都住研ニュース

第46号 ●定例会ダイジェスト

 定例会では様々な講師を毎回お迎えして、各テーマの専門的なお話をお伺いしています。そしてグループごとにディスカッション・発表を行い、様々な専門性をコラボレーションする場にもなっています。
ここでは、これまでに開催した定例会のダイジェストをお伝えします。

■第51回(平成23年9月29日)

 現在、空き家の利活用が大きな関心を集めています。近隣にとっては防犯や倒壊危険性などの安心・安全の側面からの関心、そしてストック活用の観点から、新しいビジネスの機会の構築の観点から、不動産事業者や建築の専門家等の関心を集めています。
 京都市では、これらの課題に対し、2010年から「京都市地域連携型空家流通促進事業」として調査及び社会実験を行っており、京都の地域コミュニティと連携した空家の活用、流通に関する事業構築を開始しました。今回の例会では、京都市を講師及びパネリストとしてお招きし開催しました。
 都住研では、2014年に10年の節目を迎えるにあたり、次代を睨んだ新事業の構築を検討中であり、その1つの候補として、空家を流通させていく取り組みを検討しています。

講 演:京都らしい空き家活用・流通策とは? 〜「京都市地域連携型空き家流通促進事業」に学ぶ〜
   小西 二郎 氏(京都市都市計画局住宅室住宅政策課)
鼎 談
   小西 二郎 氏(京都市都市計画局住宅室住宅政策課)
   川島 健太郎 氏(京都府不動産政治連盟会長/都住研運営委員)
   西村 孝平 氏(都住研事務局長/(株)八瀬 代表取締役)

講 演


1.空き家に関する現状と課題


■空き家流通に関する現状

小西 二郎 氏  平成20年の住宅・土地統計調査では住宅総数が世帯総数を大きく上回り、京都市内の空き家数は約11万戸に及んでいます。京都市内の空き家率は京都市全体で14.1%であり、行政区別に見ると東山区が20.3%と最も高く、次いで北区が16.8%となっています。
 空き家を放っておくと、ひび割れから湿気が入ってシロアリが発生したり、隙間から猫が侵入して猫の住処になる恐れや、空き巣に狙われる恐れもあります。地震で崩壊して避難路をふさぐ危険性や、住む人がいないことによる放火の危険性もあります。他にもまちの賑わいがなくなる、町内の活動の負担が大きくなるなどの問題が発生します。一方、空き家に新しい世帯が入ってくると、建物が残ってまちなみが綺麗になる、人口が増えて賑わいが生まれる、防犯や防災上の心配が少なくなるなどの効果が期待できます。他にも、新しい住民による地域まちづくり活動への参画なども期待できます。

■事業の概要

 地域連携型空き家流通促進事業は、空き家の増加を背景として、京都市住宅マスタープランにおいてシンボルプロジェクトと位置づけ、平成22年から実施しています。事業の目的は、空き家所有者や入居希望者が安心して空き家を活用できる環境を整備すると共に住宅市場における空き家の流通を促進し、空き家の流通により地域の活性化を図ることです。
 空き家所有者、入居希望者共に様々な不安を抱えていることが空き家が流通しない要因と考え、地元組織とコーディネーターの連携によって、安心して空き家を活用できる仕組みづくりを検討しています。コーディネーター(学識経験者、不動産事業者、自治連合会、NPO等を想定)が空き家所有者と入居希望者の間に立ち、所有者に対しては改修方法や費用の相談を受け、入居希望者にはまちの魅力や地域のルール等を説明することで所有者や入居希望者の不安を安心に変えようというものです。平成22年度は東山区六原学区と上京区春日学区をモデル地区として空き家所有者等のニーズ把握調査を実施し、ケーススタディを通じた都心部での空き家の流通促進の仕組みづくりを行いました。

2.空き家流通促進のための仕組みづくり


■検討の進め方

 空き家を流通させる仕組みを検討するため、学識経験者や不動産・建築の専門家からなる研究会を設置、具体の空き家でのケーススタディを通じて、活用条件の検討・設定、活用方法の提案を行いました。六原学区で4件、春日学区で3件、修道学区で1件の合計8つの提案を行い、既に入居されたところ、現在売り出し中のもの、工事中のものなど5件の活用が決まっています。それらの取組を通じて、空き家の特定から活用提案までの流れと役割分担を整理しています(資料参照)。
 平成22年度は、地元組織の取組を京都市がサポートする形で空き家の掘り起こしを行い、研究会が具体の空き家の活用方法の提案を行う形で進めましたが、今後は、市場における空き家の流通促進の仕組みとして普及させていくために、京都市や研究会の役割を担っていく「コーディネーター」及び 空き家活用の相談・提案・事業者の紹介を行う「窓口」が必要であると考えています。

3.今後の課題と取組の進め方


■空き家活用に関する今後の課題

 所有者の特定や所有者の実情・意向、建物の状況等からみた空き家活用の課題は、地元組織やコーディネーター等が連携して、課題解決に向けた取組を進めてることが重要であるといえます。その一方、死亡等による所有者不在の空き家や所有者の協力意向がない空き家など本事業だけでは解決が難しい課題も見られるため、これらについては今後の検討課題として整理しました。

■今後の取組の進め方

 六原学区、春日学区で地元組織による主体的な空き家対策の取組は今年度も継続して実施します。さらに新たに3地区(桃園学区、紫野学区、洛西ニュータウン福西学区)で事業展開し、都心部の仕組みを検証と、郊外部の仕組みを検討していきたいと考えています。
 今年度の各地区での進め方は、まず、(1)地域が主体となった体制づくりを進めていただき、(2)地域が主体となって空き家情報の把握・整理をしていただきます。そして、(3)空き家の活用促進として、所有者がコーディネーターや地域と一緒に空き家の活用条件を検討し、専門家からの活用提案を受けながら、所有者が具体的な活用方法を決定、入居者を募集し、マッチングを行います。それと平行して、(4)地域が主体となり、「学区の住まい方」をとりまとめ、発信していただきます。

鼎 談

小西 二郎 氏 川島 私は、宅地建物取引業協会の会長を昨年退き、現在は京都不動産政治連盟の会長をしています。毎月1回定例会を開催し、空き家に関する調査や検討を行い、提言をまとめました。そしてこれを8月26日に京都市長に提出しました。提言は大きく3つで構成しており、1つは現在京都市で進められている「地域連携型空き家流通促進事業」の成果をきちんと活かして欲しいこと、そして2つめが「京都市建築物安心安全実施計画推進会議」で空家となる大きな理由でもある既存不適格建築物や再建不可物件の検討をもっと進めて欲しいということです。3つめの「空家条例」の制定です。
 空家を解消すると、まちなみが綺麗になると共に、人口が増えて賑わいが生まれます。そして防犯や防災上の心配も軽減されます。また家屋の改修は経済効果ということも期待できます。

西村 空家の所有者の不安もあると思います。京都市は昨年、今年の事業を通して上手くいけば、コーディネーターに任して、徐々に行政については下がっていきたいと考えていると思います。しかし所有者の話を聞くと、行政が入っていることで安心感がある。宅建のメンバーがコーディネートをするといっても、果たして所有者は安心して任せられるでしょうか。

小西 昨年は京都市の事業として進めました。だから話を聞いてもらえた、という面も確かにあると思います。今年は、トライアルとして民間から声をかけるということもしたいと思っています。京都市でなければできない事業なのか、京都市がイニシアチブをとるのがどの程度が良いのか、検証していきたいと思っています。

川島 私がイメージしているのは、コーディネーターは結果として事業者がなることがあるとしても、京都市からしっかりと教育を受けた人がやるべきだと思っています。研修を受けた人が身分証を見せて、京都市の事業だという認識のもとでやっていくことが大事だと思います。

小西 地元との信頼関係が大事になってきますが、この点についても、是非事業者の方に厚い信頼を構築して欲しいという思いを持っています。しかし現状では地域と仲介事業者の間にはコーディネーターの存在を考えていますが、たいそうな仕組みを構築するようなものでもなく、平素やっておられることを少し変えることで、上手く機能するということを期待しています。

西村 路地奥の物件については、道路判定の課題もあります。空家になるのは、既存不適格物件や路地奥の再建不可物件。最近非道路の扱いになるところが増えています。昔は但し書きであった所も、最近はほとんど非道路扱いになってきています。いわば再建不可物件が量産されているのです。流通と再建不可物件は関係すると思うのです。

小西 二郎 氏 小西 密集市街地を整備していくのは、時間がかかります。空家問題だけでなく、耐震補強の取り組みも並行して進めていくことが必要となってくるのでしょう。

高田 この取り組みの意義は、第1に、「既存住宅流通市場の環境整備」です。この取り組みでは、客観的には、既存住宅所有者と入居希望者とを不動産事業者が円滑に繋ぐことができるように、障害となる要因を取り除き市場メカニズムが機能しやすい環境を整備する作業が含まれているとみることができます。第2に、この取り組みには、「地域まちづくり活動の促進」という意義があります。この取り組みでは、空家の増加による地域問題を地域で共有して、空家の活用促進によって問題を緩和する地域活動を支援する作業が含まれているとみることができます。
 これら2つの意義はそれぞれ違う問題です。それぞれについて、きちんとした議論が必要です。同時に、違う目的を重ね合わせて、相乗効果を期待している面もあると思います。そこが、この取り組みのユニークなところです。両者の関係についてもきちんとした議論が必要です。
 2つの意義を別々に検討することと共に、両者の関係を考えることが重要です。「借り手がみつかればいい」「空家が売れれば良い」ということではなく、空家活用が「地域のまちづくり」に繋がって欲しいわけです。両方の意義が重ね合わされないと、この取り組みの本来の目的は達成されないのではないかと思います。

西村 ありがとうございました。空家対策は、地域に若い人が住む契機にもなります。ぜひ、継続して事業を進めてください。本日はありがとうございました。

第18期総会を開催しました ●京都の住まい・まちづくり拝見!
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