都住研ニュース

第28号 ●定例会ダイジェスト

定例会では様々な講師を毎回お迎えして、各テーマの専門的なお話をお伺いしています。そしてグループごとにディスカッション・発表を行い、様々な専門性をコラボレーションする場にもなっています。
ここでは、これまでに開催した定例会のダイジェストをお伝えします。

■第35回(平成17年11月24日)

 循環型地域経済に貢献する住まい・まちづくりとは?
  岡田 知弘 氏 (京都大学大学院経済学研究科 教授)

岡田知弘氏  都住研では「京都こだわり住宅プロジェクト」として、北山杉を始め京都の優れた産材や技術、人材を使って優れた住宅を作ること、そしてそれにより京都の山や地域経済に寄与する仕組みづくりを進めています。さらに昨、今の建設に関わる不正問題などをふまえて、地域に根ざした顔の見える、信頼・安心できる住まいづくりもあわせて進めて参ります。
 第35回定例会では、これらに関する勉強会と位置づけ、地産材の活用による住まい作りについて、「地域経済」という視点で、その効用や課題について学習することを目的に、地域経済の専門家・京都大学の岡田先生を講師としてお迎えしました。豊富なデーターと資料、事例により、わかりやすく解説いただきました。

【地域経済とは何か】

 地域経済とは、重層的なもので、一番の基本単位は人間が生活する、自然、景観、生活、そして生産活動が一体になった生活領域。そして生活の基本的手段として「住まい」があり、その基礎条件をなすのが「まち」であると考えられる。人間は生活するために経済活動をしなければならないし、自然に働きかけて衣食住の財を獲得しなければいけない。この人間と自然の物質の代謝は、300万年といわれる人類史のほとんどの期間、徒歩圏であり、生活圏と経済活動圏は重なっていた。しかし、経済発展とともに両者のズレが拡大し、グローバル経済時代の今は大きくズレてきている。例えば、世界規模で経済活動をしている自動車メーカーはその傾向が強く、HONDAでは投資収益の7〜8割は海外での売り上げになっている。

【グローバル化の中における地域経済・人々の暮らし】

 多国籍企業化することで、国内の産業空洞化が進んでいる。そして多国籍企業の収益はその7割が東京に集中している。日本の産業別就業人口の推移は、全体で30%、林業では40%も減少、第三次産業が増加しており、サービス業、中でも情報や医療系の就業人口が増加している。京都でも、以前は西陣織などものづくり系の就業人口が多かったが、現在では医療系の就業人口が増加しており、産業構造が大きく変わってきている。
 国際化、グローバル化の中で、地域産業、そして人々の暮らしをいかに守るか。これは個々の地域でがんばればいいだけではない。地域ごとに個性、特性があり、東京に富が集中していることが課題。それぞれの地域の位置と個性を科学的に把握し、独自の地域経済振興策をとる必要がある。

【従来の公共事業+工場誘致型地域開 発は何故失敗したのか】

レクチャーの様子  本は、80年代後半以降、海外投資を盛んに行うようになり、貿易国家から投資国家に変わってきている。今年度上半期に、貿易収支より海外投資に伴う所得収入が上回った。しかし、日本は化石エネルギー基盤は0%、穀物自給率も28%と低い。先発の投資国家であるイギリスは食糧自給率は100%、アメリカは世界最大の農産物輸出国で、テキサスに無尽蔵の油田を持っており、日本だけが穀物と油を輸入に依存する国。果たしてこの状態で日本経済の持続的発展がなされるか極めて疑問。果たして日本はこのまま投資国家として、国内の農林業や製造業を破壊して、安定的に生きていくことができるのか。
 こうして、多国籍企業の本社が集中する東京への一極集中が進行し、農林漁業や製造業に基盤を置いた地方経済の後退の対照性が際だってきている。そして、日本経済や列島の社会的安全を基礎から支える地域の崩壊が広がっており、地域と日本の持続的発展の危機が深まっていると言える。

【地域内再投資力の必要性】

 住宅メーカーは消費者のニーズの方向を向いているし、コストダウンもしなければいけない。また、木を知らない、あるいは木に愛着のない建築家に設計してもらうのもどうかと思う。それならこだわり住宅をやっている人にやって欲しいし、話を持って行って、一緒に考える方がいい。その方が意味があると思う。
 つまり、住民の一人ひとりの生活を基盤にした地域経済が持続的に維持・発展していく仕組みがないといけない。そこでのポイントは、地域発展の要素は、地域内再投資力が大事である、ということだと考える。
 例えば、道路整備は1回きりの投資。けれども次の投資は自動的に生まれない。だから、企業誘致に頼ろうとするが、その効果は期待できないことはこれまでの経過からもいえる。しかし地域には投資主体が沢山ある。企業、農協、協同組合、NPOもあるし、そして地元の自治体自身も投資主体である。毎年繰り返される投資により雇用が生まれ、所得が循環する。そのような再投資を繰り返すことで、地域内の建物の更新も進むし、まちなみも整っていく。しかし地域内投資が進まずに、地域の産業が衰退すれば、建物の更新もできずに結果としてまちなみも乱れていくことになる。
 京都市では、98年に55万戸の住宅があったが、毎年12,000戸程度の住宅が更新されている。それがうまくいくかどうかは、地域の景観を決めることにも繋がる。また景観だけではなく、地元の木材を活用すれば、国土保全にも繋がる。
 中越震災の際に調査したが、耕作放棄地が広がれば、地滑りの発生率が高まる。ちょっとした雨でも土が崩れて、水路をふさぐ。震源地の小千谷市には、JRの発電所があった。ここで発電した電気は東京の山手線に送電されており、ここが大きな被害を受ければ、東京の交通も麻痺をした。つまり、このような点でも、都市と農村は繋がっているのである。

【京都経済の特質】

レクチャーの様子  京都市への人口集中率は高く、東京に次いで県庁所在地への集中率は2位である。それと製造業が強い地域であることも特徴である。農林漁業を中心とした中北部や南部地域と共存関係にある。このような構造は江戸時代から確立してきた。そして企業のほとんどが中小、もしくは零細企業であり、政令指定都市ではその比率はトップである。中小金融機関が発達しているのも特徴。預金額も圧倒的に多い。
 しかし、京都経済の落ち込みは激しい。事業所・同従業者数の減少率は大阪に次いで高い。全国でワースト2である。5年間で30%減少というところもあり、このような地域では人口も減少している。

【京都経済の衰退の原因は何か】

 京都はものづくり企業の集積地であり、規制緩和のマイナス効果の影響を大きく受けている零細な商店も多い。基幹産業である織物や友禅の工場の閉鎖に加え、商店街では売り上げの減少・廃業などによって個人商店も減少した。そして都心部ではその後遺症でマンションが建設されたり、駐車場や空き地が広がって、職住が一体化していた京都都心部の崩壊が進んだ。結果として景観破壊、観光資源の劣化現象が生じている。
 現在、京都市では「観光客5,000万人構想」を掲げ観光客の誘致に力を入れており、すでに4,000万人を超えている。しかし、観光関連の消費額は伸びていない。これは、一人あたりの消費額が低いことによる。加えて観光産業の内部構造が変わってきている。ホテルが外資などにM&Aで買収されているうえ、1985年から2002年までの間に、ホテルは49軒から127件に増加している。一方、旅館は926件から297件に大幅減少している。このような大きな構造変化が、地域内の経済循環を妨げ、所得を域外に流出させている。

【グローバル化時代に左右されない地域産業を作る】

 グローバル化時代に、なぜ個性が求められるのか。それは、どこにでもできるものを作ったり、観光施設をつくったとしても必ず価格競争で負けるから。現在は中国臨海部だが、この後に中国内陸部、ベトナム、インドと、より安い労働コストの国が待ち受けており、価格競争は終わりがない。価格競争だけでは勝てない。つまり、その企業にしかない個性的な製品、その地にしかない個性的な観光づくりが必要となるのである。そこから、破滅的な価格競争ではなく、共存できる相互取引、人的交流が生まれる。
 観光については、京都は京都らしさを磨けば、全世界からいろんな人がやってくる。そして観光客が消費してくれる効果を何重にも地域内に広げることができる。つまり、グローバル競争に左右されない京都らしい地域産業を育て、地域内再投資の環境をいかに作るかが大事なのである。これは住宅建設についてもいえる。例えば個別自治体の住宅建設、改修助成策は、地域における投資を誘発する呼び水効果も期待できる。

【様々な独自の取り組み】

 <全国の事例の紹介>
  ・埼玉県の中小企業振興基本条例
  ・ナニワ企業団地協同組合の共同受注
  ・墨田区の中小企業の振興施策
  ・岩手県の県産材の活用の取り組み
  ・大江町の経済循環
  ・アメリカの事例

【京都こだわり住宅への期待】

 住宅は「住む」という人間の基本的な生存条件を保障するものであり、その質的な向上は住民全ての要求であると思う。安心できる地元の会社の材を使い、合理的な住まいづくりを行うことはとても大事だと思う。そして全体としての都市景観が質の高いものとして継承できれば、京都の社会的価値も高まっていく。
 そしてこのような取り組みは、これまで主流であった「巨大プロジェクト型開発」とは異なり、地域内波及効果も高く、京都の生活文化が持続的に発展できることも期待できる。単に住宅をつくるだけではなく、瓦や畳なども現地で調達し、京都ならではの伝統的な産業連関を作っていってほしいと思う。中小企業の方が地域への貢献が高く、また物質や所得の循環だけではなく、国土保全効果、地球環境問題への貢献なども期待できるので、是非皆さんにはがんばっていただきたいと思う。
 消費者は、いいものとわかれば対価を払う。よい評判が広がれば、全体として住宅への価値観も変わってくるのではないだろうか。「安物買いの銭失い」ではなく「いいものにはお金を払う」というような社会的な動きを作ることが大事だと思う。

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