都住研ニュース

第54号 ●定例会ダイジェスト

 定例会では様々な講師を毎回お迎えして、各テーマの専門的なお話をお伺いしています。そしてグループごとにディスカッション・発表を行い、様々な専門性をコラボレーションする場にもなっています。
ここでは、これまでに開催した定例会のダイジェストをお伝えします。

■第59回(平成24年11月6日)

 京都市内の木造密集市街地は市域の約14%を占め、約16万戸(総住棟数の22%)が存在し、歴史都市・京都らしい風情を醸し出してはいますが、防災上多くの課題があります。
 都市居住推進研究会は、今から20年前の1994年6月に発足しましたが、発足した大きな動機の一つがこの密集市街地の開発に関する施策の研究でした。その後、本会の活動にも関連して「連担建築物設計制度(法第86条第2項)の適用」などの密集市街地更新の取組が可能になりましたが、依然として状況は改善されていません。先進的な事例の多くは、施主の厚意や先駆的なチャレンジなどの個別解が殆どであり、奇跡的な事情が重なって実施されていることが多く、普遍化については、なお課題を抱えています。京都らしい風情や景観のデザイン、面的な取組、更新後の用途等について、より多くの可能性を追求する必要があり、今後の京都のまちづくりを踏まえた様々な制度設計が望まれます。
 2014年に京都市は、これら京都固有の課題に取り組む専門のセクションとして「まち再生・創造推進室」を創設し、密集市街地対策を進めるための「防災まちづくり推進事業」、細街路対策事業(緊急避難経路整備補助)も開始します。
 第59回定例会では、同室から講師をお招きし、これまでの活動の検証とともに、新しいステージを迎えつつある密集市街地の更新に向けた展望を共有するとともに、事業者ネットワークである都住研として、どういった展開、制度設計が可能であるかを検討しました。

今再び、密集市街地!歴史都市故の問題、解決できる?
   〜京都市の密集市街地・細街路対策 これまでとこれから〜
講師:文山達昭 氏(京都市都市計画局まち再生・創造推進室密集市街地・細街路対策課長)

■京都市の密集市街地・細街路の状況

文山達昭氏  京都市内には、戦災による被害が少ない旧市街地や、戦後復興時から高度成長期にかけて土地区画整理事業が執行されないまま市街化された地域を中心に、木造密集市街地が広く分布しています。学区単位では70学区に及び、市内全体のおよそ1/3の学区が密集市街地を抱えています。市街化区域においては面積の約14%、そして住宅戸数では約22%にも及びます。京都市では都心部に集積しており、加えて東西にも延びて広く分布しています。
 これは密集市街地の一つである仁和地区の状況です。仁和学区では、「京町家まちづくり調査」を平成21年に実施しており、多くの京町家が分布していることも分かっています。一方から見れば延焼性の高い老朽木造家屋ですが、他方から見れば京都らしい町並みとコミュニティを形成しているところでもあります。
 細街路の課題としては、(1) 2項道路に面する敷地では、道路後退により敷地がさらに狭くなり建て替えが進まず道路も拡幅しない、(2) 1.8m未満では増築・大規模修繕も不可なため老朽化し、拡幅もできない、(3) 建物更新時のセットバックにより連続性のある町並みが失われる、(4) 管理が不十分になりやすい、が上げられます。

■これまでの取組み

 京都市内の密集市街地対策のこれまでの取組については、「市街地開発事業」「住宅市街地総合整備事業」「住宅地区改良事業」「優良建築物等整備事業」「町並み誘導型地区計画」などを実施してきましたが、実績は多くありません。京都市は区画整理先進地で、旧市街地を囲むような「C字」型のエリアで進めてきました。そして真ん中のエリアは依然として昔ながらの町並みが残っており、そして防災上の課題を残してきました。
 一般的な細街路、つまり2項道路には「狭あい道路整備事業」として建物更新時における道路拡幅の誘導をし、2項道路以外の細街路については「43条但し書き許可」として建築条件を付し審査会の同意を経て許可をしてきました。良好なコミュニティや共有空間が維持されている袋路では「袋路再生事業」を実施、歴史的な景観を有している細街路は「3項道路の指定」を行って防災性と景観を両立させながらその景観の保全・継承を行ってきました。
 袋路再生事業は、袋路全体を総合的に計画し、ゆとりある建築規模の確保と環境改善の両立を図るための手法を確立することとし、平成11年に「共同建て替え」と「協調建て替え」の2つをメニューとして用意しました。共同建て替えは、路地奥にある複数の戸建・長屋住宅を鉄筋コンクリート造の共同住宅に建て替えるとともに路地の良いところを残そうとする取組で、平成11年以降2件のみの実績です。協調建て替えは、都住研の活動とも関連しますが、連担建築物設計制度ができ、袋路全体を1つの敷地と見なし建築規制を適用しルールを設けることで、時期を合わせずとも個々に建て替えができます。権利関係の整理やコストの問題などがあり、行政として積極的に使って行こうという姿勢が乏しかったこともありますが、平成11年以降6件の事例に留まっています。
 3項道路の指定は、祇園町南側地区で実施されています。花見小路通から延びる脇道は2.7mの細街路がネットワーク状に分布しています。これらは大正時代の開発で9尺の街路として整備されました。これらの総延長は約850mで、沿道には178軒の建築物があります。所々に2.0mセットバックしたことにより壁面線が揃っていませんが、この事態を解消するため、42条3項の指定を受けて、中心から1.35mとする後退距離の緩和がされています。幅員を縮めることにより、容積や斜線規制が厳しくなるという問題がありますが、これについても緩和を行うため、3項指定とともに「町並み誘導型地区計画」を導入しています。

■現在の取組み

講義の様子  京都市では「歴史都市京都における密集市街地対策等の取組方針」を平成24年度に策定し、これにもとづいて密集市街地対策、細街路対策に取り組んでいます。全国一律の対策では京都の歴史性等を損なう恐れがあるため、これまで培われてきた景観やコミュニティを大事にし、現在の町並みを踏まえつつ着実に安全性を向上させる「修復型のまちづくり」を推進することが重要であるとしています。
 また、「取組方針」の策定とあわせ、「優先的に防災まちづくりを進める地区」を選定しました。国の基準に加え、(1) 木防建ぺい率(木造建物の建て詰まり)、(2) 通過障害率(災害時における道路が閉塞する割合)、(3) 木造密集エリアの広がり状況、(4) 地区内の道に占める細街路の割合などの京都市独自の指標を踏まえ、70地区の中から11地区を選定、1年ごとに2地区ずつ、地域と行政の連携による防災まちづくりをスタートさせています。
 「細街路対策指針」では、細街路の特性を「歴史細街路」「一般細街路」「特定防災細街路」の3つに類型化し、それぞれに応じた施策を展開をしていくこととしています。まず、細街路の特性に応じた体系的な制度整備として、歴史細街路については既存制度の拡充として「3項道路指定」、特定防災細街路については新たな制度として「6項指定」、トンネル路地や幅員2m未満の袋路などについては「43条但し書き許可」を活用、一般細街路については新たな制度として「3項道路指定」「袋路の2項道路指定」を適用していくこととしています。新たな道路指定制度については、今年4月からスタートしており、歴史的なところで無くても、地域の人が愛着を持っている路地、袋路も4mまで拡幅せずとも建て替えができるようになりました。
 同時に、袋路に避難安全性を高めるための助成制度も創設しています。緊急避難用の経路の整備費については上限30万円、袋路の入口建物の耐震化・防火改修については上限250万円、袋路入口の拡幅整備については上限30万円とそれぞれ100%補助であります。「避難経路の確保」では、六原学区で隣接する墓地に扉を付けることをしました。
 地域防災まちづくりの取り組みも進んでおり、六原学区と仁和学区では24年度から行っています。対策の検討・実行は、それぞれの状況を踏まえながら、「よく知っているし、私がここの人に扉を付けてくれるように話に行くわ」など、地元の人と行政が役割分担しながら進めています。

■今後に向けて

 今年6月から「防災まちづくり推進事業」として、3つの助成事業「(1) 危険なコンクリートブロック塀の改善」「(2) 老朽木造建築物の除却」「(3) 防災広場の整備(まちなかコモンズ)」を実施しています。(3) はいわば目玉の事業であり、無償で土地を貸してもらうことを条件に、建物の除却費最大100万円かつ9/10、広場の整備費を最大200万円助成し、そしてこれらは防災性の向上という公共の目的に合致することから固定資産税は非課税になります。中京区で第一号ができる予定です。
 細街路対策についてはこれまで3年近く取り組んできていますが、色々な課題も見えてきています。まず、「具体的改善の推進」です。権利関係や資金、高齢化などの問題もあり、個々の住宅や細街路の具体的な改善を行うには、相当な労力と時間を要します。これを地域を中心とした自発的な動きにできないだろうか、と考えています。さらに「取組の持続性の確保」。防災まちづくりは短期間で終わるものではなく、長期的な取組が必要です。そのためには地域と行政においてその体制や仕組みを整えることが必要です。そして増え続ける地区に対してどういったサポートすべきかも課題です。そして「優先地区以外への展開」。市内に70ある地域。細街路単位ではもっと広いエリアになります。これをどう展開していくかは課題ですし、市民、専門家、事業者と一緒になって継続的に関わってもらえるような取組が必要だと考えています。ぜひ、今日お越しの皆さんと一緒に検討したいと思います。

第21期総会を開催しました ●研修レポート
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