都住研ニュース

第32号 ●定例会ダイジェスト

定例会では様々な講師を毎回お迎えして、各テーマの専門的なお話をお伺いしています。そしてグループごとにディスカッション・発表を行い、様々な専門性をコラボレーションする場にもなっています。
ここでは、これまでに開催した定例会のダイジェストをお伝えします。

■第38回(平成19年1月30日)

 京都の不動産市場の課題と展望
  講師:
   吉田 光一 氏((株)フラットエージェンシー)
   山本 光伸 氏((株)長栄)

不動産業の業態別比較と推移

吉田光一氏  全国の業態別従業員数は平成3年から平成13年まで、14万4,000社から13万2,000社に減少している。京都府内の会社は3,740社だが、全国的に見ても業者数は減少している。不動産賃貸業、不動産管理業の従業員数は増加してきている。

賃貸住宅統計(全国比較)

 京都市内の世帯数は62万8,000世帯数で、住宅総数は73万2,000戸で、11万戸が供給過多な状態。居住住宅総数は市内で62万5,000戸、空家数は97,000戸で全体の13.2%を占めている。賃貸住宅総数は26万6,000室で36.3%、賃貸住宅の空家数は51,000室で19.2%となっている。
 民間賃貸住宅戸数は、全国では1,261万戸で、全体の23.4%を占めており、京都市内では20万9,000戸で全体の28.5%となっている。住宅の建て方については、長屋が11,000戸、一戸建てが26,000戸、共同住宅が17万2,000戸。これにより、古い戦前の建物がまだ多く占めていることがわかる。

賃貸住宅の実態


(1)ファミリー向けの不足

 借家世帯の総数は、1,672万9,000世帯存在しているが、うち二人以上のファミリー世帯数は921万8,000世帯。一方、50平方m以上の賃貸住宅のストックは562万6,000戸で、ファミリー世帯数から差し引いても358万2,000戸不足している。50平方m未満のストックは1,109万5,000戸と多く、ワンルームなど一人暮らしの大きさ物件は多いが、ファミリーで暮らすには十分の広さを備える賃貸住宅の戸数が不足している。

(2)高齢者・障害者向け住宅の不足

 賃貸住宅において、バリアフリー化が多少なりとも実現できている賃貸住宅は全体の10.7%であり、全く備えていないものが89.3%と大多数。

(3)安心・安全・快適性の不足

 持ち家に比べ違反建築は少ないが、貸し手市場の時代に建てられた建物が多く、収益重視で建てられ、日当たりの面や広さについて十分でないものが多く、安心・安全・快適性に欠けるものが多い。また、2建物や設備面で古いものが多くなっている。

(4)環境に配慮の不足

 収益性を重視するためにシステマチックな更新を行っているために、入居者が入れ替わる度にクロスを張り替えるなど、もったいない面がある。工事には費用がかかるので、全体として安普請でされているところが多い。

賃料等の動向

山本光伸氏  賃料の動向は、バブル崩壊までは緩やかに上昇してきたが、平成元年から3年にかけては急上昇し、単身者住宅では礼金や更新料の高騰も生じた。しかしバブルの崩壊以降は、貸し手市場から借り手市場へと変わってきた。
 京都市北区の物件を例に見ても、45平方mの2DKでは新築当初には70,000円でスタートしたが、平成3年には85,000円に値上がり、平成17年には67,000円へと下落した。下落率は22%で、18平方mの1Kの下落率11%と比較しても大きく下落している。最近では木造の賃貸住宅で家賃が2〜3万円の入居率が高い。賃貸住宅の居住者の二極化が進んでいる。

今後の市場の変化

 今後の市場の変化としては、「世帯数は2015年をピークに減少」「高齢者の増加や晩婚化により単独世帯は増加」「子育て世帯は1985年から減少、団塊ジュニア層では微増」「離婚やシングルマザーなど親一人世帯の増加」などがある。私は今後賃貸住宅のニーズが増加すると考えている。「所有」から「利用」への変化もあり、賃貸住宅は良いものがあれば必ず支持されると考えている。

政策による賃貸業界の転機

 平成9年、橋本内閣時に「不動産リノベーション」として、不動産業界の21世紀ビジョンが明確化された。つまり(1)まちづくり産業への脱皮、(2)流通および情報の整備、(3)円滑な不動産流動化(証券化)、(4)健全で透明な賃貸住宅市場形成と賃貸借関係の適正化、がうたわれた。
 加えて「定期借家制度」が施行され、賃貸借関係が変革した。「資産流動化法」が施行され、管理関係が変革した。これは平成10年に施行、平成12年に改正されたが、金融機関以外からの資金調達手法により、投資用不動産が大量供給された。これには大手の管理業界も展開することになり、平成16年には7.5兆円、平成18年度には累計額で30兆円を超える急成長の市場となった。

定期借家法の施行

 従来は、正当事由制度と法定更新制度の条文により、多くの家主が苦しんできた。このため貸すことを嫌がる家主が増加し、ビルや駐車場への偏った活用や利活用されない空家が増加していた。法律の改正により、賃貸住宅供給には大きな変化が生じた。例えばこれにより賃貸物件として町家が供給され、町家の保全再生に繋がったり、不良入居者の排除が可能となった。また計画的な資産運用が可能となり、加えてこれまで入居基準が厳しいことで高齢者や外国人、無職の人などの入居可能性が拡大された。

(財)日本賃貸住宅管理協会(JPM)

 当協会は、全国1,077社で構成しており、合計の管理戸数は約260万戸で全体の21%を占めている。京都では58社で管理戸数は約8万戸、全体の38%を占めている。この協会では業界ではじめて「賃貸住宅管理士資格」のための研修や試験を実施し、協会としてのビジョン「所有と経営の分離」を打ち出した。

京滋お部屋探しネット

 賃貸住宅の仲介(媒介)を主業務とする業者の集まりで、現在23社で組織。消費者からの苦情・相談の多くが賃貸借をめぐる内容が多いことや、大手フランチャイズによる出店等で、仲介業者から改革しなければ衰退するとの危機感から当初10社で賃貸住宅契約書式等の標準化、資質向上、コンプライアンス遵守など多岐にわたり、昨年6月組織化。消費者視点の立場からより解りやすい賃貸借を目指すために内容を充実した重要事項説明などの書式の見直し、特に原状回復問題や契約金預かり問題等を統一化、契約前のお部屋探しガイドブックと契約後の快適生活ガイドブックを作成している。

賃貸住宅に関する業務

レクチャーの様子  不動産のファンドの時代、ものを扱うだけではダメになってきた。プロパティマネージャーとして、管理受託業務を行う必要性が生じてきている。具体的には、入居者管理、会計管理、建物美化管理、建物及び設備定期検査、建物修繕計画、定期報告。以前は大家さんが分離発注をしていたが、プロパティマネージメントの考えが浮上し、管理業として収入を得ようとするのであれば、全てのことができないと仕事として成り立たなくなってきている。加えて、資産の管理及び活用提案なども求められており、コンサルタントとしての機能がプロパティマネージャーには求められてきている。

資産流動化法の施行

 資産流動化法とは、不動産を小口証券化し、一般投資家から資金調達するスキーム。これにより投資用不動産が全国に供給された。特にREITの上場により拍車がかかり、機関投資家はこれらの不動産私募ファンドにより投資効率を上げた。つまり大量な資金により、良好な賃貸住宅を供給し、専門知識をもったマネジメントにより、質の高いサービスを提供する仕組みで、全国統一規格となっている。資産流動化法の施行に伴い「所有と経営に分離」の観点から管理会社に管理業務だけでなく「リーシング力と提案力」を備えた管理会社が要求される時代となってきた。

仲介(媒介)とリーシング

 仲介(媒介)は、借り主・貸し主双方の希望・要望により、宅地建物取引業法の規制のなかで、紹介・斡旋・契約作成などを行う業務。貸し主側に立ってマネジメントすることで、収益や資産価値の向上を図る。当然そこには借り主に快適な居住やサービスの提供が重要視されるが、主にサブリースによる運用が多くなっている。住宅やオフィス・店舗などの賃貸不動産の特性を生かし、収益性、環境性などを考慮し最良のテナントと契約する。リーシング力の良し悪しで評価するので、この業務には「コンサルティング力と提案力」が強く求められる。

業界への提案

 まず、景観や美化活動への参加を提案したい。この写真はニュージーランドのオープンハウスを示す写真だが、景観に馴染んでいる。このように業界全体でルールを作れば、景観やまちなみへの配慮も可能だと思う。加えて、消費者から指示される市場を形成することが必要。そのためには、「住み替えのしやすい環境作り」と「まちなみ・景観を考えた活用提案」が必要だと考えている。具体的には、質の高い賃貸住宅と質の高い管理を行い、豊富なバリエーションのある賃貸住宅を供給、安心で透明な賃貸市場と情報の一元化、定期借家制度を普及・促進し、だれでも入居できる環境整備が必要だと考える。

政策への提案

 現在、持ち家について税制等優遇があるが、民間賃貸住宅は社会的役割を担っている割には優遇措置がない。一方、公団や市営住宅など公共政策としての住宅も供給されているが、賃貸住宅は今後、民間に任せて欲しい。そして、民間の活力を生かすために一定要件(安全・面積・入居対象者等々)を備えた民間賃貸住宅に対しては、賃料の一部助成や税制面、具体的には公租公課の軽減、割増償却、持ち家の賃貸化に優遇措置などの優遇があればと考えている。環境的な視点としてはアスベスト・耐震などの調査・診断等への相談窓口や助成の設置、民間賃貸住宅の公営的活用も提案したい。さらに定期借家契約をより使いやすい形への改正、そして何より貢献した大家さんに対してきちんと評価することが重要だと考えている。

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