都住研ニュース

第34号 ●定例会ダイジェスト

定例会では様々な講師を毎回お迎えして、各テーマの専門的なお話をお伺いしています。そしてグループごとにディスカッション・発表を行い、様々な専門性をコラボレーションする場にもなっています。
ここでは、これまでに開催した定例会のダイジェストをお伝えします。

■第39回(平成19年6月22日)

 今再び、町家型集合住宅を考える
  講師:
   巽 和夫 氏(京都大学名誉教授/都住研会長)
   高田光雄 氏(京都大学大学院工学研究科 教授/都住研運営委員)

(1)町家型集合住宅・・・・ふたたび  巽 和夫 氏


はじめに

巽和夫氏  今日お話しする「町家型集合住宅」は、今から10年以上前に構想したものだが、これまで事例として数は多く実現していない。しかし最近はようやく時代が変わってきて、職住共存地区では15mの高さ規制、階数にして5階建て程度に高さ制限がかけられるようになった。このような状況の中、以前研究した「町家型集合住宅」の概念に改めてスポットライトを当ててみたいと思う。

町家型共同住宅への取組み

 この研究を開始した当時の京都市は地価が上昇し、京都都心部では住民が減少するとともにマンションが建設されて、建設紛争が至るところで生じ、景観的な課題を生み出した。今から10数年前はこの辺りは容積が400%も可能であったことから、既存の町家とマンションでは非常に不調和であった。
 そこで、私たちは京都市、学識経験者などで「中高層共同住宅供給に伴う建築紛争の研究」を始めた。平成3年に紛争の実態の分析を行い、解決に向けた提言として「秩序ある住まい・まちづくりのための重点施策」として7つの項目をまとめた。

「町家型共同住宅」の開発とモデル建設促進に関する調査研究

 調査研究では、大きく 1)町家型共同住宅の計画理念・課題の検討、2)共同住宅建設の実態調査と分析、3)市民提案コンペの実施、4)市民・事業者・設計者・研究者シンポジウムの開催、5)設計ガイドブック、パンフレットの刊行、6)「町家型共同住宅」の試設計、7)公共・民間モデル基本計画の作成、をしてきた。そしてこれらの結果、「町家型集合住宅の提案」「町家型集合住宅設計ガイドブック」を発行した。これら一連の取組により、平成7年度の「日本計画行政学会」の計画賞を受賞するに至った。

町家型集合住宅へのアプローチ

町家型集合住宅へのアプローチ  町家型集合住宅の成り立ちについては、「町家」の「集合化」のアプローチと、「集合住宅」の「町家化」がある。つまり町家を都市的集住と居住空間の拡充から集合化を図っていくアプローチと、集合住宅が地域に根ざし、景観制を重視することで町家化していくことである。
 集合住宅は元々、ヨーロッパから日本に輸入されたもの。しかし集合住宅にももっと地域性が表れても良いのではないか。日本型集合住宅としては北方型、東京都心型、南東型などが既にある。北方型は北海道が代表的だが、寒さに強く、雪対策を図ることが求められる。南方型も沖縄のように暑く、台風がしばしば来るところはそれに応じた造りが必要である。東京は超高層の集合住宅ができており、首都である東京においては、有る意味必然の形態でもあろうと考えられる。しかしこれを京都で建てるのは似つかわしくない。京都はやはり、歴史文化的なものをつくることが好ましいと考える。

町家型集合住宅の課題

 表屋づくりの町家の空間構成や構造は、間口が狭く、奥行きに深くなっている。平面図で見ると緑地や屋外の空間が要所に配置されていることが分かる。このように敷地内に空地を設けることで、自分の敷地内で一定の環境を担保することができている。そしてそれぞれの敷地にある空地が、街区全体で豊かな緑や空間の連担となっている。しかし、ここにマンションが建設されるとこれらの空間が絶ちきられることになってしまう。そしてそれにより、通風や日照において、各町家への影響も生じてしまう。
 「町家型集合住宅」の条件は6つ示しており、1)「お町内」に新しい力を、2)住・職・遊一体のまちを目指す、3)穏やかな町並のデザイン、4)「うなぎの寝床」で快適な住まい、5)共用通路をまち通りのように、6)現代の住生活を充足する、である。
町家型集合住宅  以上のように、都心部に町家型集合住宅を供給することで、人口減少を食い止め、お町内に若い人に入ってもらい、元々の京都の姿がそうであったように職住遊が一体のまちを目指す。デザインは周辺に調和するように穏やかなものとし、現状の区画である「うなぎの寝床」を基本として、この敷地形状で快適に暮らせる工夫を凝らす。そして集合住宅の通路をかつての路地のように考え、時には立体路地として構成していく。そして何より、我慢を強いるのではなく、現代の利便性を充足することも大きな条件としている。

町家型集合住宅の将来への展望

 京都は景観、伝統文化などという側面が強いが、その反面、戦災で大きな被害を受けなかったことにより、長い歴史の間に蓄積されたものが近年では「安心・安全」の面で課題となっている。このため、京都ではこれら「景観」と「安心・安全」の二正面の戦略でまちづくりが求められる。

(2)いえとまちの関係性の再編  高田 光雄 氏


町家型集合住宅の再定義

高田光雄氏  先ほど巽先生から「町家からのアプローチ」「集合住宅からのアプローチ」について話があったが、町家型集合住宅について原点に還ると、これに対応して2つの概念に帰着する。すなわち「京町家の智恵に学ぶ集合住宅」と「既存の京町家と共存できる集合住宅」である。これは私的な家の集合であるとともに、家は公的なまちの要素であることに関係する。町家型集合住宅はこの「いえとまちの関係性」を重要な要素としているのである。

建物と空地の関係性

 町家は敷地の中に空地をつくり、その空地に面して開口部を設ける。これにより町家の中の空地は敷地内部の環境を確保できると同時に、隣の敷地に面して開口部を設けていないことから、「よそに迷惑をかけない」という配置になっている。そしてそれが連担することで、都市の中においても良好な環境を構築してきた。しかし、敷地いっぱいに集合住宅が建設されると、空間の連担を分断するとともに、隣の敷地に面して開口部を設けてしまうことになる。
 町家型集合住宅では、既存の町家の空地の設け方のルールに従い、空地の連担を担保することで、集合住宅であってもこれらの秩序を再生することができる。つまり、家とまちの関係を継承しているのである。

地域共生の土地利用計画

地域共生の土地利用検討会  町家型集合住宅のモデル的な事業の取組については、当時かなり頑張ったが、展開はなかなか難しかった。この研究は行政当局も熱心に取り組んだが、補助金などの特別なインセンティブを与えることができず普及させることは難しかった。専門家の間では大変な議論が展開されたが、まちの住民まで拡がるところまでは行かなかった。
 そこで、この取組を住民レベル、まちづくりのレベルの言語にしていく取組の一つが、アーバネックス三条の取組であった。
 この敷地には当初、11階建ての分譲マンションが計画されていた。しかし住民運動等の結果計画が白紙撤回され、デベロッパーと住民が話し合いながら計画をつくり、事業を分譲住宅から賃貸住宅に変更して、まちの将来像との関係を考えなから集合住宅の建設が進められた事業である。この取組にあたって、京都市景観・まちづくりセンターが事務局、そして私が座長となり1999年に「地域共生の土地利用検討会」を発足、2年間かけて進めた。
 検討会では建物と空地の関係の重要性が認められ、まちの将来像を共有し、その実現に向けたルール作りを内包したきめ細やかな設計がされ、2002年8月に建物が完成した。

敷地単位のデザインから建築ルールへ

 こうしたプロジェクトが契機となって、京都市ではいわゆる「まちなみ審議会」が2001年1月に設置された。2002年5月には審議会の提言が提出され、この内容を反映したものが職住共存地区における新しい建築ルールとして2003年に施行された。これにより職住共存地区では、実質20mに高さを抑える形態規制が出され、都心部では初めて美観地区が導入、低層階の用途誘導などが盛り込まれた。
 さらに2005年7月にはいわゆる「景観審議会」が設置、2006年11月には答申が出され、その内容を受けて2007年9月に新しい景観条例が施行された。これにより都心部は15mの高さ規制が導入されるが、2003年の建築ルールで実質20mとなっていたものからさらに5m低く設定されることとなった。

2003年建築ルールの効果検証

京都市中心部における共同住宅の建設動向  集合住宅の建設動向を考察することを目的に行った建築計画概要書の分析の結果、集合住宅の建設が大きく減少していることが分かった。中心部では、田の字地区(御池〜五条、堀川〜河原町で囲まれたエリア)ではかなり減少しているが、幹線道路の沿道地区での建設は盛んに行われていることが分かった。実際にルールに従い建設されたものを見てみると、デザインの基準のあり方や駐車場の設置方法などいくつかの課題があることが確認できる。

2007年建築ルールの課題

 今回の2007年建築ルールにおいては、建物の高さに関する規制が出されたが、その影響を考えるシミュレーションを行ったので紹介したい。
 このシミュレーションにより、既に町家がたくさんあるところでは、まちの将来像を描くことが可能となるが、既に多くの中高層建築が並んでいるところでは、まちの将来像は以前に増して描きにくくなったことが認められる。
 さらに高さが制限され、その中で容積を確保しようとすると、空地が減少する恐れがある。京都市内都心部は公的な空地が少ないが、冒頭に紹介したように敷地内の私的な空地により都市内の空地が担保されているのであり、それが減少する恐れがあるという認識が必要である。
 そこで、敷地内の空地に関する操作をシミュレーションしてみた。空地を各敷地の中央に集めたケースでは、景観的な効果はあまり現れなかった。そこで、敷地内で空地をまとめるのではなく、分散するシミュレーションを行ってみたところ、高さが不揃いな状況でも地域ごとの特性が出てくることが認められた。

地域におけるまちの将来像検討に向けて

 一つの敷地等小さな単位だけではまちの将来を考えることは難しい。さらにそれでは隣地との空地を連担させる検討も難しい。地域でまとまって考え、行動をしていくことを考えない限り、町家型集合住宅を都市において効果的に普及させていくことは難しいと考えられる。
 「まちなみ審議会」の提言にもあるように、地域ごとにこれらの取組をまちづくり活動として展開していくことがその有効な手段であると思う。さらに建築について解はひとつでは決してないので、様々な可能性があることが大事だと思う。都心部の集合住宅については、様々な可能性を模索しながら作り上げていくことが重要であると思う。
 今回、都住研の定例会に集まっていただいた事業者の方には積極的にこのような集合住宅の建設を考えていただきたいと願っている。

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