都住研ニュース

第36号 ●定例会ダイジェスト

定例会では様々な講師を毎回お迎えして、各テーマの専門的なお話をお伺いしています。そしてグループごとにディスカッション・発表を行い、様々な専門性をコラボレーションする場にもなっています。
ここでは、これまでに開催した定例会のダイジェストをお伝えします。

■話題提供 1

 「終の棲家としてのマンション」に向けた課題
  天野 博 氏(都住研運営委員/RSTグループ)

終の棲家は停滞ではない

天野博氏  「終の棲家は停滞ではない」と書いていますが、これは、終の棲家とするには、常に人の移動があるような活力あるマンションとすることが重要と考えているからです。
 私は1975年に京都で会社を立ち上げましたが当初から、中古マンション流通の業務に携わってきました。
 管理を阻害する理由には様々なものがあります。管理規約が入居者に浸透しないというような初歩的な混乱も流通市場にはありました。リアルな話としては、不良入居者、例えば暴力団が入居して、マンション内の管理をぶちこわしにした事例もありました。私達もこのようなことがおこらないように、勉強しながら対処してきました。
 また、流通を停滞させる管理もあります。事例として「Kハイツ」をご紹介します。このマンションの価格は他の同様な物件と比較して安くなっています。その大きな要因として、管理費や積立金を高くしすぎた事が上げられます。管理のマネージメントを失敗しているといえるでしょう。価格が低くなっていると言うことは、市場原理が働いて「良い」と評価されていないことです。管理組合はそのことに気付いて欲しいと思います。

中古マンション市場の特性

(1) 完全自由市場
 中古マンション市場は、売り手も買い手も個人です。そして、近代経済学において「完全自由市場」といわれている市場に近く、珍しいものです。売り手、買い手双方がアトランダムに市場を通じてマンションを売り買いし、市場操作が難しいのです。

(2) 在庫と価格
 市場価格は在庫と連動しており、マンションの在庫が増えれば値段が下がりますし、在庫が減ってきたら値段は上がるのです。大変わかりやすい動きをします。

市場の評価と循環の実例

 「衣笠グリーンハイツ」は、築30年を超えるマンションです。築年数を経ても徐々に値上がりしています。このマンションは管理組合主導の委託管理を行っていることが特徴です。
 「マンハイム五条」は自主管理のさきがけとなったマンションです。ここも、2003年をボトムに、徐々に価格が上昇しています。このように、築30年を超えるマンションでも、管理が洗練されていていれば、流通市場の評価が上がる可能性を示しています。
 しかし、管理レベルと流通市場での評価が連動しない事例もあります。「西京極大門ハイツ」です。このマンションも自主管理をしており、大規模修繕を繰り返しながらも手付かずの積立金が1億もあるなど大変優秀な管理をしておられますが、市場への発信が少ないせいかどうか、流通価格に管理レベルが反映されてないように思われます。
 市場動向を反映しないものもあります。これはある委託管理を行っている都心部のライオンズマンションです。都心の中古マンションが上昇傾向を示しているにもかかわらず上がらないのです。管理システムがうまく機能せず市場がきびしい評価をしています。

不適格マンション問題が提起するもの

 新景観条例施行に際して、不適格マンションが話題となりました。この問題が提起するものとしては、?既存不適格物件と流通と、?再建不可、解体不可の問題があります。
 すでに流通市場では困難が顕在化しています。売買の際に「不適格になりますよ」と説明しなければいけません。これは多くの人の不安をあおると考えられますし、先ほど説明があったように京都市も様々な施策を講じていますが、建替えはもちろん、処分(全員一致が必要)もできず、都市の不良ストック化となっていく恐れがあります。
 もう一つの課題として、「フィルタリングダウン(Filtering Down)」があります。不良ストック化したマンションは都市計画の機動性を著しく損なうことを示します。転居できにくい高齢者や経済的弱者ばかりになり、日常の管理や修繕計画の実施などに支障が出てきて、スラム化が進行する恐れがあります。こうなると景観などとは言っておられないのでしょう。

管理が評価される時代の可能性

講義の様子  不動産の流通に携わり人間として、不動産流通業務と情報公開の必要性を強く感じています。管理が評価される時代が来ていると感じています。そのためにも、重要事項説明書、重要事項に係わる調査報告書、重要事項の説明義務をきちんと果たし、マンション管理のレベルを買主に話す義務があると感じています。

衣笠グリーンハイツ、四条高倉スカイハイツの試み

 先進的なマンションでは、様々な試みをしています。衣笠グリーンハイツでは、理事会の強化(任期制、輪番制からの離脱)、訓練された管理員による事務局体制の確立、環境整備への投資や流通への関与、時には入居者の面接を行うなどをしています。さらに広報紙を発行、自治会活動を活発に展開しています。このような取組は、私が住む四条高倉スカイハイツでもほぼ同じように実践しています。
 理事会は、ボランティア活動です。時間をなかなかさけないのも現状です。大変ですが、アイデアが出せる人、実行できる人がいないと、なかなか進めることはできません。そのためにはできるだけ大勢の方が管理組合活動に参加する輪番制も大切です。1年ないし2年の任期で交代しては上手くいくわけはありません。できるだけ長く役員をする方も増やさねばなりません。

景観もマンションも成功した都市

 このタイトルは、私の希望でもあるのですが、京都には、景観もマンションも成功した都市となって欲しいと思っています。
 私は、マンションについては、この10年間が重要であると感じています。10年あれば、団塊の世代が活力を保持しているうちにマンションを長持ちさせるしくみ作りを整える事ができるでしょう。若い人が移り住む、若い人に住み継いでいく、人と建物とのライフサイクルの差をうまく調整し、古くなったマンションが都市景観に調和している、そういう風景を思い浮かべます。

■話題提供 2

 マンションの中古流通のために必要なインフラとは?
  西村 孝 平氏(都住研事務局長/ハチセ)

管理に問題があるマンション

西村孝平氏  冒頭に、訴訟となったマンションについて紹介させていただきます。判決は、「被告は原告に対し、金X円及び、これに対する本訴状送達の日の翌日から年X分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とするとの裁判を求める」というものです。
 その理由としては、まず「管理事務所問題」として、本来マンションの管理事務所のスペースは共用部分として区分所有者の共有であったのですが、当該物件はデベロッパー名義になったまま担保提供され競売に出されてしまったため、現在根抵当権設定登記抹消の手続きの裁判を行っていました。
 次に「管理費滞納問題」として、元デベロッパー所有の店舗部分のテナントが転々とかわり、次々と管理費を滞納していました。原告の入居時にはすでに滞納があり、管理組合の経理を圧迫していました。その結果、管理組合は管理会社との契約を解消するに至り、将来管理会社に管理業務を委託できる目処はない状態となっています。
 上記の問題点を買原告(買主)は全く知らされていませんでした。
 今回の問題は、私共が購入前に管理の状態を良く調査をしていればこんな問題にならなかったのだと反省しています。管理規約・総会議案書・総会議事録など流通業者として最低限目を通すべきでした。実は管理規約もそれまではありきたりの事しか書いてないなどと詳しく目を通していませんでした。当該マンションの問題は規約にも問題があります。内容を良く読むと、規約の変更が店舗の同意が無いと事実上不可能であることがわかります。

結 論

 早々に結論を言いますが、このように管理状態に課題があるマンションは、中古の流通はうまく出来ません。このことからも、マンションを売買する際は、不動産会社は「総会議案書」と「総会議事録」は必ず目を通し、大事なことは重要事項に反映させなければなりません。
 しかしながら、現実の売買は、売主が総会議案書と総会議事録を持っていないケースが多く、管理組合に資料を取りに行くと連絡すると、相当の日時を指定されますし、持ち帰りは出来ず閲覧のみで、コピーも不可、というところが多いのです。
 このような問題を含んだ管理の資料を今現在どれほどの業者が重要視しているでしょうか。今後、マンションの流通を行う場合、これらの資料は必須のアイテムであると考えています。

京都マンションデータバンクの設立

 これは、マンションの管理の良さを踏まえてマンションの格付けを行い、管理をしっかり行っているマンションの評価を上げよう、という試みで2006年7月に設立しました。
 現在、260のマンションのデータを公開していますが、すべてのマンションの情報が掲載されているわけではありません。管理に関する情報を公開するのはかなりのハードルがあります。マンションは「管理を買え」とよく言うのですが、現実的には、なかなか情報は公開されていません。やはり、会計などお金の問題は他人には知られたくないということでしょう。ぜひ、一度京都マンションデータバンクのホームページを検索してください。

福岡マンション管理組合連合だより

 この記事は、西日本新聞で掲載された記事です。福岡でNPO法人がマンション管理の格付けを数値化しているという記事です。電話をして聞いてみたところ、「管理費会計は駐車料を含めずに黒字か」「積立金は長期修繕計画を実現できる額か」「1年以上の管理費停滞はゼロか」など、25の項目に対して「非常によい」から「悪い」までの4段階で評価しているということでした。ただ、これらの評価はNPOがするのではなく、各マンションの役員が自分のマンションの評価をしているということですので、マンションごとの比較ではありませんでした。
 福岡のNPO法人が実施していう評価項目は、設計図書の有無や、役員が輪番制で1年ごとの交代するのではなく半数ずつ引き継げるように交代しているなど、項目としては参考になるものが多いと思います。

管理組合の情報公開について

法的な見解
 実は、管理組合の情報を公開することについては、私たちはビクビクしていました。個人情報の問題もあり、本当に可能なのかどうか、心配していました。そこで、マンション学会長になられた折田弁護士にそのあたりについて聞いてみたところ、管理組合が保有する情報や重要事項説明書は基本的に公開情報であるという見解をいただき、安心した次第です。
 マンションの仲介をしている人は、必ず規約や議案書などを読むべきと思います。私達は、高い授業料を払ってそのことを痛感しました。私は、マンションの流通の中に規約、議事録、議案書をセットで流通させるべきだと考えています。

■質疑応答

質疑応答の様子 Q.「フィルタリングダウン」をなくすには?
A.そのマンションに住んでみたいと思う人を増やすことが必要。入居希望者を増やすにはどうしたらいい。その一つに、経済的なコスト、例えば管理費や積立金を合理的なものにしていくことが必要。
 不適格マンションの問題もそうだが、マンションの流通と管理に無関心な人が多いことが問題。管理の行き届いているマンションをより積極的に評価し、築20年から30年のマンションが流通しやすくなれば、管理レベル向上につながる。

Q.データバンクや格付けの取組は、公的な立場ですることが必要ではないか。
A.管理への評価をきちんと流通にのせることは公的なセクションがするのが好ましいが、緊急性の高さから民 間の発想で進めるのが早道ではないかと考える。
 流通のためには管理とファイナンスを連動させないといけない、これは行政でないとできないだろう。例えばマンションの確認申請の際、ハードだけではなくソフトの確認、つまり管理規約や長期修繕計画などを添付しないと認可しないというような仕組みがあればいいのでは。

Q.マンション管理評価機構はどのような展開をするのか。
A.データバンクの情報を生かしながら、マンションの格付け(積極的評価)をしていきたい。あまり高いハー ドルにしてもいけないので、どのような基準で行うかは検討中。

Q.消費者が望む管理評価には、最低水準をクリアしているかどうかという評価と、管理の多様性にかかわる評価の二通りある。管理の格付けと二つの評価の関係をどのように考えるか。
A.格付けについては、流通に適さないマンションをマーケットの外に出していくことを先ずしなければいけないが、それは行政の仕事かもしれません。私達は良いものをきちんと評価して、モデルマンションを早く作って、生涯住めるようなものにしたいと考えている。

都市居住の器としてマンション研究を本格スタート!

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