都心部の路地における子育て支援空間としての検証とテーマ型再生事業手法の構築
令和2年度「地域の空き家等の利活用に関するモデル事業」
事業の計画
1. 事業の概要
昨年度に引き続き、京都市内の路地(下京区中堂寺前田町)での子育て支援空間としての住宅供給を進める。
今年度の取り組みにより事業に着手し、大規模改修や再建不可の路地奥を対象に、所有権を集約することで開発・流通が可能となる、まちづくりの文脈に沿った地域不動産ビジネスのモデルを示す。
さらに建設・不動産単独の事業ではなく、地域住民やNPO、行政、専門家と連携しながら地域課題の緩和を伴う土地利用の推進を図る。
今回示すビジネスモデルは、路地奥の再建不可の空き家・空き地をまちづくりの文脈に沿う内容で開発・流通させる手法の構築である。
敷地個々では事業にならない路地奥の土地を対象に、情報共有及び許認可において行政と連携し、歴史的地割りを踏まえ所有権を集約させる仕組みと体制を示す。
これにより全国の地域に密着した動産事業者では開発困難な密集市街地の空き家・空き地を流通させるモデルとなり、地域課題解決型の土地利用を実現できる。
2. 現状の課題
■路地奥の空き家・空き地の利活用が困難
- ・京都市内には多くの細街路があり(延長約900km)、中でも再建不可の幅員1.8m未満の袋路は約7%を占め、これに面する住戸の空き家化や建物の老朽化による安全性の低下が大きな課題となっている。これらは歴史的市街地に多くあり、都市縮小時代においてこれらを有効に活用していくことが重要である。
- ・いわゆる“スポンジ化”が進む路地内の空き家・空き地について、路地の地割りを継承しながら所有権の集約などを通じて、建物や土地利用の更新を可能にする取り組みを継続している。
- ・民間市場で流通性が低い不動産(負動産と近年は呼ばれる)について、行政と民間事業者の連携を通じて利活用を可能にし、価値を創り、適度な市場性を持たせることを目指している。
- ・これまでの取り組みで所有者不明地、相続人がない区画についての対処を進めてきたが、さらに国有地(法定外公共物・水路)が整理されぬまま残されており、この対処が必要となっている。
- ・さらに当該地に不在の土地・家屋所有者の無関心や路地の開発への関心のなさから、調整が難航している。これらのボトルネックを整理、解決策を導く。
■子育て世帯のアフォーダブル住宅の不足
- ・近年、京都市内都心部では、地価の高騰やマンション供給の減少により、子育て世帯が選択できる住宅の減少が課題となっている。
- ・本取り組みを通じて、路地に面した物件は資産価値が低く、事業費を抑えることでこれらの世帯向けのアフォーダブル住宅を供給する。
■業界の枠を超えた連携の必要性
- ・これまでは京都市内では新築・改修に関わらず、住宅を供給すればそれなりに利益を得ることができた。しかしながら人口の減少や家族の多様な等を受けて都市の縮小が進む中、コンパクトな都市で市民のニーズを満たすためには、まちの課題やニーズに応じた供給が一層求められる。
- ・このような供給のためには一業界では困難であり、事業者や行政、NPOなど多様な主体が連携した体制を構築し、効率効果的な住宅を供給することが必要である。
3. 事業の内容・特徴
■事業の特徴
- ・京都市内の袋路の空き地・空き家(再建築不可)で子育て支援空間としての住宅供給を検討してきた。
- ・今年度、事業化を予定しており、そのための具体的な調整、計画、許可、資金の調達、実施に向けて進めるとともに与条件を整理する。
- ・建設・再建不可の路地奥の敷地を集約することで開発・流通が可能となる、まちづくりの文脈に沿った地域不動産ビジネスのモデルを示す。
- ・投資型のクラウドファンディングを導入することで、資金を調達する。投資用の賃貸住宅として売却する商品として投資を募り、調整費、建設費等を調達する。この手法は京都市内の既存不適格建築物(京町家)で実績が厚く、今回はさらに債権不可物件を対象に事業化の道筋を示す。
- ・事業者、専門家等で構成する第三者(都市居住推進研究会)がコーディネートすることで、事業に加え地域の共益を含む事業とする。
- ・非接道の空き家を流通させる手法を示し、全国の密集市街地の空き家・空き地流通の参考になることが期待される。
- ・今回進める新しいビジネスモデルの内容は、下図の通りであり、事業の検証を踏まえてモデルとして示す。
■事業の内容
@対象路地敷地の集約の進行
- ・対象5区画(これに隣接する相続人不明地は京都市にて手続き中)の所有者との調整を進める。購入もしくは借地。
- ・上記区画に隣接する路地内の別の空き家を活用し、子育て支援サービス付帯型の賃貸住宅を整備するため検討・調整を進める。
- ・敷地内に存在する国有地(水路跡)の調整を進める。
A「子育て支援」サービス及び体制の検討
- ・サービス主体へのヒアリングを行い、担い手の調整を進める。
- ・路地内の2住戸(空き家)をサービス事業の拠点として活用する検討を行う(用途限定型賃借による展開の検討)。
B特例許可の手続きに関する実施と考察
- ・土地集約の展望がついた段階で詳細計画を作成、予備審査から始める。
- ・本手続きに伴う建築計画、防災計画、通路維持管理計画を作成する。
C事業資金の調達を行う
- ・クラウドファンディング(投資型)を導入する。このための資料作成及び事業者との調整を進める。
- ・不動産の投資型クラウドファンドを利用するが、投資目的だけでなく、まちづくりへの賛同や共感を得られるよう構築する。
- ・土地集約の展望がついた段階で、募集を開始する。
DCM町(中堂寺前田町)プロジェクトの普及資料の作成
- ・CF告知とも連動させながら、本プロジェクトのプロモーションを行う。
E路地の可能性をリアルタイムで追求・発信する「路地TV(仮称)」の開催
- ・市内の他団体と連携・協働しながら開催する。
- ・オンラインシステムを使用し、複数のテーマに沿った「チャンネル」を設定、路地を生かしたまちづくりの可能性を検討・発信する場とする。
- ・これらのアーカイブを整理し、事後も情報発信を行う。
F路地の土地の寄付受けに関する検討
- ・クラウドファンディング(投資型)を導入する。このための資料作成及び事業者との調整を進める。
- ・不動産の投資型クラウドファンドを利用するが、投資目的だけでなく、まちづくりへの賛同や共感を得られるよう構築する。
- ・土地集約の展望がついた段階で、募集を開始する。
今年度の取り組みは、下図の通りである。
■定量的な成果目標
- ・中堂寺前田町の路地内において、従前6区画の敷地を対象とする。ただし1区画は相続人不在で現在財産管理人の選任手続き中であり、時間を要することから5区画を対象とする。5区画で4住戸の計画を行い、残りの1区画では空き家を活用したサービス拠点を検討する。
- ・昨年は事業者を対象とした路地再生・開発のノウハウを記載したパンフレットを作成した。今年は、中堂寺前田町及び路地再生手法を記した広報用の媒体を作成する。500部程度。
- ・これまでの取り組みを発信・共有する「路地TV(仮称)」を開催する(11月末頃)。
■翌年度以降の展開
- ・相続人不在の区画を除いた5区画で「第1次プロジェクト」として本年度は実施する。
- ・第一次プロジェクトでは、今年度は土地の集約及び事業計画の作成、特例許可の申請を中心に行い、これらのスケジュールにより着工は次年度以降になる可能性が高い(新型コロナウイルス感染状況を鑑み)。
- ・財産管理人による売却は22ヶ月程度を要するので、この土地が入手でき次第、「第2次プロジェクト」として第一次と調和・整合がとれる土地利用を事業化し、サービスに供する。なお、「第二次プロジェクト」は、スケジュールが不透明であるため、検討の過程や成果、課題は検証するが、本モデル事業で実施する区画の対象とはしない。
■その他
- ・CFは土地の集約の展望がついた段階で開始する。
- ・今年度対象の新たに入手する5区画のうち1区画でも入手が不可能となった場合は、所有者と調整して借地での展開も検討している。借地も困難となった場合は、一体的な利用が困難となり、当初の目的を達することができないと判断して実事業は中止する(8月末に判断する)。
- ・実事業が中止となった場合も、中堂寺前田町の事業はシミュレーションを行い、与条件を整理してモデル事業として知見と課題の整理を行い、発信する。