都住研ニュース

第31号 ●定例会ダイジェスト

定例会では様々な講師を毎回お迎えして、各テーマの専門的なお話をお伺いしています。そしてグループごとにディスカッション・発表を行い、様々な専門性をコラボレーションする場にもなっています。
ここでは、これまでに開催した定例会のダイジェストをお伝えします。

■第37回(平成18年9月5日)

 京町家の不動産証券化への道のりとこれから
  岡本 秀巳 氏(京都不動産投資顧問業協会 理事長)

岡本秀巳氏  平成18年6月、京町家証券化の取組がスタートしました。不動産証券化は全国的にも事例がありますが、木造の京町家を対象とした証券化は、全国的にも例がありません。今回の証券化は、いわば京町家の不動産としての価値を実証する運動とも言える取組とも言えます。そしてこの運動は、多くの方の思いと応援を受けながらの展開でもありました。
 今回は、京町家証券化の仕掛け人でキーマンでもある岡本さんをお招きして、京町家証券化の内容と経過、そして今後の展望などについてお話しいただきました。

不動産の証券化とは

 資産の流動化・証券化とは、一般に、金銭債権や不動産などキャッシュフローを生み出す資産の所有者が、その資産を法的会計的に切り離した上で、その分離した資産が生み出す収益(賃料収入等のインカムゲインや売却益等のキャピタルゲイン)を裏付けとして社債や有価証券を発行することによって、投資家から直接資金調達する仕組みのことをいいます。この資産が不動産である場合、不動産の証券化といいます。
 不動産の証券化はアメリカからやってきました。SPCは「特定目的会社」の略ですが、私達は和製造語として、頭文字を取って「TMK」を使っています。TMKは不動産の証券化を限定に使うとし、SPCはもっと広い意味で使っています。
 不動産証券化の実績の推移は、実績数は鰻登りです。平成17年度で6兆9000億円、1,734件の実績があります。前年比29%の上昇です。平成9年からの累積では25兆円。中には転売など別のファンドに移ったものもあり、段々と動きが出てきているのがわかります。
 これらが普及したのは、バブル以降です。日本経済が低迷する中、不動産の処分という課題が深刻になった背景があったからです。不動産証券化は、不動産と金融の融合が進んだ結果生まれたものとも言えます。

京町家証券化に至るまで

 首都圏を除き、地方圏は経済が疲弊していました。そのような中、「不動産証券化手法を活用した地域活性化方策に関する調査(2003.10)」が実施されました。この対象として、京都市が全国の中で唯一、手を挙げて町家をモデルに取り組んできました。そして半年にわたって研究が展開され、まとめが出されました。その国交省総合政策局が2004年3月に出したまとめは「証券化不可能」ということです。ただし、可能にする条件として、(1)アレンジャー費用の引下げ、(2)篤志的な出資、をあげています。
 報告書の中にはこのような一文があります。「京町家は文化的価値を有するものであり、こうした物件を証券化するためには単に経済性を追求したスキームで進めていくのではなく、行政や地域住民、地元の業者、地域金融機関、投資家などが地域振興、地域活性化への貢献という共通の視点で連携する必要がある。そのとりまとめや調整を行うリーダーシップを発揮できるような主体をどのように選定していくかという点も今後議論していくべきであると言えよう」。
 今回の証券化の出資者を対象としたアンケートを実施、現在集計中ですが、「配当は要らない」という篤志的な方が何割おられるか興味があるところですが、このような方々がいないと、難しいと考えられていたのです。
 その後、京都市・京町家再生研究会・(財)京都市景観・まちづくりセンター・当協会で「京町家不動産証券化実施に向けての研究会」を2004年3月に立ち上げ、動き出しました

京町家証券化にあたって考えたこと

 研究会では、2年間に渡って物件の取得を目指して飛び回りました。物件を探す中で、かなり立派な物件も見ました。ご承知の通り、現在町家はかなりの人気物件であり、四条通に面すると1千万円単位で価格がせり上がっていくような状況でもあります。このような中に参入することは、町家の価格、ひいては地価を上げることに加わるだけになります。そのため、私達はこのような立派な町家を深追いすることはやめました。
 そしてついに今年の2月頃、メンバーであるハチセさんが物件を3軒取得、町家証券化に向けて動き出しました。
 今回はアレンジメントを全て自力でやろうと考えました。もちろん、免許が必要な作業については専門家にお願いしますが、可能な限り、自力でやろうと考えました。そして、プレイヤーを全て地元メンバーでやっていくこと、広く市民・団体に周知、出資を募ることを目指しました。
 加えて、地元金融機関によるシンジケートローンを確立しようと思いました。都市銀行には証券化のノウハウが既にありますが、今回の証券化ではコストがあわないと判断するでしょう。「最低で5億円」と言うでしょう。ですので、ぜひ、この機会に地元の金融機関と協力しながら、一緒にやっていきたいと考えました。第1・第2の優先劣後の仕組みを整えること、1億円以上の証券発行規模を目指しました。当初は3億円規模を目指していましたが、物件を確保するのが難しいとして、3戸1億500万円として、これを最低ラインとして進めることとしました。
 加えて、京町家の保全・活用と不動産証券化の認知を行うことも、大きな目的としてありました。

京町家証券化のスタート

レクチャーの様子  3軒の取得とリーシング(東山安井・六角新町・新宮川町)がスタートしました。借り主のご理解もあり、オープン前の家賃負担についても了解いただいている物件もありました。
 今年の4月には、京町家証券化TMKが設立、近畿財務局長(会)第17号として、6月15日に受理されました。
 6月18日にこの「ひとまち交流館」で京町家証券化に関するシンポジウムを開催し、非常にたくさんの方にお越しいただきました。その後公募の受付を開始し、6月26日の午後3時に締め切りました。そして、6月27日に証券化がスタートしました。
 第1優先出資に5,500万円、第2優先出資に1,000万円、そして特定借入として地元の京都中央信用金庫と京都銀行の4,000万円の合計1億500万円でスタートし、金利は3%の5年間固定です。
 通常、このような証券化業務には何百万円ベースの報酬が支払われると聞きます。しかし、今回の京都の取組では、多くの方のボランティア的取組により、実現できました。

京町家証券化の投資家

 今回の町家証券化の申込総額は、7,000万円を超える、723口のお申し込みをいただきました。申し込み人数は、総数で238人にも及びました。出資者の調整はハチセで調整していただき、209人の方と成立、合計5,500万円に至りました。大口の方は口数を減らしていただいたり、書類に不備のあった方にはお断りさせていただいたりと、調整は大変だったとききます。当初、私達は200人を想定していましたので、ほぼそれに近い数字となりました。一人あたりの口数は、2.6口となりました。
 当初、私達はこれだけ多くの方にお集まりいただけるとは思ってもいませんでした。都道府県別に見ると、マスコミに取り上げられた分、遠方から出資いただいた方もおられますが、結果的には府内が162人(77.5%)と一番多く集まりました。

問題点と今後の方向


(1)物件の取得・再生(リフォーム)

 京町家を取得するにあたって、マーケットにあるものを取得するのは難しいと感じました。地価をつり上げることに参画するのは、その趣旨から望ましいと考えません。ですので、例えば相続などで困っている人の情報をいち早くキャッチして、証券化物件としていくことが相応しいと思います。また、当初はかなり劣悪な状態ということも想定できます。リフォームしていく際の質の担保方法が課題としてあげられます。

(2)スキーム・・・TMK方式・公募

 今回はTMKとして、広く公募方式を採用しましたが、取り組むサイドの負担がかなり大きくなりました。プロである証券マンを入れるとコストがかかります。関係者の労力で進めるのはわかりやすい構図ではありますが、限界があります。

(3)プレイヤー、特にオリジネーター

 肉体的な負担がかなりありました。以前東京の専門家にお話を聞いた際「証券化は頭脳ではない。体力だ」と言われていましたが、それがよくわかりました。

(4)出口戦略・税務と会計

 5年後には物件を売却して償還しますが、いくらで、誰に売却するのか、ということも大事になってきます。売った先がその町家を解体してしまったら、これまでの努力が水の泡になります。そして高く売却すれば、地価をつり上げることに繋がりかねません。一方で、キャピタルゲインの配当もあります。いかに次の所有者にバトンタッチするかということが、今後問われてきます。
 さらに、「京町家保全・再生の意義」、つまりもっとコンセンサスを得ながら進めていく方法が問われてくると思います。加えて「不動産証券化手法の有効性」として、京町家を保全・再生するにおいて証券化の手法がどれだけ有効であるかという検証が必要です。また「小規模・コスト対策・普及策」「身軽なスキーム・信託の活用等」についてもふまえて、さらに魅力的なスキームを構築していく必要があると思います。その手段として、信託というアイテムを入れていくことも考えられます。信託受益権として金融に乗せる手段もありますが、しかしこれだと一般市民に触れなくなります。この辺りが難しい点であり、知恵を絞っていきたいと思っています。

 今回は京都市、京都市景観・まちづくりセンター、京町家再生研究会、そして私達協会と性格の異なる4者が協働で進めて参りましたが、「町家の証券化」という点では一致しました。それぞれの考え方や価値観には違いがあり、コーディネートは色々と難しい面がありました。結果的には良い結果となりましたが、途中には色々と無理なお願いも聞いてもらったりしました。
 そして何より、現行では「既存不適格」である町家を証券化する難しさを実感しました。通常、大手ゼネコンなどが供給する商業ビルなどが証券化対象となりますが、今回はそうではありません。そして両金融機関も、今回の取組は初めてのことでしたし、私達同様、右往左往したことがありました。そしてそのことにより、両者に無駄な作業があったことも事実です。次に展開する際には、もう少しスムーズには行くと思います。

井上 誠二 氏(京町家証券化特定目的会社 代表取締役)


井上誠二氏  私達中小企業には、地域に貢献するという役割があります。今回の町家の証券化は、京都に根付く私達の手で事業を展開することに意義があったと思います。今回の取組は構想づくり、組織づくり、仕掛けづくり、人づくり、仕事づくりが地域づくりに繋がっていくと考えています。今回は非常にタイトで厳しい時間の中での取組であったと思います。
 今回の事業は規模1億円程度ですが、200人を超える方の参画を得ることが出来ました。これを契機に、ますます大きな運動に繋がって欲しいと願っています。

西村 孝平 氏(京町家証券化 オリジネーター)


西村孝平氏  今回対象の町家は全て店舗です。居住用でも良かったのですが、証券化の中で配当や利回りを考えると、店舗しか考えられませんでした。
 今回出資いただいた方を対象に実施したアンケートには「配当が3%無くても参加したか」という項目に対し、どのような回答があるのか、結果を楽しみにしています。出資者の方と直接やりとりも行いましたが、中には町家の保全というよりは、純粋に出資対象として考えておられた方もおられました。どのような思いを持って出資されたのか、アンケート結果を楽しみにしています。

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