都住研ニュース

第59号 ●定例会ダイジェスト

 定例会では様々な講師を毎回お迎えして、各テーマの専門的なお話をお伺いしています。そしてグループごとにディスカッション・発表を行い、様々な専門性をコラボレーションする場にもなっています。
 ここでは、これまでに開催した定例会のダイジェストをお伝えします。

■第64回(平成29年11月28日)

 今年6月2日に「不動産特定共同事業法」が改正され、現物不動産ファンドの組成・運用の可能な範囲が拡大された。具体的にはクラウドファンディングの導入が可能となり、不動産の活用の展開の拡大が期待されている。
 定例会では、国土交通省の小規模不動産共同特定事業を活用した遊休不動産の再生に向けた支援先に選定された、「株式会社ゆい」の扇沢さんを迎えて、京都で実際に着手している事業、そして今後の展開についてお話しいただいた。
 近年は空き家や遊休不動産の増加が続く中、将来の不動産価格の下落が懸念されているが、先般は「全国の所有者不明土地」が九州の面積を超えるとの発表もされ不動産を取り巻く環境は予断を許さない状況である。では、より価値ある活用をするにはどうしたらよいのか。その活用を通じて地域のまちづくりに繋げるにはどのような展開が考えられるのか。

【講演】

不動産型クラウドファンディングのこれからとコミュニティ型まちづくりの未来
 ─中央卸売市場エリアのリノベーションの実践を通じて─

講師:扇沢友樹氏(株式会社ゆい 代表取締役)

扇沢友樹氏  私は、大学を卒業してすぐに起業し7年前からシェアハウスの運営をしている。いくつかの事業のうち、REDIY(リディ)について紹介したい。
 ここは京都市卸売市場の一角(宝蔵町)にある。市場の一角に民間の土地が点在していて工場や倉庫が沢山あるがピーク時より卸売業が1/3に減少していて、空き工場、空き倉庫が増えている。REDIYは元乾物屋で、7、8年前から空いて放置されていたものを一括借り受けてサブリースしている。
 元々は3階が社員寮、2階が事務所兼作業場、1階が店舗であった。ここを木工工房もシェアできるスペースとして企画し、ゲストスペースを活用しながら運営している。上階はシェアハウス(1室約6畳。全体で13LDK)で、2015年に募集開始した。全ての部屋は住民がDIYで創り上げており、工房の機材を使うこともできた。
 ここは周囲の工場の音がするので「うるさい倉庫街に住居を設けるのか」と大家さんも心配していたが、募集を開始すると次々埋まり、現在まで2年間の稼働率は9割5分。1階のテナントは「Kyoto Makers Garage」が今年7月に入居した。

■小規模不動産特定共同事業について

 「不動産特定共同事業法(以下、不特法)」は1995年に成立し、不動産小口投資の環境が整備された。2007年9月には金融商品取引法が成立し、それまでバラバラにあった法律を統一された。
 これにより金融庁と国交省の縦割りの弊害が生じ不特法の立ち位置が強く求められるようになり、不動産特化型のファンドが行われるようになったが、単発小口の投資は普及しなかった。
 不動産特定共同事業とは、出資を募り不動産取引(売買・賃貸)を行い、その利益を配当する事業を指す。今回の改正は、不動産の事業を不動産屋さんができるようにするために改正されたと言ってもよい。
 不動産特定共同事業には「購入型」と「リース型」がある。さらに不特法には4種類の事業者が位置づけられており、それぞれの必要とされる許可要件、資本金、主な業務、募集の相手、メリットとデメリットがある(資料参照)。

■小規模不動産特定共同事業の創設と特例事業における事業参加者の範囲拡大

 新たに小規模1号事業者及び小規模2号事業者が創設され、それぞれ資本金要件を1000万円へ緩和することで小規模の事業案件でも取り扱えるようになった。前者は自らファンド組成事業者としての役割を持ち、後者はSPC(特定目的会社)のファンド組成の委託業務を行う事業者である。
 これまでSPC事業への投資は特例投資家のみに限られていたが、今後は一般投資家でも出資が可能となる。個人からの投資上限1人あたり100万円、合計出資額を1事業者あたり1億円まで調達可能となる。

■クラウドファンディング(以下CF)に向けた法整備

 CFは「非投資型」と「投資型」がある。
 「非投資型」は媒介事業者の免許は必要ない。これは「寄附型」と「購入型」があり、「寄附型」では拠出金は寄附扱いとなる。「購入型」は物品やサービスの対価として扱われる。
 一方「投資型」は「貸付型」と「投資型」があり、「貸付型」は拠出金に対して一定の金利を分配するもので、金融商品取引法並びに貸金業法の規制対象になる。「投資型」は事業の成功度に応じて分配するもので、金融商品取引法の規制対象となる。
 近年、CFの市場は上昇しており、年々4割増である。一番多いのは「貸付型」で、全体の9割を占める。これは対象不動産に投資するものも含む。日本は不動産への信用が強いので、このような動きになるのだろう。
 今年の改正点の中に「書面交付の電子化」というものもあるが、従来は全て紙資料が必要であったが、電磁的記録可能なのでインターネット上でも可能となる。

■改正小規模不動産特定共同事業法のまとめ

 小規模不特事業者の投句要件は宅建業の免許や財産的基礎(純資産の部が資本金の90/100以上)、等あるのだが、さらに業務管理者が案件ごとに配置される必要があり、それはビル経営管理士、不動産コンサルティングマスター、不動産証券化協会認定マスターが該当する。
 さらにこれまではファンド組成コストが大きかったのだが、これからは小規模のファンド組成を不動産事業者ができるようになり、もっと小口で参加しやすくなる。

■これからの不動産CFの未来

 不動産投資とまちづくりについて考えていきたいが、金商法でされているものは既にある。
 クラウドリアリティでは不動産に特化してやっているが、東京の事業者が東京の投資家を対象としているものが多く、京町家を対象に3000万円や7000万円などかなり高額なものを2、3日でお金を集めている。
 リスクとリターンを考えると、配当は8.0%程度が妥当という話を聞いた。この数字だけを聞くと、銀行から借りた方が良いのではという意見も出た。
 しかし、関係性を価値することが大事。例えば、音を出すようなシェアハウスはここでしかできない。そういう環境の中で、京都に移住した際に誰と交流するかという内と内の関係性を改めて作っていく。関係性については、テーマに即した人やプロが出資するようにコーディネートすれば、そういった人が支えるシェアハウスになれる。
 これまでは同居人にコーディネートを中心にしてきたが、今後はこれを支援するオーナシップを重視すれば、より入居したい人も増え、先に触れた「8%」を達成することもできるかもしれない。

■ベンチャー不動産事業の最適化

 現在検討しているのが、同じ宝蔵町内にある6階建てビル。
 1室あたり6畳の大きさのものが40室ある。これは市場で働く人の社員寮であったが、このリノベーションも動き出している。耐震改修などは大家さんが負担し、アトリエ付きシェアハウスにしようと考えている。宿も併設して、現代アートをコンセプトにしていこうと企画している。
 運営はうちが不特法の許可を得て、株式会社めいにサブリースに出して運営する予定。来年4月に登録して6、7月頃にCFを開始しようと考えている。
 日本には昔から「講」があり、相互扶助の経済が成り立っていた。個人事業もお金を回し合っていた。そのような講が200万もあったという。戦後、それらのお金は集められて信用金庫の前身になったと言うが、それを現代ではデジタル化して、不動産の現代版の投資によるまちづくりにつながれば良いと思う。

【トークセッション】

コメンテーター
 高田光雄氏(都住研会長/京都美術工芸大学 教授/京都大学名誉教授)
コーディネーター
 高木伸人氏(都住研 事務局長)

会場の様子

燗c 大変興味深い事業であるREDIY周辺では同時にいろんな事業や活動が起こっていて、それらは連動していると思う。先ほどCFは増加しているという話であったが、誰が何のために、どのような動きがあって右肩上がりになっているのか。

扇沢 個人的な分析では、購入型のものはさほど増えていなくて、増えているのは貸付け型。ほぼ一社の取組が急上昇している。これらはつなぎ融資の色合いが強く、マンションを建てるときの資金調達としての利用もある。不動産担保型CFで、期間も短い。半年間で4%を出している。

燗c 金融の仕組みが不備なところがある場合、CFがつけ込む余地があると思うが金融の仕組みが改善されると状況は変わる。必ずしもCFのニーズが増えたとはいえない可能性もある。まちづくりとの関係でいうと非投資型については理解できる。非投資型では出資者は8%ものリターンは期待していないものも少なくない。投資型が増えるのはどのような社会的な背景があるのか。

扇沢 ユーザーとしてみると、非投資型は成立したら終わり。しかし応援する取組であれば5年、10年と長期でステイクホルダーとして関われる。

燗c 私はできるだけ行政からフリーになることが大事だと思っている。行政は、プレーヤーではなく環境整備の役割が重要。CFは、組成の自由度が高い方がよい。当然の結果として良いCF、悪いCFができるようになるので、今後は一層CFのデザインが鍵になってくる。

〜他のコメント〜
■売却するタイミングなどは事業として設計できるのか。顔が見えると思いも共有できるが、顔が見えない人のために出資・設計をするのもどうかと感じている。
■クラウドリアリティの物件価格は高すぎる印象。坪500万円にもなる。それだけ、10%(売却益見込んで)だすのは大変なのだろう。
■出資する人間も千差万別。ゼロでもいい人も居れば、8%欲しい人も居る。いろんな人を集めるのが、金融機関1社から借りるのではない良いところ。地域の事業者ができるという点もユニーク。

第23期総会を開催しました ●まちの活力を牽引する劇場づくりに向けて 〜クラウドファンディングを活用した展開
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