都住研ニュース

第30号 ●定例会ダイジェスト

定例会では様々な講師を毎回お迎えして、各テーマの専門的なお話をお伺いしています。そしてグループごとにディスカッション・発表を行い、様々な専門性をコラボレーションする場にもなっています。
ここでは、これまでに開催した定例会のダイジェストをお伝えします。

■第36回(平成18年5月11日)

 循環型地域経済に貢献する住まい・まちづくりとは?
  塩見 紀昭 氏 ((株)明和住販流通センター 代表取締役)

塩見紀昭氏  今回は、住まい・まちづくりに関する内容の中でも、プロパティマネージメント(以下PM)、つまり付加価値型の不動産経営という視点からお話をいただいた。不動産事業者にとっては、賃貸住宅はストック型のまちづくりを考える際には重要な物件である。住宅は「建築する」ことと、出来たものを「経営する」、そして「リフォーム」をして、最終的には「除却する」。これら建物の一生に渡り一貫して扱うことが重要であり、建築物をいかに経営していくかという様々な手法が存在している。今回は塩見氏の事業活動や考え方を紹介いただき、PMについてわかりやすく解説していただきました。。

賃貸管理業とは

 賃貸管理業とは、どのような仕事か。借り主の募集(リーシング)や賃料の代理受領、クレームの受付や解約・受け渡しなどという流れが主な仕事である。また建物のハードの管理だけでなく、清掃なども含めた賃貸管理も行っている。これは、私の会社の賃貸管理の分担表であるが、実に多くの項目が存在している。

PMの定義

 「PM(プロパティマネージメント)」「AM(アセットマネージャー)」については、現在の管理業との違いを言うことがわかりやすいと思う。つまり、単に管理をするだけではなく、「資産の最大化を図ること」、そしてそのために「収入の最大化を図ること」である。
 つまり「NOI(手取り賃料)÷Cap Rate(期待利回り)=Value(不動産価値)」ということ。例えば、家賃が月額6万円で利回りが10%であると、不動産価値は720万円。この不動産価値を上げることが、PMということ。つまり、期待利回りが5%であれば、不動産価値が2倍になる。では、このために従来の管理から何を変えていけばいいのか。

相違点は何か?


・テナントリテンション

 「入居者の保持・維持」ということ。テナントの大切さをまず指摘したい。空家率は、「年間の解約戸数÷平均空室期間 総戸数×12ヶ月」で考えたとすると、例えば「年間解約戸数6戸÷平均空き室期間2ヶ月=10%」となる。これに空き室期間が4ヶ月になると、20%になる。一方、年間解約戸数が3戸で、平均空き室期間が2ヶ月だと、5%になる。この視点が大事なのである。これまで、「空き室の期間を何とか埋めたい」として、リフォームをしたり、敷金を安くするなどのことはされてきた。ところが、案外、「今住んでいる入居者を解約させない」という努力はされてきていない。入居者アンケートをまめに採ったり、退去される際は早い目に行ってもらうような努力をすることが大事。オーナーや客へのアンケートは、取るだけではなく、もちろんフィードバックしていくことが大事。私たちは、このようなアンケートをこまめに実施するとともに、店毎の対応についてのアンケートも行い、このように採点して表にして管理している。このような取組も大事である。

・リスクマネージメント

レクチャーの様子  ハインリッヒの法則にも示されているが、致命的な失敗は突然起こるのではなく、必ず予兆がある。例えば、六本木ヒルズでは回転扉に子どもが挟まって亡くなるという悲しい事故があったが、これにも予兆があった。何人かが挟まって怪我をする事故が起きていた。このような予兆の段階で、リスクマネージメントを考える必要がある。
 リスクマネージメントの定義は、リスクの頻度の程度の方程式の基づき、費用対効果を勘案して、リスクを避けること。段階として「予知」「予防」「発生」「対処」「処理」「教訓」があるが、通常、発生から後のプロセスについては日常的にしている。しかし、リスクマネージメントは「予知」「予防」が大事。
 今から14〜5年前に、私たちの業界にとってとても大きな事件が浜松で起こった。管理会社の社員が鍵を持ち出して、女子大生の部屋に忍び込んで殺人を犯した。この事件では管理会社も訴えられ、1億7,000万円の損害賠償を伴う実刑が確定した。これは、経営者にとってのリスクであるが、多くの経営者が「うちの社員に限って」と思っている。
 では、このような事件の発生を防ぐためにどうすればいいのか。これは「管理会社が入居者の鍵を持たない」しかないと考えられる。現状では「何となく管理者として鍵を持っている」というものがあるが、必ずしもオーナーが鍵を持たなければいけないわけではない。私どもの会社は、物件により鍵を持つものと持たないものに分けている。客に「私たちは鍵を持ちません。その代わり鍵を無くしたときは自分で鍵屋を手配してください」という。この時、私たちは客に鍵を無くして鍵屋を呼ぶというリスクを客に渡したのである。

・値下げと再投資

 例えば家賃を5,000円下げるにおいても、「値下げする」のではなく「設備投資等の資金を借り入れてその返却に回す」という考え方が大事。家賃を下げることも当然効果はあるが、PM的には「値下げ」ではなくオーナーの受け取りを考えて行くことが必要。5万円の家賃の物件においては、金利を勘案して、10年間運用に得られる金額は868,707円になる。これは将来価格と等価であるという考え方である。
 安易に値下げをするのではなく、このような考え方を持って運用していくことが大事。私はいつも「金融電卓」を持ち歩いているが、このような計算が直ぐにできるし、日常的にこのようなトレーニングをしていくことも必要だと考えている。

・賃貸住宅における長期修繕計画

 賃貸住宅において、長期修繕計画を作成しているところは多くない。私どもの会社では、賃貸住宅においても長期修繕計画を作成している。これからは、新しく建てるときにも、中古の物件においても、長期の修繕計画を立てていくことが必要だと考えている。賃貸住宅には木造も鉄骨造もコンクリート造もある。それぞれに応じて、計画を立てていくことが必要。このためには、建築士等と組んでチームでやっていくことも必要。私たちは建物の単価を題して、オーナーと話し合いをしながら進めている。
 しかし、これまでなぜオーナーは計画してこなかったのか。「壊れたら直す」という人が多いのも確かだが、このような積立金は経費に算入されないこともネックになっている。このような点については、PMとして必要になってくると思う。

・倫理観をどう捉えるか。CPMとは?

 私はアメリカでCPM(公認不動産管理士)研修を受けているが、ここで一番印象に残っている授業に内容がある。三層のピラミッドの底辺が「法律」であり、この上に「倫理」「道徳」が重なっている。法律は最低限のルールであり、この3つの中でも特に「倫理」が大事である、ということ。そして研修では、この「倫理」について、徹底的に勉強する。
 具体的には、「客に十分に知らせて、了解を得た上で進める必要がある。リベートなどは一切受けてはいけない」というものがある。例えば、管理業者は損害保険の代理店を兼ねることが多いが、これについて、私は講師の方に質問してみた。「その事実は、オーナーは知っているか」という質問を逆に受けた。つまり、そこが大事なのである。「日本ではハウスメーカーの営業で地主と組んで、アパート経営をしているが、進めることで2%の手数料をもらうことはどうか」と聞くと「オーナーが知らなければ、犯罪だ」といわれた。つまり、オーナーに情報を公開して、説明する必要がある、というのがPMである。

PMは川下産業か

 日本の不動産の業態ファンドは累計20兆円になっており、ここ数年ではすごい勢いで伸びている。不動産管理のポジションは、アメリカでは「(1)サイト/ビルディングマネージャー」「(2)PM(プロパティマネージャー)」「(3)AM(アセットマネージャー)」となっている。というのは、アメリカは高層で大規模の物件が多いからである。一方日本は集数件の物件もあり、アメリカと比較しても規模が小さいことから、?と?を兼ねて、物件の現場管理とPMが合体している場合が多い。
 PMの考え方では「物件の価格が高いから、家賃が高い」のではなく、「賃料が高いから、物件の価値が高い」というものである。そしてオーナーと投資家が違う時代がやってくることになると思う。オーナーは所有に終始して、経営はPMに任せていくという時代になりつつある。もちろん、中にはプロの地主も存在するが。そのためには、我々事業者は、これまでのようにオーナーを相手にするだけではなく、AMと対峙するときが来る。そのためにスキルを磨いておくことが必要である。事実、投資家もすごい勢いで増加してきている。

講師紹介

 塩見氏が代表取締役を務める「明和住販流通センター」は、昭和62年の設立以来、「資産運用型の賃貸住宅の管理」を行っておられ、特に「分譲マンションの賃貸管理」という分野を先駆けて行ってこられた。賃貸管理は「プロパティマネージメント」の考え方に基づいている。つまり、オーナーから預かった資産を『投資商品』として考え、その投資効率を最大限まで高めるための管理手法を展開されている。塩見氏自身がアメリカに何度か訪問し、本場の「プロパティマネージメント」を習得し、アメリカ最大の賃貸管理業団体IREM(全米不動産管理業協会)が教育・認定するCPM(公認不動産管理士)を日本で初めて取得されている。

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