、外観1階テナント顔ぶれ、入口・エントランスホールイメージ、テナント顔ぶれ、エレベーターのイメージ、基準階イメージについて調査しました。大項目としては、「外観」として清潔感、年代感、「入口・エントランスホール」では清潔感、年代感、明るさ、広さ、「エレベーターイメージ」については清潔感、年代感、明るさ、そして「基準階イメージ」としては清潔感、年代感、明るさ、広さをそれぞれ調査しました。以上のような項目について総合評価を行いました。採点基準としては1〜5点の採点を行い、例えば「4」は可もなく不可もなく、というような評価となります。
 成約賃料単価と各要素との相関系についてみてみると、ピンクの要素が、正の相関関係であり、ブルーが負の相関関係を示しています。そして相関関係が正であったものとしては、基準階面積で、負の相関関係のものは竣工後経過月数、最寄り駅分数、がありました。
 他に天井高が低いと若干影響していますし、OAフロアかどうかも若干関係していることが見て取れます。路線価については、最寄り駅から離れると若干下がります。外観イメージや入口、エントランスイメージ、エレベーターイメージ、基準感イメージなどのマネジメント要素については、正の相関があることが、この分析を見るだけでもおわかりいただけると思います。
 築年数と総合評価との関係ですが、分布図で示したものから分析すると、緩やかに、築後年数に応じて総合評価が減少しています。
 「分散」、つまりデータのバラツキを考慮すると、万人に近い人に受け入れられるようなものが、マネジメントの点からは重要ということが言えます。
 竣工後の経過年数と総合評価の分散値の関係についてみてみますと、10年未満のものについては、評価はあまり分かれません。10年以上の物件については、女性の化粧同様、年数を重ねることと並行して丁寧に化粧することが大事だといえます。お金をかけてでもメンテナンスすることが重要なのです。
 平均賃料単価推定モデルを作成すると、様々な要素がありますが、絞り込んでいくと「基準階面積」「地下階数」「地上階数」「竣後工年月」「天井高」「分散値総合評価」になります。このモデルが現段階でベストというわけではなく、状況に応じて取り入れて行っています。
 この賃料推計モデルを使えば、「自分のビルの実力値(健康状態)が簡単にわかる」「実力を高める余地があるかどうかがわかる」「実力を高めるために、どこに対処すべきかがわかる」ということができます。つまり、科学的手法を用いたビル版の健康診断といえるのではないでしょうか。自分のビルの実力値が分かれば、力を入れて改善することができ、その結果賃料を上げることもできると考えられます。例えば、竣工年が20年経過したビルのマネジメントと評価が3.4点であった場合、評価項目を見ると入口、外観の点数が低いことが分かります。そしてそこに力を入れなければいかない、ということが分かります。また実際賃料が理論賃料の範囲内の場合は、マネジメントを見直すことで賃料を増額できる可能性があるとも見られます。そして「入口・エントランスホール」「外観」などを重点的にマネジメントの見直しをしてみよう、ということも検討できます。

■感性評価の決定要因分析

講演の様子2  感性評価の問題点としては、個人の主観によるものであるのでバラつきが大きいことがあげられます。さらに評価に影響を与える物理的要因が不明確なので改善方法の提案が困難なことも言えます。そこでオフィスビルのエントランスホールを対象として、素材・色彩・明るさ・規模・配置物といった客観的な指標による感性評価値算出モデルの作成し、感性評価に影響する要因を指摘し、それらの客観的指標を含めたときの賃料予測モデルの作成を試みました。
 自動販売機がおいてあったり、ゴミ箱があったりと中規模なビルのエントランスには様々なものが置かれているケースがあります。調査の結果、オフィスビルの賃料とエントランスホールの印象は関係性が大きく、その評価構造を客観的な指標を用いて明らかにすることに意義があると考えられます。
 調査の実施概要は、客観的なデータをとりながら、現地での写真撮影、照度測定、入口・素材の種類の記録、配置物の配置場所の記録を行い、大項目(総合評価)は5段階評価を行い、小項目は3段階評価を行いました。分析には調査員10名分の平均値を用いました。
 用いる分析手法は「重回帰分析」と「CAEP(Classification by Arggregating Emmerging Pattern)」で、後者は重回帰分析とは別に、感性評価値を平均以上・未満の二つのクラスに分類し、Emerging Patternsを利用した判別手法であるCAEPを用いて判別分析を行いました。CAEPではすべての変数を入力しても高い精度を持つモデルを構築できるため、重回帰分析において変数選択で選ばれなかった変数についても影響度を確認することができます。
 この分析を行った結果、清潔感については天井高や床素材、壁素材が石のものは良い影響を与えることがわかり、反対に悪い影響を与えるものとして、経年変化が分かるもの、床素材がクラスタ3、つまり白に近い色であることが分かりました。
 良い影響を与えるものは、面積、照度の平均が高く、植物などの配置物が目立たないこと、反対に悪い影響を与えるものは、床素材がタイルであったり、明るく色味が少ないこと、ゴミ箱が目立つこと、などが分かりました。このことから、エントランス部のマネジメントが大事であることがおわかりいただけたかと思います。

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