都住研ニュース

第40号 ●定例会ダイジェスト

定例会では様々な講師を毎回お迎えして、各テーマの専門的なお話をお伺いしています。そしてグループごとにディスカッション・発表を行い、様々な専門性をコラボレーションする場にもなっています。
ここでは、これまでに開催した定例会のダイジェストをお伝えします。

■第45回(平成21年9月18日)

 これからの京都のまちづくり
  講師: 由木 文彦 氏 (京都市副市長)

■京都のまちづくりの背景とキーワード

由木文彦氏  京都のまちづくりの背景とキーワードを考えた際、大きく4つのポイントがあります。まず、(1)「人口減少・高齢化」です。現在は人口147万人ですが、2035年には129万人に縮小すると推計されます。このために財政の立て直し、交流人口や観光の質を向上させることが課題となります。
 次に、(2)「都市間競争の激化」です。最近はオリンピック誘致の話題がありますが、これを見ても国ではなく都市間の競争となっています。京都はその点有利で、世界では「日本」よりも「京都」の方が知られています。そのようなメリットを持ってはいますが、経済力の劣化、伝統産業の低迷等の課題がありますので、今後は高付加価値経営、研究開発機能、産学公の連携などを図ることが必要と言えます。
 そして、(3)「環境問題」です。地球環境問題の深刻化を受けて、コンパクトな都市構造、公共交通の利用促進、歩くまち京都の推進が課題としてあげられます。
 最後に、(4)「まちなみの変容」です。都市景観、町家の保全・活用、職住共存の推進を検討する必要があります。

■人口動向について

 京都市は、昭和50年から人口は145万人から148万人の間で横ばいの状況でした。「バブルの頃」(1990年・平成2年)は、ご覧のように非常に若々しい人口構造となっています。しかしその5年後の「阪神震災の頃」(1995年・平成7年)、さらにその5年後の「20世紀末の頃」(2000年・平成12年)、「愛地球博の頃」(2005年・平成17年)、「来年の京都市」(2010年・平成22年)、そして人口推計をふまえて「6年後の姿」、「11年後の姿」、「16年後の姿」、「21年後の姿」、「26年後の姿」と2035年までグラフの推移を見ると、今後は京都の人口構造が劇的に変わることがおわかりになると思います。
 人口は、総人口も大事ですが、その構造が劇的に変わることも大きな問題です。これからは、若い人を対象に商売をしても良くならない可能性があります。70歳以上の人口は、ピーク時(2025年)には32万人になると推計されています。つまり70歳以上ばかりが住んでいる宇治市が一つできる、という見方もできます。

■財政の立て直し

 このような状況となると、京都はますます財政危機的な状況が深まります。税金を払う世代がたくさんいる現在においても、税収構造は脆弱なのです。一番大変な問題は、地下鉄です。現状でも大変な赤字で、一番重要な案件となっています。地下鉄は運賃収入で日々の運営費は賄えていますが、建設費返済金が多額なために毎日3,900万円もの赤字が発生しています。元金相当が2,900万円で、これを減価償却費とすると運賃収入があっても毎日、1,000万円の現金が足りなくなっています。原因は、バブル期という工事費が高いときに着工したのと、京阪京津線との接続部分を鉄建公団方式、つまり高速道路と同じ方式を採用しましたので、高価なものとなってしまいました。
 元々京都市の税収が脆弱なこともあります。京都市の市民一人当たり市税収入は他の指定都市の平均に比べ、16,600円も少ない状況です。京都市の人口は約147万人なので、市税収入総額では約240億円もの減収となります。
 税収の中で脆弱な個人市民税ですが、その理由としては「高齢化率が高い」「学生が多い」ということもあるでしょう。学生は人口の1割を占める14万人であり、これは京都に1日あたりに来られる観光客数と同じ程度です。また「生活保護世帯が多い」ということも理由としてあげられます。このような複合的な要因から、個人市民税の税収が悪くなっています。
 今後、高齢化が進み、勤労世代が減少する中でどうすればいいのでしょうか。そのためには、将来の税収を増えるように手を打たなければいけません。

■まちなみ保全に関する動き

 京都の伝統的な建築様式と生活文化を伝える京町家は、歴史都市・京都の景観の基盤を構成するものです。ところが、10年前の調査では市内に約2万8千軒の京町家が存在しましたが、その後の調査では年間約2%ずつ消失していることが明らかになりました。単純計算では50年後に京町家が完全に消失することになります。
 その理由としては、相続(相続税の負担や遺産分割等)、維持管理の負担、生業の不振、高度利用を図る購入者等が要因として考えられます。そこで新しい保全・再生・活用策として、例えば相続税の適正評価や京町家の一時保有を行う仕組づくり、修理・修景に対する助成制度の拡充、京町家を活用する購入者のマッチングの仕組、等を検討しています。例えば相続税は1年間で納付しなければいけませんが、それを2,3年保有できるようにするような仕組みも考えています。また、証券化などの方法がこれまで実施されていますが、今後は信託を採用できないかというスタディも始まっています。

■京都市の無電柱化計画

 歴史都市・京都創生策に位置づけている重点整備対象地域として、(1)幹線道路(烏丸通、堀川通、北大路通、今出川通等)、(2)歴史的保存地区(祇園岡崎地区、上七軒地区等)、(3)伝統的建造物群保存地区(産寧坂地区、祇園白川地区、上賀茂地区等)で重点的に整備していくこととなっています。これらの計画延長距離は約150kmであり事業費は1,000億円となっています。この地区内での実施済みはまだ7kmであり、このペースではいつ終わるかわかりません。

 なぜ、無電柱化はなかなか進まないのでしょうか。まず「要請者負担方式の対応(電線管理者の合意が得られない路線)」があげられます。費用負担は、1km整備するのに約7億円かかります。そのうち2億は関西電力とNTTが負担して、残りの5億を国庫補助と京都市が負担することになります。この2億円について、電力会社等がお付き合いしてくれないケースもあります。景観に配慮すべき地区での無電柱化は道路幅員が狭隘であり、夜間施工となることや花見小路通のように石畳舗装などのグレ−ド・アップを必要とすることから、整備費用が割高になることもあります。景観に配慮すべき地区での無電柱化は、特に地上機器の設置場所の確保が困難となります。これを店の前に置くことについて合意をとるのは、とても困難なこととなっています。無電柱化は「総論賛成、各論反対」ということが多々あります。

■京都市の住宅事情

 京都の郊外では農地転用による開発が続いています。京都市の農地転用の状況を見ると、北では岩倉地域、南では久我・羽束師地域での転用が目立ちます。岩倉地域は区画整理が現在も進行中であるからですが、久我・羽束師地域では、ミニ開発が進められていることによります。この写真は久我地域のとある場所ですが、基盤が良くない中、川が溢れることもあるような地域に造られていることもあります。中には側溝に蓋がついていなくて「脱輪したらどうなるんだ」というような場所もありました。主として若い方が買われているようですが、この街を20年間維持するにはどうするかということが課題となります。
 ニュータウンは、今後急速に高齢化が進む見込みです。これは平成17年の国勢調査を基に、京都市、向島二ノ丸学区、福西学区の年齢10歳階層別人口割合を比較したものです。この当時よりも高齢者は増加しており、徐々に「オールドタウン化」しているといえます。ここに若い夫婦が入り、子育てをしやすいような環境を整える仕組みを導入して、ミスマッチを解消していくことが求められています。

■京都市の建築物の現状

講演の様子  まず、(1)耐震改修の遅れがあります。古いストックが多い中、防災上の問題が大きくなっています。都区に都心4区の木造住宅の半数以上が昭和35年以前の建物となっています。
 そして、(2)狭隘な細街路の多いことも特徴です。都住研でもこれまで提言をいただいていますが、京都市には細街路(幅員4m未満)に面する建築物が多く、避難や防火上の問題が大きくなっています。
 耐震改修にしろ、道路拡幅にしろ、改善に向けた補助制度はあるのですが、なかなか使っていただけないのが現状です。これはシステムに課題があると思えます。改修すればメリットがあるような制度を構築していくことが必要です。
 京都市の細街路は、幅員4m未満の道に接している住宅の割合は約37.9%で、14大都市のなかで北九州市に次いで多くなっています。14大都市平均の約29.6%と比べても非常に多い状況です。都心4区の細街路の総延長は244kmあり、このうち袋路が約4割を占めています。細街路対策は,各地域の実情や熟度に応じて、「まちづくり」のなかで総合的に進めることが必要と言えます。
 現在は大きく3つの対策をしており、「(1)歴史的な景観に寄与している細街路」は防災性と景観を両立させながら保全・継承することとし、3項道路の指定に安全上の細街路条例に地区計画を加えるなどの工夫をしています。「(2)良好な共有空間やコミュニティが維持されている細街路(袋路)」では、袋路全体を総合的に計画し、ゆとりある建築規模の確保と環境改善の両立をめざしたり、袋路再生事業による協調建て替え(連坦設計制度)を推進しています。そしてこれら以外については建物の更新時における道路拡幅の誘導として狭隘道路整備事業を活用しています。拡げたところにはプレートを打って道路を確保するようにしています。しかしながらすぐ花壇がおかれてしまうなど、課題もあります。

■「京都の強み」を生かすことでまちの価値を向上させる

 取り替えるやり方も明確にし、30坪程度でしたら全て取り替えても580万円程度でできるとお見せしています。点検費用についても、50年保証を出していています。民法の取り決めでは20年となっていますが、それ以降は民民で協議しろとしていますので、そのようにしています。そして点検しないと保証期間は延びないようになっています。例えば10年点検をすると保証が5年間延び、その点検費用は5万円程度です。5年で5万円ですから、1ヶ月800円程度です。
 中には「100年も保たなくても良い」という方もおられると思います。そのような方は、点検をしなければいいのです。

■住宅履歴書を持つ意味

(1)歴史・伝統
 戦後、私たちの暮らしはアメリカナイズされてきました。そして経済は今この瞬間を高い価値で売り抜け、利益最大を得ることを求めてきました。しかしこれからは向こう100年の利益をいかにあげていくかということが重要になってくると思われます。そして京都は、受け継ぐことに価値をおくことを考える時代になっていると思います。

(2)文化力
 今後は学問や芸術を愛でる心を結集して世界の価値を創造し、憧れられ、誇りを持てるライフスタイルをいかに創るかということが重要です。私は「住民満足度最大」は重要であると思うのですが、それだけでは自分の利益を上げることに重点が置かれすぎると思います。むしろ、まちづくりにおいては、自分以外の他者や子どもや孫のことまで考えることが重要です。まちの満足度、価値を向上させることが大事だと思われます。自分だけではなく隣の人、そして次の世代も、という発想が必要です。

(3)創造性
 近年は「クリエイティブ・シティ」とよく言われますが、欧米ではビルバオ、ナント、ボローニャ、グラスゴーなどがあたります。これらは皆昔の中心地で今は首都でないところです。中央に対してコンプレックスを持っている都市、とも言えるでしょう。創造性を持たせて、それにより都市どうしで競争していくことが必要です。京都市も新しいこれからの時代に向けて、経済的にも持続的に発展するようなインフラを考え直す時期に入っていると思います。

(4)たたずまい
 文化は無形のものですが、それに場所と形を与えることが必要です。これがないところは文化が育ちません。京都は昔のものをきちんと守ることは色々努力されていますが、新しい京都を創ること、新しい都市をどうデザインするか、ということも考える必要があります。古いものだけでまちは出来ません。日本では、まだそれができている都市はありません。かろうじて、かつての横浜のアーバンデザインがあるくらいです。モデルがない中で難しいことではありますが、ヨーロッパのクリエイティブ・シティはいずれも、それに挑戦しています。

第15期総会を開催しました ●京都の住まい・まちづくり拝見!

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