袋路内子育て支援住環境事業の展開と仕組み・体制の構築

令和3年度「住宅市場を活用した空き家対策モデル事業」(部門2 住宅市場を活用した空き家に係る課題の解決を行う事業)

事業の計画

1. 今回対象とする空き家に係る課題

 私たちが袋路に着目するのは、袋路が地域の課題解決や安全・安心の確保、魅力向上に繋げるまちづくりの観点から大きな役割を担うと考えているからである。また、袋路再生事業はその属性及び性質上、地域の事業者が行政と緊密な連携をしながら進めることが好ましいと考えている。このような意識から、2015年から袋路再生プロジェクトに取り組んでいる。その際に着目した地域課題は、下記の通りである。地域課題のうち、とりわけ子育て支援環境の実現にテーマを絞って取り組んできた。

■路地奥の空き家・空き地の利活用が困難
  • ・京都市内には多くの細街路があり(延長約900km)、中でも再建不可の幅員1.8m未満の袋路等は約18%を占め、4m未満のものも含めると約6,000本存在する。これに面する住戸の空き家化や建物の老朽化による安全性の低下が都市防災上の課題となっている。これらは歴史的市街地に多くあり、都市縮小時代においてこれらを有効に活用していくことが重要である。
  • ・いわゆる“スポンジ化”が進む路地内の空き家・空き地について、路地の地割りを継承しながら所有権の集約などを通じて、建物や土地利用の更新を可能にする取り組みを継続している。
  • ・民間市場で流通性が低い不動産(負動産と近年は呼ばれる)について、行政と民間事業者の連携を通じて利活用を可能にし、価値を創り、適度な市場性を持たせることを目指している。
  • ・これまでの取り組みで所有者不明地、相続人がない区画についての対処を進めてきたが、さらに国有地(法定外公共物・水路)が整理されぬまま残されており、この対処が必要となっている。
  • ・さらに当該地に不在の土地・家屋所有者の無関心や路地の開発への関心のなさから、調整が難航している。これらのボトルネックを整理、解決策を導く。
■子育て世帯のアフォーダブル住宅の不足
  • ・近年、京都市内都心部では、地価の高騰やマンション供給の減少により、子育て世帯が選択できる住宅の減少が課題となっている。
  • ・本取り組みを通じて、路地に面した物件は資産価値が低く、事業費を抑えることでこれらの世帯向けのアフォーダブル住宅を供給する。
■業界の枠を超えた連携の必要性
  • ・これまでは京都市内では新築・改修に関わらず、住宅を供給すればそれなりに利益を得ることができた。しかしながら人口の減少や家族の多様な等を受けて都市の縮小が進む中、コンパクトな都市で市民のニーズを満たすためには、まちの課題やニーズに応じた供給が一層求められる。
  • ・このような供給のためには一業界では困難であり、事業者や行政、NPOなど多様な主体が連携した体制を構築し、効率効果的な住宅を供給することが必要である。
  • ・多様な主体が協働するためには、まちづくりのビジョンの共有及び路地の価値の「再発見」が重要である。そのために、多様な視点から路地の魅力や活を発見できる広報を行うことが重要である。

2. 上記課題に対するこれまでの取り組み

 都市居住推進研究会は、平成6年(1994)に発足した京都の住まい・まちづくりに密着した提案活動を行う研究会である。発足当時は、地震時の倒壊や火災時の延焼など、防災上の課題が指摘される路地をはじめ既存不適格建築物や再建不可建築物の更新が困難で、土地や建物の更新や既存ストックの有効な活用が阻まれている点に問題を感じ、建て替えを可能にする提言を行うことを主な活動としていた。
 ところが近年は、こうした防災上の課題を指摘するだけでなく、路地の多面的価値を肯定的に評価する動きも盛んとなっている。伝統軸組構法で建てられた長屋群が軒を連ねるまちなみ景観、共同の井戸や地蔵堂の残る歴史的風景、昔ながらのコミュニティ、子どもたちが安心して遊べるヒューマンスケールの空間、地代家賃の安さなど、路地にはオモテの通りにはない魅力やポテンシャルがある。防災活動が熱心に行われている路地もある。特に最近ではリノベーションへの関心の高まりから、若年層の移住や事業物件の進出もみられる。市行政も細街路(路地)対策を重点的に進めており、路地は、未来の京都のありようを検討する上で重要なファクターとして存在感を増している。
 京都の路地は、長い歴史の中で培われた暮らしの知恵や意匠が集積する歴史的市街地を構成する要素であり、一度失えば二度と再生できない。また、都市居住者にとって貴重な交流空間であり、京都らしい景観を残す場所でもある。このため、安全性を確保しつつ現代の暮らしに適合した空間として再生することで、京都のまちの価値をより一層高める可能性がある。
 都市居住推進研究会では、発足20年記念事業として、現代的観点に立った路地のまちづくりについての提言を行い京都市に提出した。(参照:http://www.tjk-net.com/proposal/proposal05.html)。
 提言では、路地を生かしたまちづくりの推進を喚起するために独自目線で京都の魅力的な路地の選定を行った「路地21選」や、路地の関係者が自ら路地の未来を考え、選び、実践する手助けとなるツール「路地診断シート」「路地カルテ」「展開検討シート」の開発を行い、路地をいかしたまちづくりのメニューとプロセスを可視化した。
 活動の流れ2018年には「地域の空き家・空き地等の利活用等に関するモデル事業」に採択され、2020年までの3年間のモデル事業の中で、再建不可の袋路内で土地を集約し、地域の課題となっている子育て世帯が安心して居住できる住環境を整備するモデル及びこれを普及するための仕組みや体制づくり、所有者・相続人不明地の対処方法の検討、路地のまちづくりに関する情報発信事業等を行ってきた。

 空き家・空き地の流通事業3年間の検討及び下京区での実事業の実施を通じて、右記の官民連連携による袋路の空き家・空き地の流通事業を構築した。

 下京区の中堂寺前田町の袋路再生プロジェクトでは、袋路における開発手段として、2方向の避難経路を確保し、安全性を高めた上で特例許可(43条2項2号許可)により進めることとしており、当該区画の敷地を集約させる、つまり購入による合筆で権利を一体化し、4戸の住宅を新築することとしている。現在、本審査に向けた準備を進めている。本事業により、子育て世帯が安心して暮らせる子育て支援住環境とするために、下記の計画で進めている。

3. 今回取り組む内容(事業計画)

1)事業の目的と対象とする課題

 2018年から進めている路地再生プロジェクト及び検討を通じて、官民連連携による袋路の空き家・空き地の流通事業を構築した。今年度から、対象地(京都市下京区中堂寺前田町)において事業に着手する。事業は@事業予算確定、A土地の取得、B国有地(水路)調整、C近隣との調整及び協定・合意、D特例許可申請を経て、E設計・確認申請、F工事、と進め、2022年度に完成させ、住宅(賃貸を含む)として供用する予定である。

 今年度は、この事業の進行と並行して、この取り組みを個別解で終わらせないために、取り組みから得られる知見を他の袋路での展開を可能とするための仕組み及び体制の検討を行う。設定する課題は、以下の通りである。

  • ・袋路は子育て空間として再生・継承が可能であるという事例の実現
  • ・ソフトハード両面の「子育て支援」のために、中堂寺路地再生プロジェクトの袋路内の空き家に子育て支援サービス担い手の誘致と調整
  • ・路地の既存コミュニティに理解を得るための普及活動
  • ・継続的に同様な事業を展開するための仕組み・体制の検討と構築
  • ・市内の他地区で同様な展開がどの程度可能かの検証
  • ・袋路は子育て空間だけでなく、目的や活動を同じくする人が集積・活動する空間としての可能性もあることの検討
2)取り組み内容

 上記課題の解決及び解法に導くための取り組みとして、今年度は下記の取り組みを実施する。

@中堂寺路地再生プロジェクトの進行
  • ・@事業予算確定、A土地の取得、B国有地(水路)調整、C近隣との調整及び協定・合意、D特例許可申請を経て、E設計・確認申請、F工事、と進め、2022年度に完成、賃貸住宅として供用することを目指す
  • ・特例許可の要件である「防災まちづくり整備計画」の策定及び地区内の住民の合意を得るための調整を進める
  • ・新しく供給する4戸に居住する世帯が安心して快適に暮らせるための協定書「路地暮らしのしおり」を作成し、募集の際の要件とする
A袋路内及び周辺に子育て支援サービスを誘致もしくは既存団体との連携
  • ・袋路内にある空き家を活用し、子育て支援サービス担い手の誘致と調整を進める
  • ・子育て支援サービスを面的に広げることを目指し、上記担い手とともに近隣にサービス拠点を確保するよう調整する
  • ・近隣の子育てサービスを提供している主体と連携を行い、面的な子育て支援ネットワークを行うために、ヒアリングを行い、計画に反映する
B継続的に袋路内で同様な土地利用の更新を行うための仕組み・体制の検討と構築
  • 図:土地の確保・集約と利活用流れと担い手のイメージ
    図:土地の確保・集約と利活用流れと担い手のイメージ
    ・これまでも袋路内の土地を集約し、まちづくりに資する企画を立案し、実施するための体制について検討を重ねてきたが(右図参照)、これをより精査し、実際に稼働させていくための調整及び準備を進める
  • ・検討及び調整のために、行政及び京都市景観・まちづくりセンター、専門家等をメンバーとした検討会を立ち上げ、4回程度の検討会を開催する
  • ・路地内の空き地や空き家を含んだ土地の集約を進めるために、土地の寄附受けやランドバンク的な取り組みの検討を進める
C市内の他地区等での展開の可能性の検討
  • ・「路地をつなぐ」ことで面的な広がりの可能性を検証する
  • ・中堂寺路地再生プロジェクトを含む下京区の街区に加え、京都市が密集市街地対策事業の「優先地区」に設定する上京区の元学区(1,2カ所選定)を対象にケーススタディを行う
  • ・「路地をつなぐ」ことで避難経路の確保の他、どのようなまちづくりの効果が見られるかの検証を行う
D他のテーマでの路地再生プロジェクトの可能性の検討
  • ・2018年以降取り組んできた袋路再生のテーマは、その空間的特性を鑑みて「子育て支援」に絞り込んで検討してきた。これに加え、集積することでより効果を発揮する可能性のあるテーマを検討し、それを実現するためのストーリーについて検討を行う
  • ・上記の検討のために、市内(上京区西陣地区)を対象に、これらを検討するための事例を調査する
  • ・テーマとして、「手工業系」「飲食等サービス事業系」を想定しているが、実態調査に基づきテーマを加える可能性がある
3)事業の特徴

 本取り組みは、以下の特徴を有している。

  • ・現法規及び条例下では建物の更新が困難な袋路における住宅の新設を行う
  • ・袋路内では再建不可であるために建物の老朽化や空き家・空き地かが進み、都心部に遊休地を点在させる要因となっている。これらを有効に活用し、都心部への集積を進める効果が期待できる
  • ・行政と地域の事業者が連携することで、地域のまちづくりの文脈に沿った土地利用を誘導することが期待できる
  • ・地域の課題を解決するためのテーマを設定することで、地域の課題解決に加え、地域の魅力向上や有効な土地利用に繋げることができる
  • ・京都の歴史的な街区構成の大きな変更を伴わず、それを継承することが可能である土地利用を進めることができる
  • ・京都市内の他地区の袋路への展開の他、全国の再建不可による遊休地の利活用における展開の可能性を示すことができる
4)審査基準への適合性
@事業の趣旨・目的への適合性

 本取り組みは、これまで建物や土地利用の更新が困難であった袋路内の住宅を対象に、再建を可能とする取り組みであり、空き家の利活用への道を開き、市場性の向上も図れる取り組みであるとともに、資産価値の向上も期待できる。官民が連携してその手続き及び開発を行うもので、不動産の流通にも寄与しつつ、地域のまちづくりにも貢献することが可能である。

A事業の実現可能性・熟度

 本取り組みは2015年の京都市への提言提出を機に、官民が連携して課題を1つずつ検討・解決して進めてきた経緯がある。2018年からの「地域の空き家・空き地等の利活用等に関するモデル事業」採択以降、継続して進めてきた実績があり、今年度は実際に着工できる状況まで到着している。

B事業の効率性

 本取り組みは都市居住推進研究会のメンバーを中心に継続して京都市の担当課を交えて検討・実施してきており、再建不可を再建可能にしていくための課題や問題意識、進め方は共有している。新型コロナウイルス感染拡大の防止に留意しながら、緊密に検討できる体制が構築されているほか、不動産事業者、建築士、研究者等がそれぞれの役割を果たしながら効率効果的に進めている。

C事業の持続可能性

 本取り組みのメンバーは全員が京都市に密着した立場で参加しており、モデル事業で得られた知見やノウハウはそれぞれの立場で継続的に実施・研究・活動することを前提として進めている。

D事業の発展性・波及性

 本取り組みは京都市内の再建不可である袋路を対象に検討及び事業を実施しているが、官民連携で、まちの課題を解決していくためのストーリーを構築し、特例許可を得ることで再建可能としていく取り組みである。このスキームは全国の同様の課題を抱えたところでも展開が可能である。また再建可能とすることで資産価値が向上し、不動産の市場性を持たせることができる。

Eその他

 現在、京都市内では袋路内の建物をその地代家賃の低廉さや空間的特性に魅力を感じ、活用・利用している事例が散見できる。これらを恒常的に可能にすることで、都心部への機能集約に貢献し、コンパクトシティへのストーリーを描くことができる。しかしながら徒に市場性を向上させることは、ジェントリフィケーションを促進させ、地価の向上を導き、アフォーダブル住宅の実現を困難にする恐れもあるため、官民が連携することでこれをコントロールすることが求められる。

4. 期待できる効果

 本取り組みは京都市内の再建不可である袋路を対象に検討及び事業を実施しているが、官民連携で、まちの課題を解決していくためのストーリーを構築し、特例許可を得ることで再建可能としていく取り組みである。このスキームは全国の同様の課題を抱えたところでも展開が可能である。また再建可能とすることで資産価値が向上し、不動産の市場性を持たせることができる。
 現在、京都市内では袋路内の建物をその地代家賃の低廉さや空間的特性に魅力を感じ、活用・利用している事例が散見できる。本取り組みの注意すべき点としては、これらを恒常的に可能にすることで、都心部への機能集約に貢献し、コンパクトシティへのストーリーを描くことができる。しかしながら徒に市場性を向上させることは、ジェントリフィケーションを促進させ、地価の向上を導き、アフォーダブル住宅の実現を困難にする恐れもあるため、官民が連携することでこれをコントロールすることが求められる。

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