都住研ニュース

第65号 ●定例会ダイジェスト

 定例会では様々な講師を毎回お迎えして、各テーマの専門的なお話をお伺いしています。そしてグループごとにディスカッション・発表を行い、様々な専門性をコラボレーションする場にもなっています。
ここでは、これまでに開催した定例会のダイジェストをお伝えします。

■第70回

日 時:2021年7月8日(木)19:00〜
場 所:京町家賃貸モデル事業第1号京町家
参加者:対面参加10名(YouTube live併用)

京都市が実施している「京町家賃貸モデル事業」。今回の定例会の会場は、第1号に選定された壬生の築約90年の京町家(詳細は本号の住まい・まちづくり拝見!参照)。
この事業の関係者の皆さんが集い、意見交換を行いました。今回は、定例会はじめての取り組みとして、対面での参加を可能な限り抑え、オンライン(YouTube live)で配信しました。(配信協力:ANEWAL Gallery)

京都市が空き家をマスターリース? 京町家の流通・再生の新しい展開

三原一男氏 三原 京町家は美しい景観を形成するだけでなく歴史文化を継承する役割も果たす。 所有者、使用者、工務店などの努力によって残ってきたが、少子高齢化や空き家問題があるなかで京町家も減少している。平成28年調査によると4万軒現存し、年800軒ずつ解体されていることがわかった。
 多様な主体で京町家を守るルールを作ろうと「京町家条例」や「京町家保全・継承計画」を定め、助成制度をはじめとした多様な支援を用意し、市に登録された専門家による活用希望者とのマッチング制度などにより,解体以外の選択肢がないかを所有者や専門家と共に一緒になって考えさせていただいている。
 併せて今回のサブリース事業を京町家を不動産市場に流通させる取り組みとして開始した。サブリース事業は、京町家条例に基づいて指定した京町家を対象としており、主に大きく改変されずに現在に継承されている個別の京町家1,146軒と集積率が高い地区を職住の田の字地区も含め15 地区(約6千軒)を指定している。

山下善彦氏 山下 7年ほどからインバウンドの波に乗り、京町家を簡易宿所に転用するプロデュースを約100棟してきた。ファイナンスやファンドを作るなど多様な展開をしてきたが、コロナ禍になり、これから先どうするか岐路に立っているなか、今回の事業に応募した。
 京町家の利活用の推進のためには、所有と利用の分離が必要と実感。さらにファイナンス、資金調達で改修費用を確保し、多くの人から改修費用を集めることを提案した。
 元々京町家は商家で住みながら働くのは本来の姿。しかし改修してテナントをつけるだけでは面白くないので、京都に魅力を感じるベンチャー企業に入居してもらうこととした。工務店や建築家と話し合いを重ねてチームで行った。改修費用はクラウドリアルティとジョイントした。
 京町家は、私的な財産である一方、公的な財産でもあると考えるのでそれをみんなで支えるのが理想的。税金だけではなく、それを小口投資で実施するのが理想的。
 固定資産税相当で借りられるのは、京都市だからこそ可能なもので事業者にとって賃料の面でメリットがある。

柴田駿氏 柴田 我々は不動産クラウドファンド(以下CF)のプラットフォームを提供している。
 起案者と投資家、つまりプロジェクトに共感する人をオンラインでマッチングするサービスを提供している。京町家を宿泊施設にするものや保育園を都心に作る取り組み、飲食店開業など幅広いプロジェクトを支援している。
 CFと一般的な資金調達、つまり銀行からの借り入れや株式公開との違いは、より個人の価値観に応じた資金調達が可能なこと。銀行借り入れは間接金融であり、CFは直接金融となる。
 銀行の預金者は銀行が決めるが、CFは個人の価値観で資金を流すことができる。自分の価値観に合致したり、社会にとって必要だと考えるものに資金を提供することができる。資金の使途についても、CFでは自分で選ぶことができる。
 オフィスや住宅は不動産の用途の中でもリターンを返しにくいため、投資型が向いている。今回のCFは3年間の企画、1ヶ月ほどの募集期間で約3千万円集めることができた。

田中謙伍氏 田中 私たちはAmazonの出身者で、GROOVE・Mobiusは Amazonを中心にインターネット通販(EC)で企画した商品を売る仕事をしている。
 この拠点で住みながら働き、新しいモノづくりの場としたい。私たちはECを通して日本のモノづくりを海外に発信したいと考えており、山下さんとご縁をいただいて、ほぼ即日即決でここに入居することとした。アイデアを自分たちだけで考えるのではなく、住みながら働くことで地域の多様な人との交流して着想を得たい。
 私はこの半年くらい週末だけ京都暮らしをしており、気付いたことがある。京都には西陣織のような伝統的なモノづくりだけでなく、京セラはじめ世界レベルのモノづくり企業があり、技術的には300年ほどのギャップがあるモノづくり産業がここ京都のまちの中で共存している。
 そこに私たちが学ぶべきものがあると信じており、そのためには、住まないとダメだと考えた。 今井さんはここにほぼ常駐という形で暮らす。
 モノづくりの課題と京町家の課題は共通点が多いと感じる。それは、 残していくためには変わっていかなければならないということ。今回のプロジェクトはいろんなバトンが上手く行き渡ってここにいると感じており、我々もこのバトンを正しく繋いでいきたい。

今井文哉氏 今井 Mobiusはここの着工と同時に登記した会社で、この京町家、京都を最大限使いながら仕事をしていきたい。
 例えば「たびあと」、旅行の後も余韻に浸る時間に関連する事業をしようと思っている。インバウンドがなくなったなか、旅行やホテルと共同で商品開発し、物販をしてもらいながら客室単価を上げる取り組みを一層進めたいと思っている。
 ゆくゆくは商品のブランドを先に知り、宿泊に訪れてもらえるような展開も期待している。

酒谷 横浜の金沢区で事務所をしているが、私も妻(藤原)も京都の大学で建築を学び、京都で9年間暮らした。妻は京都で生まれ育った。田中さんと高校の同級生だったご縁で設計を担当した。
 大学生の頃は本当に楽しかった。一方で、町家についてはあまり触れてこなかった。しかし学生生活と町家が無関係だった訳ではなく、建築の文化や景観を背景にして豊かな生活があったと感じている。今回は職住一体として、日々の生活を豊かにするコンテクストとしての京都のまちがあることを建築で表現したいと考えた。
  Mobius の発信をきっかけとして、働く、暮らす空間としての可視化と文化を多くの人に伝えることを目指した。
 京都のまちの構造や長く続く文化と、新しい生活様式が組み合わされと全く新しい価値が作られると考えている。歴史の中にもっとクリエイティブに考えるきっかけがあると感じた。京都の中でもっと新しいことをする余地があると感じられた。
 京町家に手を加える設計を考えるうえでは一定のルールというか、何らかの仕組みは必要だと思う。
 一方で、京町家の本来の空間や形態、要素等、目に見えやすいものだけで設計を縛ってしまうと、返って設計者の創造性を潰すことに繋がり、京都のサスティナビリティを阻害してしまうのではないか。
酒谷粋将氏 藤原真名美氏  もちろんエリアによっては伝統を第一に考え、継承するところもあると思うが、全てではなく、次の京都の価値を作るエリアとそれを担う設計者の挑戦を促す土壌が必要だと思う。

藤原 改修前の写真を見ると、皆さんが座っているのはミセノマで、ここをどのように使っていくのかを考えた。
 Mobiusさんは自由に使いこなせる方だと考え、通りに近いところにパブリックスペースを設定し、奥に行くに従い居住にも使える空間とした。ワークスペースは吹き抜け空間とし、2階にもオーディエンスが集え一体的に使えるようにした。
 新しい素材と古い素材を同居させるのが難しいところでもあり、やり遂げたかったところ。所有者さんとも話を重ね、この町家が経てきた長い時間を新しい空間にも引き継げるように工夫した。古いものを残すだけでなく、新しいものもあえて積極的に導入した。

QR詳しくはYouTube「都住研チャンネル」でご覧いただけます。
https://qr.paps.jp/9ATqV

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