都住研ニュース

第24号 ●定例会ダイジェスト

定例会では様々な講師を毎回お迎えして、各テーマの専門的なお話をお伺いしています。そしてグループごとにディスカッション・発表を行い、様々な専門性をコラボレーションする場にもなっています。
ここでは、これまでに開催した定例会のダイジェストをお伝えします。

■第31回(平成15年9月26日)

 「21世紀の京都策〜産官公とひとづくり」
  堀場 雅夫 氏 (株式会社堀場製作所会長)

堀場雅夫氏  京都大学理学部在学中に堀場無線研究所を創業、学生ベンチャーの先駆けである堀場氏。昭和28年に堀場製作所を設立、「面白おかしく」を社是に、ベンチャービジネスのモデルともいえる企業を作りあげられた。第31回定例会では堀場氏をお招きし、「21世紀の京都策〜産学公連携とひとづくり」というテーマで、産学公連携と人材育成に注目して、京都の活性化、魅力化についてのお話についてお伺いした。

21世紀のキーワード「集団から個へ」

 20世紀から21世紀に移るキーワードは何であろうか。1つだけあるとすれば「日本は集団の時代から個の時代に変わっている」ということだろう。私が幼かった時、朝学校に行く際にお袋は必ず「みんなと仲良くしなあかんえ」と言われていた。そして学校に行っても先生から「喧嘩をするな」といわれた。日本はこのような教育で良かった時代があった。しかし最近では「個性」を重視するようになってきている。
 日本の政策は、中央の政策で進められ、そして多くの「リトル東京」をつくってきた。また、まちづくりの目標も「シリコンバレーのようにしよう」と、ターゲットを設けて、これの何分の一かのスケールで実現しようとする。「・・銀座」「・・小京都」という言葉も、これを示している。偶像に対して近づこうとしているが、これはアイデンティティの確立の正反対の方向に向いているのではないだろうか。日本は、「物真似が上手い」と言われてきたが、もうアイデンティティを確立する時期が来ているのではないか。

【京都はひと味違う】
 京都は、他のまちとは少し違う。現在、「東京人」と言っても「江戸人」は少なくて、全国から集まった人で構成されている。一方京都は原住性が高い上、よそから来ても同化率が高い。また旧財閥系列の企業がない。全て京都の企業は、独立系の企業である。それが京都の経済界の中心で、オーナー企業が強く、いい意味で、個性が豊かな人が多い。
 そのような人が一国一城の主として、アイデンティティを持っている。全国の企業は大企業の傘下に入っているところが多いが、京都はそういう意味でも地域主権国家の可能性を一番持っているまちであると思う。

【京都のまちづくり】
 今後の京都のまちづくりは、全国のモデルになると思う。しかし、京都と同じものを創るのではなく、京都の考え方を参考にしてもらい、その土地土地でのまちづくりをして欲しいと思う。
 京都は、日本の文化、価値観の原点を持っているまちである。そのエキスをまちづくりにわかりやすく導入しないと、京都の存在価値はないと思う。
 私が京都のまちづくりとしてぜひやりたいのは、京都の特徴である「職住の一体化」あるいは「職住の近接」である。これが実現できれば、自転車や徒歩で移動が済む。そうなれば都市交通も大きく変わる。更に、京都は製鉄所などはなく、ほとんどが職住一体で済む仕事が多い。上の階で部品をつくり、下の階で部品を組み立てる。荷重も少ないので、家の書庫よりも軽い。特にコンピューター関連の仕事であれば、まちの中に工場を設けることもできる。今後は、定型的にまちをつくるのではなく、自由に動ける中で、まちを総体として考えていけばいいのではないか。

【産学公連携について】
 京都では、大学の存在はとても大きい。私は、大学のキャンパスを、専門ごとに各区に配置したらいいと考えている。例えば工学部は○区、医学は△区、などと配置し、その区ではその学部の特色を生かした産業をおこさせる。そしてその産業をおこすところは、職住の一体が基本となっている。ぜひ、このような話題を通じて、京都の活性化を図っていって欲しいと思う。

■第32回(平成15年10月20日)

 「京都を考える〜広域的・長期的視点に立って」
  木下 博夫 氏(阪神道路公団副理事長)

木下博夫氏  昭和62年から平成元年まで京都市助役をつとめられ、その後建設経済局建設業課長や建設省都市局長、国土庁の事務次官などを歴任され、平成13年12月から現職の木下さんをお招きし、広域的・長期的な視点に立って、京都のまちづくりの可能性についてお話しいただいた。

1.京都をとりまく状況

【一極集中の弊害】
 日本列島を取り巻いている状況として、東京への一極集中による様々な弊害がある。様々な会社の本社が東京に移転していく中、京都の企業は頑張っている。

【「身の丈」に対する認識】
 全体的にマーケット至上主義になって、売れればいい、沢山儲かればいい、というようになっている。しかし京都では程々でありながら、しっかりと注目を集める仕事がある。京都はアメリカ的ではなく、歴史や文化を踏まえたヨーロッパ的なまちづくりが京都らしいと思う。

【国際的視点の不足】
 私は京都の持ち味はデザイン力や意匠を含めて総合的に京都らしさがあると思う。これからは京都らしさを求めるのは、国内的に求めていくのもあるが、むしろアジアの方から、京都らしさというものが注目されていると思う。

2.20世紀後半の点検自らの京都経験の回顧

【バブル期の圧力】
 私が京都市にいた当時は、地価が高騰していた。東京から見ると京都は魅力的な土地で、総体的に割安感があったので随分と地上げにあった。私がいた当時は、今以上にその課題が強かった。

【交通ネットワーク整備】
 京都には地下鉄があるが、私がいた当時は烏丸線が通り、京阪の地下化が進みつつあった。そして東西線ができ、烏丸御池での十字路ができて、ようやく地下鉄の動脈ができた。
 京都の都市高速ネットワークは、当時と今とでは事情が異なるし、現在では高速道路は京都に要らないという意見もあるが、環境問題も含めて、議論をしなければいけない点はあると思う。

【ストックの有効活用】
 町家は、そこで生きているから評価される。飾っておくだけでは意味がないと思う。京都の様々なストックをいかに有効活用するかが当時も今も課題であろう。

3.今後の京都整備に対する注文

【都市美の重視】
 京都では景観条例や屋外広告物の条例は非常に厳しい。しかし、ポイント的に綺麗なところはあるが、まち全体は決して誇れるものではない。デザインや色などを思い切って改善すれば、他の人は京都を見直すことになるだろう。都市美について市民ぐるみで議論をして欲しい。

【周辺地域との連携】
 東京は同心円状の特性を持っているが、関西は大阪を重心として、神戸と京都がある「やじろべえ」の構図。このような構図は、面白い都市圏になる可能性を持っている。ぜひ、上手い連携を取り組んで欲しい。

【個性ある都市経営】
 京都市には芸術大学がある。また、交響楽団もある。このような資産を活かすとともに、日本の和楽器が小学校教育で取り入れられているようだが、形やものだけではなく、生活がにじみ出ていることが大事だと思う。

4.むすび

【21世紀のトレンドの確認】
 今後高齢化が進むのは間違いがない。そうなれば人の食欲の嗜好も変わるし、「自分の身のまわりを整理する時代」になると思う。私は「少量多品種」の生産がキーワードになってくると思う。ストックの活用や多目的利用も21世紀のまちづくりのトレンドになると思う。

【民間分野の自信回復地方主権の進行】
 地方分権については、「地方分権を妨げるのは都市計画法だ」といわれてきたが、法律が整備され、都市計画の審議会も京都市独自でできるようになった。皆さんには、まちを、このようなホールだけでなく、現場に出て、良いところや悪いところを実際に目で見ることをして欲しい。

【 5 S 】
 まちづくりをするには、様々なファクターがある。私が重視したいのは5つの「S」。まずは、市の施策がどのような「スケール」でやっているか、そこには文化や風土、諸施設などという「ストック」があり、このファクターを点検することが大事。何年でやり遂げるのかという「スピード」、まちをあげての目標である「スローガン」、そして取り組む心意気である「スピリット」。以上のことを立てることが大事だと思う。

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