国土交通省「平成30年度 地域の空き家・空き地等の利活用等に関するモデル事業」

都心部の路地における子育て支援空間としての検証とテーマ型再生事業手法の構築

T 事業の計画

1. 事業の概要

 京都市内には数多くの路地があり、接道の課題等から建物の更新が進まず老朽化が進み、災害への脆弱性が指摘されている。
 一方、伝統的な建築による歴史的な景観や密集地に暮らす生活の知恵、防火・防災の知恵等を伴うコミュニティが継承されており、現代そして未来のまちづくりを考える際に様々なヒントがあることが「再発見」されており、これらを顕在化させ、継承する必要性が認識されてきている。
 加えて接道の関係から建替えや更新が進まず、売りたくても売れず、新しい住まい手が得られないなどの悪循環も見られる。
 とりわけ近年地価が高騰し続ける都心部において、子育て世帯が郊外や市外に流出しており、都市の多様性を維持する上で課題とされているなか、若年・高齢の単身者等が暮らせるアフォーダブル住宅としての役割も果たすことが期待される。
 現在、京都市でもこれらの背景を鑑みて多様な路地を対象に様々な支援策や啓発事業を展開している。

 今回の取組は、路地のハード・ソフト両面の特性の内、「子育て支援に向いている」に着目し、実際の路地(2箇所)を対象にその展開の検討並びに整備と事業化の可能性を検証する。
 本研究を通して都市のストックである路地を生かし将来の都市の居住ニーズに応えるための展開を検討し、それを「可視化」するとともにわかりやすいモデルを構築して発信する。活用そして流通に資する資産として路地の長屋を位置づけることをもって空き家の利活用が促進することを目指す。

2. 事業の内容・特徴

■地域の空き家の利活用等を促すための特徴
  • ・京都府は合計特殊出生率が全国で2番目に低く、京都市はその傾向を押し上げており、世帯の高齢化、少人数化(シングル世帯の増加)が顕著である。これら世帯のニーズと小規模な住宅が集積する路地のマッチングの親和性は高い。
  • ・路地に面する住宅の空き家率は高く、また資産価値の低さから投資を伴う事業化(売却/賃貸住宅化等)のインセンティブも低い。そこで他国で実施されている住宅ストックを活かした住宅・福祉サービス導入の可能性を検討するのに適合性が高い。
  • ・不特定多数を対象とする住宅事業のではなく、需要者を絞り込んだ事業は、費用対効果が高くなることが期待され、公共事業だけでなく民間事業として成立する可能性が高い
  • ・施策の提案だけでなく、事業採算ベースを考慮し、民間セクターでも取組が可能なものの目指し、マニュアルを整備する。
  • ・住宅の整備だけでなく、ここで展開する事業、活動、サービスなどを想定することで、活用内容が具体的にイメージでき、多様な参入者(不動産事業者、サービス提供者・利用者、住民、行政等)が得られる可能性が高まる。
  • ・事業として成立させるため、また、リスクヘッジの観点からも多様なセクターと連携することで、持続可能性を担保させる。
  • ・路地での新しい展開の可能性を可視化させることで、路地の所有者が利活用や継承を考える契機になることも期待できる。
■取り組みの特徴について
@本事業の理解度、先進性・独創性・汎用可能性

 全国的に空き家の外部不経済はもとより地域へ与える影響が懸念されているなか、かねてより京都市内では京町家(伝統的構法による既存不適格建築物の木造住宅)の利活用及び流通市場が成立している。
 さらに京都市により「京都市京町家の保全及び継承に関する条例」の制定をはじめ京町家を対象とした保全・再生施策が推進されている。
 これらの展開に、本研究会の構成員が果たしてきた役割は大きい。
 本取組は、これらの次の展開として、立地上の課題から利活用、流通が進まない路地に面した長屋を対象とすることで、住宅ストックの対象を広げ、空き家の利活用を促進する環境整備を目指す。

A支援の必要性

 都市居住推進研究会は、不動産・建築を主対象とした民間事業者、行政OB及び学識経験者で構成しており、調査研究並びに政策提言を中心とする活動を行ってきている(発足:1994年。初代会長:巽和夫)。
 今回は実際の空き家及び空き地が集積する街区を対象にして、事業を通じて検証を行うものであることから、事業にかかる経費が必要である。
 また、取組及び成果をより幅広く発信していくための広報費用、専門家の職能を生かした事業検討及び作業を行うための費用が必要である。
 加えて、全国の密集市街地が残る他都市でも参考にできる有益な実例になることが期待できる。

B事業提案内容の実現可能性・継続可能性

 都市居住推進研究会では、路地の再生・継承にかかる調査研究を行い、それを踏まえた政策提言をまとめ、2016年に京都市に「路地を発信・再生・継承する」と題した提言を提出(参考資料添付)。そこでは京都市内の路地の現状を踏まえて、未来のまちづくりを考える方向性を示した。
 さらに所有者やコミュニティが路地の未来を考えるためのツールとして、路地診断シート及び展開検討シートを開発した。
 さらに路地への市民の関心が高まることを目的に「路地21選」を実施した。
 加えて、京都市においても「まち再生・創造推進室」において、空き家の利活用にかかる施策をはじめ、路地を対象にしたまちづくり支援、「路地保全・再生デザインガイドブック」の発行、シンポジウムの開催などが展開されている。
 以上から、事業提案者の体制は整っており、実現可能性及び継続可能性を備えている。

Cその他(期待される効果)

 京都市には再建不可を含む多数の路地が存在しており、その安全性の確保が課題となっている。これらの路地は都心部の利便性が高いところに集積しており、高齢化、空き家化が進行しているところも少なくない。
 今回の事業の実施を通じて「歴史的ストックを活かしたまちの魅力向上」「多様な世帯がより暮らしやすいまち」を目指すとともに、それらを実現するための事業方策、施策展開を実際の路地を対象に、リアリティを持って具体的に検討する。このことを通じて、京都の魅力でもある歴史的な町並みとそこに息づくコミュニティの継承と発展に寄与することが期待できる。
 さらに、少子高齢化、小家族化が進みつつある都市部において、既存の小規模な住宅ストックを活かす展開は他都市でも参考にできるものと考える。

■本年度実施する内容
@路地における子育て環境としての優位性の検証と試行プランの実施

 京都市内には既に多数の子育て支援策として様々な場やサービスが展開されている。
 これらを実施する団体や受益想定者を対象にヒアリング調査等を行い、路地内でこれらを実施する際のメリットとデメリット、課題を整理する。担い手を対象としたワークショップを開催し(2回程度)、課題と解決策を絞り込んでいく。
 さらにこれらを踏まえて、社会実験として路地に面した長屋を拠点に活動を展開し、検証する(2回程度のイベントを想定)。

A路地の安全性確保に向けた策の検討

 災害に対して脆弱性が指摘されているが、想定されるリスクと対策を検討する。立地的に多大な資本投下は現実的ではないことから、ミニマムな安全確保策から検討を進める。

B京都市の子育て支援策等との連携の可能性の検討

 京都市では「子ども若者はぐくみ局」が設置されており、組織を横断した取組を展開することとされている。都市・建築セクションに加えて連携検討先として福祉セクションを視野に入れ、意見交換・連携方法を検討することで、より実現性を高めていくことを目指す。

C民間事業ベースに乗るプラン案の作成

 近年のリノベーションブーム、流通情報や担い手の増加により、京都市内では中小規模の京町家の利活用・流通が先行して成立している。
 これらの経験を踏まえて、民間事業者が積極的に参画できる路地に面した長屋を利活用する事業の提案及びインセンティブづくりを行う。
 加えてこれらを推進するためのマニュアルを作成する。

D検討対象地

 路地全般を対象にした検討と並行して、京都市内に実在する2箇所の路地を対象により具体的に検討する。
 一つは、その歴史的外観を今後も継承することが求められているもので、建物は賃貸住宅として経営されている。
 次代の路地のあり方、つまり空間的特性を生かした継承のための方策を検討することが求められている。
 もう一つは、幅員等の関係から再建困難な路地で空き家・空き地化が進むものであり、現在その再生方策が京都市において検討されている。
 前者では今回の実践を踏まえて継続的なビジネスモデルを提案することで、路地を生かした子育てまちづくりの姿と実現可能策の検討を目指す。
 後者は、京都市と連携し、建築の更新を伴うプランを検討することで、テーマ型の路地再生の可能性を提案する。

【対象地@ 五条高瀬川路地(下京区)】
 伝統様式を継承する外観や石畳舗装の路地など、伝統的な景観要素を備えた借家群。
 長く居住する住民がいるなか、空き家となっている住戸も存在する。
 この中の1軒を活用して検証する。

【対象地A 中堂寺前田町(下京区)】
 約20年前に路地奥の火災が発生し、再建ができずに空地のまま放置されている。
 空地により街区にある2本の路地が空間的に繋がっている。
 街区を対象にしたテーマ型の更新プランを検討する。

■定量的な目標
  • ・上記2件を対象に活用策、事業モデルを構築する。
  • ・対象地Aは行政も更新策を検討している最中であり、土地所有者との調整も含めて実現可能レベルまで実施する。
  • ・民間事業者の参入のインセンティブに繋がるようなPR媒体(チラシ、パンフレット等)を作成する。1000部程度。
■本年度達成させる目標
  • ・本年度(2019年1月31日まで)に上記全ての内容を完了させる。
  • ・次年度は、本年度の成果を対外的に発信していくと共に、実際に事業に着手する主体を支援する。

3. 事業の実施体制

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