都住研ニュース

第37号 ●定例会ダイジェスト

定例会では様々な講師を毎回お迎えして、各テーマの専門的なお話をお伺いしています。そしてグループごとにディスカッション・発表を行い、様々な専門性をコラボレーションする場にもなっています。
ここでは、これまでに開催した定例会のダイジェストをお伝えします。

■第42回(平成20年9月9日)

 環境共生のまち・京都はすまい・まちづくりから
  講師:大島 仁 氏(京都市地球環境政策監)

「環境モデル都市」について

大島仁氏  温室効果ガスを大幅に削減する「低炭素社会」を目指し、先駆的な取組にチャレンジする都市を国が10箇所程度選定するものです。京都市は残念ながら次点、候補都市となりました。
 低炭素社会、つまり温室効果ガスを大幅に削減し、大気中温室効果ガス濃度を安定させつつ、同時に生活の豊かさを実感できる社会の実現のための提案でした。

(1)環境モデル都市提案の紹介

COP3開催地としての先進的な取組

 京都はCOP3開催地としての様々な先進的な取組があります。まず、1)全国初の地球温暖化対策条例を制定し、市民・事業者・来訪者の責務を明確化しました。罰則はありませんが、名前を公表することとしています。2006年の排出状況をマイナス5.6%、目標としては10%としています。市民についても、事業者とともに公共交通機関の利用、アイドリングストップを義務付け、観光客にも協力義務を明記しています。
 さらに、2)京都発の環境マネジメントシステム「KES」があります。ISO等もありますが、これは中小企業等にとってはハードルが高いので、京都独自の評価基準として作られ、中小企業にも取り組みやすい環境マネジメントシステムとして全国に拡大しています。平成20年5月末現在で2,131件が登録されています。電気使用量を減らしたり、搬出等を効率的にしたり、かつそれにより経済的にも黒字に繋がるというような効果も出ています。503事業所の調査結果では、平均年間12トンのCO2の削減効果があるとされています。
 次に、3)旧五大都市で唯一の家庭ごみの有料化を実施しました。市民サイドでごみを減らしていく動機としてゴミ袋の指定と有料化を図り、約20%のゴミの削減につながりました。
 そして、4)建物の高さを規制し、屋上ネオン広告を禁止する「新景観政策」の実施です。10階建を5階建以下に、15階建を10階建以下にという日本で初の「高層ビルから中低層建物」の大都市への転換を図りました。建物のボリュームを低くすることで、排出するCO2を減らしていく効果が期待できます。

京都のまちの特徴(1200年の持続可能な歴史都市)

 京都市は、「京都市民の知恵」と「自然共生型の京都流ライフスタイル」が大都市型コンパクトシティを実現している都市です。世界で最も厳しい規制により、周辺の山々・農地の開発を抑制・保全をしてきました。

 さらに京北町が市域に入り、市域面積の3/4が森林となり、「京野菜」に代表される近郊農業が営まれ、北山杉など市内産木材の利用が可能な環境にあります。そして木造住宅の割合が5割強と高くなっています。人口約150万人を擁する大都市でありながら、職住近接のコンパクトな町を形成しており、市街地のほとんどが徒歩圏・自転車圏であり、知恵産業型のものづくり都市の伝統があり、自然共生型の京都流ライフスタイルが息づいています。
 平安京は四神相応に基づいて計画されたとも言われていますが、昔の人が完成させた地勢上の有利さ、そして保全・再生・創造に基づくコンセプトを設置し、これに基づく都市計画を行っています。

京都市からの新しい提案の要点

 目標としては1990年を基準年に、2030年に温室効果ガスを50%削減します。これは目標削減量、削減方法を、政令指定都市として初めてバックキャスティング方式を活用して算定しました。さらに2050年には大都市初めての「カーボン・ゼロ」に挑みます。これは新景観政策による長期的効果を発現させることを前提としています。そしてこれは既に50年、100年後を目指した低炭素型まちづくりに着手済みでもあります。
 大幅な削減に向けた第一歩として、3つのシンボルプロジェクトを定めました。1つ目が「歩くまち・京都」で、2つ目が「木の文化の世界首都・京都」です。これは155万トンの削減効果が期待できますので、建築・建設分野で何ができるのかが大事になってきます。ぜひ、お力やお考えをいただきたいと思います。そして3つ目が「ライフスタイルの変革」と「技術革新」です。

「木の文化の世界首都・京都」戦略

 まず、新しい時代の木造建築物づくが必要です。全国一律の建築基準法には様々な弊害があり、京都的な応用が難しくなっていますが、木の使い方について京都的なモデルづくりをさせて欲しいと国にはお願いしています。京町家の知恵と最先端の技術の融合による「低炭素景観ハイブリッド型住宅」いわゆる平成の京町家と言っていますが、伝統的な知恵と現代的な技術を応用した長寿命の住宅をイメージしています。具体的なモデルについては、これから検討を始めたいと考えていますが、イメージとしては、太陽熱・地中冷熱の利用、風の通り道を考えた構造、京都産木材の利用(地産池消)、長寿命化(木造200年住宅)、平成の坪庭による「まちなかグリーンベルト」化などをあげています。
 そして、木造に注目するならまず市役所が率先しようと、公共施設の木造化の率先推進をしたいと考えています。市役所庁舎の木造建築化は区役所規模になろうかと思いますが、実現したいと思っています。完全木造は困難かもしれませんので、どこまでをコンクリートの替わりに木造を使用するかなども検討を進めたいと考えています。
 さらに、「低炭素景観建築物の認証」を進めたいと考えています。現在、CASBEE等が既にありますが、環境に配慮したものを採用していれば、例えば容積などの「お土産」があるなどがあるようですが、京都市も景観や環境という観点で、独自の認証制度が作れないだろうか、と考えています。

提案事業を持続的に可能とする資金調達のメカニズムづくり

〜「京都市民環境ファンド」の創設〜
 カーボンオフセットを行うメカニズムづくりとして「京都市民環境ファンド」、つまりクール京都ファンドと呼ぶものの創設を考えています。持続可能性を確保するには、財源が必要です。
 例えば、市民力による森林の保全を目的とし、京都府との連携による政令指定都市初の「森林環境税」の導入や、旧五大都市唯一の「ごみ有料化」を財源にしたり、ETCを活用したロードプライシング、ふるさと納税等もファンド財源へ考えています。

(2)「緑・住まい・まちづくり(建築物)を対象とした取組」

低炭素・景観建築物認証制度

講義の様子  新たなCASBEEのあり方として、景観と調和した省エネ生活環境を実現する建築物(木造・非木造)を政策的に誘導する「京都方式」の認証制度の創設を提案しました。

 2030年50%削減の実現可能性を示すためには、取組の効果を算定する必要があります。これは従来型の計算式を使って計算したものですが、バックキャスティング方式を使って算定すると、年間93,000トンの削減になります。

モデル住宅「平成の京町家」

 京町家の知恵と最先端の技術の融合による「低炭素景観ハイブリッド型住宅」(平成の京町家)を提案しました。一つのあり方として、パッシブソーラーやクールチューブなどの技術で、「京都型ライフスタイル」を生かす住宅です。

木造建築物の推進

 何のための木材利用か、と言うことを改めて考える必要があります。その前提として、森林整備を推進することがあります。そしてその整備を誰がするのか、という担い手の育成も必要です。整備されて始めて効率よく吸収されるからです。そしてそれが経営として成り立たないと、長続きしません。その1つの流れを提示する必要があります。

「新景観政策」の効果

 新景観政策は低炭素社会形成にどのように寄与するのか、何トン削減するのか、ということが聞かれます。想定した4つの削減効果としては、まず、1)高さ規制の強化による建築ボリュームの縮小の削減効果として約21万トン、そして、2)建築物デザイン規制の強化(屋根・庇の設置)による長寿命化の削減効果が約13万トン、3)京町家など歴史的な町並みの保全による新たな中高層建築物の抑制の削減効果が約16万トン、4)「平成の京町家」による市内産材活用と木造化促進の削減効果が約35万トンと、新景観政策による低炭素化効果は合計約85万トン、もちろん長期スパンでの削減効果ですがあると推計できます。
 以上、環境モデル都市で提案した内容のうち、住まい・まちづくりに関連することをお話しさせていただきましたが、中身はまだ詰めなければいけないところも沢山あります。
 建築、まちづくりについては近くこの分野の市民会議を開催していく予定です。既に歩くまち京都、ライフスタイルの領域の市民会議は動き出しています。ぜひ、実務家の方の皆さんからも意見をいただきたいと思っています。

■意見交換ダイジェスト

意見交換の様子 ■例えば平成の京町家については固定資産税の軽減があるとか考えられるのではないでしょうか。

□かつてCO2を出さないエコカーの重量税が安くなるなどの施策がありましたが、続きませんでした。このような税制優遇的な施策は短絡的な面もあり、持続していくためには、やはり一貫性が必要です。助成 や税金を下げることは市民の税金でその分を賄う、ということにもなるので、市民の理解が必要です。

■木の文化都市は、単に木造ということだけではなく、循環型のシステムを備えた都市ということだろうと思います。山から家まで一貫した流れを前提とした木材の使用、メンテナンスやリフォームの仕組みの再構築など、より具体 的な構想が必要だと思います。

■現在進めておられる構想は、建設におけるCO2抑制を中心としていますが、ストックの保全、再生、活用、流通がより重要です。今あるストックをいかに活用し、流通させるかという観点が現在の構想には大きく欠落しているように思います。

■景観条例と建築基準法が相容れない部分もいくつかあります。京都を特区指定するように働きかけて、「木の文化」を前面に出して有効に進めるのが一つの鍵かな、と思いました。

□建築基準法は全国に適用されるもので、その中で京都モデル的なものを創らせて欲しい、ということは話をしています。実務的に問題になっているもので、法規制レベルのものは特区指定が有効かもしれませんが、工夫で乗り切れるものもあると思います。

■景観政策を策定の際にあらかじめ環境の要素も盛り込んでおけばよかったのではないか、と思いました。平成の京町家についてですが、ゼロから始めるのではなく都住研始め様々な団体や企業などが既に提案をしていますのでそれらのアイデアを活用すればできるのではないでしょうか。

■全体として木造建築、文化が中心の話になっているという点では良かったと思いますが、どこの都市も地域産材を建材として活用することをしていますが、上手く実現している例はありません。現実は輸入材が5〜8割を占めている中、どう展開するかが課題です。縦の取組と横の取組両方が必要であると考えます。まず縦の繋がりは、林業の産地、加工、流通、現場の一連の流れが繋がるような整備が必要です。横は、京都だけではなく全国の市場にのせるような広がりも必要だと思うのです。
(■フロア □大島氏)

第14期総会を開催しました ●中古マンション管理の格付けスタート!

トップ > 都住研ニュース > 37号